「何の用だねリヴァイ?」
「ハンジは本当に疲労と軽傷だけなのか?」
エルヴィンの太い眉がぴくっと反応した。
「一年半も自宅に帰るなんて普通じゃない。何の病気だ!」
今回の件はきっかけにすぎない。おそらく医師の診断により重大な病が発見されたと、いうのがリヴァイの推測だった。
「どうなんだエルヴィン!」
リヴァイは我を忘れてエルヴィンに詰め寄った。
「……おまえの推理は半分当たってる」
エルヴィンは観念したように言った。
「……治るんだろうな?」
リヴァイは震えていた。
「おまえが心配するようなことではない」
「うるせえ、あいつは俺の……!」
「もう、おまえの恋人じゃあないだろう。いい加減に未練を捨てるんだリヴァイ」
リヴァイは拳を握りしめ俯いた。
「しかし、おまえがハンジの事を気にするあまり今月末に控えた壁外調査で本領を発揮できないのは私の本意ではない」
その言葉はリヴァイは素早く顔をあげた。
ごろつきの初恋
「おまえに話したとわかれば私はナナバにまた仕置きを受けてしまうだろう。私にとってもリスクは大きいと理解しているねリヴァイ?」
「ああ、恩にきる」
「よろしい。安心したまえ、ハンジの命にかかわることは何もない。理由は壁外調査が終了したらおしえてやろう」
「何だと?」
リヴァイは納得できなかったがエルヴィンは「これが精一杯の譲歩だ」と、きっぱり言った。
「今、理由を知ればおまえは平常心を保てなくなる。だから知らないほうがいいんだ。心配しなくても私は約束は守るよリヴァイ。壁外調査の後、全てを話す。私を信じなさい」
仮に脅したところでエルヴィンには通用しないだろう。ならば前向きに考えた方がいい。少なくてもハンジは一年半の間、命の危険とは無縁でいられる、と。
「いいだろう。ただし、必ず約束は守れよ」
「わかっている」
何度目かになる壁外調査の幕があがろうとしていた。リヴァイは、いつになく真剣な面持ちで門扉があがるのを待った。
キース団長の号令を機に団員たちはいっせいに馬で駆ける。毎度のことだが壁外に広がる壮大な景色はリヴァイを圧倒させた。
清々しい空気で満たされた美しい土地が人類にとって巨人が支配する地獄とは実に皮肉としか言いようがない。巨人さえ絶滅させれば、この地獄は一転して楽園となるのだ。
ハンジが何度も瞳を輝かせて話してくれた海も、この景色のはるか先にある。二人でこの広大な世界を旅するという夢を現実のものにしたかった。
今回の壁外調査の目的は新たな補給物資地点を確保することにあった。
幸いにも予定ルートの途中、目立った巨人との戦闘は起きずスムーズに計画は進行していた。
「この調子なら楽に帰還できそうだな、なあリヴァイ」
「…………」
「リヴァイ?」
ファーランの声は今のリヴァイには届かなかった。
この作戦を少しでも早く終了させる、その思いで頭の中がいっぱいだった。
「天気が崩れてきたぞ」
誰かが不安げに声をあげた。
空を仰ぐと確かに暗雲がたちこめている。これは非常にまずい。雨量次第では視界が限りなくゼロになる。巨人の領域内では、それは速攻で死に直結する。
自然は非情だ。懸念が現実のものとなるのに十数分もかからなかった。
「まずいぞ。作戦は一時中断、上の指示があるまで待機しろ」
班長の命令にリヴァイは舌打ちした。土砂降りの雨の中でも自分ならやれる。自信はある。
「見ろ、巨人だ!」
森の奥から木々が雪崩のように次々と倒れてゆく様が見えた。間違いない、巨人が近づいている。
(こんなところで計画を中断してたまるか!)
リヴァイは単独で森に突入した。
「リヴァイ、一人じゃ無理だ。戻れ!!」
背後からファーランが必死に呼び止めたが、リヴァイは振り返らなかった。
そしてリヴァイは、生涯後悔することになる。
リヴァイがファーランの声を聞いたのは、それが最後だった――。
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