女らしくない丸みのない体型だと侮っていたが、下着で押さえられていただけで膨らみはある。
胸元に吸いつき跡を残すとハンジは「いやっ…!」と声をあげ、さらなる抵抗を見せたが、それすらもリヴァイを煽る材料でしかなかった。
下着の中に手を滑らし、その胸に直に触れた。
その感触にリヴァイは薄らと笑みすら浮かべていた。
彼の猛り狂った雄は、性急に最終段階を望んでいる。
ハンジが男を知らないことは、この数ヶ月の付き合いでわかっていたが、もはや彼女の肉体を僅かでも気遣う余裕はリヴァイにはない。
この女の肉体を熱くなった肉棒で容赦なく貫いてやりたい。
激しく揺さぶって全ての欲望を吐き出してやりたい。
リヴァイの手はハンジの身体を覆っていた最後の砦に伸びていた。
ハンジは、びくっと反応し力が抜けるようにおとなしくなった。
ようやく観念して抱かれる気になったのか。
リヴァイは、そう判断してハンジの顔に視線を移した。
戦場の勇気
「……!」
リヴァイの手が、ぴたっと止まった。
窓から差し込む月光が浮かび上がらせたのはハンジの涙。
それを見た瞬間、リヴァイの中の獣が急速に衰えていった。
「……ハンジ」
名前を呼んだ。当然、返事はない。
「……泣くな」
胸の奥がちくりと痛んだ。
リヴァイは体を起こした。自分を押さえつけていた重みが消えハンジは少し驚いている。
「俺に抱かれるのは、そんなに嫌か?」
たとえ、それが暴力だろうが、モノにすれば女は自分の物。地下街では、それは、ごく普通の常識だった。
だから抱きさえすれば、反抗的なハンジを支配できると思っていた。
けれど違った。
この先に進めば支配どころか永遠にハンジとの間には埋まらない溝ができるだろう。
「……あなたは可哀想なひとだ」
それは衝撃の一言だった。
ドロドロした欲望も罵倒された憎悪もリヴァイの中から消えていた。
ただ、どうしようもない苛立ちだけが残った。
リヴァイは椅子の背もたれに掛けてあった上着をハンジに放り投げると乱暴に扉を開いた。
背後から「リヴァイ」と声が聞こえたが立ち止まることなく廊下を進み屋外に出た。
凍てつくような夜風だった。
「クソッ!」
リヴァイは、手近にあった石を蹴った。
地下街のゴロツキらしくリヴァイはあらゆる犯罪に手を出してきた。
窃盗、傷害、敵対している連中を半殺しにしてアジトに放火してやったことだってある。
けれども弱いもの虐めだけはしたことがなかった。
まして女相手に強姦などという卑劣な手段にでるなど最も恥ずべき行為だと軽蔑していた。
それが何だ。俺は最低最悪の豚野郎に自ら成り下がったんだ。
(……これで終わりだな)
未遂とはいえ同僚の女性に対して強姦事件を起こしたのだ。
ハンジから報告を受けたエルヴィンの怒りと失望に満ちた姿が容易に想像できた。
リヴァイが他に類を見ない巨人殺しの天才だということを差し引いても兵団追放は免れないだろう。
当然だし、元々好きで入団したわけではないのだから、それは構わない。
構わないはずなのにリヴァイは言いしれぬ空虚感を味わっていた。
あれほど関心のなかった調査兵に未練などあるわけがないのに。
入団して数ヶ月、お世辞にも、いい職場ではなかった。
団員たちとの軋轢、地獄のような壁外調査。
しかし、リヴァイの胸に去来したのは、その合間にハンジと過ごした鬱陶しいはずの日常だった。
将来の自分に必要だからとハンジは必死になって軍事はもちろんのこと政治、経済、文化、あらゆる座学を教えてくれた。
そのお返しにとせがまれ渋々ながら立体機動の技術を叩き込んでやった。
ハンジが一方的に喋りリヴァイが耳を傾けるだけの奇妙な会話も、なぜか懐かしいとさえ思った。
それもこれも今日限りだ。もうハンジとは二度と会うことはないだろう。
(……三時間くらいたったか?)
エルヴィンが血相を変えて怒鳴り込んでくる前にリヴァイは自ら出て行こうと思った。
私物は、ほとんどない。入団当時着ていた服と僅かな日用品程度だ。
だから荷物をまとめる必要もない。
決断した以上、行動は早い方がいい。
リヴァイは自室に戻った。扉を開けると人影があった。
「遅かったね」
「ハンジ?」
どういうことだ?リヴァイは驚愕した。
上着を羽織っているだけの姿が、あの後、ずっとハンジがこの部屋にいたことを雄弁に語っている。
「……どういうことだ?」
「あなたを待ってたんだよ」
「どうして逃げなかった?」
「あなたが、このままいなくなるような気がしたから」
リヴァイは混乱した。
「わかっているのか?俺はおまえを陵辱しようとしたんだぞ」
「本気だった?」
「当たり前だろう。俺を誰だと思っている?」
ハンジの顔をまともに見れない。
「嘘だ。あなたは今まで、あんなことしたことなかったんでしょう?だから自分でもショックを受けてるんだ」
悲惨な目にあわされたというのにハンジの洞察力は冷静で、心を見透かされリヴァイは激しい自己嫌悪すら感じた。
「脅したかっただけなんでしょう?」
「違う。確かに女を襲ったのは初めてだが俺は本気だった。さっさとエルヴィンのところに逃げたらどうなんだ。
もう一度襲われたいのか?今度は途中でやめたりしないぞ」
脅し文句としては十分なはずだったのにハンジは出ていこうとしない。
ただ悲しそうな目でリヴァイを見つめている。
「……外、寒かったでしょ?」
ハンジはリヴァイに上着をかけた。
「俺は、おまえを傷つけた」
「でも、やめてくれたじゃない」
どうして、この女は俺に優しくできるんだ?
俺という巨人殺しの駒を失いたくない一心でやせ我慢してるのか?
疑問の答えとしては最適だったが、ハンジの誠実な瞳がそれを否定している。
「……なぜだ?」
ハンジは困ったように俯いた。
「……私もいまいちわからないんだよね」
リヴァイは「あ?」と思わず声をあげた。
「普通の女ならいち早く逃げてるよね、やっぱり」
ハンジは考え込んでいる。考えてもいなかった返答にリヴァイは、ますます混乱した。
「うーん、でも……さっき、言ったことは本心だよ。あなたは、きっと本気じゃなかったって。
悪ぶってるけど、すごく温かいひとだからね」
「……何の冗談だ?」
「だって、あなた最初の壁外調査で四匹目の巨人をしとめ損なってるでしょ。覚えてる?」
確か6メートル級の奇行種だった。
「巨人のそばの木にあった鳥の巣に雛がいたから動きが鈍ったんでしょ?」
ほんの些細なことだから忘れていた。
確かにブレードをふりおろそうとした時、視界に小鳥の親子が見え思わず攻撃を躊躇した。
あの戦闘の最中、そんな些細な行動をハンジは正確に観察していたらしい。
「だから、私、あなたと仲良くなりたいって思ったんだよ。
正直に言うと、あなたを知るまでは私も皆と同じように地下街出身ってだけで怖いひとかと思ってた。
それを裏付けるように目つきも態度も悪かったしね」
本人を前にして、はっきり言うもんだと思った。
「育った環境のせいで多少歪んでるかもしれないけど、本来のあなたは純粋で優しいんじゃないかったって思った。
この数ヶ月、そばにいて、やっぱりそうだとわかったよ。だから、もったいないって思った……」
「もったいないだと?」
「今、逃げ出したら……あなたは禄でもない人生を送る」
言われるまでもない。確実にそうだろう。
「今夜のことは誰にも言わないよ。だから逃げないでほしい」
ハンジは「それだけ言いたかったの」と付け加えて出て行った。
その日、リヴァイは一睡もせず朝を迎えた。
「リヴァイ」
馬小屋に入ろうとしたところで背後からエルヴィンに呼びとめられた。
昨夜のこともある。リヴァイは思わず身構えた。
「今度の壁外調査についての資料だ」
エルヴィンは、いつもと変わらない様子で書類を差し出してきた。
「…………」
「どうした?」
「……何も聞いてないのか?」
「何のことだ?君がしでかした事件なら、もう決着はついているだろう。
相手にも多大な落ち度があったんだ。喧嘩両成敗として謹慎で済んだはずだ」
(……あいつ、本当に黙っているつもりか?)
「何かあったのか?」
「……何でもない」
「そうか?あ、ハンジ!」
偶然というものは怖い。リヴァイは無意識にエルヴィンの視線の先に背を向けていた。
「おはよう。この資料に目を通しておいてくれ」
「うん、了解。ああ、おはようリヴァイ」
ハンジはいつもと変わらない様子だった。
あんなことがあったのに、なぜ平然としていられるんだ?
「それから作戦について君の意見が聞きたい。私の部屋に来てくれるかい?」
「いいよ」
ハンジはエルヴィンに伴われ、その場を後にした。
彼女の姿が見えなくなるまでリヴァイは喉がからからになるような息苦しさを感じていたが、いざ一人になると今度は不安に陥った。
(あいつ、エルヴィンに随分かわいがられているが、どういう関係なんだ?)
ただの上官と部下という範疇を超えていないか?
気になったリヴァイは気が付けばエルヴィンの自室の前に来ていた。
扉の向こうから小さいがはっきりと声が聞こえてくる。
「リヴァイとは上手くいっているかい?」
「問題ないよ」
(さらっと嘘を吐く女だな)
「ああ見えて真面目で与えられた事は真剣に取り組んでくれるしさ。
プライド高いから他人より劣ってる面があることは許せないんだろうね。
だから貪欲に知識を吸収してくれてる。教え甲斐あるよ彼」
「……そうか。他の事も、そのくらい頑張ってくれれば言うことはないんだがな」
エルヴィンの落胆した声が聞こえてくる。悪かったな、おまえの説教をことごとく無視してやって。
「兵士としての器量さえ備わってくれれば……はぁ」
「エルヴィン、リヴァイだって努力してるから、もう少し長い目でみてやってよ」
「しかしだねハンジ、同じ兵団内で暴力沙汰まで起こすようでは先が思いやられる」
「普通の兵士は三年間訓練兵を経て入団するんだ。訓練兵の間に兵士としての心構えだって学ぶ。
リヴァイには、その時間がなかった。他とは違って当たり前じゃないか。
だから待ってあげてよ、私も協力するから。ね?」
昨夜、散々非難してたハンジが、自分の知らぬところでは庇ってくれていた。
リヴァイの中で渦巻いていた後悔の念は急速に何倍にも巨大化した。
「そりゃあ確かに協調性はないけれど、それを補うくらい彼は他の面が優れているじゃあないか。
リヴァイは誰よりも強いし勇敢だし――」
「ハンジ、それは違うぞ」
「何が違うんだよ」
「勇敢というのは勇気を胸に抱いて戦うことだ」
「それのどこが違うっていうの?リヴァイは初陣の時から巨人に恐れを見せず果敢に戦いを挑んできたじゃない。
他の新兵を見てみなよ。びびって動けなくなるのはマシなほう。中には小便垂れ流す奴だっているんだ」
「リヴァイのは勇気じゃない」
エルヴィンは重い口調で言った。
「勇気とは恐怖を知ることだ。恐怖を知った上で乗り越えることなんだ。
リヴァイは巨人を怖いとは思ってない……あいつのは、ただの怖いもの知らずだ。
そういう人間は一番怖い。退くことを知らず敵を見くびり己を過信し無謀な行動をとる。
仲間どころか自分の命すら大切にしない……今のリヴァイでは必ず早死にする。
ハンジ、君は賢い女性だ。本当は、とっくに気づいているんじゃないのか?」
ハンジの声が聞こえない。言葉に詰まっているようだ。
リヴァイはハンジが漏らした「あなたは可哀想だ」という言葉の真意を知った。
(……そういうか)
確かに戦闘中、リヴァイは自分を守ろうとしたことは一度もなかった。
巨人という標的を発見したら、がむしゃらに群れに突っ込み駆除に徹していただけ。
「ハンジ、君も最初は巨人に激しい恐怖を抱いただろう。どうやって乗り越えた?」
「単純だよ。恐怖よりも目の前で仲間を喰い殺された憎しみが勝った。
その後は、あいつらを滅ぼさなければ、これからも仲間が、いや人類が喰い尽くされる、それを阻止しなきゃあって思いだったね」
「それだ。リヴァイには、それがないんだ」
誰かを守るための戦い、そんなものリヴァイは考えたこともなかった。
「……その思いゆえに我々は心臓を捧げられる。リヴァイが恐怖を知り、それを越える思いを……勇気を持つことさえできれば、本当の強さを持った本物の兵士に、最強の兵士にだってなれる。人類最強の男になれるんだ」
――俺が人類最強の兵士だと?
「……早く成長してもらわなければ才能が開花する前にリヴァイは戦死するだろう。それは人類にとって大きな損失だ」
「リヴァイは死なないよ。その時は私が守るから」
――何だと?何の冗談だ。それとも空耳か?
「リヴァイに人類最強になる素質があるのは認めるよ。でもエルヴィン、彼だって生身の人間なんだ。
期待するのはわかるけど、リヴァイ一人に背負わせないでよ。
私なんかじゃ大した力になれないけど、リヴァイを支えられるように努力するから」
「……おまえはリヴァイのことになると、いつも懸命だなハンジ」
それはリヴァイ自身、常に不思議に思っていた。
出会った頃から無愛想で態度が悪く反発ばかりしている自分に、なぜハンジは肩入れするのか?
「私はリヴァイ同様、君にも目をかけてきた。上位成績者は憲兵団に入って安楽な人生を送ることばかり考えている。
そんな中、訓練兵時代から周囲の特異な視線に負けず調査兵団を希望してくれた君の心意気が嬉しかった。
面倒を見ているうちに今では本当の娘のようにかわいい存在になってしまったんだよ」
「わかってるよエルヴィン……私だって、あなたのことは本当の身内にように思っている」
エルヴィンのハンジに対する思いはリヴァイが考えているような邪なものではなかった。
リヴァイは思わず、ほっとした。
(……おい、なぜ、俺が安心しなきゃいけないんだ?)
「だからこそ余計な親心とわかっていながらお節介をやきたくなるんだ。
まさかとは思うが、君はリヴァイに特別な感情を抱いているんじゃあないだろうね?
リヴァイは、あの通りの性格だ。自分すら大切にできない人間が女性を幸せにできるとは思えない。
もしも彼に気持ちが傾いているというのなら私は反対だ」
エルヴィンの言い分は正論だ。地下街出身のゴロツキあがりに娘同然のかわいい部下をまかせたいと思う人間はいないだろう。
それがわかっていながら、まるで心臓が凍りつくような気持ちでリヴァイはハンジの返事を待った。
しかし何も聞こえていない。部屋の壁にさらに近づこうとしたとき、突然、扉が開いた。
そして、目を丸くしたハンジと、ばっちり視線が合ってしまった――。
その数分後、二人は調査兵団本部の中庭のベンチにいた。
「……あなたって、本当にいい性格してるよね。盗み聞きなんて趣味あったんだ」
いつもなら言い返すところだが、ばつが悪すぎて、さすがに反論できなかった。
「……いつから聞いてたの?」
「……『リヴァイと上手くってるのか』だったな」
「……始めからじゃない」
その後、しばらく二人は顔を合わさず会話もなかった。
「……おい、ハンジ」
数分間の沈黙に耐え切れず声をかけたのはリヴァイだった。
「何?」
「俺は、てめえの何倍も強い」
「知ってるよ。今さらだろ、そんなこと」
「だから、てめえに守ってもらう必要なんてねえ」
ただ、リヴァイは、それだけは訂正させておきたかった。
自分は強い、守られるなんて弱い者の特権だ。だからハンジは間違っている、と。
「確かに私は、あなたより弱いよ。でも、弱くてもできることはあるよ。
私は、あなたより二回多く壁外調査の経験つんでるし、巨人に対する知識だって何倍もあるしね」
「いざとなったら盾になることくらいできるさ」
――自分を力づくで犯そうとした男を守るだと?
「まあ、そういう事態にならないように頑張ってよね。じゃあ」
ハンジは、それだけ言うと、さっさと立ち去った。
その後、リヴァイは、しばらくベンチに座ったままだった――。
一週間後、地獄の壁外調査が再び幕を開けた。
今度はウォール・マリアの川沿いにある大きな街が目的地だ。
「いたぞ、巨人だ!」
到着早々、敵は姿を現した。それも15メートル級だ。
リヴァイとハンジの班は物資運搬班が作業を終了させるまで巨人と交戦するのが任務だ。
「ちっ、いつもより多いな」
入り組んだ街に予想を大きく上回る数の巨人が押し寄せてきた。
「家屋が密集しすぎていて見晴らしが悪い。深追いはせず、この周辺だけに留まるんだ!」
班長が大声で指令を出した。その間にも巨人は続々と集まってきている。
「ちっ……招かざる客のせいで運搬班の作業が遅れてるじゃねえか」
運搬班の連中は巨人にびびっている。接近されている事実が体の神経を硬直させているんだ。
このままでは、いたずらに時間を費やすだけ。
もともと気が長い方ではないリヴァイは猛スピードで班から離れだした。
「リヴァイ、勝手な行動は許さんぞ!」
毎度、おなじみとなった班長の怒号が耳に届いたが、そんなものに構っていられなかった。
(奴らを、ぶっ殺せば済むことじゃねえか。臆病者は黙って見てな)
リヴァイは単独で巨人の群れに飛び込んでいった。
一瞬で、15メートル級の巨人の項をいくつも削いだ。
それは、誰にもまねできないリヴァイ独特の芸術的な立体起動だった。
(ほら見ろ、簡単じゃないか。所詮、図体ばかりでかい糞巨人どもなんてこんなものだ)
この調子で巨人の群れを一掃してやる。
リヴァイはブレードを構え高楼から飛んだ。
その時だった。タイミングを見計らったように屋内より壁を突き破りながら巨人が飛びかかってきたのは。
(何っ!?)
こんな動きをする巨人を見たのは初めてだった。
脳みそなんか皆無だと思っていた巨人が、獲物を捕捉した鷹のような動きを見せるなんて。
サイズは7メートルほどで決して大きくはないが、そのスピードは最高到達点に達し動きが鈍くなったリヴァイを完全に捉えていた。
しまった――リヴァイは、致命的なミスを一瞬で悟った。
そして思った。
これが俺の人生の終着地点なのか、と。
全てがスローモーションのように、ゆっくりと見えた。
自業自得だ。誰のせいでもない。
俺は、俺自身の驕りのために死ぬんだな。
不思議なほど冷静に自らの死をイメージした自分がいた。
そこで思考は停止した。したはずだった。
死を覚悟したリヴァイの意識を突如として覚醒させたのは、どん、と何かに突き飛ばされる衝撃だった。
「……なっ」
巨人との距離が広がってゆく。
ほんの一瞬前に自分が居たポイントに送った視線の先に見えたのは――。
「言っただろ?守ってやるって」
何が起きたのかわからなかった。
瞳に映ったのはハンジの笑顔。
今まで見たどんなものよりも気高く美しかった。
その直後、巨人の体当たりにより、ハンジの体勢が不自然に曲がった。
「……ハ」
それはスローモーションの世界が終了を告げた瞬間でもあった。
ハンジの肉体は、まるで芥子粒のように飛ばされ向かいにあった建物の窓を突き破り屋内に消えていった。
「ハンジィィー!!」
悲鳴すらあげる暇もなく――。
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