「月岡君、どこまで走るの?」

息が上がってきたところでタイミングよく美恵が切り出した。
かなり走った。追っ手の足音が聞えなくなってから、大分時間が経過したように思える。
「そろそろ休んだ方がいいぜ」
良樹の提案に、全員同意したようだ。いっせいに足を止めた。


「……相変わらずの景色ね。まるで戦場跡みたい」
半壊した建物がずらりと並んでいる。ゴーストタウンだと言った郷原の言葉は嘘ではなかったようだ。
その異様な暗さに美恵は言い知れぬ恐怖を感じて戦慄した。
それは貴子も、そして修羅場には慣れているはずの光子や月岡も同じだった。

「……一体、ここはどこなのよ」

月明かりでは、はっきり確認できないが、城岩町ではないことは間違いない。
美恵達は、無言のうちに、そう思った。
第一、さっきの連中は何なんだ?
革命家と自称していたが、どう見ても犯罪組織と化した左翼にしか見えない。
そんな連中が、城岩町の周辺をうろついていたなんて聞いたこともない。

「とにかく、早く街にでましょう。警察に通報して、連中を逮捕してもらうのよ」

切り出したのは貴子だった。
(弘樹待ってなさい。必ず、あたしが助け出してあげるわ)
貴子は決意を胸に、はっきりしとした今後の計画を話し出した。
美恵も、そして普段は警察なんてお近付きにもなりたくない光子も月岡もすぐに賛成した。
ただ1人。良樹だけは違った。
「……警察ねえ」
何だか不賛成そうな口調の良樹に、貴子は不満を感じた。


「あんた、何かいいたそうね。いいたいことあるなら、はっきり言いなさいよ」
「……そういうわけじゃないよ。じゃあ歩こうか」




鎮魂歌―3―




「ほらほら、ちんたら歩いてるんじゃねえYO!」
田中はライフルの銃口で、すすり泣く女生徒の背中をつついた。
「……ぅ」
「今度泣いたら銃ぶっぱなすぞ」
凄みのある口調に、銃を突きつけられた女生徒(天堂真弓)はグッと唇を噛み締めた。

「ほら入れ。お仲間がお待ちだ」

地下牢の扉が開け放たれると同時に、乱暴に突き飛ばされ部屋の中に。
先客がすでに何人かいた。清水比呂乃、矢作好美、琴弾加代子、小川さくら。
扉を閉めると田中は扉の覗き窓から室内の女生徒達を睨みつけた。

「大人しくしてろよ。逃げようなんて考えるなよ」
「大丈夫ですよ田中さん、こいつらどう見ても素人じゃないですか。
それより後始末どうするんですか?外国に売り飛ばすんですか?」
「商品になるのは、あの三人だけだ。揃いも揃って、こいつら処女でもないし」
「え?真面目そうな女もいましたよ」
「だから、おまえはいつまでたっても商品の目利きができないんだYO
メス豚はぱっと見ただけじゃわからない。目をみるんだよ、目を」
「さすがは田中さん」
「楽園から雌を追放しろ。こいつらは内臓でも売ってやるか?」



「あたし達どうなるんだろう?」
矢作好美はすでに半べそ状態だった。
「畜生、光子はきっと逃げ切ったに決まってる。あいつ要領いいから」
廊下の先から女のヒステリックな声と男の怒鳴り声が聞えてくる。他にもつかまった人間がいたようだ。
どうやら、野田聡美と谷沢はるからしい。二人を慰める声も聞える。
内海幸枝も一緒に捕まったのだろう。
いや、幸枝だけではない。委員長グループはほぼ捕獲だ。
やがて時間差で続々とクラスメイト達が、この日の光が差し込まない狭い部屋に押し込められていった。
この分だと、男子生徒達も軒並みつかまっていることだろう。














「……早かったな、つかまるの。つかまっていないのは 雨宮と月岡と新井田だけかよ……」
七原は溜息をついた。
「……女子は大丈夫かな?」
男女別々の場所に監禁されている。それが七原にとって最大の心配事だった。
美恵達を『商品』だと言っていた。
もし、三人がつかまったら今頃、出荷用のトラックに載せられているかも。
それとも密輸船?どっちにしても最悪のシナリオだ。
「あいつら早乙女を何の躊躇もなく殺しやがったんだ。本当の人殺しだ。
情けなんて持ち合わせて無い。人身売買くらい平気でやるんだ」
早乙女瞬の命を奪った銃声を七原は忘れてない。あれは地獄のファンファーレだ。
そして、自分達がこれから味わう悪夢の幕開けの序曲でもあった。















「郷原さん、先方から連絡が来ましたよ。明後日、ヤク乗せた船つけるから、ついでに商品持って帰ると」
「随分、急だな。まあいい、あの三人は上玉だ、連中も納得するだろ」
「でも、まだつかまらないんですよ」
「さっさとしろ。どうせ、『囲い』の外には逃げられねえんだ」
「ま、それはそうですね」
「それより連中はどこに行きやがった?」
「連中?」
「あの中学生始末させた後、姿見えやがらねえんだ。どこで油売ってやがる」















「見て、明かりよ!やった、やったわ。街が近いのよ!」
月岡は走り出した。

「待てよ!」

雨宮が慌てて月岡の肩をつかんで制止をかけた。月岡は背後に倒れかけた。

「ちょっと何するのよ!」
「伏せろよ!」

雨宮は月岡の頭を押さえ込みながら、地面に腹ばいになった。
「何してるんだ、あんた達もさっさとしろ!」
美恵達は腑に落ちなかったが、とにかく言われた通り地面に伏せた。

良樹君、急にどうしたの?」
「あれ、見てみな」

灯りの真下にフェンスが見える。ただのフェンスなら、美恵達の疑問はさらに増幅しただろう。
ただのフェンスではなかった。ロール状の有刺鉄線がフェンスの上についている。
収容所などで御馴染みの脱走防止用のフェンスだ。

「声を出すなよ。右、10mだ」

4人は、揃って指定された方角に視線を向けた。
迷彩模様の服を着た人間がフェンスの向こう側にいる。
それもライフルを持っているではないか。
「おい、様子はどうだ?」
「異常はありません。猫の子1匹見てませんよ」


「どういうことよ」
貴子が雨宮に詰め寄った。
「俺に聞かれても困るよ。でも、あのフェンスを越えようとしたらやばいってことじゃないのか?」
「待って、それはさっきの犯罪組織の連中ならってことじゃないの?
私達はただの民間人よ。説明すれば、きっと通してくれるんじゃない?」
美恵さんは甘いな。ま、そこがあんたのいいところなんだろうけどさ」
「そうね。今は、そいつの言うとおりだと思うわよ」
光子が真剣な眼差しでそう言った。


「あたし、この年齢にしては、結構やばい世界しってるのよ。だから雰囲気でわかるのよ」
光子の第六感はかなりの確率で当たる。それは美恵もわかっていた。
「遠回りしてでも他の出口探すしかないな」
「そうね。でも……ここは一体どこなの?こんな場所城岩町の近辺にはなかったはずよ」














「血の臭いだ」
男が1人、この荒れ果てたゴーストタウンに立っていた。
「やれやれ、また誰か殺しあったみたいだな。ゴーストタウンの住人は野蛮だからな」
誰かが殺されたようだ。それも一人や二人じゃない。
さらに、その殺人現場にひとが近付いてくる。これまた一人や二人じゃない。



「おーい、おまえら、まだそこにいるのか?郷原さんが癇癪起こしてるぞ」
気配が近付いてくる。
「たく、ど素人の中学生1人処刑するのにいつまで時間かける気だ」



その殺伐とした問いかけに、男は苦笑した。
(おいおい1人処刑だって?冗談きついぜ、このキツイ臭いで1人分の出血量のわけがないだろ)


「おい、返事くらいしろよ。どうし……うわぁ!」


どうやら死体と御対面したようだ。
「おい、どうした!何があった!お、おい、し……死んでるぞ」
「た、大変だ。郷原さんに報告するぞ!」
バタバタと足音が遠のいていった。全速力で走り去っていったようだ。



「やれやれ騒々しい連中だったぜ」
謎の男はゆっくりと死体に近づき屈んだ。
殺された男達は全員ライフルと防弾チョッキと完全武装している。
引き金に指がかかっている。油断をして武器から手を離していたわけではないことが伺えた。

「……相手は飛び道具を使ってない」

全員、外傷は首を一撃で折られたか、もしくはナイフで喉を切り裂かれたものばかりだった。
抵抗や応戦する間もなく、全員一瞬で殺されている。発砲する時間さえも与えられなかった。
「こりゃあプロの仕業だな。それも殺しのプロだ」
男は、ゆっくりと立ち上がった。
「俺ってとことんトラブルと縁があるようだな。厄介なことになりそうだ」














「へへ、やったぜ。どうやら連中を振り切れたのは俺だけみたいだな」
新井田は小さくガッツボーズをとった。
つかまったであろうクラスメイト達のことは多少哀れではあったが、それは連中が運がなかっただけ。
自分には何の責任も無い。だから新井田は級友達のことは忘れることにした。
目をつけていた美恵や貴子には未練があったが、過去に振り向いても仕方ない。
自分はまだ若い。これから、いくらでもいい女との出会いがあるだろう。
新井田は過去を捨て、未来に向かって生きることにした。
そのためにしなければならないも新井田はちゃんとわきまえていた。
それはクラスメイト達の運命を嘆くことではなく、今目の前にあるフェンスを越えることだ。


「たく、なんだってこんなものがあるんだ?」
普通のフェンスなら昇れば済む事だが、有刺鉄線が邪魔だ。
かといって、出入り口を探してフェンス沿いにずっと歩くのも面倒極まりない。
「地面掘って向こう側にでようかな?」
新井田はとりあえずフェンスに近付いた。その時、前方にパッとライトが光った。
あまりの眩しさに新井田は反射的に瞼を閉じ、その場にうずくまった。


「な、何だよ!」
「動くな!」
「な、なんだあ?」
新井田は、ゆっくりと目を開けた。ぼやけた視界の先に銃口が見えた
「手を上げろ!」
新井田はばっと両腕を高々と天に突き上げた。














「もうダメ!あたし達殺されるのよ!」
「聡美、落ち着いて」
女生徒達はほぼ全員泣いていた。
かろうじて冷静さを見せていたのは幸枝や友美子くらいだろう。

「友美ちゃん、あたし達どうなるの?」
「大丈夫よ。いくら何でも殺されることはないわ」

雪子を必死に慰める友美子をあざ笑うように比呂乃がヒステリックな声を上げた。

「何甘い期待してるんだよ。あたしは聞いたんだ、あいつらあたしを売り物にするって!」
「じゃ、じゃあ、あたし達も光子みたいに外国に?」

好美は声を押し殺しながら尋ねた。

「それだったらまだマシよ!あいつら内臓売るって言ってたんだよ!」
「そ、そんな!」

号泣は絶叫に変化した。女生徒達の悲鳴が部屋中に加速する。
比呂乃の放った一言で、自分達の不気味な未来を予感し一気に絶望と言う奈落に落ちた。




「こら、おめえらうるせえ、泣くな!」
見張りがドンと扉を蹴りながら感情のままに怒鳴りつけた。
女生徒達はビクッと反応し、全員小さくなって両手で顔を覆った。
早乙女瞬の無残な最期を見せられた直後なだけに、連中が冷血人間だということは誰もがわかっている。
自分達が、まだ幼さの残る中学生の女子だからといって慈悲の心など持ち合わせているわけがない。
このまま犯罪組織に売り渡され、その存在すら闇から闇へと消されてしまう。


「なんだ、おまえは!?」


室外から驚愕した見張りの声が聞えてきた。
「どうやってここに入った。おい、おま……え!?」
ぎゃあと悲鳴が聞え、その後はシーンと静まり返った。
女生徒達は誰もが泣き止み、いっせいに扉に注目した。
扉の向こうで何か起きたのだ。それも予期せぬことが突然に。
今度はカチャカチャと鍵をひねる音。
そして女生徒達の疑問に応えるかのように扉が凄い勢いで開いた。
女生徒達は息を呑んで瞳を拡大させた。その瞳に男が飛び込んできた。


「助けに来ましたよ美しいお嬢さん!俺が来たからには、もう安心ですよ!」


それはまるで新宿辺りでナンパするような軽薄で明るい口調だった。
少なくても地下牢に監禁され明日の朝日をも拝めないと絶望している女の子に対する態度ではなかった。
この空気を全く読まない男に女生徒達は呆気に取られ、ただただその浮ついた男をぼうっと見た。
男はキョロキョロと忙しそうに頭を左右に動かして室内にくまなく視線を注いだ。


「お嬢さん、どこにいるんですか!?さあ、出てきてください!
王子様が助けに来ましたよ……あれ?」


地下牢には隠れるような場所はどこにもない。いるのは、今眼前にいる中学生だけだ。
「……なあ、おまえ達だけ?」
今さらな質問に女生徒達は思わずこくっと頷いた。男は、はあ!?と素っ頓狂な声を上げた。


「お、お嬢さん……いや、お嬢……ちゃんだよな。この場合」


男はガクッと膝を崩し床に両手をついた。
「はぁ……何やってるんだ俺。こんなこと兄貴達に知れたら、またどやされるぜ」
男はゆっくりと立ち上がり、くるりと背を向けると溜息をつきながら歩き出した。

「……騒がしいマネして悪かったな。じゃあ」

男は部屋を出て行った。突然の出来事に今だ呆気にとられている女生徒達を置き去りにして。
カチャカチャと聞き覚えのある音がした。どうやらご丁寧に鍵をかけなおして去っていったらしい……。














「開けろ、開けろよ!」
七原は必死に扉を蹴り続けた。

「おまえ達なんかに好き勝手にされてたまるか、おい開けろ!」
「うるせえぞ!おまえ達は重労働用の奴隷としてこき使ってやる!
だが大人しくできねえっていうんなら実験動物として売り飛ばしてやるぞ!」

七原は悔しそうに唇を噛んだ。
「そう、それでいいんだよ。ん?なんだ、てめえは?」
見張りの声が不穏なものに変化した。

「てめえ、ここがどこだと……うわあ!」

突然の悲鳴、そしてあれほどうるさかった見張りの声がピタッと止まった。
「な、なんだ?い、一体どうしたんだ?」
七原は外の様子を伺おうと鍵穴に顔を近づけた。その時、扉が開き見知らぬ男が登場した。


「助けに来ましたよ美しいお嬢さん!俺が来たからには、もう安心ですよ!」


それはまるでフロリダ辺りでナンパするような軽薄で明るい口調だった。


「俺が来たからには、もう安心ですよ。さあ俺と……あれ?」


男子生徒達(桐山を除く)はいっせいにきょとんとした目を男に向けていた。
男はゆっくりと室内を見渡した。

「なあ、もしかしておまえ達だけ?」
「そ、そうだけど、おまえ一体誰なんだ?」

七原は男子生徒全員(桐山を除く)の疑問を代弁した。
「男だけ……はあ、何やってるんだ俺は」
男はくるりと七原達に背を向けると、ふらふらとした足取りで歩き出した。


「さっきはガキで今度は野郎かよ。チンピラどもが美女を納品するって情報聞きつけて助けに来たのに。
とんだ無駄足だったな。ああ、おまえ達にも迷惑かけたな。ちゃんと鍵は掛けなおしておくからよ。
なんなら気絶させた見張りも起こしてやるぜ」




「ちょっと待てよ!」
三村が立ち上がった。
「助けに来たって、あんた何者なんだ?」
もしかして天の助けか?そんな期待を込めた眼差しをした者さえ中にはいた。
そんな彼らに男の返事は冷たかった。


「違う違う。俺が助けに来たのは三人のお姫様、俺王子様。わかるだろ?」
「その三人のお姫様ってのは鈴原達のことなんだろ?」
鈴原?おまえ、彼女達のこと知っているのか?」
鈴原美恵。俺達のクラスメイトだ」
「で、彼女達はどこにいる?」
「知らねえよ。見張り達の会話からすると、まだつかまってないみたいだってことくらいしか」


「と、言う事はこの『囲い』の中のどこかにいるってことか」


「『囲い』?何だよ、それ」
「このゴーストタウンをぐるっと囲んでるフェンスのことだ。
その境界線の向こうには常に兵士が見張りに立ってて猫の子1匹逃がしやしないぜ。
俺みたいなプロからしたら、まだまだ甘い監視だが素人には、まず突破できない。
フェンスから出るどころか近付くだけでつかまるぜ」
「じゃあ鈴原達は」
「ここの連中につかまっていないんだろ?
だったらまだゴーストタウンを彷徨っているか軍につかまったか二つに一つだ」
美恵の名前を出した途端、今まで無反応だった桐山が立ち上がった。




「こんな所でぐずぐずしていられないな。さっさとお姫様を助けてその後は、ぐふふ」
男はにへらっと顔を歪めた。
「じゃあな」


「待て。俺も行く」


低くないがりんとした威厳のある声が、去ろうとしていた男の足を止めた。

(……なんだ、このガキ。妙に威圧感がある、まるで兄貴達みたいに)

振り向いた男の顔つきは、今までのにやけた軽薄なものとはまるで違っていた。


「おいガキ、おまえ何なんだ?」
「俺を連れて行け」
男はじっと桐山の目を見た。

(冷たい目だ、まるで感情をどこかに置き忘れたような目をしてやがる。
それに、この目どこかで見たような気がする)


男はハッとした。
(あいつ、あいつだ!この目、あの冷血野郎の目と同じなんだ。誰なんだ、こいつは)
「聞えなかったのかな?」
(いや、あんな化け物と同じ人間が二人もいるわけないか)
男は真面目な目をして桐山を見詰めた。




「おまえみたいな人間が大人しくこんな雑魚につかまるなんて考えられないな」
「情報が欲しかった。だからつかまった、だが必要がなくなった」
「必要がなくなった?」
桐山はすっと左手の人差し指を男に突きつけた。

「おまえがいる。おまえに聞けばいい、だからここにいる必要がなくなかった」
「はあ?」
男は呆れた。

おいおい俺を何だと思ってるんだよ?
なんて生意気なガキだ。 相手が俺でよかったな。
俺と違って人間ができてない兄貴達だったら殴るだけじゃ済まないぜ。

男はちょっと考えた。こんなガキ無視して、さっさと立ち去ってもよかった。
だが桐山に何かを感じたのか、呆れながらも桐山が望んでいた言葉を吐いた。


「だったら着いて来い。断っておくが俺は男は守ってやら無いから自分の身は自分で守れよ」
「いいだろう」


「桐山、正体もわからない男に簡単についていくのは無謀だぞ」
川田がもっともな忠告をした。
「何が気に入らないのかな?」
「何がって、相手は氏素性もわからない人間だぞ。名前すらも」
「そうか、名前がわかればいいのだな?」
「いや、そういうわけじゃないが……」


桐山は男に尋ねた。
「おまえの名前は?」
「おまえ中学生だろ、城岩『中学校』って名札に書いてるからな。
だったら俺は年上だ。シックスティーンなんだ、目上の人間には自分から名乗れよ。
それが礼儀ってもんだろ。おまえの名前は?」
「桐山和雄だ」
「桐山か」
「名乗ってやったぞ。おまえの名前は?」
「よし教えてやるぜ。俺の名前は――」


どたばたと複数の足音が盛大に近付く音がした。
「ちっ、見付かったか。ま、しょうがないな。外の見張り全員やっちまったからな」
「ぜ、全員!?」
七原はまさかと思って扉を押し開け廊下に出た。
階段を駆け上がり思わず言葉を失った。銃を持った男達が白目をむいて倒れている。


「おい、坊やは下がってろ」
銃を持った自称革命家のチンピラが勢ぞろいし現れた。
「おまえか、俺達の仲間をやったのは!?」
「俺達を誰だと思ってやがる、郷原隆道さんの部下だぞ!」
「ああ知ってるぜ。四国の反政府組織が崩壊した後、犯罪に走った糞野郎だろ?」
「て、てめえ!郷原さんを悪く言いやがって、覚悟はできてるだろうな!」
「覚悟?おまえ達気づいてないのか?」




「おまえら、もう死んでるんだぜ」




男が飛んだ。一気に連中を飛び越え、その背後に着地。
男達が白目をむいていた。そして全員ほぼ同時にばたっと床に倒れた。
「桐山、俺の名前は宗方だ」
「宗方?」




「宗方夏生(むなかた・なつお)。世紀の二枚目、宗方夏生と覚えておいていいぜ」




【B組:残り45人】




BACK TOP NEXT