「きゃぁー!!」
突然降りかかった嵐の様な激しい揺れに生徒達は翻弄された。
バスが落ちてゆく。
奈落の底というのは、こういうことをいうのだろうか?
生徒達は、自分の席から立ち上がる余裕すらなくバスごと落ちるしかなかった。
できることといえば悲鳴を上げる事くらいだろう。
「鈴原!」
桐山は咄嗟に美恵を守るように覆いかぶさった。
ドン!と大きな音が激しい震動と共に足元から生徒達を襲った。
バスが地面に落下したのだ。
慣性の法則で飛び上がって天井にぶつかっている生徒も2、3人いるほどの衝撃だった。
鎮魂歌―2―
「郷原さん、最近、木下の奴がうるさいんですよ」
「木下だぁ?義賊気取りの馬鹿が俺に何の文句があるっていうんだ?」
郷原と呼ばれた男は、煙草をふかしながらギロッと下劣な目を向けた。
2メートル近くある筋肉質な体、もみ上げにぐしゃぐしゃの短髪。
無精髭まで生やしているせいか、不潔でむさ苦しいとしかいいようがない容姿だった。
だが、その太い腕はまるでプロレスラーのようで、一見しただけで腕力があることがわかる剛体だった。
「『おまえたちは革命家じゃない。ただの犯罪組織だ』そうほざいたんですよ」
「うざい野郎だ。破壊行動している時点でてめえらも十分犯罪組織だろ」
郷原はソファに深々と腰掛けていたが、その部屋は薄暗くむき出しのコンクリートの壁によって囲まれている。
立派なソファとデスクがあるだけで、いたって殺風景なものだ。
なぜなら、その部屋は廃墟と化した三階建てのビルの最上階だったからだ。
「それよりも田中、商品そろってるか?」
「うーん、それが困った事にちょっと数が足りなくてさあ」
「何だと!それを何とかするのがてめえの仕事だろ!」
「おーこわ。わかりましたよ、何とかしますよ。と、いっても、有刺鉄線の向こうにはいけないんすよ。
最近、見張りが厳しくて。政府の奴等、本気でこの地区の大掃除する気になってるらしくて昨日も……」
とんでもない音がして、田中の言葉をかき消した。
「な、なんだぁ?」
「飛行機でも墜落したんですかね?」
「だとしたら何か物資が手に入るかもしれねえ。行くぞ」
「……痛い」
「鈴原、大丈夫か?」
「う、うん……何とか」
軽い打ち身程度だ。
他の生徒達もそのようだが、ただ精神的ショックが大きいのかガタガタ震えて動かない。
バスは大きく傾き、辺りには外灯一つないのか窓の外は真っ暗闇で何も見えない。
「電気、電気つけないと……」
前の座席から声が聞えてきた。ほどなくしてパッとバスの中が明るくなった。
「きゃぁぁー!!」
途端に悲鳴が空を切り裂いた。何事かと、全員が声の方向に視線を送る。
バスの運転手が、上半身がフロントガラスを突き破って血まみれになっていた。
血まみれで、ピクリとも動かない。
楽しい修学旅行が一転して恐ろしい大事故の惨劇に見舞われた。
その事実を突きつけられ生徒たちは、ただただ泣き叫んだ。
「お、落ち着きなさい」
ここでようやく担任の林田が立ち上がって制止をかけた。
「と、とにかく、彼を助けてやら無いと。応急処置をして救急車を呼ぶんだ」
「その必要はないぞ先生」
いつの間にか運転席まで移動していた川田が、運転手の手首にそっと触れ非情な事実を告げた。
「もう死んでいる。即死だ」
誰かがゴクッと唾を飲み込む音が聞えた。
「とにかく、すぐに警察に連絡をとるんだ。おい、携帯電話もっているだろう?」
「あ、ああ、そうだね。すぐに警察に救助に来てもらおう。学校にも連絡しないと」<
林田は慌てて懐から携帯電話を取り出した。
「……通じない。電波が届かないようだ」
だが結果は残酷なものだった。
「こうなったら直接助けを呼びにいくしかない。
先生が行くから、みんなはここで待っていなさい」
生徒達は大人しく林田の提案を受け入れることにした。
「……なあ、何が起きたんだろうな?」
七原は小声で国信に話しかけた。事故にあったことはわかる。
だが、あの揺れ、そして落下するような感覚からして、普通の事故ではないことは確かだ。
「バスは橋の上を走っていただろ?きっと橋から落ちたんだよ」
「落ちたって何で?」
「……それは」
国信は言葉を詰まらせた。
一瞬の出来事で、何があったのかなんて、こっちが聞きたいくらいだ。
「閃光を見ただろ、それに爆音もしたぜ」
いつの間にか、七原達の席までやってきていた三村がそう切り出した。
「爆発が起きて橋が破壊されたんだ。俺達はバスごと橋の下に落下したってわけさ。
心配しなくても、すぐにレスキュー隊がくるさ」
三村の言い分は最もだった。
しかし、それを聞いた美恵は納得できない部分が多々あった。
爆発の原因となるようなものが橋にあったとは思えない。
それに橋から落ちたことは間違いないようだが、随分時間がたっているというのに救助の気配がまるでない。
このバスが落下したことは、すぐに誰かが気づくはずだ。
それなのに落下してから、かれこれ1時間はたつのに、今だに救助用ヘリすら姿を見せないのだ。
姿を見せないといえば林田もだ。
あれから随分たつのに、まだ戻ってこない。
何かあったのだろうか?
生徒思いの優しい教師なだけに、美恵は心底心配した。
「おい、あれを見ろよ光だぜ!」
誰かが歓喜を含んだ声を上げた。
「レスキュー隊が来たんだわ!」
よかった、きっと林田先生は無事に知らせに行く事ができたんだ。
美恵は心からホッとした。
やがて光が近付くにつれ、徐々に周囲の景色が見え出した。
見え出すと共に、奇妙な違和感も感じ出した。
(どういうこと?)
近付いてきたのは10人ほどの小さな集団で、灯りによって見えた風景は普通ではない。
まるで戦場跡のような瓦礫の山だ。
美恵は底知れぬ危険を予感して身震いした。
他の生徒達は単純に喜んでいたが、美恵同様に全く歓喜の表情を見せない生徒も何人かいた。
桐山は元々感情が希薄だし、川田や貴子もおおっぴらに感情を顔に出すタイプじゃない。
一見、愛想良さそうに見える月岡や光子、それに三村は内面はシビアでクールだ。
それ故か、それとも美恵と同じように不穏な気配を感じたのか笑顔は無い。
ただ、いつもは笑顔が耐えない良樹が、やけに慎重な表情でジッと外を睨んでいたのは意外だった。
睨んでいるというより、ジッと静かな視線を向けている早乙女瞬。こちらは想定内だ。
集団はだんだんと近付き、ついに懐中電灯の向こうにある顔を見れるほどの距離まできた。
生徒達から歓喜の声が消えた。
美恵が感じた異常な気配を、視覚ではっきりと確認することができたからだ。
連中はレスキュー隊などではなかった。
警察でも消防隊でもない。
武装している。最初は軍隊が救助に来たのかと思ったが、それはおかしい。
たかがバスの転落事故程度で軍隊が出動するなんてありえない。
よほどの要人がバスに乗車してるというのならともかく民間人の中学生ではないか。
それだけではない。連中は機関銃やライフルと思われる武器を所持していた。
自動車事故の救助にそんなもの持ってくる訳が無い。
しかも連中は、どうみても殺伐とした下劣な人相ばかり揃っているではないか。
「桐山君」
恐怖でかすかに震えている美恵の肩を桐山は抱き寄せた。
(銃器類を揃えているところを見ると、ただのチンピラってわけじゃねえな。
かといって、あんな面した連中はさっぱり見覚えねえよ。
反政府組織崩れの裏社会の連中……ってところだな)
良樹は冷静に分析していた。
(大したことのない連中だろうが、こいつら一般人にはきつい相手だろうな)
バスの前方のドアが乱暴に開けられた。凶悪そうな面をした男が真っ先に乗車してきた。
ヘビー級のボクサーのようながたいだ。川田と比較しても遜色のないほどに。
左顔面には額から頬にかけて、一直線に傷が走っていた。
「てめえら何者だ?どこから来た?」
「そ、そういう君達は一体誰なんですか?」
元渕だった。
「おい糞餓鬼、質問を質問で返すんじゃねえ!」
男の腕が伸び元渕の頬から乾いた音がして、視界がかすみ意識が遠のいた。
元渕が狭いバスの通路に倒れた。口の端から血を流し白目をむいている。
「きゃあ!」
生徒達はいっせいに立ち上がった。だが、それは恐怖の幕開けに過ぎない。
「さあ、てめえらは何者かさっさと吐きやがれ!」
男がライフルの銃口を上げた。ドンと音がしてバスの天井に穴が空いた。
「いやぁ!」
「ガタガタ騒ぐな!今度泣き叫びやがったら、てめえらの体に風穴空けてやるぞ!」
ピタッと絶叫がやんだ。
ひっくひっくと声を押し殺したすすり泣きだけが、車内が完全に無音になるのをかろうじて止めていた。
「さあ、言え!てめえら何者だ?
まさか民間人のガキが大勢さんで、こんな場所にくるわけねえしなあ」
「郷原さーん、こんなガキにいちいいちマジに相手することないでしょお。
どうみても、政府の回し者とは思えないじゃん」
「ま、回し者?どういうことだ、俺達は全員普通の中学生だぞ!
修学旅行に行く途中で自動車事故に会って橋から落ちただけだ!
おまえ達こそ何なんだ!俺達をどうしようっていうんだ!」
七原が立ち上がっていた。
「し、秋也やめなよ。下手なことしたら……」
国信が七原の学生服の裾を掴んでくいくいと引っ張り自重を促していた。
クラスメイト達全員、国信が意識的に途切らせた言葉の先の見当がついていた。
誰もが思った。七原、こいつら普通じゃない、逆らうなと。
「普通の中学生?修学旅行だぁ?」
郷原と呼ばれた男はぎらつかせた目を七原に向けた。
「こんな場所で修学旅行ぉ?ゴーストタウンと化したここ?。
ふざけてんじゃねえぞガキ。そんなに俺様を怒らせたいのか?
俺を怒らせたらどうなるか全然わかってないから教えてやらねえとなあ」
郷原はチラッと部下達に目配りした。
「おい、アレを見せてやれ」
「OK」
田中が指をパチンと鳴らすと、寝袋のようなものがバスの真横に運ばれてきた。
「全員、窓の外に注目。ほら注目するんだよ!」
田中が銃を空に向かって発砲した。瞬時に生徒達は窓際に駆け寄った。
「小僧、てめえと同じように馬鹿な戯言ほざいた野郎だ。おい見せてやれ」
寝袋のジッパーが下げられ、中身が露にされた瞬間、生徒達はうっとうめいた。
そして次々に悲鳴を上げだした。
血まみれの林田先生だった――。
「せ、先生!」
酷い!美恵は怒りで眩暈がした。生徒思いの優しい教師だったのに!
「先生が何をしたっていうの?外道!あなた達は人間じゃないわ!」
「あー聞えんなあ」
郷原は自分にたてついた威勢のいい女生徒を見て厭らしい笑いを浮かべた。
「おい田中。今月の納品の数が足りなかったな?」
「郷原さん、あの女だけじゃないっすよ。ほら、あの二人もなかなか」
「んー、どれどれ」
田中が両手を上げ、それぞれの人差し指を光子と貴子に向けていた。
「ほほう。これはこれは」
「ついてましたねえ郷原さん、これで数がそろいます。それも特上品っすよ。
やっぱり日頃の行いがいいと神様はちゃーんと助けてくれるんですねえ」
「納品?どういうことよ」
貴子が鋭い口調で質問した。
「そうだなあ、おまえ達には知る権利がある。
俺達は正義の為に日夜政府と戦ってる革命家よ。
だが戦争ってのは金がかかる。だから裏のビジネスで儲けることが必要なんだ。
今一番金になるのは外国の大富豪に女売り飛ばす人身売買だ。
俺達は国のため国民のために命かけて戦ってるんだ。
おまえらみてえに、のほほんと生きている一般人が俺達の役にたつことくらい当然だろ?
ギブアンドテイクってやつだ。
なーに綺麗なドレス着て毎日うめえ食い物が食えるんだ。最高だろ?」
美恵に続いて貴子の怒りも一気にマックスまで上がった。
「あたしは高いわよ。あんた達なんかに扱えるものですか」
光子はこんな局面においても、冷静さを全く失わず淡々と嫌味を言ってのけた。
光子が本気で凄んでひるまない男はまずいないが、
外道だろうと仮にも革命家を名乗っているだけに連中はひるまない。
「とにかく、あんた達が何者なのかは俺が拷問して聞きだすから覚悟しとけよ。
その三人は大事な商品だから丁重に扱ってやる。
さあ俺について来い!でないと、この眼鏡と同じ目に合うぞ!」
田中が生徒達に銃口を向けた。
「一列に並んで外に出ろ!さっさとしろよ、グズは嫌いだよ!」
生徒達は怯えながら立ち上がった。
「鈴原、安心しろ」
桐山が小声で囁いてきた。
「貴子、大丈夫だ。俺がついてる。あんな奴等に好き勝手させないからな」
杉村も汗ばる拳を握り締め、貴子にそっと決意を告げた。
一人ずつゆっくりとバスから下車する。
「ねえ、なんでアタシにはお声がかからないわけ?アタシだって特上の美女よ、うふん」
「うっ!」
月岡のウインクに初めて郷原が恐怖で顔をしかめた。
(……さすがヅキだぜ。なんて度胸だ)
すぐ後ろで沼井が一種尊敬の眼差しで月岡を見詰めていた。
「よーし、てめえで最後だな」
最後に早乙女瞬が下車した。
「さあ歩け。ぐずぐずしている暇はねえぞ、夜が明ける前にアジトに戻るんだ」
生徒達は男達に銃口で突かれ、嫌々ながらも歩き出した。
「おい、おまえ聞こえねえのか?さっさと歩けって言っただろ!」
郷原の怒鳴り声に生徒達はいっせいに背後に振り向いた。
瞬がチラッと上空を見上げている。どうやら星を見ているようだ。
(西の方角……か)
「おい無視するんじゃねえ!」
郷原がライフルを振り上げ瞬の後頭部に殴りつけた。
「早乙女君!」
慌てて美恵が駆け寄った。
「さっさと命令を聞かねえこいつが悪いんだ。さっさと歩けと聞えなかったのか」
「無理だな」
瞬の言葉に生徒達はおろか、自称革命家達も顔色を変えた。
「俺は西の方角に行く。こっちは逆方向だ」
「な、なななな何だとぉ!?」
「聞えなかったのか?俺は西に行く」
「ふ、ふざけやがって!!」
この生意気な一般市民に郷原の怒りは爆発した。
「おい、てめえら!こいつを始末しろ、見せしめだ!
おまえらに逆らえばどうなるかたっぷりと教えてやる!」
「へい、わかりました。おい、こっちに来るんだ」
5、6人の男が瞬の腕を掴んで引っ張り出した。瞬と男達は岩の向こうに姿を消した。
そして銃声が何発も轟いた。
「ひっ」
金井泉がへたへたとその場に座り込んだ。他の生徒も顔面蒼白になった。
殺した!こいつら本当にやりやがった!
嘘やはったりなんかじゃない、本当に殺すと言ったら殺すんだ!
「きゃぁぁ!」
最初に行動を起こしたのは南佳織だった。恐怖でついに正気を失ったのだ。
南は転びそうな体勢とは思えないスピードで走り出した。
一人の行動に他の生徒もスイッチを押したように後について走り出した。
「だ、誰か助けてくれぇ!」
「こ、殺される。殺されるよぉ!」
「あ、てめえら!」
男達がいっせいに銃口をあげた。桐山の足が上がった
銃が蹴り落された。一般市民と侮っていた中学生の反撃に田中はびびった。
しかも体勢を立て直す前に、桐山の第二の蹴りが腹部に決まっていた。
「うげぇ」
男はもんどりうって地面に倒れこんだ。
「逆らうつもりか!」
今度は郷原が桐山に銃を向けた。
「どこよそ見してんだよ!」
郷原の腕に衝撃が加わわった。痺れる腕を押さえながら、地面に膝を着いていた。
「お、おまえ……」
「敵は桐山一人じゃないんだぜ」
良樹だった。
「ち、畜生!おまえら、大人しくしろ。この女がどうなってもいいのか?いいのかYO!」
田中が貴子の頭に銃口を突きつけた。
「貴子にさわるな鬼畜野郎!」
杉村の鉄拳が田中の顔面にはいった。
「きゃあ!」
田中は倒れかけながらも、銃を離してなかった。
「そんなに死にたいのか。望み通りにしてやるYO!」
「畜生!」
杉村は田中にボディアタックをかました。田中ごと地面にダイブして放さない。
「く、放せ!放しやがれ、この野郎!!」
田中の肘打ちが杉村の背中に入った。
背骨が折れるのでは?というほどの衝撃が杉村を襲った。
「ひ、弘樹!」
「何している、逃げろ!は、早く逃げるんだ貴子!」
「馬鹿なこと言わないで、あんたを置いて逃げるなんて」
「うぉぉぉー!!」
夜空を切り裂くほどの絶叫に、貴子は思わず声の方向に視線を向けた。
「杉村!おまえの気持ち確かに受け取ったぜ!
おまえの気持ちに応えるためにも俺は全力で逃げる!」
貴子に蔑まれることにかけては右に出るものがいない男・新井田和志だった。
「な、なんですって!?」
一瞬、呆気にとられた貴子を尻目に新井田は素晴らしいスタートダッシュを切っていた。
サッカー部エースという肩書きに恥じぬ走りだった。
あっとう間に、佳織を追い越し暗闇の中に姿を消してしまった。
「あ、あの屑、なんてことを!」
暗闇のはるか向こうから足音が近付いてきた。それも一人や二人じゃない、大勢さんだ。
郷原達の部下がこちらに向かっているのだ。
「逃げろ、鈴原。俺も後から行く」
桐山の必死の言葉も美恵の心を変えるのは容易ではなかった。逃げる=見捨てるのだ。
「彰!」
その一言で月岡は桐山の言いたいことを察した。
「OK、桐山君!」
月岡は、美恵の手を握ると全速力で走り出した。
「つ、月岡君。待って、桐山君が、それに貴子や光子が!」
ハッと真横を見れば、すでに光子は走っていた。
「桐山君なら大丈夫よ。彼を信じてあげてちょうだい」
月岡は余裕のある表情すら浮かべている。
「貴子さん、こっちだ!」
「ちょっと何するのよ!」
「わからないのかよ、あいつらの狙いはあんたのほうなんだぜ。今は逃げるんだ!」
良樹は貴子の手を掴むと強引に引っ張り走り出した。
「弘樹!離してよ、弘樹が!」
「それでいいんだ。雨宮、貴子を、鈴原を頼む、頼んだぞ!」
4人の美女(1名は自称)と1人の騎士は暗闇の中に消えていった。
「俺の商品が、俺のビジネスが!」
郷原は怒りに満ちた目で桐山を睨みつけた。
駆けつけた郷原の部下達がいっせいに桐山達を包囲する。
「反撃もこれで最後だぞ。大人しく降参しろ、そうすりゃあ命だけは助けてやる。
おまえみたいな美少年は高く売れるからなあ!」
桐山は攻撃の手を止めるつもりはなかった。
「やめろ桐山!」
転校してきてから一度も接触してきたことのない男・川田が桐山を止めた。
「相手は飛び道具を持っている。今は大人しく従うフリをして様子をみるんだ。
なぜかわからんが、俺達の常識を超えたことが起きた気がする」
「そうしたいのなら、おまえだけがすればいい」
「奴等の注意を俺達に注ぐんだ。その間に鈴原達が逃げ切れる可能性が上がるぞ」
「……そうか」
桐山は郷原を踏みつけていた足をはずし両手をあげた。
「さっさと連れて行ってもらおうか。おまえ達のアジトに」
【B組:残り45人】
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