「どこにいる?」
「俺の独断でそんなことできると思っているのか?」
「そうだったね。特撰兵士と云えども階級上はただの尉官に過ぎない。
気が付かなくて悪かったよ。君に迷惑をかけてしまうところだった。
君にその権限がない以上、上の人間に直接話をさせてもらう」
直人は徹の性格をよく知っていた。
止める事は不可能。まして説得なんて聴く人間じゃない。
「徹、おまえもわかっているだろう?これは軍の作戦で、国防省に決定権がある。
連中の身柄は国防省の管理下にある。勝手なことをすれば、おまえの立場が――」
徹は、ふふっと笑って見せた。しかし目は笑ってない。
「つまり、勝手なことをすれば軍法会議もの――そういうことかい?」
「ああ、そうだ。それでもやるのか?」
答えがわかっていながらも直人は質問した。
万が一の徹の心変わりを期待した。が――。
「俺がそんなことにびびるとでも思っているのかい?」
「さあ直人、連中を引き渡してくれないか?」
――最悪だな
鎮魂歌―27―
「い、今……なんて言ったの?」
美恵は自分の耳を疑った。
悪徳闇医者だとは聞いていたが金ではなく命を要求するなんて。
「さあどうした?そいつを助けたいんだろう?俺の治療費は高いぜ」
「お金なら払うわ。だから、このひとを助けてあげて。お願い」
結城はちらっと患者を見た。顔色がさらに悪くなってきている。
「そのお嬢さんのいう通りだ。金なら用意してきた。
正確には現金ばかりじゃないが、すぐに換金できるものだ。数百万の値打ちがある。
老い先短いおっさんの命なんてケチなこといわずにさっさと治してやってくれ。
おまえさんだって、金のために危険な商売やってる人間だろ。
だったらくだらないジョークよりも実益を選んだらどうだ?」
川田の言い分は理路整然としていて説得力もあった。
だが結城は冷たい表情を全く崩さずに、さらに冷酷な言葉を吐いた。
「俺は相手によって治療代の上下をきめる主義だ。金持ちほど上限は高くなるし」
結城は、葛城を睨みつけた。恐ろしい目で。
「嫌いな奴からは金以上のものを貰う」
「……ん」
良恵は目を覚ました。
「……ここは、どこ?」
私は、あいつらに気絶させられて……それから……。
記憶が無い。
(ここは車の中のようだけど、私を拉致した連中は……)
ハッとした。
そばに人影がある!
いけない、私が目覚めた事を悟られては!
良恵は眠ったふりをしながら様子を探った。
そばにいたのは女だ。幸いにもこちらには背を向けている。
周囲に男の姿はない。だが近くにいる、声が聞える。
「ふざけるな、さっさと泰三を手術しろよ。このクズ野郎!!」
(……何があったのかしら。揉めているようだけど)
車窓から外を見上げた。
(……あの電灯……見覚えがあるわ。どこでだったかしら……?)
「俺の要求する報酬が気に入らないなら、その死にぞこないつれてさっさと帰れ。
こっちも慈善事情で危険な商売やってるわけじゃないんだ」
(この声……そうだわ。確か軍医見習いの結城司……じゃあ、ここは彼の家)
場所はわかった。後は逃げるだけ。
大丈夫、気絶させられただけで外傷も無い。動けれる。
男達は車外で口論に気を取られているし、今車内にいるのは隙だらけの女1人。
チャンスだった。良恵はゆっくりと体を起こした。
「おいいい加減にしろよ。こっちはおまえさんのブラックジョークにこれ以上付き合ってる暇ないんだ」
「俺は冗談なんかじゃ……」
(ん……あれは)
車に背を向けていた美恵達には死角となって見えなかったが、結城からは車は真正面だった。
(まだ車に誰かいたのか、あの女は確か……おい、嘘だろ?)
ばっちり見えた。女が起き上がった、その女の顔を忘れるわけがない。
「何揉めてるのよ。さっさとしないと泰三君が死んじゃうじゃない」
とんとんと背後から肩を軽く叩かれ加奈はびくっとした。
だって、そうだろう?今、車内にいるのは自分以外は1人しかいない。
(そんな、こんなに早く目覚めるなんて!)
加奈は振り向きながら反射的に叫び声を上げかけた。
が、声はでなかった。振り向くと同時に口を手で塞がれ、そのまま床に押し付けられたのだ。
「悪いけど、今度はあなたにお寝んねしてもらうわ」
どん、と加奈の腹部に衝撃が走った。
加奈はびくっと両目を大きく開くと、そのまま意識を手離した。
(鍵は……良かった、ついてる)
良恵を無抵抗の眠り姫だと甘くみて拘束すらしなかったのは失敗だっただろう。
「おい川田」
桐山は川田にだけそっと耳打ちしてきた。
「何だ桐山、今は取り込み中なんだ。黙っててくれ」
「振り向かずに黙って聞け。女が目覚めたようだ」
「何だと?」
川田は全く気付かなかった。しかし桐山が云うのだから事実だろう。
桐山は明らかに普通の中学生をはるか超えた位置にいる人間なのだから。
(そういえば、さっきからのこの悪徳医者の様子がおかしい。
こいつからは車内の様子が丸見えだったんだな)
ブロロロ……と、エンジン音が響いた。
「え?な、なんだ?!」
鉄平は突然の出来事に驚いて、思わず泰三から手を離してしまいそうになった。
慌てて振り向くと、ワゴンがすでに発車しているではないか。
「あ、あの女!!に、逃げる。あいつ逃げるつもりだぞ!!」
などと叫んでいる間にワゴンはあっと言う間に小さくなっていった。
「まずい、あの中には加奈ちゃんが!!」
ズギュンと何かが空を切り裂き、ほぼ同時にパンと乾いた音がした。
ワゴンがガクッと右側だけ派手に沈み、タイヤのゴムがいびつな形で空回りしている。
ワゴンは不安定に揺れ、蛇行しながらガードレールに衝突した。。
運転席のドアが開き女が飛び出した。振り向きもせず走り去っていく。
もちろんむざむざと逃すつもりはない。桐山は即座に追いかけた。
良恵はかなりの駿足だったが、それでも桐山の比では無い。
すぐに追いつかれ肩をつかまれると、良恵はくるっと回転しながら桐山に肘うちを食らわせようと試みた。
が、桐山は掌で簡単に良恵の攻撃を止めた。
(それなら!)
良恵は右膝を突き上げた。桐山の腹部にくらわせればダメージを与える事ができる。
しかし、それも呆気なく止められた。
(このひと……強い!)
「これ以上はやめてくれないかな?おまえじゃ無理だ」
桐山は良恵の手首をつかむと、そのまま良恵を地面に押さえつけた。
「加奈ちゃん、加奈ちゃんは無事か!?」
車内で気を失っている加奈をみた鉄平は切れた。
「この女、逃げようとしやがったな!
女だと思って甘くみてりゃ付け上がりやがって、こうなったら縛り付けて……」
「おまえら、その女、誰だと思ってるんだ!!」
結城が顔面蒼白になって駆け寄ってきた。
「さては、その女さらってきたな。俺を妙な事に巻き込むな!」
良恵がⅩシリーズの身内で、佐伯徹に溺愛されていることは軍の人間なら誰でも知っている。
「……色々とわけありでな。気分のいいものじゃないが、まあやっちまったんだ。
おまえさんもひとにいえない裏家業している身なら、そのあたりの事情わかるだろ?」
川田はやれやれと溜息をついた。
「瀬戸たちを見捨てる?!」
良樹はショックを隠せなかった。
「じゃあ、俺にリスト書かせたのは!」
「ああ、あれ?俺は男と足手まといから切り捨てる主義なんだ、悪いな」
「念のために聞くけど、後で瀬戸たちを助けるつもりは」
「それはないかなー。瀬戸って野郎に美人の姉ちゃんがいたら考え直してやってもいいぜえ」
だめだこりゃ……。
「夏生さん、あんたからも何か言ってくれよ!」
「うーん、兄ちゃんの意見は実に正論だな」
「あんたまで何言ってんだよ!」
「だってしょうがないだろ。俺ら正義の味方じゃないし、夏兄ちゃんはどっちかといえば悪人の部類……」
「おい夏生」
「あ、冗談冗談。やだなあ兄ちゃん、マジにとらないでくれよ」
「そんなことより、なあ、おまえ戦闘レベルはどのくらいだ?」
突然、夏樹が質問してきた。
「レベル?」
「身体能力はいい、動きも悪くない、何か格闘技習ってただろ?」
「あ……ああ、格闘技といえるかどうか、ちょっと護身術を教えられただけだけど」
「銃はどのくらい使える?」
銃の質問に及ぶと、良樹は顔をしかめた。一見して銃は嫌いだという顔だ。
「夏兄ちゃん、こいつは木下に一ヶ月以上面倒見させておいたんだ。
ちょっとは使えるようになってるはずだぜ。
もし使い物になってないなら、木下に教える才能ないか、こいつ自身に才能ないか、どっちかだ」
「木下~?」
「海原グループの幹部だ。ほら中国地方で一大勢力誇ってた組織で」
「ああ、あれか。水島克巳1人にに壊滅させられたダセえ連中だったよなあ。
いくらリーダー不在だったとはいえ、あれは清々しいくらいの負けっぷりだったぜ」
夏樹の言い方は随分と嫌味ったらしかった。
仲間でもないし、政府に反抗している理由も違うとはいえ、冷たいくらいの言い草だ。
「夏樹さん、言い過ぎじゃないのか。俺達は木下さんに散々世話になったんだ」
義理堅い良樹は当然のように木下たちを庇ったが、返ってきた言葉もまた非情だった。
「迷惑もかけられたんだろぉ?俺が何も知らないとでも思ってんのかよ。
あいつの部下だった郷原たちのせいで、おまえら追われる身になったんだろうが。
第一、おまえら預かることで、この馬鹿から報酬はたっぷり支払われたんだろ?
勘当中の身とはいえ、季秋家の人間だ。はした金なんか渡して無いんだろ、なあ夏生?」
「まあな、あいつらやせ我慢してたけど、軍資金はおろか生活費もことかいてたぜ。
おかげで懐柔するのは楽だった。
先立つもんがなけりゃ政府と戦うどころか夕飯だって食えないんだからさ」
「だろ?辛いよなあ、貧乏人ってのは。金も無いのに国に逆らうなってことだ。
俺から言わせれば馬鹿としか言いようが無いぜ」
「おい、あんたいい加減にしろよ」
良樹はさすがにムッとしていた。だが夏樹は堪えてない。
「俺は本当のことを言っただけだぜ」
「木下さん達は心底この国を思って――」
「ああ、ダセえ。こんなに呆れたのは、ほんと久しぶりだぜ。
秋彦兄貴が秋澄兄貴をぶっ殺そうとした時以来だ」
余談だが、非行に走った長男の秋彦は真面目実直な秋澄がどうにも気に入らないらしい。
その為、殺意を抱くほどの逆恨みを度々行動に表していた。
夕食時間にライフル片手に家族団らんの場に乗り込んできて、秋澄を殺そうとしたこともある。
今となっては懐かしい家族の思い出だ。
「1つ教えておいてやるぜ坊や。
ご立派な思想もって実践さえすりゃ勇敢とは云わないんだぜ。
勇敢と無謀は全く違う。戦略なくして、戦闘しようなんて机上の空論だ。
敵さんと十分戦えるだけの態勢整えることもできなくてやるのはただの馬鹿。
まして相手はチンピラじゃない。国そのものが相手なんだぜ」
良樹はぐうの音もでなかった。冷酷だが、正論だ。
だが、もう少し思いやりのある言い方ってのもあるだろう?
夏樹にはそれが全く無い。それが良樹には気に入らなかった。
(瀬戸たちのことも簡単に見捨てた。俺はこの人のこと、好きになれそうにない)
「雨宮」
貴子がそっと小声で話しかけてきた。
「悪いけど、あたしはこいつについていくわよ」
「貴子さん?」
「あんた、こいつのこと、やな男だって思ってるでしょ?
でも、あたしにとっては、こいつがどんな冷たい男だって関係ないわ。
あたしが今興味あるのは、弘樹の仇を討つことだけよ。
こいつと一緒にいることは、その一番の近道なのよ」
貴子の言い分は最もだった。
「その木下ってやつが、どんなご立派な性格だろうと、あたしにはどうでもいい。
ここにいれば弘樹を殺したやつに最短でたどり着ける。あたしの狙いはそれだけよ」
良樹は苦笑した。
杉村、おまえ、本当に貴子さんに大事に想われてたんだな。
きっと貴子さんにとっては、これから先一生おまえが1番なんだろうな。
とてもじゃないが俺はおまえに勝てそうも無い。ちょっと羨ましいよ――。
「おい雨宮」
「何だよ、夏樹さん」
夏樹がだるそうにソファから立ち上がった。
「――は?」
夏樹の腕が伸びた、もちろん錯覚だが、伸びたようにみえるような動きだったのだ。
良樹は咄嗟に、両腕をクロスしていた。
防御がちょっとでも遅かったら夏樹の鉄拳が、その端整な顔にのめり込んでいただろう。
「あんた、何するんだ!?」
「へえ、俺の攻撃防いだぜ、こいつ。夏生、おまえの連れ、案外面白いな。
護身術をちょっと教えてもらった程度だって?馬鹿言うなよ。
そんなド素人に俺の攻撃防げるかよ。でも――」
良樹は凍りついた……。
顔とほんの数ミリの距離に夏樹の拳があったからだ。
(い……いつの間に……腕の動きなんて全く見えなかった……いや、気付かなかった)
「悪いな、さっきは本気じゃなかった。これが俺の本気、ただし50パーセントだ」
「……あ」
「最初に言っておくが落ち込むなよ。
俺は何の害も無いお優しいお兄さんに見えて、その実、プロだぜ。
俺が本領発揮して避けられるのは軍でも特撰兵士くらいだって自負してるんだ。
おまえ、自分を過小評価してるが素質はあるぜ。
おい、おまえ、俺の足元とはいわないが、影の先くらいは踏みたくないか?
木下なんかじゃ、十年かけても、おまえを素人からプロにはできないぜ。
けど俺は違う。俺だったら、おまえを、使える人間にしてやれる」
「……あんたが俺を?」
「おまえの手」
夏樹は良樹の手首をつかみ、まじまじと掌を眺めた。
「銃……何度も握ってる手だな。その割りには、不思議と馴染んでないんだよなあ。
習ったことあるくせに、おまえ自分から銃を握るのは拒絶してきたんだろ?」
図星だった。銃を扱う事は出来る、しかしどうしても好きにはなれない。
だから良樹は必要最小限の範囲でしか自ら銃を握った事は無い。
「銃は嫌いか?」
「違うね」
良樹は忌々しそうに舌打ちした。
「俺は銃なんて大嫌いだ。これからも好きにはなれない」
「桐山君、乱暴なことはしないであげて」
「そうか。鈴原がそういうならやめておこう」
「おい桐山、この女、絶対にまた逃げるぜ」
鉄平の意見も最もだった。
「そうだな。おい桐山、手首くらいは絞っておけ、可哀想だが仕方ない」
それが川田ができる最大限の譲歩だった。
「今はこいつの治療が先だ、お嬢さん、あんたにかまっている暇は無い。
だが今度逃げようとすれば、少々痛い目に合ってもらう。
俺たちは優しいんでね。女の子にそんなことはしたくない。
頼むから、もう二度とバカな考えは起こさないでくれ」
川田の口調は温厚でこそあったが、反論は許さない雰囲気が漂っていた。
「さて……と。さあ結城よ、おまえさんとの話、まだ終わってなかったな。
さっさとこいつを助けてやってくれ。無論、代金は払う。
それでもイヤだっていうんなら、力づくでもやってもらうぜ。
その為に俺達は危険を犯して、ここまできたんだ。
おまえさんも、仮にも医者なら怪我人前にしてちっとは慈悲の心示してみろ」
「嫌だといえば?」
「言っただろう。暴力で訴えるまでだ、こう見えても俺も医者志望だ。
だから手荒な事はしたくない。お互い穏やかにいこうじゃないか」
川田は下手な極道の親分より迫力があった。
(ふん、本気か。俺はそんなものに屈する性分じゃない、けど……)
良恵の存在が状況を一変させた。
(あの女の拉致にどんな形にしろ係わったなんてことがばれたら俺まで佐伯に殺される。
ごめんだ、そんなことは。なんとかしないとマジでやばい)
「命以外なら何でもいいのか?」
「手術する気になったのか?」
「代金は、その女だ」
「はあ?」
川田は手にした煙草を思わず落しそうになった。
「その女を貰おうか」
(佐伯に女を引き渡せば殺されることは無い。それどころか佐伯に恩を売れる)
「悪い。他の物にしてくれ。このお嬢さんを簡単に手放すことはできん。
俺達全員の命がかかってるんだ。ほらよ」
川田は小さな袋を結城に向かって投げ捨てた。
「確認してくれ。かなり法外な代金だと思うぜ。足りない分は悪いが後払いにしてもらう」
7
(……ふん、仕方ないな。下手に断っても、後々厄介だ。
彼女ごと追い返してみろ、佐伯にばれたら殺される。
こうなった以上、何とか彼女を助け出すか、俺が係わったと証拠を消すしかない。
後者は難しい……と、なると前者か。これも厄介だな)
結城は袋を拾い上げた。
確かに高価な貴重品や札束がはいってる。
「いいぜ、やってやるよ。さっさと全員家に入れ、そのワゴンはどこかに捨てて来い。
おまえらみたいな連中がこの家に来たって証拠は残したくない」
「連れて来たぜ宗方」
佐竹達が帰って来た。首尾は上々だったようだ。
「証拠は一切残さなかったろうな?」
「ああ、輸送機は山の中に捨てた。カモフラージュしてきたから発見されるまでに三日かかるぜ」
「連中は?」
「それも指示された通りにしてきたぜ」
「そうか。ご苦労だったな」
「別に大したことじゃねえよ。でも本気か宗方、あんな連中と係わったりしたら……」
「佐竹」
夏樹の語尾がやや強くなっている、『それ以上は黙ってろ』という合図だった。
「ち、わかったよ。おまえなら御前にばれても切り抜けられるだろうしな」
「皆はどこにいるんだ?」
良樹は2人の会話に割って入った。
「美恵さんは?七原や三村は?」
「慌てるなよ雨宮。ほら、寄こせ佐竹」
夏樹はスッと右手を差し出した。佐竹はメモ用紙を渡してきた。
それは今回救出できた生徒の名前が記載されている。
「……なんだ、その美人のお嬢さんはいないのかよ。ちっ、面白くない。
まあ、いいさ。このメモに書かれてないってことはまだ捕まって無いってことだ。
それはそれでめでたい事だ。後で探せばいい」
「そうか、美恵さんは無事なのか。じゃあ桐山や川田も」
「そのようだぜ、2人の名前もない」
よかった、まだ捕まってない生徒もいたんだ。
良樹はほっと胸を撫で下ろした。
「それより雨宮、さっきの話、受ける気あるか?」
「……本当に強くなれるのか?」
「ああ、保証するぜ。少なくても木下が1ヵ月おまえら鍛えるより
俺の3日間のスペシャルメニューのほうがずっと価値がある」
「わかった。やるよ」
「おまえの仲間はどうだ?」
良樹はすぐにクラスメイト数人を頭に浮かべた。
三村や七原は乗るだろう。月岡とか沼井も不良ながら頼りがいのある連中だ。
他はどうだろう?
「そうだ、言い忘れるところだった。
おまえのお願いきいてお仲間助けてやったんだ、今度はこっちのお願いきいてくれよ」
突然、夏樹が切り出した。今まで見返りなんて一度も口にしなかったのに。
「お願いって何だよ。俺らにできることなんて」
「K-11との仲介だ」
「K-11……?」
「知らないとは言わせないぜ。おまえらの中の誰かが連中と係わりがある。
俺は前々からあいつらに興味があった。
夏生がこの話を持ってきたとき、内心チャンスかもって思ったんだ」
「まさか、あんたが俺達を助けてくれたのは……」
「はは、まさか俺が心底ボランティアでここまでするって思ったか?
俺は夏生と違って、こう見えてもあまり褒められた性格じゃないんでねえ」
「だ、だって、あんたは美人が好きだから……」
「もちろんそれもある。だが考えても見ろよ。
それなら、そのお嬢さんたちだけを助ければいいだけだろ?
俺は無駄なお遊びは大好きだが、面白くないことは無駄がなくてもしない主義だ」
「俺達は外の連中は一切信用しない。
それが季秋家が没落しなかった最大も原因でもある。
簡単に外の人間を一族にひっぱりこまない。
どんなに綺麗な顔をしてても、鶏小屋には狐は入れるな、だ。
そのポリシーに従って、俺も弟や仲間以外とつるんだ事は一度もない。
海原にも手を組もうと誘われたことはある。無視してやったぜ。
あっちには俺達と組むメリットはあるが、こっちにはないしな。話にならなかった。
俺達は誰も信用しない。たとえ、それが美人で色っぽいおねえちゃんでもなあ」
「そんなひとがどうしてK-11を?」
「奴らは例外だ。他の組織と完全に違う、面白そうな連中だと思ったんだよ。
どんな組織だって思想や利害で動くのに、連中は全く違う、まるで本能で動いているようだ」
国家と戦う理由が『本能』とは、あまりにも似つかわしい言葉だった。
しかし夏樹は大真面目だった。
「奴らは思想で戦ってない。国を変えるとか、国民の為とか、そんなこと露ほどもない。
金や権力が欲しいっていう欲望もない。にもかかわらず、貪欲な連中さ。
政府を潰すためなら何でもする、後先考えずになんでもな。
その為なら他人の命はおろか自分の命さえも悪魔に売り渡そうってほどだ。
だから政府を潰した後の事なんか考えちゃいない。連中の望みは政府を潰すことだけだ。
俺の手下にするなら、そういう奴が1番好都合だ。
能力がある人間ってのは普通は人一倍欲もあるし妙な事に知能使うから厄介だが、連中はそれがない。
政府を潰すという目的さえ叶えてやれば、変な欲は出さないんだぜ。楽でいい」
「だったら……」
良樹は疑問を1つぶつけた。
「思想でも正義感でも欲でもなければ、そいつらが政府を潰そうとする理由は何なんだ?」
「わからないか?人間が命かけて戦う理由なんて、そういくつもあるわけじゃねえよなあ?
消去法で消していけばおのずと答えにたどり着くぜ」
「理由……って。思想でも権力欲でもなければ、大事なものを守るか、もしくは」
良樹はハッとした。K-11の戦う理由がわかったのだ。
「……まさか」
「ようやくわかったようだな。そうだ、復讐だ。
奴らは政府を潰す為なら手段選ばないぜ。
いったい、あれほどの憎悪をどうやって育てたんだろうなあ」
「ふざけるな、徹、てめえがついていながら良恵を攫われただと?!」
「おい、よせよ攻介!!」
徹に詰め寄る攻介を俊彦は必死に止めていた。
徹が国防省に乗り込んだことは、すぐに他の特撰兵士に伝達された。
国防省に乗り込んで危険なことを口走ったのだ、彼を止められる人間は同じ特撰兵士しかいない。
だが、それは返って混乱をきたした。
「君は黙ってなよ、彼女は必ず助け出す。俺の手でな!」
徹はさらに続けた。
「その為には直人、さっさと連中を引き渡せ!俺は、俺の良恵を奪った連中を決して許さない!」
「ざけんなよ徹!許せないのは俺も同じだ!!
あいつら~、素人なんか本気で相手できるかと思った俺が間違ってた」
徹ほどではないが、攻介も完全に頭に血が昇っていた。
「どんな手使ってでも良恵をさらった連中を探し出してケリつけてやる!!」
「攻介、俺も乗るぜ。良恵を早く助けてやらねえとな」
俊彦も、この任務に乗り気ではなかったのが嘘のようにやる気を出していた。
「徹の脅迫はどうかと思うが――」
黙って3人のやり取りを聞いていた隼人が静かな声で静かに言った。
「もう他の連中に任せて置けないな。本気で、この任務を遂行する」
【B組:残り45人】
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