「はあっ……はあっ!」
心臓がばくばくと甲高い音を体内に轟かせている。
呼吸が荒い。だが休んでいる余裕もない。
まだ他にも数匹飛んでくるやつがいる。
良樹は銃口を下げず、さらに連続してトリガーを引いた。
パンパンと何度も銃声が暗闇の森にこだました。
同時に不気味な生物がはじけてゆく。その、おぞましい光景を良樹は、ただ見つめていた。
(……しろ)
手のひらが汗ばんでいる。
ほんの数秒で自分でも驚愕する程に大量に発汗している。
(しっかりしろ、まだ敵はいるんだぞ!)
木々の間から差し込む月光だけが頼り。良樹は瞼を全開にして凝視した。
(残りの奴は……!?)
蜘蛛の子を散らすように森の奥に走ってゆく姿が見えた。
後に残ったのは静寂だけ。銃に怯え逃げたようだが良樹は、まだ銃口を下げることができない。
「雨宮君、大丈夫?」
「…………」
滝口が飛びついてきたが、それすらも良樹は気づかなかった。
「ねえ雨宮君!」
呆然と空を見つめる良樹を心配し、滝口は大声を上げた。
「……滝口?」
「あいつらは逃げたよ、もう大丈夫なんだよ」
「……ああ」
確かに周囲は静かだ。助かったのだ、とりあえず今は。
「こ、怖かったあ……雨宮君がいて本当に助かったよ。
もし君がいてくれなかったら今頃……こ、こええ!」
豊などは謎の生物によってたかって惨殺される自分を想像したのか青くなり、その場に座り込んでしまった。
(そうだ。武器を取るのが遅かったら本当に危なかった。
まるで俺達がここにいるのを知ってるかのように、あいつら襲ってきて――)
良樹はハッとして地図を広げた。
月明かりに浮かぶ黒いX印が不気味なほどに、良樹の角膜の中でクローズアップされていった。
鎮魂歌二章―6―
「夏生の奴、今頃どこにいると思う?」
夏樹はソファにふんぞり返りながら、ふと呟く様に言った。
「さあな。あいつは女が絡むと行動は素早いから、今頃はワールドの中を走り回ってるかもしれねえぞ」
「だろうな。ははっ」
夏樹は思わず笑っていた。その口調に弟の身を安ずる気配は全くない。
「あいつは女に会うまでは殺しても死なねえからなあ。
ところで兄貴、こっちはどうするつもりだ?」
冬也の人差し指と中指の間には封筒が挟まれていた。
差出人の項目には個人名ではなく、御大層な紋章が記されている。
それは総統を意味するマーク。
総統から季秋家へのゲームの招待状だったのだ。
「悪趣味なゲームをVIP席で鑑賞できるぜ」
「じじいも叔父貴も不在。秋澄兄貴は……無理だろうなあ」
夏樹は気の毒そうな表情を浮かべると、ソファに仰向けに寝転んだ。
あの大人しい兄にデスゲーム想像しただけでため息がでる。
純粋無垢な少女にR指定のホラー映画をノーカットで見せつけるようなものだ。
かといって、この手の付き合いは嫌でも参加が上流社会のルール。
それに、これはゲーム進行の情報を入手するチャンスでもあった。
「俺は色々と多忙なんだ。おまえか秋利が行ってくれ」
「ああ、わかった」
「……桐山君」
美恵は心配そうに桐山が消えた地平線を直立不動で見詰めていた。
「美恵、心配してもしょうがないわ。今は自分の身を守る事を考えるのよ」
光子がそっと上着を掛けた。
「……ありがとう光子」
「それに桐山君なら大丈夫よ。殺しても死なないような男だもの」
確かに相手が得体のしれない生物とはいえ、あの桐山が殺されるなんて想像もつかない。
だが桐山は不死身のモンスターではない。あくまで生身の人間だ。
体力は無限ではないし、汗も流せば出血もする人間なのだ。
「光子の言うとおりよ。今は桐山君を信じて私達にできることをしないといけないのもわかってる」
美恵達は桐山が戻るまで洞窟に身を潜める事にした。
入り口にバリケードを作り、息を殺して隠れる。それが一番だと判断したのだ。
出来る事なら貴子達に敵の情報を教えるためにも合流したかった。
しかし武器もなしに、この不気味な場所を動き回ることなど自殺行為に等しい。
美恵は、せめて貴子が、クラスメイトの誰かが見つけてくれることを願い、所々の木々に簡単なメモを括りつけておいた。
『X印は敵の地上への出入り口要注意』――と。
(貴子、お願いだからメモを見て。そして奴等には近づかないで)
今はただ祈るしかなかった。
「おい出来だぞ。さあ入れよ!」
三村が慎重に周囲に注意しながら指示を出した。
美恵達は音をたてないように、そっと洞窟に足を踏み入れた。
「三村君、これは?」
太い枝が何本も用意されている。
「ああ、いざって時には松明にするんだ。奴等、火を怖がるだろ?武器代わりになる」
「でもF3は……」
火を恐れるどころか、人間のいる証として向こうから近寄ってくる。
「だから、これはF1かF2が洞窟内に侵入してきた時しか使えない。
F3にここが見つかる前に桐山が戻ってきてくれる事を祈るしかない」
「……三村君」
それしか手はないだろう。最凶との説明がなされていたF4がいないだけマシだ。
「安心しろよ。万が一の時は俺達男がレディは守るからさ」
三村はニッと独特の笑みを浮かべ、親指を立てて見せた。
さらにウインクを浮かべたので、月岡が「きゃー、三村くーん!」と甲高い声を上げてしまった。
「駄目よ、月岡君」
美恵は慌てて月岡の口を塞いだ。
「外に聞こえたら……」
「そ、そうだったわね……アタシとしたことが、三村君の愛につい萌えちゃって」
三村は心の中で、「誰もおまえに愛情なんか示してないぜ」と呟いた。
「と、とにかくだ。桐山だけが男じゃないって事、証明してやる。なあ七原?」
「ああ、俺達が美恵さんや相馬を命がけで守るからさ。な、月岡?」
「え、何言ってるの2人とも?」
月岡はきょとんと首をかしげた。
「アタシだって女だもの。しっかり守ってもらうわよ」
「「はぁ?」」
「よ・ろ・し・く・ね。うふっ」
月岡曰く、百万ドルの夜景に匹敵するヅキスマイルがウインク込みで披露された。
もう三村と七原は月岡に頼るのはあきらめるしかないと悟った。
「殿下、ご尊顔を拝し恐悦至極に存じます」
「堅苦しい挨拶はよせ。心配はないと思うが、よろしく頼む」
戸川は彰人に恭しく敬礼した。
彰人のそばに控えている背の高い男、特に威圧感もないが何気に気になり思わず凝視してしまった。
それに気付いた彰人が「私の秘書だ。おまえは初対面だったか?」と訊ねてきた。
「……はい」
「深水は有能な男でな。私に仕えて間もないが、すでに私にとって無くてはならない人間だ」
「そうですか」
戸川にとっては、どうでもいいはずの存在だったが妙に気になる。
深水はサングラスをかけているせいか表情がいまいちわかりづらい。
「戸川少佐、どうかお見しりおきを」
左手を出しだし握手を求めてきた。
「……俺は右利きだ。悪いが軍人は利き腕は差し出さない」
「これは失礼。では」
深水は今度は左手を出してきたので戸川も素直に握手に応じた。
(……?)
軽く握っただけだったが、戸川は微妙な違和感を感じた。
「では殿下、私は少し席を外します。
少佐がそばにいてくだされば何も心配することはないでしょうから」
深水は深々と頭を下げ退室した。戸川は右手を不思議そうに見つめている。
「どうした戸川?」
「……あ、いえ」
戸川は我に返り、彰人に護衛の説明を一通りした。
説明が終わると何気に質問してみた。
「殿下、あの秘書ですが……」
「深水がどうかしたのか?」
「何か格闘技でも習得しているのですか?」
「さあ、聞いた事はないな。
健康管理の為にジョギングや水泳などスポーツは欠かさないという事だが」
「……そうですか」
戸川は何かすっきりしなかったが、今は任務に集中しなければならないので忘れる事にした。
――あの手……あれはデスクワークの人間のものじゃない。
――何なんだ、あいつは?
(……ひとの声?)
ドアの向こうから聞こえる微かな声に早苗は立ち止った。
関係者以外立ち入り禁止の、ある特別ルームの前だ。
この部屋は国防省の中でも一部の人間しか入室できない。
表面上はただの応接室だが、この部屋には一つだけ特別なものがあった。
それは通話記録の残らない電話が常備されている事だ。
どこの管轄でも部署でも、違法な事をしているお偉いさんはいる。
そして公の機関。特に政府にとって重要な場所であるほど常にリアルタイムで通話は監視されている。
上の人間がこっそり取り付けた、ばれたらやばい電話は、それに対抗して誕生したものだ。
早苗は水島克己の女だから知っていた。
だからこそ、そんな一部の特別な人間しか使用してならない電話のある部屋に誰かがいることにギョッとなったのだ。
さらに言えば此方の存在に気付いたのか、声は全く聞こえなくなった。
「誰なの!?」
早苗は扉を開いた。中にいたのは彰人の秘書・深水。
受話器をゆっくりと本体に戻しているところだった。
「……あなた、ここで何をしているの?関係者以外は立ち入り禁止よ」
「失礼。携帯電話を忘れてしまったので」
早苗は、まだ納得できないようだった。
「私用で無断借用した事は申し訳ない。
何か支障があるのなら殿下に申しあげて国防省に出頭しますよ」
「……今後は注意なさい」
早苗は、それ以上何も言わずに立ち去った。
「いいのか、あの女をほかっておいて?」
深水が1人っきりになると、どこからともかくそんな囁き声がした。
「特選兵士の水島克己の女だ。下手な事をすれば水島が大騒ぎする。
その方が厄介だ。俺はしばらくは日陰の身でいたいんだ」
「呑気なもんだ」
「俺は太く長く楽しみたいんだ。くくっ」
深水はわらっていた。
その顔は主人である彰人でさえ一度も見た事がない別人のものだった――。
桐山は月明かりの下に地図を広げた。
何度も頭に叩き込んでいたが、さらに再確認するために。
何故なら、ここから先は再確認などと余裕めいた行為は取れないからである。
気配を消し物音を立てず、地図をしまいながら桐山は歩き出した。
何も起こらない。今のところは。
しばらく歩くと、桐山は岩陰にいったん身を潜め、そっと様子を伺った。
きりやまの頭に叩き込まれている3か所のX印によるトライアングル地帯に入ったのだ。
(異常なし)
桐山は素早く木の上に移動した。やはり何も見えない。
だが地図が間違っていなければ、ここは地獄の隣接地。
1秒たりとも油断はできなかった。
桐山は慎重かつ素早く移動した。まだ敵は襲ってこない、姿も見せない。
普通の人間なら、安全だと幻想すら抱きかねないほど順調だった。
しかし桐山は少しも慎重さを崩さなかった。
奴等は必ず姿を現す。桐山は確信すら抱いていた。
武器支給場所に近づくにつれ、その思いは強くなっていた。
桐山が抱いていたのは決して思い込みではない。
その証拠がついに桐山の前に姿を現したのだ。
月明かりの中にべとっとした体液のようなものを発見した。
透明で粘り気がある。樹脂のようなものだが、勿論そんな無害なものではない。
例の凶暴な生物達の痕跡に間違いない。木の枝で触れてみると全く乾いてない事がわかった。
(唾液か?)
「……近くにいる」
桐山が、その恐ろしい事実を知った瞬間、静寂が一気に瓦解した。
空を引き裂く様に何かが弾丸のように桐山目掛けて一直線に飛んでくる。
それに対する桐山の反応も敏感だった。
桐山は走った。全力疾走だ。
もう足音を立てないなどと言ってはいられない。とにかく走った。
その桐山の動きに共鳴したかのように、一斉に四方から葉がこすれ合うようなざわめきが猛スピードで近づいてくた。
奴らが狩りを始めたのだ!
「俺は狩りのターゲットになるつもりはない」
桐山は速かった。陸上部が喉から手が出るほど欲しい才能を存分に発揮した。
ざわめきが遠のいてゆく。桐山のスピードに奴らがついていけなくなったのだ。
だが危険が去ったわけではない。今度は前方からざわめきが近づいてくる。
桐山の形のよい眉が歪んだ。
このままでは間違いなく凶悪生物と月光の下でこんばんは、だ。
しかし立ち止る事も、まして引き返す事も不可能。
桐山はさらに走るスピードをアップした。
程なくして奴らは桐山の眼前に、そのおぞましい姿を現した。
カブトガニをお化けにしたような獣だった。
それが空中飛翔を披露しながら、桐山に襲いかかったのだ。
だが桐山は奴らを超えるほどのジャンプを見せつけた。
最初の一団は飛び越えることで攻撃をかわした。しかし今度は横から飛んできた。
桐山は肩にかけていたディバッグを外し、奴らを地面に叩き付けた。
勿論、その程度で死ぬことはない。固い皮膚が攻撃によるダメージを最小限に抑えているのだ。
桐山にしても倒せるなどとは全く思ってない。
ただ奴らの脚を止める事だけが目的だったのだ。
桐山は襲いかかってくる敵を次々にかわし目的地に確実に近づいて行った。
まるで桐山が無双化する事を知っているかのように、奴らの攻撃も激しくなってくる。
必死になって数にまかせ桐山の命を狙ってくるのだ。
(もう少しだ)
大群との勝利にまで後少しという距離。奴が現れた。
それは感情が希薄なはずの桐山ですら一瞬ぞっとするような奇声だった。
甲高く音量もある。今まで聞いたことがある、どんな猛獣のものとも違う異質な咆哮。
桐山は初めて立ち止った。今まで襲ってきた獣とは明らかに違う事を肌で感じたからだ。
暗闇から今までの獣より、はるかにでかい奴がジャンプするのが見えた。
(F2という奴か?)
シルエットでも長い尻尾が見えた。F2に間違い無さそうだ。
(桐山対F2、ゲーム開始早々好カードじゃないか)
晶は小型モニター越しに、その様子を見ていた。
ワールドには何百というカメラが設置されている。
Fシリーズの活動地域には特に多かった。
(俺達特選兵士ならば勝てる。貴様はどうだ、桐山和雄?)
徹と互角に戦った実績はあるが、徹は良恵を奪われそうになり逆上してもいた。
冷静さを失うと人間は実力を発揮できない場合も多々ある。
それ故に晶は既成概念を全て捨て、真っ白な状態で桐山を見つめていた。
(さあ、貴様の実力を見せてみろ桐山)
「……ん?」
一瞬、モニターの隅に何か影が映ったような気がした。
ほんの短い時間だったので確認すらできなかった。
F1ではなさそうだ。鳥か何かだろうか?
晶は考えるのを止めた。桐山とF2との戦闘が開始されたからだ。
凄い勢いだ。まともに攻撃を受けたら、此方の分が悪い。
桐山は瞬時に判断して後方回転し、F2の攻撃を避けた。
F2の強靱な爪が地面に突き刺さり、その威力で土が辺りに飛び散った。
あの爪をまともに受けていたら肉が抉り取られていただろう。
まるで恐竜のような姿。いや、科学省が現代に蘇らせた恐竜に違いない。
その強さを知っているのか、F1の大軍は蜘蛛の子を散らすように逃げていた。
(種類が違うと敵なのか?)
それは大きな発見だった。
少なくても種類が違うFシリーズ同士が徒党を組む心配はない。
肉体の大きさからいってもF1よりパワーはあるだろう。
しかもスピードも凄かった。F2は再び奇声をあげて桐山に襲いかかる。
桐山は大きくジャンプして避けた。今度は激突された木がばきばきと鈍い音を出しながら倒れた。
こんなタックルを受けてやるわけにはいかない。
桐山はF2の尻尾を両手で掴み、ぐいっと引き寄せた。
バランスを大きく崩し、F2は地面にうつ伏せに接触した。
さらに桐山は、そのままF2を振り回した。
F2は遠心力で体勢すら上手く取れない。桐山優勢は明らかだった。
だが、そのままでは勝負は決まらない。いずれ体力が尽きてしまう。
桐山は先ほど倒された木の幹に視線をやった。
不自然な折れ方をしたせいで、幹の一部分が剣山のようになっている。
そこを目掛けて桐山はF2を叩きつけた。
ジ・エンドだった。おぞましい悲鳴を上げてF2は血を噴出させた。
心臓を貫いたらしく、びくびくと微かに動いてはいるが誰が見ても絶命するまでには時間の問題だった。
それでも桐山はドッチボールほどの石を見つけると、F2の頭部に降り下し息の根を止めた。
F2が完全に動かなくなったのを見届けると、桐山は再び慎重に辺りに気を配りながら歩き出した。
そして数分後には強力な武器を手にすることに成功していた。
「瞬」
二階の廊下の端で通話していた瞬は、良恵の姿を見るなり携帯電話を懐にしまった。
「誰と話をしていたの?」
「おまえが知る必要はない」
「……そう」
良恵は、それ以上は何も訊ねなかった。
瞬の性格上、これ以上答えが返って来ない事を知っていたからだ。
「おまえは部屋に戻れ。内から鍵をかけて、しばらく出てくるな」
「……何を言うのよ」
「あいつらが勝手に部屋に入ってきたらどうする?」
「かまわないわよ。身内じゃない、できたら色々と話もしたいわ」
瞬はドン!と音がするほど壁を拳で叩いた。
「必要ない……!」
「……そう」
瞬はあくまでも要達との接触を禁止していた。
まるで良恵と彼等の間に意図的に溝を作ろうとしているのではないかと思えるほどだ。
しかし、良恵は、それ以上に何か理由があるような気がしてならなかった。
「部屋に入ってろ」
「わかったわよ」
良恵はとりあえず素直に指示に従い自分に宛がわれた部屋に戻った。
鍵はかけなかった。そこまでする義務はないという判断だ。
耳をすましたが下の階からは全く何も聞こえない。
「……私に聞かれたら困ることでもあるのかしら?」
自分と要達との接触禁止は、それが理由では?
そして、その内容とは自分が知ったら猛反対確実なものではないのか?
「瞬……あなたは何をしようとしているのよ」
「総統一族が一か所に集結している?」
「ああ、そうだ」
「宇佐美はいないんだろう?」
「国のトップにたつ人間も俺達の敵だ」
良恵の考えは当たっていた。瞬は要達と恐ろしい密談をしていたのだ。
「本当に、そこに連中がいるのか?」
「ああ、間違いない。信用できる情報だ」
「おまえに、そんな情報網があるなんて驚きだね。おまえは国に追われている身なんだろう?
どうして政府の一部しか知らない情報まで入手できるのか、不思議だな」
「余計な事は考えるな要。俺が欲しい答えは一つ」
「やるのか?やらないのか?」
彼等の間で結論は早々にでた。
「決まりだな。総統を討つ、それが俺達の復讐の第一幕だ」
良恵が知ったら半狂乱になって止めただろう。だからこそ彼女に知られてはならない。
「怜央は使えないぞ」
要は前もって念を押しておいた。
「あれには期待していない。やるのは俺達4人だ、それで十分だ」
「あいつを1人で留守番させるのか?良恵はどうするんだ?」
要は肝心な事を質問してきた。
「あの二人は外界と連絡が取れない場所にしばらくいてもらう」
「納得できないな」
要は不満そうにソファの背にふんぞり返った。
「俺達には近づくなと言っておきながら怜央だけはいいのか?」
「あいつは良恵に近づかない。おまえ達と違って安心だ」
「信用がないんだな。俺は、おまえのはとこだよ」
瞬はじろっと上目づかいに要を睨みつけた。
「だから信用できない。俺の身内は良恵以外まともじゃない」
【B組:残り43人】
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