「F3でさえ相手にならないとはな」

桐山の鮮烈な戦闘能力を見せつけられた面々は驚きを隠せなかった。
それは軍が誇る最強の存在である特選兵士ですら例外ではない。
特選兵士以外で、そんなマネができるのは軍では次期特選兵士候補くらいだ。
(F5もだが、彼らの存在は一部の人間しか知らないため除外)
晶はとんでもない考えすら抱いていた。


(俺達は奴らの中にKー11の関係者がいると推測していた。
だが、あいつこそがKー11のメンバーじゃないのか?)




鎮魂歌二章―13―




「食料に水、寝袋、救急箱、ロープ、サバイバルナイフ、磁石、か」

幸枝達はアウトドア用品をゲットしていた。
本当は武器を最優先に欲しかったが、たまたま現在地と目と鼻の先にアウトドア用品支給場所があったのだ。
時間と距離を考慮して先にアウトドア用品を入所してから武器支給場所に向かう計画をたてた。
考えたのは幸枝だ。クラスの中でも信頼のあつい委員長。
そして、このグループは国信を除き、全員が幸枝に近いメンバーで構成されている。
ゆえに常日頃からリーダーとして信頼されている幸枝の計画に誰もが賛成したというわけだ。
その判断が、このグループの命運を延ばしたともいえる。
もしも武器に目が眩んで真っ先に武器支給場所に辿り着いていたら、間違いなくFシリーズに惨殺されていただろう。


「次は武器よね?」
そう言ったのは、はるかだった。幸枝にとって、最も頼りになる相棒だ。
「急いだ方がいいわよ。さっさと行きましょう」
急かしたのは聡美だった。
普段は冷静だが、こんな状況に内心追いつめられているのか、少しピリピリしている。
「そうだね。あ、典子さん荷物持とうか?松井さんや藤吉さんのも」
国信は唯一の男子ということで女子を守らなければならないという使命感に燃えていた。
恋心を抱いている典子には特にだ。
知里と文世は控えめで大人しい性格だけあって震えている。


正直言って国信自身怖かった。
特別優秀な能力があるわけではない、精神的に優れているわけでもない。
もしも、あの謎の猛獣が今姿を現したら自分など戦うどころか逃げる事すらできないだろう。

(はっきり言って俺なんかよりも、委員長や谷沢さんの方が身体能力は上だよ。
俺はとてもじゃないけどリーダーなんか務まらないよ。 委員長に頼るしかない。
俺は委員長の役に立つ事に専念するんだ。 少なくても頼りになる男子と合流できるまでは)

国信は利発というわけではなかったが愚かでもなかった。
自分の能力を見極め、出来るべき仕事をやり遂げようという向上心はあった。
何よりも他人を思いやる優しい心があった。
いざとなったら自分が囮になってでも典子達を守るのだ。




幸枝は地図と睨めっこしながら、武器を求めて先頭を歩いていた。
一方、国信はしんがりだ。
背中に目がない以上、しんがりは一番危険。
だからこそ国信は自然に、その役目を買ってでた。 今のところは変わったところはない。
時々、振り返り後ろを確認するも、猛獣どころか小動物すら姿を見せない。
国信は、その事にほっとしてはいるものの、嵐の前の静けさのような気もして恐ろしくもあった。


「もうすぐよ」
幸枝の声が弾んでいる。武器さえ手に入れば安全度がぐっとあがるのだ。
国信も自然と笑顔になった。
「あ、見てよ。あれ!」
国信は懐中電灯の光の先に箱を発見した。
幸枝がダッシュしている。はるかも、それに続いた。
「これが武器ね。良かった、これさえあれば」
幸枝はすぐに箱を開けようとした。その時、とんでもない事が起きた。


「危ない委員長!!」


暗闇の中、何か奇妙な物が飛んでいたのだ。 国信は反射的に懐中電灯を投げていた。
それにひるんだのか、幸枝を襲おうとした謎の物体はいったん動きを止めた。
国信達はその謎の生物をはっきり見た。そして全員が驚愕した。
知里に至っては絶叫までしている。

「な、何だよ。これ!!」

どんな動物図鑑でも見たことがない不気味な生物だった。














「畜生、どうなってるんだ!」

三村は悔しそうに地面を殴りつけた。
あの不気味な生物達ではない。シルエットから人間であることはわかった。
問題は、なぜ美恵をさらったかだ。

「ふざけないでよ三村君、あなたがついてて、むざむざ美恵を拉致されるなんて!」
「そうよ、そうよ!あなたの事は愛してるけど、厳しく追及させてもらうわよ!」

光子と月岡は盛大に三村を責めた。三村は言い訳はしなかった。


「おい、何で俺を責めないんだよ。三村だけの責任じゃないぞ!」
「何いってるのよ。こういう場合は一番強い奴が責任を負うに決まってるじゃない。
元々、七原君には大して期待してなかったわよ」
「……相馬、おまえって失礼な人間だよな」




「ああ!桐山君に何て言えばいいのよ!」

月岡は頭を抱えた。桐山は15分で戻ると言っていた。
美恵を正体不明の連中にさらわれたなんて、とてもじゃないが言えない。

「三村君、あなた命が惜しかったら逃げた方がいいわよ」

月岡は嫌味とも警告ともとれる不吉な台詞を吐いた。


「……命なんか惜しいかよ。鈴原がさらわれたのは確かに俺の責任だ。
俺の手で救いだしてやる。おまえ達とは別行動だ」

三村は慎重かつできるかぎりのスピードで走り出した。。
懐中電灯で足跡を確認しながら、美恵をさらった謎の連中の追跡を開始したのだ。














「んんっ」
美恵は口を押さえられていた為、声も出せなかった。

(この人達は何を考えているの。どうして私を!?)

しばらくすると彼らは停止した。そして美恵をゆっくりと降ろす。
しかし逃げる事などできなかった。しっかりと手首をつかまれていたからだ。
恐怖を感じながらも、美恵は勇気を出して言った。


「あなたは総統杯の会場にいた人でしょう?」


強引なナンパから助けてくれた妙なひとだ。 美恵は彼の顔を覚えていた。
度が過ぎるほどの潔癖症の持ち主だった。


「話は後だよ。さあ行こう、まずは君をここから出す」


正体もわからなければ目的も知らない。
だが、取りあえずは自分に危害を加える事はないらしい事だけはわかった。




「私を出すってどういう事?私をどうするつもりなの?」
「安全な場所に匿う。全ては君の命を守るためだ」
「あなた達は何者なの?」
「Kー11。それが僕達の組織の名前さ。 僕の個人名は比企直弥。
何だったら直弥って呼んでいいよ」


「Kー11!?」


何度も聞いたその名前。草薙潤も体を張って自分を守ってくれていた。
本当に彼らがKー11の組織員ならば、自分を守るという言葉は信用できると美恵は思った。

「本当に私達を守ってくれるの?」
「ああ、そうさ。だから僕達の指示に従ってくれるよね?」

それはありがたい話ではあったが、美恵は素直に喜べなかった。
何故なら、彼らが先ほどした行為に疑問があったからだ。
自分を守るということは味方と考えていい。
しかし彼らは美恵の仲間である三村達に攻撃を仕掛けるという理不尽なマネをした。
それが、どうしても解せなかったのだ。


「だったら、どうして私を拉致するような事をしたの?
なぜ、きちんと事情を話して皆で脱出しようとしなかったの?」
「君は誤解しているよ」
直弥の口調は冷淡だった。
「君の仲間とは、なるべく関わりは持ちたくからさ」
「どういう事なの?私達を助けてくれるんでしょう?」
「それが誤解なのさ」
美恵はさらに問いかけようとしたが、直弥は「静かに」と指示を出してきた。


「どうしたの?」
「何かきたよ」
その何かとは例の化け物である可能性もある。
美恵は反射的に硬直したが、この二人は全く動じてない。
「君は安心していい。伊吹、君の出番だよ。 わかってると思うけど命をかけろよ。
大事なのは彼女なんだ、君の命なんかじゃない」
「わ、わかってる」














「日下、しっかりしろ。日下!」

友美子は、ゆっくりと目を開いた。

「良かった。心配したんだぞ」
「……杉村君?」


……あたし、どうしたんだろう。何をしてたんだろう?


頭がぼんやりしてはっきりしない。

「大丈夫なの友美子?」

今度は貴子が身を屈め、心配そうに顔を覗き込んできた。
友美子は頭の中を整理しようと努めたが、まだ靄がかかったような状態だ。


「雪子はどうしたのよ。一緒だったんでしょう?」


貴子から雪子の安否を尋ねられた途端、友美子はハッとして立ち上がった。

「そうだわ、雪子の元に戻らないと!」

大切な事を思い出した。友美子は「こっちよ!」と走り出した。


(雪子、無事でいて!)


大丈夫、大丈夫よ。あの子は隠れているんだもの。
あたしが駆けつければ、きっと元気な姿を現してくれるわ。




友美子は祈るような気持ちで走った。 もうすぐだ。もうすぐ雪子の無事な姿が見れる。
「雪子、あたしよ。ごめんね、遅くなって。怖かったでしょう!?」
友美子は雪子が隠れているはずの大木の陰に回った。

「雪子?」

いない。いるはずの雪子がいなかったのだ。

「え……嘘、だって」
「日下、本当にここで間違いないのか?」

杉村が声をかけるも今の友美子には聞こえない。
「ね、ねえ、これって」
泉が地面を指さしている。そこに視線を移した友美子はぎょっとなった。
足跡がある。それは人間のものとは明らかに違うものだった。


「靴の跡もあるわ。これは雪子のものね」
貴子が発見した靴跡に友美子は飛びついた。
小柄なサイズだ。雪子のものに間違いないだろう。
「あ、あたしのせいだ」
友美子は泣きたくなった。雪子を助けたい一心だったとはいえ、一人にさせてしまったからだ。


「……どうしよう。きっと襲われたんだ」
恐ろしい想像に友美子は愕然となって動けなかった。
「大丈夫か日下。死体がないってことは北野は、まだ生きてる。皆で捜そう」
杉村が励ましてくれたが、友美子は頭が混乱して返事もできなかった。
「友美子、ぼやっとしてる暇はないわよ。さあ」
貴子が肩を掴み激しく揺さぶってきた。ようやく友美子はハッとした。


「捜すったってどこを?もう殺されてるかも……!
だって、だって雪子は……あの子は足だって速い方じゃないし」
「く、日下……だから、それは」
杉村を困らせているのはわかる。でも、言葉が止まらない。
「あんな恐ろしい化け物につかまったら雪子なんか一分ももたないわよ!
きっと、きっと今頃……あたしのせいだ。あたしが、あの時、雪子を一人にしたから」


「いい加減にしてよ!」


おろおろしている杉村を押し退けて貴子が強い口調で迫ってきた。
「死体がない以上生きてる可能性はあるわ。 でも、あんたがこんな所で泣いていたら可能性は無くなるのよ」
その言葉に友美子は正気を取り戻した。
そうだ。今頃、雪子は一人で必死に頑張っている。 それなのに落ち込んでいる暇はない。
「雪子を捜さないと」
友美子は立ち上がると足跡を追った。


待っててね雪子。あたし達が捜しだすまで絶対に無事でいて!














「きゃああ!!」
知里が叫けびながら転びそうなフォームで走っていた。
文世は反射的に後ずさりしようとして躓き、その場に尻餅をついている。


「何だよ、何だよ、あいつ!」


国信自身も叫んでいた。それは疑問文だった。
何だよ、あいつ。まさに、それ以外に言葉が見つからない。
こんな生き物は知らない。未知の生物だが本能的に恐怖を感じる。
それは生理的悪寒の域まで達していた。


「こないで!」
幸枝がサバイバル用品を積めた袋を投げつけていた。
バレーボールで鍛えた命中率は、この状況でも発揮された。
問題は、その不気味な生物が全く怯まなかった事だ。
見るからに堅そうな甲羅を持っているし、多分ダメージはほとんど負っていないのだろう。
それどころか反撃された事で怒っているようだ。
再び幸枝に向かって走ってくる。ムカデのようにたくさんある足が不気味だった。


「委員長、危ない。逃げるんだ!」


国信は幸枝の元に駆け寄ると、肩から下げていたディバッグを必死に振り回した。
ところが、そんな必死の威嚇など、まるで効果なし。
謎の生物は室内犬ほどの大きさにも関わらず、国信の背丈以上のジャンプを軽々と披露した。
ビクッとなって思わず硬直してしまう。
次の瞬間、胸に飛びかかられ国信はパニックになった。
服の上からも、こいつの爪の感触が生々しく感じる。


「は、離れろ。離れろよ、こいつ!」
火事場の糞力か、何とか引き剥がし投げる事に成功。
勿論、そんな事では奴はビクともしない。
「来るなぁ!」
国信は踵を翻すと全速力で走った。
「皆も逃げろ!」
言うまでもなく全員走っていた。北へ逃げるもの、南へ逃げるもの。
誰もが完全にパニックになっていた。


「あ、典子さん!」
そんな錯乱状況の中で、国信の視線は典子の背中を捉えた。
(典子さんを守らないと!)
国信の想いがかろうじて恐怖にかった。
全力疾走する典子を国信は必死に追いかけた。
そのため、国信は幸枝達とは完全に離れたが、典子とだけははぐれずに済んだのだ。


「待ってよ、典子さん!」
あの化け物はいない。いつの間にか姿を消している。
どうやら他の子を追いかけていったようだ。
国信は複雑な気持ちになった。
助かったのは嬉しいが、それは同時に仲間の誰かの危険を意味している。
「典子さん、もうあいつらはいないぞ!」
典子がやっと止まってくれた。


「ほ、本当に?」
「うん、間違いないよ」
典子はホッとしてたが、すぐに困惑しだした。
幸枝というリーダーを失ったのだ。今からは自分達で判断して行動しなければいけない。
しかし典子は何も思い浮かばないらしくおろおろしている。
荷物を放り出してきたので地図もないようだ。
「大丈夫だよ、典子さん。地図なら俺がもってるよ」
国信はポケットから地図を取り出した。


「とりあえず他の武器支給所に行こう」
本当なら皆を探そうというべきだろうか?国信はちょっと迷っていた。
もしかして典子に冷たい人間と思われたかもしれない。
でも幸枝達がどこに行ったのか見当もつかない以上、無暗に歩くのは最悪な結果を招きそうな気がした。
彼女達の捜索が難しい以上、武器を入手する事が先決に思えたのだ。
それに幸枝達を捜す事を優先させても武器が無ければ同じ目に合い続ける。


「……そうね。そうしましょう」
典子は国信の意見に案外あっさりと賛成してくれた。
仲良しグループの友達達を優先させるかもしれないと思っていた国信はちょっと意外だった。
「武器が無かったら……あの化け物が出たら今度こそ……」
典子はその先の言葉を言わなかった。言えなかったのだろう。

「酷い奴って思うかもしれないけど……あたし、怖い。
今は武器が欲しい。それに、もしかしたら幸枝達も同じ事考えてるかも」
「うん、そうだよ。俺が考え付いたくらいなんだ。
委員長なら、きっとそうする。俺達は俺達にできることしよう。
武器を手に入れたら皆を探すんだ。大丈夫、きっとうまくいくよ」

その言葉に少し安心したのか、典子がちょっとだけ笑ってくれた。
国信は心底ほっとした。


「じゃあ、行こう。俺の後についてきてね」
「うん、ありがとう」
歩きながら国信は言った。
「あの、さ……典子さんは酷くなんかないよ」
「国信君?」
「誰だって怖いし無力なんだ。俺だって同じだよ。だから」
「……ありがとう、国信君」















「な、直弥、声だ。お、女の声」

辿々しい口調で伊吹が言う。女の声、つまり同級生だ!
美恵は思わず立ち上がった。 途端に直弥が肩を押さえしゃがませてきた。

「静かに。声も出さないでよ」
「だってクラスメイトよ。仲間なのよ」
「君の仲間だけじゃないよ。変な音も聞こえてくるんだ」

声の主が出現した。泣きながら絶叫している。
雪子だ!
美恵は呼ぼうとしたが直弥が口を押さえたので声が出なかった。




「た、助けて!誰か、助けてぇ!!」




走っていたのは雪子だけではなかった。その後ろに数匹のF1が見える。
おまけに雪子は武器も持ってない。
追いつかれたら勝ち目はない。まさに時間の問題という状況だ。


(雪子が殺されるわ!)


助けないと!ところが直弥は美恵の邪魔をした。
口を押さえただけではなく、無理矢理茂みの中に押し込めたのだ。
仲間が殺されるかもしれないという時に、助ける事すらできない。


(どうして?私の事は守ってくれるって言ったのに!)


「な、直弥、だ、大丈夫だ。あいつら、俺達に、気づいてない」
伊吹の声は最期の語尾が、はっきり聞こえないほど細かった。
「いちいち言うな。見ればわかる」
「ご、ごめん」
「幸運だった。戦闘する事なくやり過ごせる」
そのやり取りに美恵は化け物に襲われた時以上の恐怖を感じた。


(ま、まさか、本当に雪子を見殺しにするつもりなの!?)


目の前でか弱い女の子が襲われているのだ。
例え赤の他人でも人間なら助けたいと思うはずだ。
まして彼らは戦闘の素人ではない。
政府と戦っているほどの人間なら、雪子を助ける事くらい簡単なはずではないか。


(助けて、お願いだから雪子を助けてあげて!)


美恵はもがいたが直弥の腕力の前では、まるで無力だった。
雪子が美恵のほんの数メートル前を通過していった。
こんなに、すぐ前だというのに声をかける事すらできなかった。
その数秒後に悲しい悲鳴が聞こえてきた。




「いやああ、助けて、誰かっ、誰か助けてー!!」




(雪子!!)

殺される。雪子が殺されてしまう!


「移動しよう。悲鳴が大声すぎる。他のFまで来たら厄介だ」
直弥の口調はあまりにも冷淡だった。
「な、直弥、まだ」
「まだ終わってないのか……人数が増えたな」




「あれは北野だ!」




それは男の声だった。あの声は良樹だ、間違いない。
「川田、援護頼む!」
銃声がけたたましく聞こえた。
「よし行け雨宮!」
今度は川田の声だ。その直後に聞こえたのは、不気味な断末魔。
「北野、もう大丈夫だぞ。くそっ、この化け物め!」
「軽い怪我だけだ。不幸中の幸いだったな」
次に聞こえてきたのは安心したのか、泣きじゃくる雪子の声だった。


良かった。雨宮君達が雪子を助けてくれたみたい。
美恵はホッとした。でも良樹達の声はすぐに聞こえなくなった。
「やっと行ったね」
直弥がようやく美恵から手を離した。
自由の身になった美恵は疑心暗鬼に満ちた目で直弥達を見つめた。




「何?」
「どうして雪子を助けてくれなかったの? もう少しで殺されるところだったのに。どうして?」
「言ったよね。僕達は君を助けに来たって。 他の人間は助けないし、姿も極力見られたくない。
動きを最小限に止めるためなんだ。
君は知らないみたいだけど、ワールド中に隠しカメラが仕掛けられてる。
僕達の姿を撮られたら特選兵士が襲ってくる」


「Fなら何とかなるけど、特選兵士には勝てない。これが理由だよ」


「そんな危険を冒してまで私は助けてくれるのでしょう?」
「ああ、そうだよ」
「その気持ちは他の人には……少しも抱いてないの?」
「そうだよ。僕達が興味あるのは君を含めて三人だけなんだ。
他の人間は関係ないからどうなってもいいよ」




美恵は愕然となって、視線を伊吹を移した。 伊吹も直弥と同じ考えなのだろうか?
目の前でか弱い女の子が襲われてても何も感じないのだろうか?
伊吹は指の爪を噛み、何かぶつぶつ言っている。

「あなたも同じなの?」

美恵は小さな声を振り絞るように尋ねた。

「……い、今、何か言ったか?」
「彼女は僕達が彼女以外の人間を助けないのが気に食わないらしい。言ってみなよ、おまえの気持ち」
「な、何で助ける?……リ、リーダーは、ほ、他の人間を、た、助けろなんて言わなかった」


美恵は怖くなった。彼らは自分を守ると言ってくれている。
だが決して正義の味方でも、白馬の騎士でもない。
それを、この短い時間で思い知らされたのだ。




【B組:残り41人】




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