だが確実に敵はいる。いくつもの気配が近づいてきているのだ。
やがて風と共におぞましい怪物が、ついにその姿を現した。
F1の群れ。だが、ここに向かってくる気配はまだある。
「十分以内に終わらせる」
桐山は銃を構えた。同時にF1達が一斉に飛びかかってきた。
激しい銃声が連続して暗闇の中に轟いた。
鎮魂歌二章―12―
良樹達は必死に走ったが、泉の姿はまだ見えない。
泉は女の子だ。自分達の足なら、すぐに追いつくと良樹は考えていただけに焦りだした。
(金井が逃げたのはこっちの方角じゃないのかよ……畜生!)
暗闇で森の中、敵の存在を考えると大声を出すこともできない。
つまり泉を探し出す確実は手段はないのだ。
「川田、どうする?」
良樹は川田に意見を求めた。情けないが自分ではいい方法が浮かばない。
だから川田に頼ったのだ。だが川田は申し訳なさそうに頭を左右にふった。
「悪いがお手上げだ」
「……そうか」
良樹は、「そうだよな」と肩を落とした。
沼井は酷く焦って「おい、何とかならないのかよ!」と声を荒げている。
「沼井、気持ちはわかるが小声で頼む」
注意するも沼井は「そんな事いってる場合じゃねえだろ!」と反抗的な態度を取った。
川田は月明かりの下に地図を取り出した。
「金井を探す確実な手段はない。だが、これを見ろ」
川田は自分達の現在位置を指差した。
「金井が逃げたのは北の方角だ、それは間違いない。問題は北西か真っ直ぐ北か、それとも北東かだ。
しかし北東には川がある。ここから先はいけないだろう」
「うん、そうだな。もし金井がそっちに逃げていたら川に阻まれて、それ以上は行けない」
「そうだ。だから川の方にまず行ってみないか?」
もしも泉が逆方向に逃げていたら、おそらく見つけ出す可能性はかなり低くなる。
しかし今は賭けるしかなかった。
「よし行こう。今は時間との勝負だ、何が何でも金井を見つけ出そう!」
良樹は決意を新たにし走り出した。
「待て雨宮!」
その途端に川田が制止をかけた。
「川田?」
「……何か妙な音がしないか?」
「雪子、寒いの?」
小刻みに震える雪子を心配して友美子が顔を覗き込んでくる。
「だ、大丈夫だよ友美ちゃん」
「本当に?」
友美子は自分の上着を脱ごうとした。
「本当に大丈夫。寒くはないから……ただ怖くて」
震えは恐怖ゆえだ。雪子は恐怖心を隠せなかった。
(……怖い。本当に怖いよ……あたし達……死んじゃうのかな?)
杉村と貴子は姿を現さない。
自分達の足取りを掴めないのか。それとも最悪の場合……。
雪子は頭をぶんぶんと左右にふって不吉な考えを否定した。
(大丈夫だよ。杉村君も千草さんも、すごく強いもの)
でも、相手は人間じゃない……それが、どうしても最悪の結末を拭い去る事ができなかった。
「友美ちゃん、一つだけ約束して」
「何?」
「友美ちゃんは、あたしと違って脚早いでしょ。もしもの時は、あたしに構わずに逃げてね」
「馬鹿、何て事を言うのよ!」
友美子の口調がかなりきつくなった。本気で怒っている証拠だ。
「だって、あたしが足手まといになって友美ちゃんまで死ぬのはいやだもん。
だったら、せめて友美ちゃんだけでも助かってほしいから……」
「そんな最悪なこと考えないで。情けないこと言わないでちょうだい」
友美子は必死に叱ってくれた。しかし最後の語尾は小さい。
「……お願いだから、そんな事いわないでよ」
友美子の声が震えている。泣きそうなのを堪えている口調だ。
(あたしのせいだ……あたしが弱いから。だから友美ちゃんを困らせているんだ)
杉村と貴子みたいにお互いを信頼して支え合える関係ならよかったのに。
自分は友美子に頼ってばかりだ。
(……ごめんね友美ちゃん)
友美子の助けになることはできなくても、せめて足手まといにはだけはならないようにしないと。
雪子は必死の思いで健気な決意をした。
ところが、その思いをあざ笑うかのように背後からカサっと妙な音がした。
雪子の心臓が大きくドクンとはねた。全身が凍りつき瞬きすら出来ない。
そんな雪子の気持ちを察してくれたのか友美子がぎゅっと抱きしめてくれた。
(友美ちゃん……そうだ、あたしは友美ちゃんの足手まといにだけはならないようにしないと)
雪子は震える拳を握りしめた。
(逃げちゃだめよ、逃げちゃ……)
それに敵だって決まったわけじゃない。
風の音かもしれないし、それにクラスメイトの可能性だってある。
だが、妙な音は連続して続いた。どう考えても風の音じゃないし、まして人間の足音ではない。
(間違いない。あの変な生物だ……どうしよう、このままじゃ見つかっちゃう)
友美子が手を握ってきた。そして小声で囁いてくる。
「雪子、よく聞いて」
「ゆ、友美ちゃん?」
「あたしがまず逃げるわ。きっと、あいつはあたしを追いかけてくると思うから。
雪子は様子を見て他に敵がこなかったら、ここで待ってて。
でも……もしもの時は、その時は自分で判断して逃げるのよ」
いけない。友美子は自身を囮にして自分を守ろうとしている。
「駄目だよ友美ちゃん、そんなの」
「大丈夫よ。知ってるでしょ、あたしが足が速い事」
確かにソフトボール部のエースの友美子は俊足だ。
陸上部エースの貴子には及ばないまでも、かなり速い。
「でもっ、でも友美ちゃん……!」
不気味な音はさらに近づいてくる。もう相談する時間すらない。
友美子は小石を握りしめ立ち上がった。
そして走りながら音がする方向に小石を思いっきり投げた。
「あたしはこっちよ!」
不気味な音が友美子を追走。雪子は一人ぼっちになった。
「……み、光子?」
「そうだ。相馬光子はどこにいる?」
比呂乃は混乱した。なぜ光子の名前が出てくる。
自分を助けてくれたというが、そもそも、こいつは何者なんだ?
何が何だかわからない。
命を助けてもらったと言っても信用なんてできるわけない。
「早く答えろ」
男の口調がきつくなった。それだけで比呂乃は悲鳴をあげそうになった。
とにかく何か答えないと!
「し、知らないよ、光子なんて!」
比呂乃は泣きそうになった。
「本当に知らないのか?」
男はさらに詰問してくる。比呂乃は今度は狂ったように叫んだ。
「知らないって言ってるだろお!こんな時に他人の事なんか構ってられないよ!!」
涙目になりながら言ってやった。
嘘は言ってない、光子なんか知るものか、自分の事で精一杯なのだ。
その瞬間、背後から気配が消えた。
おそるおそる振り向くと、そこには猫の子一匹いない。
「……消えた?」
思わずきょろきょろと辺りを見渡したが影も形もない。
まさか幻だったのだろうか?
恐怖のあまり、自分は幻聴が聞こえたのだろうか?
比呂乃は呆然としばらくその場に立ち尽くしていた。
各省や各機関の重鎮長官が着飾って次々に来訪。そして恭しく総統に挨拶をしている。
科学省長官・宇佐美もヘリコプターでやって来た。
その隣には気の弱そうな少女がいた。
「結衣、おまえはこういう場所に来るのは初めての体験だったな」
宇佐美は慣れているが、結衣は完全に気後れしていた。
「そう硬くなるな。おまえはいずれ何度でもこのような場に出ることになるのだ。
今のうちに慣れておいた方がいい。総統陛下にもお目通りさせてやろう」
「へ、陛下……に?」
結衣はびくっと反応した。
「恐れ多くも総統陛下に拝謁できるのだぞ!これは名誉な事だ」
宇佐美は結衣は喜んでいると思っているようだ。しかし結衣の気持ちは正反対だった。
身分の高いもの、社会的地位をもっているもの、そんな中に突然放り込まれて嬉しいはずがない。
それが宇佐美にはわからない。結衣はひたすら困惑していた。
「さあ、おいで。せいぜい立派な挨拶をして総統陛下に気に入られるのだぞ」
宇佐美が結衣を連れて大広間に入場すると、一斉に好奇の視線が結衣を貫いた。
単に一瞥しただけかもしれないのだが、結衣は動物園の檻の中の動物になった気分だった。
「久しぶりだな宇佐美長官」
「これはこれは麗しの殿下」
いつも科学省内では威張り散らしている宇佐美が頭を低くしている。
殿下という敬称からして、相手は総統一族だとはわかった。
「そちらの少女は?」
「私が面倒を見ている者です。将来的には立派な軍人にしようと思っています」
「そんな少女を軍人に?」
相手は訝しげな表情を見せた。結衣はごくごく普通の女の子、当然の反応だろう。
「今はまだ未熟ですが、これには立派な軍人の血が流れおりますゆえ」
会ったこともない親の事を言われ、結衣は胃に穴が空きそうな気分になった。
「そうか。国家の為にも立派な軍人に育ててやれ。
それよりも長官、いいところに来たものだな」
「いいところ……と、言いますと?」
「好カードの戦闘が始まる。すでに賭けは始まっているぞ」
大広間の中央に出現した巨大モニターには桐山が映し出されていた。
連続射撃だ。一秒たりとも休む暇はない。
桐山は駆け抜けながら正確に照準を合わせトリガーを引いた。
その都度、乾いた音が暗闇を切り裂き、その直後にF1の体が柘榴と化した。
F1の大軍はそれでも桐山を強襲する。数に物を言わせて敵を倒そうというのだろう。
普通の人間ならば、そのプレッシャーだけで潰れる。
ところが桐山は全く表情を崩さない。
それどころか射撃も正確かつ冷静、撃つたびに一髪でF1は死体と化す。
だが銃は弾がなければ役に立たない。
ついに弾切れになった。カチっと金属がぶつかり合うだけの音がする。
しかし桐山は相変わらず一切焦らない。
素早くF1の攻撃を華麗にかわしながら銃に弾を込める。
セットと同時に再びF1の死体が増産された。
知能があるのかわからない生物でも、さすがに本能で勝てないと悟ったのか残ったF1は逃げて行った。
桐山の完全勝利。だが桐山は戦闘態勢を解かなかった。
その様子は隠しカメラを通してワールドの見張りに立っている特選兵士達にも鑑賞された。
「すげえな……特選兵士になれるぜ、こいつ」
攻介は思わず口笛を吹いた。こんな男が存在しているなんて思ってもいなかった。
「けど、次に襲ってくる敵は半端じゃないぜ」
攻介はまるでアクション映画を鑑賞するかのような気分で携帯モニターに見入った。
暗闇の中、不気味な影が蠢いている。
その気配を桐山も感じているのか、じっと暗闇を見つめていた。
(……いる)
姿は見えない。しかし確実にいる。気配を感じる。
桐山は神経を集中させた。今までの敵とは明らかに違う、あまりのおぞましさに気分さえ悪くなった。
ちらっと腕時計に視線を送る。美恵との約束の時間が迫ってきている。
(急がなければいけない。襲ってこないのなら――)
桐山は振り向かずに右腕をすっと背後に伸ばした。
「こちらから攻撃するまでだ」
友美子は足には自信があった。
四番バッターで、ここ一番という時には、滑り込みセーフで何度もホームランを成立させた実績もある。
だが整備された運動場ならともかく、暗闇の森の中は友美子の脚力は半減する。
対して不気味な敵は森の中での動きに慣れている。
障害物競走でもしているかのように、木々や茂みや石をものともせず軽々と動いている。
(こ、殺される!)
友美子は己の死を予感して青ざめた。
わかっていた。逃げ切る事は無理だと。
だが戦闘で勝利を収めるのはさらに不可能。気丈な友美子だったが、ついに心が折れた。
その心の弱さが脚部に伝わったのか、友美子は足をくじき、その場に盛大に転倒した。
「……痛っ」
膝小僧に鋭い痛みを感じる。おまけに囲まれてしまった。
(も、もう……お終いだ……!)
泣くこともわめくことも出来ない。友美子は、ただ恐怖におびえ諤諤と震える事しか出来ない。
立ち上がる事すらもできなかった。ついに命運がつきたと諦めても、恐怖だけは去ってくれない。
そしてついに暗闇の中で蠢く生物達が一斉に飛びかかってきた。
「きゃああー!」
友美子は頭を両手で抱え、地面にうずくまった。
おぞましい絶叫が耳に突き刺さるように聞こえた。
友美子の頭は完全にパニックになった。もう何も考えられない。
しばらくして絶叫は止んだ。しかし友美子は今だ正気には戻れなかった。
だが恐る恐る顔を上げると目の前に謎の生物の死体が転がっている。
「……え?」
友美子は思わずがばっと上半身を起こすと、しりもちをついた体勢で後ずさりしていた。
「な、何……!な、何なの、こいつ……!?」
その時、首筋に衝撃が走った。
「……あ」
友美子の意識はそこで途切れた。
そのまま再び地面に倒れた事すらも本人は知らない。
「ちーがう、違う。全然、違うよ」
気を失っている友美子の頭を持ち上げ、その容姿を確認するなり真澄は頭を左右にふった。
「直弥、彼女じゃなかったよ。なかなか予定通りにいかないものだねえ……痛っ!」
真澄の頭部に鉄拳が炸裂。
「うるさい。声は小さく、おまえはでかすぎるんだよ」
真澄は「野蛮だよ直弥!」と抗議して走り去っていった。
「……い、いいのか?」
伊吹が恐る恐る直弥に問うた。
「知らないよ。あいつなんかどうでもいい」
直弥はじっと友美子を見つめ不満そうに夜空を見上げた。
(彼女はどこにいるんだ?早く見つけ出して保護しなければ最悪の場合、僕達は全滅する)
「行こう。隠しカメラには絶対に映るんじゃないよ。
もしミスして映ったりしたら殺すからね。冗談じゃないよ、本気だから」
「……わ、わかってる」
「じゃあ行くよ。それから、僕の半径1メートル以内に入らないでよ」
「……わ、わかった」
直弥と伊吹は友美子をそのままの状態にして、さっさと立ち去った。
近くに隠しカメラはなかったので、彼らの行動はおろか存在すらも誰も気づかなかった。
銃声と共に火花が散った。そして樹の幹に生々しい銃痕がついた。
いや正確には幹だけではない。血が飛び散ったのだ、何と青い血だ。
おぞましい叫び声が暗闇に轟く。桐山はサバイバルナイフを手に凄まじいスピードで襲いかかった。
樹の幹だと思われたが違う。奴らは保護色を使い、己自身を樹の一部と同化していたのだ。
最初の銃撃で十分すぎるほどダメージを負わせたと桐山は判断していた。
銃弾には限りがある。F4がお出ましになる前に無駄遣いはできない。
桐山は肉弾戦で息の根を止めるつもりなのだ。
だが相手は今まで戦ってきた相手とは違った。
何とダメージを負った体で桐山に向かってきたのだ。
人間とほぼ同じ大きさ。だが、その緑色の肉体は明らかに人間とは違う。
F3は爬虫類と人間の遺伝子から生まれた脅威のキマイラ。
人間と同じ動きができる。爬虫類の身体能力で動くのだ。
桐山目掛けて飛んできた。桐山はいったん停止してナイフを構えた。
(急所は……そこか)
桐山も飛んだ。目標はF3の左胸、心臓だ!
だがF3の動きが空中で見事に制止した。まるで映像を一時停止したみたいに。
空中で木の枝をつかんでいる。そのまま枝の上に移動したではないか。
桐山は僅かに目つきを険しくした。
だが不愉快な気分にひたっている暇な無い。
気配がもう一つ。斜め背後からだ。
反射的に振り向いたが何もいない。いや保護色のせいで見えないのだろう。
暗闇の中に溶け込んだ木々が草が僅かに揺らめいたように見えた。
(動いた。見える)
桐山はナイフを投げた。絶叫と共に保護色が解け、奴が姿を現した。
そこに仲間の加勢は無駄にしないとばかりに、枝の上から、さっきの奴が飛び掛かってきた。
月明かりに、奴の爪が禍々しいまでに鈍い光を放っている。
桐山は素早く真横に飛んでいた。だが完全に避けきれなかった。
服に4本の切れ目がはいった。
際どかった、避けるのが遅かったら桐山の美しい肉体に4本の赤い筋が出来ていただろう。
桐山は間髪いれずに全身を素早く回転させた。
その遠心力を込めた蹴りがF3の首に完全に入った。
ゴキッと確かに鈍い音がした。同時にF3ががくっとその場に崩れる。
今度は背後から、もう一匹のF3が流血しながらも桐山に襲いかかってくる。
桐山は背後にとんぼをきっていた。空中でF3の頭部を掴み、そのまま180度回転を加えた。
再び、あのゴキッという鈍い音が聞こえた。
桐山は着地。その背後には首がねじ曲がり、頭部の向きが前後逆になっているF3の姿があった。
F3はゆっくりと地面に倒れた。2匹とも完全に動かない。
「急所は普通の動物とあまり変わらない。貴重な情報だ」
もう敵は一匹もいない。桐山は元来た道を全力疾走で戻りだした。
そして彼の一連の戦闘シーンはモニターを通し、多くの人間に脅威を以て鑑賞されていたのだった――。
「待って月岡君!」
「駄目よ、美恵ちゃん!桐山君の思いを無にしないためにも、アタシ達は全力で逃げるの!」
「違うの月岡君、そうじゃない!」
月岡はようやく停止した。自動的に全員が足を止めた。
滝口と豊は限界だったらしく膝に両手をついて、ぜえぜえと荒い呼吸を繰り返している。
「どうしたんだ鈴原?」
「何か聞こえてこない?」
全員が耳をすました。
「……聞こえる。確かに前方に何かいるぜ」
三村が「静かに。隠れるんだ」と指示をだした。
全員がめいめい木や茂みの陰に身を隠し、じっと様子を伺った。
三村はさらにジェスチャーで「銃を構えてろ」と指示してくる。
「……もしも、あの化け物だったら」
美恵は固唾を飲んだ。
「……その時は全面戦争でしょうね」
光子はすでに死闘を予感しているのか、トリガーに指をかけている。
「……動かないみたいだわ。どうしたのかしら?」
確かにいるのに相手は動かない。向うも此方の様子を伺っているのだろうか?
本能で動く猛獣だと思ったけれど、意外にも知能が高いのだろうか?
美恵は、もう一つの可能性を考えた。
「ね、ねえ……もしかして仲間なんじゃないかしら?」
もしかしたらクラスメイトかもしれない。
そして向こうも用心して身を隠しているだけなのかもしれない。
「……そうね。あなたの言うとおりかもしれないわ。
あの野蛮な生物なら、とっくに襲ってきてもおかしくないもの。
でも、だとしたら、どうやって確認したらいいのか……困ったわねえ」
月岡は溜息をついた。確かに難しい問題だ。
相手が敵か味方かわからない以上、迂闊に姿を現すわけにはいかない。
かといって、向こうも同じ考えだろう。
そして自分達は、いつまでもこんな所でじっとしているわけにはいかない。
こうしていいる間にも貴子には危機が迫っているのだ。
(……貴子、桐山君)
貴子も桐山も自分に出来る事を必死にやっている。
(私もいつまでも周囲に頼ってばかりじゃ駄目だわ。私にできることはやらないと……!)
美恵は突然立ち上がった。月岡と光子がぎょっとしている。
「ちょっと美恵!」
「私が出ていくわ。もしも仲間なら相手も出てきてくれるから」
「あの化け物だったらどうするつもりよ!」
「……その時は逃げるつもりだけど、援護射撃をお願いね」
美恵は茂みから出て、ゆっくりと歩き出した。
先方はまだ動かない。此方の姿が見えないのだろうか?
開けた場所にでた。月明かりが眩しい。
今なら姿がはっきりと見えるはずだ。
仲間なら今度こそ姿を見せてくれるはず。しかし全く動きがない。
(敵……なの?)
嫌な予感が大きくなってゆく。しかし敵ならば、どうして襲ってこない?
美恵はさらに歩いたが、恐怖からか速度は遅くなっている。
「……あっ」
木の陰から先方が姿を現した。顔は見えないが、その姿は間違いなく人間。
つまり仲間だ、クラスメイトだ!
体型からして男だろう。誰だかわからないが仲間が増えた。
「よかった……!」
安堵から美恵は思わず語尾を強めた台詞を吐いた。
「私よ、鈴原美恵よ。あなたは誰?他にも仲間がいるのよ。月岡君や光子や、それに……」
その時、とんでもない事が起きた。
相手の男が猛然と走ってきたのだ。その行動は何かおかしかった。
仲間を見つけて喜んで駆け寄るものとは明らかに違う。
猛スピードだったので、あっという間に美恵のそばにきた。
そう、はっきりと顔がわかる位置に来たのだ。
相手の顔を見た瞬間、美恵は一瞬声を失った。
「……あ、あなたは!?」
それは驚愕の声だった。何事かと三村達も一斉に姿を現した。
だが相手の男は突然美恵の口を押えつけ、さらに抱え上げたかと思うと走り出した。
「美恵ちゃん!」
「ふざけるな!おまえ、鈴原をどうするつもりだ!!」
月岡や三村の怒号が聞こえる。しかし男はおかまいなしに全力疾走。
人一人抱えているとは思えないスピードだった。
勿論、三村達は、そんな暴挙を許すまいと追いかけてくる。
特に三村と七原は俊足。すぐに追いつくはずだった。
だが、それを阻むかのように彼らの前に別の男が飛び出した。
そして何かを地面に投げつけた。爆発と共に煙が発生。
三村達が激しくせき込んでいる。催涙筒だったのだ。
その音を最後に美恵は、謎の男達に連れ去らわれてしまった――。
【B組:残り41人】
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