斗真は扉を開くと、親指でくいっと屋内をさし示した。
「中に入れっていうの?」
返事はなく斗真は扉を一回叩いた。
「……わかったわよ。ねえ、あなた少しくらい言いたいことは自分の口で」
今度はどんどんと、やや強い調子で扉は二回叩かれた。
「……わかったわよ」
中に入って電気をつけるとベッドが置かれている。
絨毯にクッション、それに小さいが鏡台もある。
狭いが女の子が過ごすのに最低限のものが揃えてある。
瞬が気を使ってくれたのだろうか?
でもベッドは一つしかない。ベッドどころか寝具すら一式しかないではないか。
「怜央はどこで寝るっていうの?」
斗真は地面を指差した。
「まさか外で?」
斗真はハウスの壁を一回叩いた。
「怜央が可哀想じゃない……いいわ、私が外で寝るから、ベッドはその子に使わせてあげて」
が外に出ようとすると斗真が腕を掴んできた。
力を入れ過ぎだ。少し痛い、は僅かに顔をしかめた。
「おまえは中だ。外から鍵をかける」
「何ですって?」
「怜央は見張りだ。わかったか、馬鹿野郎?」
鎮魂歌二章―10―
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。落ち着いてください大尉!」
「これが落ち着いていられるか。すぐに彼女の居場所を特定しろ!!」
徹は海軍の諜報部に怒鳴り込んでいた。
「俺の携帯にかかってきた電波をすぐに追え、簡単な事だろう!!」
「む、無理ですよ。そ、それに今は自分も任務がありまして……」
「この役立たずめ!」
久しぶりに聞いたの声。元気そうでほっとしたのも束の間だった。
――他に好きな人ができたの。
あれはじゃない。のはずがない!
――やめて要
「……要」
徹はぽつりと、その名を呟いた。
(薫、冬樹、秀明、晃司、戸川、水島、海老原、瞬……この世には、聞くだけでムカつく名前がある。
けれども今は……今はどんな名前よりも腹が立つ、吐き気がするくらいだ!)
徹は殺気を撒き散らしながら廊下を歩いた。
その様子がよほど鬼気迫るものだったのか、海軍の猛者達ですら、そそくさと廊下の隅に引っ込む。
(要……何者なんだ?)
聞いた事がない名前だ。
子供につける名前の上位にはこないが、特殊なほど珍しいものでもない。
探せば、いくらでも該当者はいるだろう。だが、普通の人間のはずがない。
なぜならは、]シリーズの異端児・瞬によって拉致された身だからだ。
つまり『要』という人間は、瞬の身近にいる男。瞬の仲間である可能性が高い。
(あいつといい、あいつの周囲の人間といい。ろくな奴はいないな!)
――は、そんな軽い女じゃない。
――あれは何かの間違いだ。全ては要という謎のろくでなしのせいに決まってるさ!
恋は盲目。徹は微塵もは悪くないと思い込みたかったのだ。
実際、は要の悪気のない悪戯の被害者に過ぎない。
(待てよ)
徹は、そこで重大なことに気付いた。
(……あいつは基本的に他人とつるむことが出来ないへそ曲がり。
それでも単独では復讐を遂げられないことはわかっている。
だからこそ本来天敵であるはずのF5と手を組んでまで事を起こした)
しかし結局、作戦は失敗しF5は散り散りになって今も行方不明だ。
瞬が再び彼らと組むことは考えづらい。新しい仲間が必要なはず。
その仲間……瞬が組むような相手、F5に取って変わる力量が求められるはず。
(そんな人間がそうそう存在してたまるか)
徹は、その数秒後に秀明に電話をしていた。
『なんだ徹?』
「秀明、おまえ要という男を知っているだろう!?」
『要?』
「隠すと為にならないよ。さっさと知っていることを洗いざらい吐きなよ」
『要……物事や機関などの要所や肝心なものとなるもの』
徹は瞬間的に激怒した。携帯電話を真っ二つにしなかったのは奇跡だっただろう。
「もういい。思い出したら即座に俺に知らせなよ!」
『……要、か』
携帯電話の向こうで秀明が呟いていたが、すでに徹の耳には聞こえていなかった。
達は慎重に辺りを見回しながら、それでも焦る気持ちを抑えきれず足早に先を急いでいた。
黒長が絶命間際におしえてくれた情報を無駄にしないために。
一秒でも無駄にすれば、またクラスメイトの遺体を見る羽目になりかねないだろう。
特に沼井は必死の形相だ。
「沼井、足音を立てすぎだ。もう少し静かに歩け」
川田が小声で注意した。
「わかってる。わかってるけどよお、早くしねえと金井が……」
「それでもだ。金井を助ける前に俺達が餌食になる可能性が高くなる。
非情だが今の俺達は他人の事だけ考えていられるほど余裕のある状況じゃないんだ」
沼井は悔しそうに唇を噛んだ。
(……沼井)
には沼井の気持ちがわかるような気がした。
おそらくは貴子のことが気になって仕方ない自分と沼井の表情が似ていたからだろう。
貴子は強い女だし杉村がそばについている。
だが泉は武器も仲間もなく、今まさに怪物に追われている身。
泉の命は風前の灯火。早く発見しなければ黒長の二の舞だ。
何とかしてやりたい、の正義感が彼を大胆にさせた。
「三人一緒だから足音もでかいんだ。俺が先に行ってみるよ」
その申し出に川田は顔をしかめ、沼井は驚愕したのかぽかんと口を開いた。
「この中では俺が一番足が速い。それが最善だと思う」
「勇気は認めるが最善とはいえんぞ。もしも敵と遭遇したらどうするつもりだ?」
「覚悟の上だ」
はすでに決意していた。その視線を川田はまっすぐ見つめてくる。
自分の決意が固いことを川田は悟ってくれたのだろう。半ば諦めの表情すら浮かべていた。
「これでも夏生さんに鍛えられたんだ。大丈夫だって、まかせてくれよ。
女の子を見殺しにしたら後味悪いもんな。だから、やらせてくれ」
は場の雰囲気を明るくしようと笑顔すら見せてやった。
「……おまえさんが桐山と同等の力量の持ち主なら俺も笑って見送ってやったところだが」
その時だった。川田がぎょっとして、「伏せろ!」と言ったのは。
と沼井は、はっとして川田の言葉に従った。
地面に伏せ暗闇を伺う。遠くから風の音が聞こえる以外、静寂そのものだ。
は辺りの様子を伺いながら小声で川田に訊ねた。
「どうしたんだよ川田。敵かと思ったじゃないか」
「何かいると思ったんだが……俺の気のせいなら、それに越したことない」
川田の額から一筋の汗が流れている。それを見たの掌にも汗が滲み出してきた。
静けさとは裏腹に緊張感だけは張りつめてゆく。
その異様な状況が数十秒ほど続くと、川田がゆっくりと上半身を起こした。
「川田?」
「俺の気のせいだ。すまなかったな」
沼井は「何だよ、脅かすなよ」と言ったが、まだ完全には緊張が解けてないらしく口調は強張っていた。
「ところで滝口と瀬戸も同行するのかな?」
「え、ええ……そうだけど」
桐山はチラッと二人を一瞥すると、すぐに視線を元に戻した。
「その2人は戦闘力は期待できないんじゃないのかな?」
桐山はさらりと言ったが、それは冷たい言葉だった。
即座に七原が「な、何て事を言うんだ桐山。仲間だぞ!」と抗議。
その七原の後頭部を光子がぽかっと叩き「静かにしてよ!」と怒鳴りつけた。
「わ、悪い……だけど桐山が」
「あーら桐山君のいう事も一理あるわね」
「月岡、おまえまで!じゃあ何か?豊と滝口を見捨てろって言うのかよ!」
「やだぁ、アタシはそんな冷たい女じゃないわよ」
「……女じゃないだろ」
名指しされた豊と滝口は怯えだした。
「シ、シンジ……お、俺……」
「安心しろ豊、俺がついてる。桐山、2人を追い出そうなんて考えてないだろうな?」
桐山はちょっと首をかしげて、「自分から出て行ってはくれないのかな?」とほざく。
豊と滝口は可哀想なほど青白くなってしまった。
「桐山君、お願い。瀬戸君も滝口君も芯は強い人たちよ。皆で協力しましょう」
「そうか。が、そういうのなら考えてみよう」
だがの言葉に桐山はあっさり了解。
ほっとする滝口と豊を無視して、桐山は地図を広げた。
「この山を横断するのが近道だった。俺の身体能力から15分でいけると計算した」
「あ、あのなあ……おまえの身体能力を基本に考えるなよ!」
七原がまたしても思わず声を上げ、今度は月岡に背後から首を絞められた。
「七原君。抗議は静かに……ね?」
「……わ、わかった……わかったから、離してくれ」
桐山は図上を指でなぞった。
「山のルートはやめて回り道をする。距離は伸びるが構わないかな?」
「ええ。贅沢なんか言ってられないもの」
「ところで」
「何、桐山君?」
「声はあげないでくれ」
桐山は銃口をすっと頭上に向け発砲した。
直後に悲鳴と共に青い血を流しながら怪物が地面に落下。
滝口と豊は声もでず、その場に尻餅。は桐山が口を押えたので声が出なかった。
「先ほどから俺達を狙っていた。さあ行こう、時間が惜しい」
「え、ええ」
――貴子、待っててね。どうか無事でいて。
の手を引いた桐山を先頭に走った。
月岡と光子がその後、さらに遅れて滝口と豊、背後を守るのは三村と七原の役目だ。
走る速度はかなりのものだった。もっとも桐山にしてみれば、遅いくらいだった。
だが滝口と豊が一緒なので、これが限界速度。
その滝口と豊も見捨てられる恐怖から、普段の体育の授業が嘘のように必死に走っている。
「おい桐山、もう少し音をたてずに走った方がいいんじゃないのか?」
三村が背後に注意を払いながらも、やや大きい声でそう言った。
「そんな悠長なことをしていたら何もできない」
「あの化け物が襲ってきたら、どうする?」
「倒せばいい。ぐずぐずしていたら千草を探す前に、もっと強い奴が出てくる」
もっと強い奴……それは深夜0時に放たれるというF4の事に他ならない。
確かに桐山の言うとおり。三村はごくっと固唾を飲んだ。
もったいぶって最後に登場するという事は、今までの化け物より数段上と思った方がいい。
「三村」
りんとした声は、さほど大きくなくても三村の耳にはっきり聞こえた。
「何だよ」
「少し頭を下げた方がいいぞ」
「はあ?」
月明かりの下、桐山が振り向きもせずに腕を背後に伸ばしたのが見えた。
三村はぎょっとした。黒光りした銃口が静かに三村を睨んでいる。
その直後に銃口が火を噴いた。
三村はさすがの反射神経で、すでに姿勢を低くしていたが一歩間違えば頭部は無くなっている。
背後からおぞましい悲鳴が聞こえなければ三村は桐山に怒鳴りつけていただろう。
三村は走りながら少しだけ振り向いた。
肩越しに、あの化け物が流血しながら地面をのた打ち回っているのが見える。
桐山がいなければ背後から襲われていただろう。
三村はぞっとした。しかも、恐怖はそこで終わらない。
「彰、を頼む」
桐山はを月岡に向かって軽く突き放し、スピードアップ。
前方からF2が二匹猛然と襲ってくる。
桐山は助走から猛烈な飛び蹴りを、その首根っこにお見舞い。ボキッと鈍い音がした。
さらに桐山は体勢を立て直す前に、懐からサバイバルナイフを素早くだして投げていた。
喉元に命中。F2は苦しそうに地面にのめり込んでいる。
桐山はボール大の石を手にすると、とどめとばかりに、その頭部に降り下した。
鈍い音がしてF2はぴくぴくと痙攣しだした。
「三村、松明に着火しろ。この地域はF1とF2の巣窟だ。
F3の出入り口は離れているから多分大丈夫だろう」
三村はすぐに桐山の指示に従った。化け物の襲来はいったんストップした。
「しばらくはこれでいい。奴らは火を怖がるから、これで十分だ。
走る速度をあげるぞ。かまわないかな?」
「ちょ、ちょっと桐山君……あ、あなたねえ。少しはちゃん達のこと考えてよ」
「なぜだ彰?」
「あなたは手加減して走ってたかもしれないけど、女の子の脚じゃあれが限界なのよ。
滝口君と瀬戸君はもっと限界よ。ほら息が上がっているじゃない」
「そうか。わかった」
桐山は案外素直に月岡の意見を聞き入れた。
「では、川を横切ろう。距離を短縮できる」
確かに水音が聞こえてくる。近くに川がある証拠だ。
しかし暗闇の中で水泳とは強引な話だ。
川岸に辿りつくと、まず光子が不満そうに声を上げた。
「ちょっと岩が多くない?それに深さもわからないし、案外流れが早いわよ。
足をとられたりしたら、そのまま流されてどざえもんになっちゃうじゃない」
七原も光子の意見に賛成した。
身体能力の高い自分や三村ならともかく、女の子や滝口や豊を心配したのだろう。
桐山は反論もせずロープを取り出すと先端に小石を縛り付け向こう岸に投げた。
小石は樹の幹を数回ぐるぐると回って止まった。
後はロープ伝いに向こう側に行けばいい。
全てが順調だった。松明の効果か、川を渡っている無防備な状況でも奴らは襲ってこない。
ラストの七原が到着し、さあ再び走ろうという時に叫び声が聞こえてきた。
「桐山君、あの声……!」
少し距離があるから何を叫んでいるのかはわからない。
ただ女の声だということだけはわかる。
絶叫しているということは襲われているということだ。
「桐山君、誰かが襲われているわ!」
「ああ、どうやら、そうらしい」
「早く助けに行ってあげないと!」
思わず駆け出しそうになっただが、桐山が手首をつかんだのでできなかった。
「桐山君?」
「安心していいぞ。あれは千草の声じゃない」
「え?」
平然かつ淡々と言ってのけた桐山に、は唖然とした。
「だから気にすることはないんだ。さあ行こう」
の手を引き強引に歩き出した桐山に、今度は七原達が愕然となった。
もっとも月岡と光子は「ちょっと待ってよぉ」と、さっさと桐山の後に続く。
「ちょ……ちょっと待てよ桐山!仲間が襲われているんだぞ、おまえ平気なのかよ!!」
七原の怒号に桐山は足を止めた。
「七原」
決して低くはないが威圧感のある声に七原は一瞬たじろいだ。
「な、何だよ桐山」
「静かにしてくれないか?」
走ってゆく。少し離れて川田と沼井が慎重に後を追う。
その三人の様子を木の上から眺めていた人間がいた。
何かいると思った川田は間違っていなかったのだ。
「あの親父、僕達の存在に気付いたみたいだ。なかなか、やるじゃない」
男にしては長めのマッシュボブの少年が、囁くようにいった。
「……ああ、そうだな」
その隣にいる長い前髪の少年は俯きながら言った。
「完全に気付いたわけじゃないさ。さ、行くよ」
もう一人の少年が指示を出すと二人は大人しく従いついていった。
「ねえ直弥、彼らを捕まえて彼女の居所を吐かせちゃえば楽なんじゃないの?」
先を急ぐ少年にマッシュボブの少年が訊ねた。
直弥と呼ばれた少年。彼はと総統杯で顔を合わせた事もある。
彼等は政府が躍起になって追っているK−11だ。
俊彦がほんの僅かに担当の持ち場を離れた隙に侵入していたのだ。
直弥が連れているマッシュボブの少年の名は財前真澄(ざいぜん・ますみ)。
前髪が長い少年は鏑木伊吹(かぶらぎ・いぶき)という。
彼等は危険を冒して、このワールドの中に侵入した。
「わかってると思うけど僕達の命は二の次だよ。必ず彼女を保護して脱出させるんだ」
直弥は小声でいった。このワールドの中には至る所に隠しカメラが仕掛けられている。
それを警戒し移動はおろか会話一つにも細心の注意を払っていたのだ。
ちなみに、その隠しカメラは季秋財閥が開発した。
その関係で季秋財閥は、どこにカメラが仕掛けられているのか、ほぼわかっている。
K−11は、その情報を夏樹から解放された潤達を通して教えられた。
最初は眉唾ものだったが事実だった。おかげで今の時点ではまだばれてない。
もっとも伊吹が危うく一瞬だけ影を撮影されてしまった時は危なかった。
暗闇の中でなかったら、特選兵士の誰かが気づいていただろう。
実際に周藤晶は気づきかけていた。
「さっさと仕事をすますよ。油を売っている暇はないんだ」
彼らが川田が気づきかけるずっと前から、この場所に存在していた。
怪物に黒長が襲われるのも泉が逃げるのも、全て黙って見ていたのだ。
は窓から外の様子を伺った。
斗真と怜央は少し離れた場所で話をしているようだ。
(あんな無口な無精男でも一緒に育った怜央とは普通に会話するのかしら?)
会話の内容までは聞こえないが、怜央は抗議をしているらしい。
どうやら見張りを嫌がっているようだ。
(私のそばにいるのが嫌なのね……無理もないわ。あの子、極端な対人恐怖症みたいだもの。
まして瞬にあれだけ派手な暴行を受けたものだから余計に私の事を避けてるんだわ)
斗真は抗議を一切無視しているようだが、少しうんざりしたのだろう。
ふいに、ぽかっと怜央の頭にげんこつをお見舞いした。
怜央は両手で頭を押さえ痛みを堪えながら、こくこくと何度もうなずいている。
どうやら渋々承知したらしい。
(あの子、普段から要達にあんな扱い受けているのかしら?)
人間兵器として生まれて育てられた]シリーズには、それが当たり前の行為かもしれない。
(秀明や晃司も志郎の駄々が酷いと容赦なくぽかぽか殴るものね……育ちは違っても同じだわ)
怜央はびくびくしながら此方に近づくと、木の陰からじっと見詰めてきた。
そして今度はチラッと背後に振り向いている。斗真と目があったようだ。
斗真が此方を指差している。「さっさと行け」ということだろうか。
怜央は観念して扉のそばにくると、その場に座り込んだ。
それを見届けると斗真はさっさと立ち去ってしまった。
やがて高速艇が水平線にむかって走るのがみえた。
「怜央」
声を掛けると怜央はびくっと反応した。
「地面に直接座ると冷たいでしょ?私は逃げないから鍵を開けて中に入らない?
ベッドで寝た方が温かいわよ。食べ物もあるし、ね?」
「…………」
やはり返事はない。扉の鍵は……やはり内側からははずせない。
窓はが、くぐり抜けできない程度のサイズまでは開く。
は隙間から毛布を外に押し出した。怜央はちらっと此方を見ている。
「それ使ってね」
「…………」
毛布は一枚しかない。つまりは自分の分を怜央に譲った。
だから怜央は不思議に思っているようだ。
「私はいいから」
怜央はそっぽを向いてしまった。夜風は冷たい。
しばらくして窓の隙間らから見てみると怜央は毛布にくるまれていた。
(……可愛い)
他人から見たら怜央は人見知りが激しい可愛げの無い少年だろう。
凶暴な人間とすら思われるかもしれない。
しかし志郎にそっくりの容姿のせいか、は不思議と愛しさすら感じた。
(でも、あの子に見張られていたら逃げることもできないわね)
怜央は、あの通り自分を嫌っている。だから協力なんかしてくれないだろう。
瞬の計画を教えてくれるわけないし、第一瞬が怜央に打ち明けているかもわからない。
(……時間がないわ。何とかしないと)
要に通信機器を全て奪われてしまった。もう助けを呼べない。
自然と溜息が漏れていた――。
【B組:残り42人】
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