チッ…チチッ……
愛らしいスズメの声、部屋に差し込む光
「……うーん……」
ベットの中で美恵は伸びをした。
「……もう、朝………!!いけないっ!遅刻しちゃう!!」




太陽にほえまくれ!―刑事物語序章―




天瀬美恵、特捜課の新人刑事。城岩署の、ちょっと変わった刑事達との洗礼も終え、今日からは気持ちも切り替え、刑事として一生懸命、職務をまっとうしなければ!!




「いけない、電車に遅れる」
全速力で走る 美恵。
美恵!」
振り向くと真っ赤なスポーツカーに、イケイケなおねえさん。
「光子先輩」
「乗りなさいよ。満員電車に乗るなんて、痴漢に障ってくれって奨励するようなものよ」
相変わらず、ちょっと変わった女。本当に刑事なのだろうか?
「じゃあ、お願いします」
でも、助かった。地獄に仏とは、まさにこの事。もっとも光子が仏というのは、ちょっと違和感感じるけど。









「おはようございます」
光子のおかげで予定より20分も早い出勤だ。
「おはよう天瀬」
「え”っ?」
美恵 は一瞬虚をつかれたように目を点にした。
「……あ、あの……カンフー先輩……どうして……」
「どうかしたのか?」
「……そ、そ、……その格好は…?」




呆けたような顔をしていた美恵だが、見る見るうちに真っ赤になっている、まるでゆでダコの調理実習。
「どうしたんだ天瀬。熱でもあるのか?」
心配そうに近づく杉村。が、杉村との距離が縮まるにつれ、ますますゆであがる美恵。
そして……。




「…………」
フラッ……。
天瀬!!」
杉村が咄嗟に抱きかかえなければ、床にたたきつけられていただろう。
天瀬しっかりしろ!!」
杉村の声も、もはや美恵には届かない。……完全なる気絶だ。
そして美恵を抱きかかえている杉村は上半身裸だった。そう、毎朝、そのスタイルで拳法のトレーニングをするのは杉村の日課だったのだ。
男ばかりの課ゆえ誰も止める奴がいなかったのだ。しかし、男に免疫のない美恵には、少々刺激が強すぎたらしい。


余談だが、遅刻・欠席の常連、ボスこと桐山が、なぜか定時どおりに出勤。セミヌードで美恵を抱きかかえている杉村を見た途端、瞬時に発砲。
婦女暴行未遂で網走に送るという桐山を、川田がなだめて減給で済んだ事は言うまでもない。














「……はぁ……」
「大丈夫かカンフー?」
心配そうに、お茶を差し出す七原
「……貴子にも怒られた。『今日から男だけの部署じゃないのよ、あんたって本当無神経な男ね』って……その通りだ」
「……でも、減給で済んでよかったよな。デカチョーがいうにはボス怒りまくってたって話だぞ」
もっとも、桐山が無表情ゆえか、誰にもわからない、わかるのは川田だけだ。しかし、凄まじいオーラだけは感じた。


「しかしだ」
横から三村が顔をだした。なんだか、とっても嬉しそうだ。
「あの様子だと、美恵の奴、男をしらないな。俺のカンじゃ間違いなく処女だ」
「「なっ!!?」」
先ほどの美恵以上に真っ赤になる杉村&七原
「職場恋愛ってのも悪くないな。これからオレがじっくりと免疫つけてや……」
「このアホッ!!!」
怒号と同時にぶっ飛ぶ三村
「デカチョー……痛いなぁ。背後から殴るなんて卑怯だぜ」
「バカな事いってないで、さっさと仕事をしろ!!」
過激な上司とお調子者の部下にはさまれてストレスがたまる一方の川田。普通の人間ならとっくに希望退職だろう。中間管理職はつらい。














「……うーん……」
美恵はベットの中で目を覚ました。

……あれ……?私、出勤したはず?……

「大丈夫か?」
低くはないが威厳のある声が聞こえた。
「……本部長?」

ど、どうして本部長が私の部屋に?!

あらためて周りを見渡した。少々、少女趣味的なマイルームではない。美恵は飛び起きた。
そして思い出した。そう、先ほどの杉村のファイティングスタイルを目の辺りにしたショックで気を失ったことを。




「……す、すみません……私……」
いくら見慣れないものをみたからといって、あの程度のことで気を失うなんて、本当に自分の甘さ加減には愛想がつきる。
きっと桐山もあきれはてているだろう。もしかしたら、今ここで『特捜課をやめろ』と言われるかもしれない。
「杉村には二度とやるなと言っておいた。安心しろ」
そうだ、杉村は?
「あのカンフー先輩は?私のせいで御迷惑お掛けしたんじゃ?」
美恵が気にすることはない」
「……でも。それに、仕事もやらないと」
そう、特捜課は、捜査一課・殺人課・麻薬課その他諸々危険ごっちゃ交じり課なのだ。足手まといにしかならないかも知れないが、とにかく自分に出来る限りのことをしなくては。


美恵が危険なことをすることはない」
「えっ?」
疑問符をつけた美恵に桐山が、淡々と答えた。
「危険なことは川田たちにまかせておけばいい。美恵が危ないことをする必要はない。事件の事後処理だけでいいんだ」


「待ってください!!」
医務室に響くくらいの声。桐山は少しだけ眉を持ち上げた。川田曰く、驚いている顔だ。
「こんなバカな失敗しておいて、こんなこと言うのも恥ずかしいですけど……私、刑事なんです。 危険な仕事だということは承知してます。私なんかじゃ足でまといなるってこともわかります。
でも、最初から危険を避けて自分だけ安全な場所に居たいとは思いません。私は刑事になるために、ここに来たんです。だから……」
美恵は一気に喋った。桐山は黙って聞いていた。そして……。


「わかった」
桐山は、ゆっくりと立ち上がった。そして美恵の肩に手をおいた。
「だが最前線にいくのは、まだ無理だ。一人前になったとオレが判断するまで危ないマネは絶対にしないと約束しろ。それでいいか?」
「はい!」
美恵の笑顔。桐山は、なぜか自分の心に温かいものが込み上げてくるのを感じていた。
それが何なのかはわからないが。









余談だが、桐山が特捜課に戻った時の事だ。
「オレが美恵を女にしてやるぜ」とわめいていた三村を見た途端、瞬時に発砲。
婦女暴行未遂で網走に送るという桐山を、川田がなだめて減給で済んだ事は言うまでもない。




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