捜査二課……そこが私の職場になるのね
不安だらけだけど、貴子先輩も光子先輩も優しくて頼りがいがあって
(フーリガン先輩が一緒というのが気になるけど)
きっと大丈夫。やっていけるわ。
太陽にほえまくれ!―ようこ刑事部へ3―
「おい新人、ミーティングは終ったか?」
「はい」
「よし、じゃあ、もうすぐ本部長が出勤するから、身だしなみを整えとけ」
相変わらず、ぶっきらぼうに、そう言うとデカ長は煙草を灰皿に押し付けた。
捜査本部長……どんな人だろう?
貴子先輩たちの話じゃ、就任わずか二年で、城岩署の検挙率を全国トップに押し上げた、かなりのやり手。
恐いもの知らずの特捜の刑事たちはおろか、署長も頭があがらず、対等に話が出来るのは、就任以来片腕として苦楽を共にしてきた、川田デカ長ただ一人とか……。
でも、部長というからには、まあ多分自分とは親子ほど年齢が離れていることは間違いないだろう。
川田みたいな、無愛想だが貫禄のあるタイプだろうか?
それともハリウッドの映画にでるようなロマンスグレーの素敵なおじ様タイプ?
美恵の想像はふくらむばかりだ。
とにかく失礼のないよう、きちんとしなくては!
化粧室の鏡と見詰め合うこと30分。
化粧OK!
服装OK!
笑顔はばっちり!!
(よしっ!)
拳を握り締め、気合を入れると美恵は時計に視線を流した。
いけない、もうこんな時間。
急いで戻らないと!!
廊下は走らないこと、と書かれていないからというわけではないが、美恵は全速力だった。
ブレーキをかけることなく廊下の角を曲がった。
と!その時!!
ドンッ!!
何かにぶつかり美恵は後方に弾き飛ばされた。
「……すみません。急いでいたものですから」
あわてて見上げた美恵
アンソニーもフーリガンも(性格はともかく)二枚目だった。
それにカンフーも整った精悍な顔立ちをしていた。
でも……
「見かけない顔だな。もしかして例の新人なのか?」
「………」
「聞こえなかったのかな?」
「あっ……いえ、あの本当にすみません」
あわてて立ち上がる美恵。
「質問に答えてくれないか」
「天瀬……天瀬美恵です。本日付で本署に勤めることになりました」
「そうか」
衝撃だった……何といっていいか。
知的で端正な容姿……にもかかわらず感じる威圧感。
こんな美形を美恵は今まで、ドラマの中でも、映画の中でも、数十億円の価値をもつ芸術品の中でさえ見たことがなかったのだ。
男は美恵の名前を聞くと向きを変えた。
「待ってください!!」
慌てて、男の前方にまわる美恵
そしてネクタイに手を伸ばした。
「すみません。私のせいで曲がってしまって」
ネクタイなんて、ほとんどさわった事もないのだが
「はい、これで大丈夫ですね」
よかった、なんとか出来た。
美恵は改めて、男を見上げた。
「直す必要はなかったと思うが」
「ダメです!!」
突然語尾を強く発した美恵に、それまで微動だにしなかった男の眉がほんの少しだけ動いた。
「絶対にダメです。こんなハンサムな男性がネクタイ曲がってるなんて」
「そうなのか?」
「だって、絶対にこの方が素敵です。だから……」
「そうじゃない」
「え?」
「オレはハンサムなのか?」
「………」
沈黙が流れた。そして……
美恵は思わず吹き出した。
「どうした?」
「だって……冗談にもなりませんよ。あなたみたいな人、芸能人にもいないのに」
「そうなのか?」
美恵は学生時代とてもモテた。
美人で、可愛くて優しい性格、成績も人並み以上に優秀ということもあったが、
一番の理由それは――
「んっ?あれは新人じゃないか。一緒にいるのは……」
たまたま遠くから見かけた川田は信じられないといった光景を目にしていた。
美恵の笑顔を、その男は不思議な表情でみていた。
無表情には違いないが、今までの他人を寄せ付けない冷たいものとは、まるで違う――
「あいつ……あんな、表情もするのか?」
美恵に惚れた男たちは口々に言っていた。
――君の笑顔に惹かれたんだ


