「オレは特別捜査課の杉村弘樹。通称、カンフーだよろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
つないだ手は大きくて暖かい。杉村の人柄を、そのまま現しているようだ。
「特捜課の噂は聞きました。すごく優秀だって」
「いや、そんな事はないよ」
笑った顔も、優しくて爽やかだ。
「正直ちょっと恐い人たちを想像してたんです。他の方も杉村先輩みたいに優しいひとなんですか?」
「え”?!」




太陽にほえまくれ!―ようこそ刑事部へ2―




「え”?!」
杉村の顔がなぜか引き攣っていた。
「あの杉村先輩?」
困惑し、言葉に詰まっている杉村通称カンフー


「ねえ、カンフーくん。正直に教えてやりなさいよ」
「そうよ弘樹。隠したって、すぐにばれるんだから」
「し、しかし……」
そのイヤーな雰囲気に美恵の瞳はサッと曇った。


「あ、あの……それ、どういうことですか?」
「君が心配することないよ」
あからさまに暗い表情で語る杉村。説得力ゼロ。
「……皆いい奴だよ」
どうして目をそらして言うんだ?杉村。


「そうだ!ギターは優しくて親切で婦人警官の信頼も厚いんだ!!」
「ギター?あっ、ニックネームですね。どんな人なんですか?」
「とにかく正義感の塊みたいな奴だ。あいつには、いつも勇気づけられる」
「すごい人なんですね。他の方は?」
「え”?他の奴?……一応いい奴だよ。じゃあオレ仕事があるから!!」
一応……気になる枕詞を残し、杉村は去っていった。









「あの杉村…じゃなくてカンフー先輩が言ってたことですけど」
「まあ、今にわかるわよ」
「そうね。大丈夫よ。多分あなたは私たちの捜査二課に配属されると思うし」
ちょっと、いや、かなり気にはなったが、課が違うなら、直接関わる事はないだろう。


「ところで、あのニックネームって、誰がつけてるんですか?」
「デカ長よ」
「ええっ!!」
それは、それで衝撃だった……あの、いかにも、はぐれ刑事純情派あたりに出演してそうな中年刑事に、そんなお茶目な面があったなんて……。


「弘樹は、ああ見えても拳法の達人なのよ。大会で何度も優勝したくらいにね」
「すごい……!だからカンフーって呼ばれてるんですね」
「笹川なんか見たとおりロン毛で、ジャージは体力バカ、タッチは元高校球児、ガンダムはオタク……つまり適当につけてるだけ」
「新井田先輩は、どうしてフーリガンなんですか?」
「あいつはね学生時代サッカーの有望選手だったの」
「でも、フーリガンって、すごく印象悪いじゃないですか」
「デカ長は最初は『キャプテン翼』にしようとしたのよ」
……悪趣味……しかも長い。
「でもね。貴子が……」
光子の後を引き継ぐように、今度は貴子が話し出した。
「私は、あんなバカ、ストーカーで十分だって主張したのよ」
刑事にストーカー……それは、ちょっとまずいだろ……。
「で、デカ長と貴子が対立したんだけど。結局二人の意見を足して二で割った形に収まったってわけ」
キャプテン翼+ストーカー÷2=フーリガン。どんな数式だよ!!


「山本先輩は、どうしてアンソニーなんですか?」
「デカ長がね『あいつは温厚で二枚目で婦人警官たちの受けもいいが、
刑事としては全く頼りにならない。30年前の少女マンガに出てくるような奴』だからって」
「そうそう、でデカ長の愛読書『キャンディキャディ』からとったらしいわ」
ムゴイ……美恵は山本に同情した。
それ以上に『キャンディキャンディ』って一体?……


「飯島先輩は?」
「ああ、あいつね。それは私たちもわからないの」
「いつもはデカ長がつけるんだけど、あいつはサンマンが命名したから」
サンマン?またしても専門用語が出てきた。
「そういえば……デカ長がいってたボスって誰ですか?」
「「!!!!!」」




二人は美恵を見詰めた。
「……そうよ。『あの人』を、まず話しておくべきよね」
「……本部長よ。彼が就任したとたん、うちの検挙率が全国トップになったの」
「すごい……早く会ってみたいわ」




美恵は気付いてなかった。
まだ見ぬ本部長に賞賛の想いを抱いている自分に、貴子と光子が複雑な視線を向けているのを……。




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