「うちの刑事は本名不可、ニックネームで呼ぶのが掟なんだ」
「……課長、それって冗談ですよね?」
フゥ…煙草の煙を吐くと、川田はこう言った。
「本当なんだよなぁ、これが。オレの事も、刑事課長は厳禁だ。
オレはデカ長、わかったな?」




太陽にほえまくれ!―ようこそ刑事部へ―




「おーい、全員集合だ。新人を紹介するぞ」
川田課長……もとい、デカ長の召集に城岩署の刑事が集合
「おい、うち(特捜課)の連中はどうした?」
「そ、それが……全員出払ってるんです」
刑事、にしては気の弱そうな男が手を上げて答えた。
「しょうがないなぁ。まあ、いい。えっと名前は……何だっけ?」
さっき聞いたばかりなのに、子ども扱いされたようで、美恵は少しだけムッとした。
天瀬です。天瀬美恵」
「だ、そうだ。まあ、忘れない程度に覚えておけ。で、恒例のニックネーム命名式だが」
「……え”」


ま、まさか本当に?そんな!一昔前の刑事ドラマじゃあるまいし!!!
「女だから、好きなように呼んでいいぞ。
それと…おい、千草、相馬!こいつの面倒見てやれ。
1時間で、ここのルールを教え込んどいてやれよ。
後でボスに会わせるからな」
そういうと、デカ長は、またも煙草をくわえ去っていった。


キョトンとしている美恵に、二人の美女が近寄ってきた。
まあ、なんて綺麗で絵になる二人でしょう。
芸術家がいたら、思わず叫んでしまいそうな。
もっとも美恵自身(本人は気付いていないが)かなりの美人ではあるのだが


「千草貴子よ。よろしく」
「よろしくお願いします」
「私は相馬光子よ。あなたラッキーだったわね。女で」
「あの、それって…?」
「くだらないルールだけど伝統なのよ。ここではね。
城岩署始って以来の掟らしいわ。
私の幼馴染も特捜課の刑事だけど、変なアダナがついてるもの」
「そういうこと。もっとも、女の刑事は免除されてるから。
お互い好きなように呼んでるわ。私のことは光子って呼んでね美恵」
「私も貴子でいいわよ」


「じゃあ、ここの刑事を紹介するわね。まず、あいつだけど」
光子が指差した。先程の気の弱そうな男だ。
「飯島敬太くん。通称イソップよ」
光子の紹介は続く
「それから、あの坊主頭は旗上忠勝くん。通称タッチ」
川田デカ長と同じヘアスタイルだが、青二才といった感じだ。
「おとなしそうなのが滝口優一郎くん。通称ガンダム」
どう見ても善良な一般市民にしか見えない。
「それなりにハンサムだけど、甲斐性なしの山本和彦くん。通称アンソニー」
確かに、それなりに二枚目だが、強さとか気概がまるで感じない。
「浅黒くて明るそうなのが大木立道くん。通称ジャージ」
みるからに体育体系。
「根性悪そうな茶髪が笹川竜平くん。通称ロンゲ」
刑事、というより不良上がりのチンピラだ。
「あのニヤニヤしてるのが新井田和志くん。通称フーリガン」
ハンサムだが、目つきがいやらしい。




貴子と光子は絵になる女刑事だが……。
紹介された先輩刑事たちを見て、美恵は内心がっかりした。
貫禄たっぷりのデカ長と違い、全員頼りない感じ……。
先程の幸枝の話もあって、まだ見ぬ先輩たちに憧れていたのだ。


天瀬美恵です」
とにかく挨拶だ。昨夜1時間もかけて練習したのだ。
「見ての通りの未熟者で、皆さんにはご迷惑をお掛けすると思いますが、
自分に出来ることを精一杯頑張ろうと思っていますので、
どうかご指導ご鞭撻の程、宜しくお願いします。
格闘は自信ありませんが、射撃なら……」
と言いかけて、男が近づいてきた。
ハンサムだが、目つきがいやらしい男だ。


天瀬、わからない事はオレに聞いてくれ。
オレ一目見た時から、おまえの事いいなと思っていたんだ」
そういって肩に手をまわしてきた。
「……え?…あ、あの……」
「今夜、食事にでも行かないか?オレが色々教えてやるからさ」


「このストーカー男!!!」
その時だ!先程までクールだった貴子が一変した。
そのスラッとした脚が蹴り上げた先には……男の弱点が。
「ギャーーー!!!」
悲鳴を上げて倒れこむ新井田通称フーリガン。
倒れると同時に貴子の脚が、さらに奴の喉元を急襲した。
今度は悲鳴も出ない。


息をつく暇もなく貴子の連続蹴りが炸裂する。
「ギャーーー!!!た、助け……!!」
「助けるわけないでしょう!!」
あまりの迫力に縮み上がり声もでない男ども。
新井田の苦痛に歪む顔をみて笑っている光子。
さらにヒートアップする貴子。
その生き地獄は永遠に続くかに思われた。




と、その時!!
突然現れた男が後から羽交い絞めをかけ貴子の動きを制した。
「止めないで弘樹!この最低男の息の根を今日こそ止めてやるのよ!!」
「やめろ貴子!!やめるんだ!!!気持ちはわかるがオレ達は刑事だぞ!!」
ここに来て、ようやく貴子の動きが止まった。
が、新井田はすでに生ける屍状態。
「私情にとらわれず、常に法と良心に従い、国家と国民の安全と平和を守る。
それがオレ達、刑事の使命だ」
貴子はゆっくりと振り向き、その男を見詰めた。
「おちついたか貴子?」
「ええ」
ホッと胸をなでおろす男ども。
なによ、つまんなーい。と溜息をつく光子。
ちょっとだけ、貴子先輩かっこいい……などと思っていた美恵




「大丈夫か?フーリガン……ダメだ完全に気を失っている」
その男は長身で、がっちりとした体型。そして誠実そうな面持ちだった。
「イソップ、ガンダム。保健室に連れていってくれ」
そこに来て、その男はようやく美恵の存在に気付いた。
「あれ君は?……もしかして新しく配属された?」
「はい、天瀬美恵です」
「そうか刑事は大変だが、やりがいのある仕事だ。頑張ってくれ」
そう言ってスッと右手を差し出した。
「オレは特別捜査課の杉村弘樹。通称、カンフーだよろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いします」


美恵の瞳は輝いていた。
ようやく理想どおりの、頼りがいのある先輩が登場したのだから。




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