私の名前は天瀬美恵。
警察学校を無事卒業。そして念願の刑事になりました。
私なんかに勤めるのか不安だけど、とにかく頑張ります。




太陽にほえまくれ!―こちら城岩署―




城岩署……香川県随一の検挙率を誇る警察署。
その門を前にして美恵は大きく深呼吸をした。


よーし!!
頑張らなきゃ!私は今日から刑事なんだから!




キタノ署長からの激励も終わり、ようやく初出勤。

それにしても……

美恵には一つだけ気掛かりなことがあった。
署長室を出るときキタノ署長が言った一言




「言い忘れたけどな。うちの刑事どもは検挙率も高いが、脱落率はもっと高いぞ。
そうならないようにせいぜい頑張ってくれ」




脱落…確かに城岩町は他の地域と比べても凶悪犯罪が後をたたない……。
今までの刑事は、そのハードな仕事についていけず辞職したということなのか?それとも……。









天瀬さん」
「……あっ、は、はいっ!……」
「どうしたの?元気ないけど」
「……ちょっと、署長の言ったことが気になって……」


内海幸枝、この城岩署の婦人警官のリーダー的存在。初出勤の美恵に署内を案内してくれている。
しゃきしゃきとした、明るい感じの、同性から見ても魅力的な女性だ。


「ああ…そうか、やっぱり言っておいた方がいいかな……」
幸枝は足を止めると、休憩室のドアを開けた。
美恵を椅子に座らせると、机をはさんだ向かい側の椅子に自分も腰をおろし、少々哀れみを込めた目で美恵見詰めた。


「あの…内海さん。もしかして……高いんですか?殉職率……」
「ええ」
間髪入れずに即答。その豪快な言い様に美恵は青ざめた。
ほんの数十分前に誓ったはずの決意に早くもヒビが……




「冗談よ」
「えっ?」
「確かに他の署に比べたらハードだけどね。知ってると思うけど、この町、凶悪犯罪が後をたたないから」
でもね、と。幸枝は続けた。
「すごく優秀なのよ。うちの刑事」
「本当ですか?」
「ええ、正確に言うと特別捜査課の連中だけどね。本庁に行っても十分通用するくらい一流なんだから」


美恵の瞳がキラキラと輝き出した。そう、まるで幼い頃スクリーンで見たアクションスターに感じたトキメキが、そこにあった。


「一通り教えておくとね」
幸枝は一息入れると、再び話し出した。
「優秀と言ってもね。本当にズバ抜けてるは特別捜査課の刑事たちだけよ。
他の課、例えば少年課なんかは、他の署と比べても検挙率低いくらいなの。
危険な仕事は、彼らがやるから天瀬さんは安心して。ただね……」
どうした事だろう?先程まで、あれほど饒舌だった幸枝が言葉に詰まっている。
「その特捜課の刑事たちなんだけど……」


「おっと、そこから先はオレが説明しておいてやる」
少々無骨だが貫禄のある声が聞こえた。二人同時に振り向く。




「川田課長!!」
「えっ?!課長…!」
短く刈り込んだ頭、額傷、ちょっと皮肉めいた笑顔。
その男、川田はタバコを吸い込むと、フゥーと煙を吐き出し、美恵を見詰めた。




「おい、おまえ」
「は、はいっ」
「名前は?」
「はい、天瀬美恵です。ふつつか者ですが宜しくお願いします」
「おいおい、結婚するわけじゃないぞ。まあ、いい。ついて来い」
「は、はい!」
川田についていく美恵を幸枝は複雑な表情で見送った。




ドナドナドーナードーナァーー……つれていかれたーよーー♪





天瀬、ここがオレたちの戦場だ」
刑事部、そう書かれたプレートが掲げられている。


「ここが…」


ここが私の職場……胸に熱いものが込み上げてくる。


「まあ、入れ」
そう言ってドアノブに手をかける川田
「そうだ、一つ言い忘れとったけどな。うちの署には特別ルールがあるんだ。
もちろん、おまえにも守ってもらう。わかるな?」
「はい、わかってます。どんなルールなんですか?」




「それはなぁ……」

「それは…?」




……美恵は息を呑んだ……









「うちの刑事は本名不可、ニックネームで呼ぶのが掟なんだ」

「………え”っ?」









美恵の刑事ストーリーは、幕を開けた……




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