「「「「「「「カンパーイ」」」」」」」
神さまって本当にいたんだな
まさか特捜全員そろって出張なんて
しかも光子と貴子は非番ときている
こんな偶然あるものか
太陽にほえまくれ!―最後の特捜デカ―
「天瀬、もう仕事は慣れたか?
」
「困ったことがあれば、いつでも相談に乗ってくれよ」
「なんだったらオレを一生逮捕してみないか?」
そういって、わざとらしく肩に手をまわしてくる新井田。
「あっ、フーリガン、てめぇ抜け駆けは許さねえぞ!!」
「何言ってんだ?!もとはといえば、おまえが抜け駆けしようとしたんじゃないか!!」
「よしなよ、二人とも。今日は天瀬さんの歓迎会なんだよ」
滝口の良識的な意見。そう、今日は美恵の歓迎会。
と、いっても刑事になってすぐに特捜主催の歓迎会は行われたのだ(会場は桐山プリンスホテル・鳳凰の間だった)
しかし、特捜課以外で招かれたのは、光子と貴子と、婦人警官たちだけだった。特捜課以外の男たちは、美恵の
半径3メートル以内に近づくことすら出来なくなっていたのだ。当然、美恵とお近づきになりたい彼等は特捜課の横暴にハラワタの煮え返る思いをしていた。
余談だが、特捜主催歓迎会では美恵は桐山の隣の席。そのまわりは光子・貴子・婦人警官、そして一番離れたところに特捜課刑事たちの席があった。
しかし幸運にも特捜課は全員いない……。桐山まで警視庁にお出掛けと来ている。
ひそかに美恵を狙っていた笹川は、ここぞとばかりに
「天瀬、今夜一緒に夕飯でもどうだ?」
と、いってしまった。その0.01秒後。
「ロンゲ!!おまえ、何抜け駆けしてるんだ!!オレのほうが、ずっと前から目をつけていたんだぞ!!!
特捜の邪魔にもめげず、千草の殺意にもひるまず、どれだけオレが苦労してきたと思ってるんだ!!?
天瀬はオレと食事をするんだ!もちろん、その後天瀬を送り、部屋にあがり、理想としては一線を超えて二人で朝日を拝むのが最高だぜ。
朝食は、もちろん天瀬の手作り『お口にあえばいいけど』と頬を赤くそめる天瀬。『あわせるに決ってるだろ』と微笑むオレ。
『オレは料理の上手な女と結婚するって決めてるんだ』『そんな、じゃあ私は失格?』『バカ、そんなわけないだろ?最高に上手かったよ』
そっと抱き合う二人。
『オレについてきてくれるよな』と、問うオレに、小さく頷きながら『うん』と言う天瀬……最高だ」(この間0.2秒)
結局、笹川と新井田の美恵争奪戦を聞きつけた他の刑事たちも駆けつけ、みんなで食事をするはめになってしまったのだ。
それにしても……美恵は正直戸惑っていた。
「ねぇ、刑事さん、アタシのお酒も飲んで」
「は…はい。ありがとうございます」
くじ引きで決った店は……ゲイバーだった。
しかし、オカマたちはユニークで会話も楽しい。慣れてくると随分会話もはずみだした。しばらくすると
美恵の周りはオカマたちに占拠されていた。
「うらやましいわぁ、美恵ちゃん、周りに、いい男が大勢いるなんて。アタシも刑事になろうかしら」
「でも大変なんですよ、すぐケンカするんですもの。特に本部長は私には優しいのに、最近マシンガン撃ちまくって……どうしてだろう」
「ああ、とにかく、いいわぁ。最高よ。ねっ、美恵ちゃん、今度特捜の刑事さんたちも連れてきてね」
「はい」
そこから少し離れた場所で……
「チクショー!!酒だ、酒!!これじゃあオレの計画台無しじゃねえか」
「全くだ。なんでオカマに邪魔されなきゃいけないんだ?」
笹川と新井田は荒れていた。
「もう、よしなよ二人とも」
「そうだよ飲みすぎは体によくないよ」
と、豊と滝口が必死になだめ、その横では山本、旗上、飯島が寂しく冷酒を飲んでいた。
「あーら、随分可愛い刑事さんね」
貫禄たっぷりのオカマが美恵の前に現れた。
「「「ママっ!!」」」
そう、長身でごついが、ユニークな雰囲気のこの男は、この店のオーナー兼ママなのだ。
「はじめまして天瀬美恵といいます。特捜課の新人です」
「特捜の!?あなたみたいな可愛いお嬢さんが?そんなの狼の群れに羊を投げ入れるようなものじゃない」
「あの、ママさんは特捜とお知り合いなんですか?」
「まあね。よーく知ってるわよ。綺麗な顔してるくせに冷淡なボスでしょ。そのボスのせいで苦労してるデカチョー。サンマンはアタシの好みなのよねぇ。ギターとカンフーも基本的にはいい刑事だけど、女に甘いのが欠点よ。ツッパリは乱暴だし」
美恵は思わずキョトンとした。どうしてオカマバーのママが、これほど詳しいのか。その時!!
「キャーーー!!!」
絹を裂くようなオカマの悲鳴
「もう一度言ってみろ!!R15になったのはオレのせいだっていうのか?!」
「あ、あれは!!」
美恵は声の方に目をやった。酒に酔って興奮状態の男がビンを片手に、そしてもう片手はオカマの襟元をつかんでいる。
今にも殴りかかりそうな危険な状態だ。
「いけない、助けないと!!」
とにかく銃!!……しまった、プライベートだから持って来てないんだ。
「先輩たち、大変です。男が暴れてます」
「あーん?いいんじゃないのぉ?」
「オレはこれを試合だと思うことにしたんだよ……ヒーック……」
ダメだ。笹川と新井田は、すっかり出来上がっている。豊と滝口は、その介護で手が離せない。
「アンソニー先輩、イソップ先輩、タッチ先輩、緊急事態です。早く助けないと!!」
美恵は咄嗟に3人をみた。3人は、あまり飲んでなかったし大丈夫だろう……ところが。
「オ、オレ……暴力はダメなんだ」
山本は……銃だけでなく、格闘技もからきしダメだった。
「タッチ先輩、何電話なんてしてるんですか?!」
「特捜に連絡してるんだけど……つ、つながらないんだよ」
「………イソップ先輩、アレ?」
飯島は……すでに逃げていた。
その間にも男はさらに危険度レベルアップ
「あのバカ野郎がぁ!!国会議員の分際で、オレの映画にケチつけやがってぇ!!!ヤクザならOKだが、中学生に殺し合いはダメだぁ!?」
どうしよう……でも、民間人を見捨てるわけにはいかない。こうなったら自分が助けるしかない!!
美恵はギュッと拳をにぎった。
「やめなさい!!」
店中に響き渡る声。男が振り向いた。酔ってはいるが、貫禄がある。
「なんだ?若い女か」
「そのひとを離しなさい!!あなたがやっている事は立派な暴行罪ですよ」
「おまえみたいな青臭い女が、このオレに意見しようって言うのか!?」
「美恵ちゃん、やめなさい」
後ろから声がした。ママだ。
「あの男、有名な映画監督の深作欣司よ。うちの常連なんだけどね。最近、ベストセラーになった小説を映画化したのはいいけど、R指定うけるわ。原作ファンから文句言われるわで、あれていたのよ。何するかわからないわ」
深作欣司?あのヤクザ映画で有名な?美恵も名前くらいは知っていた。
「とにかく、あなたが危険にさらされる可能性が大きいわ」
「でも、私は刑事なんです。無視なんて出来ません」
「驚いたわ。あなた見かけによらず度胸あるのね。それに比べて……相変わらず、特捜以外の刑事は最低ね。フゥ」
ママは溜息をついた。
「美恵ちゃん、アタシ、あなたのこと気に入ったわ。でもね、ここはアタシの店なの。お客様にケガさせるわけにはいかないのよ」
そう言って、男の方に向かって歩き出すママ
「あ、危ない、ママさん!!」
「大丈夫よ。アタシにまかせて」
興奮しきった男。名前はもうわかっている。映画監督・深作欣司だ。
「そんな小娘ほっといて、アタシと愛の盃飲み交わしましょ」
「なんだと!!」
「ほら、アンタは向こうに行ってなさい」
そういって、ひとまず従業員を非難させるママ。
そして、今だ興奮状態にある深作の隣に座ると、クイっと一杯飲んだ。すごい度胸だ。
「おまえ、死にたいのか!!」
「ママさんが危ない。アンソニー先輩、タッチ先輩、黙ってみてるつもりですか!!」
「そ、そんなこと言ったって……オレ、どうしたらいいか……」
山本は半泣き状態、旗上は応援を呼びに行ってしまった。
「オレをなめるのもいいかげんにしろ!!」
ついにガラス瓶を振り上げる深作
「危ない!!!」
あれではママの頭部はガラス瓶で血まみれ状態だ。しかし!!
「……うっ……」
うめき声をあげたのは深作、ママのボディブローが決っていた。腹を抱えて猫背になりながら、再び凶器を手にもつ深作。
立ち上がったかと思うと、間髪いれずに深作の後頸部にママのヒジ打ちが炸裂した。
そして床に倒れた深作は動かなかった。気絶したようだ。
美恵は目を見張った。この人は一体?
「ごめんなさいねぇ、欣ちゃん」
「アタシ、こう見えても特捜の刑事さんなの」