城岩ビル全30階
この城岩町一の高さを誇る建造物だ
その周りには、すでに人だかり
太陽にほえまくれ!―さらばジャージ―
「で、どうなってんだよ」
面倒くさそうな笹川。本当にヤル気あるのか?
「はい、屋上に不法侵入し、自殺を図っているのは、元渕恭一35歳、田口電工の経理課長でしたが、先日リストラされたそうです」
淡々と状況を説明する警察官
「悲しきサラリーマンかよ。死にたいって言ってるんだから死なせてやりゃあいいんだ」
「何言ってるんですか!!」
「お、おい天瀬怒るなよ」
「その人、きっと自暴自棄になっているだけです。説得すれば、きっと思いとどまってくれますよ」
「まあ、そうだけどなあ……あーあ、面倒くさい」
そう思いながらも笹川は、天瀬って美人だけじゃなくて優しいんだな、今度デートでも誘おうと心に誓っていた。
もちろん、そんな暴挙、ボスこと桐山にバレたら水の泡だが。
「うるさい!!オレは死んでやるんだぁ!!!」
すでに屋上のフェンスの外側に出ており、飛び降りOK状態の元渕恭一。
「オレのせいじゃない、オレがミスしたんじゃないのに!!あの部長が自分のミスをオレになすりつけたんだぁ!!!」
完全なる興奮状態だ。
「飛び降りてやるよぉ!!飛び降りて、新聞のトップ記事飾って、あいつを……あいつを道連れにしてやるよぉ!!!」
調書によると、学生時代から真面目・勤勉が服着て歩いているようなタイプ。
一流大学出て、一流企業に就職して、順風満帆の人生を送ってきた。それが一転リストラの対象……男の価値は土壇場の底力というけれど、逆境を知らないエリートほど脆いものは無い。
「早く説得しないと」
「えーと……こういう場合どうすれば、いいんだよ?」
「えっ?」
笹川の一言に美恵は耳を疑った。しかも旗上と大木は分厚い本を読んでいる。
「ジャージ先輩、タッチ先輩、こんな時に何読んでるんですか!!」
「……い、いやその……自殺防止説得マニュアルを……」
「………」
本当に事件担当したことあるんですか?思わず喉まで出かかった言葉を美恵は飲み込んだ。
「じゃあ、こうしましょう」
三人は美恵を見詰めた。
「とにかく元渕さんを説得して気を引いてて下さい。その間に私が隙を見て彼を取り押さえますから」
「「「わかった」」」
余談だが、特捜課と、捜査二課の女刑事たち以外は役立たずと定評があるのだ。
フェンスの外側にでる美恵。いきなりの突風。そして、はるか下方に見える人だかり。
「……こ、こわい……」
余談だが、美恵
は正直言って高い所が苦手だった。
チャッチャチャラッラチャッチャチャチャ♪
「「「ん?なんだ、こんな時に」」」
笹川、大木、旗上の携帯に同時着信。
「「「もしもし」」」
『『『オレだ……』』』
それぞれの相手は誰なのか?しかし、確かなのは三人が見る見るうちに顔面蒼白となっていったことだ。
「「「天瀬ーーー!!!
」」」
3人は同時にフェンスを駆け上った。
「元渕さん」
「な、なんだ君は?」
「自殺なんてやめてください」
「く、来るなぁ!!来たら、飛び降りるぞ!!!」
「あなたが死んだら悲しむひとだっているんですよ。ご両親のことを考えて下さい」
「二人とも三年前、フグ食べ放題ツアーで食中毒死したんだよ!!」
「………」
まずい……逆効果だった
「奥さんやお子さんはどうなるんですか?」
「女房と子供は、リストラしたとたん、オレを捨てて実家に帰ったんだよ!!」
「………」
まずい、さらに……逆効果だった
「で、でも……」
さらに説得を試みた美恵、その時――
「「「ちょっと待ったーーー!!!」」」
「えっ?」
いつの間にかフェンス外側にまわっている三人
「「「天瀬、おまえは、すぐ内側に戻れ!!!」」」
と、同時に元渕に飛び掛る三人
「あ、危ない!!こんな危険な場所で、そんな強引な事をしたら……」
「「「「ウワァァァーーー!!!」」」」
「……落ちますよ……」
……遅かった。美恵
の目の前で地上に吸い込まれるように小さくなっていく4人……
ちなみに、ほんの数分前の出来事だ
「あっ、ボス。オレなんかに何の用すか?」
『こんな事件だ。心配は無いとは思うが、万が一、美恵
に傷一つ付けたら、おまえたちをどう処分するのかオレにもわからない。理解してくれるかな?』
「!!!!!!!!!!」
「サンマン刑事、強盗事件の最中に電話していいのか?」
『強盗なんて射殺すればゲームオーバーだろ?それより、オレの美恵
は無事だろうな?もしもの時は顔面1000本ノックじゃすまないぜ。わかってるよなぁ?』
「!!!!!!!!!!」
「デカチョー、一体どうしたんですか?」
『おまえたちの為に忠告しておいてやるけどな。天瀬は、もう特捜のマドンナなんだ。なにかあったら、うちの奴等おまえたちに何するかわからんぞ。だから、あいつには危険なことだけはさせるなよ
』
「!!!!!!!!!!」
「おい、何か落ちてくるぞ」
「ちょっと、あれって人間じゃ?」
「キャーー!!!」
ドスンッ!!!
「……い、生きてる」
「ひっ……怖かったよぉ……」
「……ア、アハハ……人間ホームランだぁ……」
奇跡的にもカスリ傷の笹川、元渕、旗上……
「ジャージが下敷きになってくれたおかげで助かったぜ。サンキュー、ジャージ……って、おい!?」
そこにはスプラッター映画のように顔面破損(真っ二つに裂けてるぜベイベェ)した大木
「お、おい、大丈夫かよ?!」
「……大丈夫……大丈夫……」
な、わけねーだろ!!?
「た、大変だ!!殉職だぁ!!」
大慌てで本署に連絡する笹川。その1分後、パトカー到着。
「美恵
さん!!」
「ギター先輩」
「よかった無事だったんだな!!」
パトカーから飛び降り、美恵
の無事な姿を確認すると、感極まって抱きしめる七原
「……えっ?……あの、ギター先輩?」
「刑事が一人殉職したって聞いて、オレもしかしたら、美恵さんかと思って……本当によかった
」
余談だが、この10秒後にかけつけたボスこと桐山が、美恵を抱きしめている七原を見たとたん瞬時に発砲。
婦女暴行未遂で網走に送るという桐山を、川田がなだめて減給で済んだ事は言うまでもない。
「ふう……さて、と……」
煙草をふかしながら、川田はおもむろに手錠をだした。ガチャンッ!
「……な、なんで僕が逮捕されるんだよ!!僕は自殺図っただけだぞぉ!!」
「殺人の現行犯だ」
こうして大木立道は名誉の殉職、加害者・元渕恭一は現行犯逮捕
メデタシメデタシ