美恵
は桐山が走っていった方角に向かって走った。
だが、すぐにいくつもの分かれ道。
どこに行ったのか見当もつかない。
あれほど響いていた銃声も全くしなくなった。
嫌な予感が頭をよぎる。
美恵
は再び走り出した――。
キツネ狩り―91―
「次はどこに行けばいい?」
『焦らなくてもいいよ雅信。どういうわけか徹は迷っている。
どの道を行くのか決めかねてウロウロしてるんだ。
すぐに追いつくよ。ところで雅信』
「なんだ?」
『彼に会ったらどうするつもりだい?』
「……決ってる。オレの女を汚したんだ、八つ裂きにしてやる」
『……そうか、君の意見も最もだな。徹も可哀相だけど、仕方がない。
殺されても文句の言えないことをしたんだからね』
さも哀れそうに立花はそう言った。
しかし鳴海からは見えないが、立花は満面の笑みを浮かべている。
『ああ、今林の中に入ったようだ』
「……林の中だな」
鳴海は言われるままに林の奥へと足を運んだ。
「しかし、こんな大勢さんで移動してたとはなぁ……」
川田は煙草を1本取り出すと、火をつけながら淡々と答えた。
「ああ、オレと貴子。それに新井田とは随分前に合流できたんだ。
それに七原たちも確認がすんだら、すぐにこの場所に来るだろう」
今、この場所にいるのは川田、杉村、光子、貴子、新井田、国信、幸枝、滝口、聡美、はるか、瀬戸、織田の12人だ。
川田と瀬戸が聡美とはるかを発見した直後に杉村達が現れた。
そして、最初の手はずどおりに滝口達との集合場所に行った。
そこでは、すでに幸枝と織田を伴った滝口が待っていた。
こうして一気に大人数となったというわけだ。
後は、七原、三村、月岡が戻ってくればさらに増える。
三人を待っている間はそれぞれ情報交換だ。
今誰が生きているのか、死んでいるのか、そして転校生の情報も。
死亡した生徒は彼らが知っているだけでもかなりの数だ。
天童真弓はクラスメイト全員が知っている。
さらに9人のクラスメイトがすでに他界した事を、この場にいる全員が知った。
藤吉文世、笹川竜平、南佳織、江藤恵、日下友美子、北野雪子、清水比呂乃、中川典子、旗上忠勝たちだ。。
勿論、他にも死体はあるだろう。
そして転校生たちは、この島を我が物顔で歩いている。
それは間違いない事実だ。
「……まいったな」
それは川田の本心だった。
人数さえ集めれば何とか戦闘態勢をとることもできる。
現に今は12人(七原たちが帰ってくれうば15人だ)だ。
しかし杉村達と違い川田は楽観的に喜ぶことは出来なかった。
何しろ相手は戦闘のプロ。
そしてB組生徒の大半は銃を扱うどころかケンカ一つしたことがない一般の中学生。
あまりにも差がありすぎる。
正直言って川田は人数よりも所持している銃の方が気になった。
自分はかなり当たりの武器だった。野田と幸枝もそうだ。
ちなみに野田の細腕ではマシンガンを使いこなせないだろうという川田の意見に従い、マシンガンは杉村が預かっていた。
(……まいったな。武器もろくにないのに、こんな大人数でいたら敵さんに喜ばれるだけだ)
大人数は目立ち易い。
七原たちが帰ってきたら、適当な建物を選び篭城するのが一番だ。
川田はそう考えていた。
「……桐山くん、どこに行ったの?」
美恵
は思わず木に寄り掛かった。
こうしている間にも2人は戦って……いや、もしかしたら戦いは終わっているかもしれない。
美恵
は自分の無力さを呪った。
あの時、桐山が飛び出した時……すがり付いてでも止めていれば。
あの時、炎の中に飛び込んででも佐伯を止めていれば。
いや……もっと前、あの時……そう佐伯が自分を抱き締めたあの時……。
あの時、すぐに引き止めていれば……。
「……桐山くん……徹……」
(……もう、どうしたらいいのかわからない……)
美恵は顔を押えると、その場に座り込んだ。
……ガサッ……
「!」
その時、背後から物音が聞こえた。
「……あいつからか」
周藤は携帯を取り出した。メールが入っている。
かなり嬉しい情報だった。少なくても、さきほど立花がくれた情報よりは。
「……随分と大人数で固まってくれたようだな」
まとめて点稼ぎができるというものだ。
だが、周藤は決して即行動を起したりしない。
焦る必要はないのだ。
しばらく泳がす。それが周藤のやり方だった。
「……!!」
美恵は咄嗟に振り向いた。 随分と明るくなってきているが、まだ暗い。
しかも林の中、木々が重なり合い影を作っている。
だから、はっきりと見えない。
しかし美恵 は見た。 よく見えないが確かに人影だ。
しかも何か黒光りするものをスッと上げている。
銃口だ!
「……待って!!」
美恵
は立ち上がった。佐伯だ、咄嗟にそう思ったのだ。
「徹でしょ?私よ、天瀬美恵よ。お願い私の話を聞いて!!」
相手はスッと銃口を下げた。 良かった、やっぱり佐伯徹だ。
思ったとおりだ。佐伯は自分の言うことなら聞いてくれる。
美恵は駆け出した。
「……天瀬美恵?」
(……え?)
美恵
は足を止めた。
佐伯の声は……物静かで澄んだ声だった、それなのにその声は……少し低い。
……この声……どこかで聞いた。
そう、どこかで……。
桐山はグッと引き金に力を込めた。
「……後、3人だ」
その時だった――!
桐山は戦闘中とは言え眼前の敵しか目に入らないなどという事はなかった。
それは佐伯も同じだ。
第三者の気配を感じれば、すぐにわかる。
そう、間違いなく、その場には桐山と佐伯しかいなかった。
いや――2人以外の気配など全くなかった。
だが――!
その瞬間を桐山は忘れないだろう。
油断していたわけではない。
まして自分を過信していたわけではない。
そう――断じて。
だが――!
僅か、ほんの僅かな地滑りの音。そして風。
その風と共に現れたかのように。
そうまるで、その空間にフッと現れたかのように――。
桐山と佐伯の間に予期していたなかった者が立っていた。
冷たい瞳で桐山を見据え
手にしたマシンガンの銃口を向け
腰まである髪が風にたなびいていた――。
「……徹?」
美恵
は問いかけるように呼びかけた。
だが、相手は返事をしない。 しかし、ゆっくりと近づいてくる。
「……徹?徹じゃないの?!」
不安と恐怖が美恵
の心の底にフツフツと湧いてきた。
(……違う!徹じゃない!!)
そう思うと同時に相手の姿が見えた。
金色に輝く髪、そして……それ以上に怪しく光る目。
「………鳴…海…雅信……」
美恵
の全身を恐怖が駆け巡った。
「……いや…」
反射的に向きを変えた。
そして走り出していた、全速力で。
「イヤァァー!!」
ぱららら!!
古びたタイプライターのような爆音が響き渡った。
銃口を向けられると同時に小屋の影に身を隠した桐山。
こんなはずではなかった。後少し、たった一発の銃弾で全てが終っていたはずだった。
それなのに全ての状況が一変した。
この男――高尾晃司――の出現によって。
……ズキ…ッ…
肩に痛みが走る。
今の自分では勝ち目はない。
そう判断すると同時に桐山は走った。
「……邪魔だ。さっさと行け」
高尾は振り向かずに、そう言った。
悔しそうに唇を噛みながら佐伯は叫ぶように言った。
「礼を言うつもりはないぞ!!」
「期待してない」
高尾は冷たい瞳で前方を見据えた。
「オレはオレの仕事をするまでだ」
【B組:残り22人】
【敵:残り4人】
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