「……そうかい。だったらやってごらんよ。勝った方が美恵
を手に入れる。
実に簡単な数式じゃないか……」
『認めるわ』
「美恵は、お前なんかに渡さない。 オレが一生をかけて服従させてやる。
……だから、さっさと死ね!!」
キツネ狩り―86―
「ひっ、すみません…すみません…!お願いです。……許して下さい!!」
「僕が聞きたい答えは違うだろ?さあ言えよ、マイクロチップをどこにやった?」
「……お……大井公園の……銅像の右目に……」
「サンクス」
ズギューンッ!!
次の瞬間、男の頭は風穴があいていた。
「……相変わらず、おまえのやり方は薄汚いな」
菊地が非難がましい目で見ていた。
「チップの隠し場所なんて最初から見当がついてたはずだ。
にもかかわらず拷問なんて、おまえ趣味が悪すぎぞ」
「フン、御託を並べる暇があったら、もっと腕を磨いたらどうだい?
それとも僕に手柄を横取りされたのがそんなに悔しいのかい?
だったら遠まわしな言い方をせずにはっきり言えよ。
『おまえのせいでオレは帰ったら親父に殴られるはめになったんだ』……てね」
菊地の視線が鋭く、そして冷たくなった。
「君の立場も理解するよ。君の父上は厳しい人だからね。
でも、仕方ないだろう?この世界は弱肉強食、弱い奴は黙ってやられるしかない。
どんなに吠えても負け犬は負け犬なんだよ」
「……おまえ、ろくな死に方しないな」
「その言葉、そっくりそのまま君に返してあげるよ」
ほんの半年前の出来事を立花薫は愉快そうに思い出していた。
あの時、自分を非難した菊地直人は無惨な死を遂げた。
つまり菊地より自分が正しかったということだ。
そう……この世界では強者が全て。そして強者とは勝者に他ならない。
勝てば官軍。どんな汚い手段を使っても勝たなければ意味が無いのだ。
そして自分は勿論勝つ側の人間なのだ。
「徹、おまえは長く生き過ぎた。そろそろ逝ってもいいんじゃないか?
僕が手を貸してあげるよ。それが戦友たる君へのはなむけだ」
「……あの炎……まさか二人とも、あの中に……」
美恵は目眩がしそうになった。
そばに行けば行くほど、炎は大きく、そして激しく美恵の瞳に映った。
あんなものに囲まれては到底逃げ出すことはかなわない。
急がなければ。
美恵はいざとなったら炎の中に飛び込む決意で走り続けた。
「……移動してるな。……西の集落に向かっているな」
立花は携帯片手に地図に印をつけていた。
「何を急いでいるんだ?ターゲットでも見つけたのか?」
とにかく佐伯の位置は正確に把握できている。立花は、そう確信していた。
(それにしても愛しい彼女をほっぽりだして、そんなに急いでどこにいくんだい徹?
西の集落に何かあるのかな?)
立花は本当に嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「……僕の計画が上手く行けば、君の生意気な顔も二度と見れないだろうね。
そう思うと本当に悲しいよ……心が張り裂けそうだ。
だけど、もし無事に帰ってきたら、その時はその時だ……」
立花はスッとナイフを取り出すと、一気に突き刺した。
――美恵の写真を。
「……その時は君の代わりに彼女が苦しむことになる」
炎の勢いはさらに増していた。
風がさらに炎をあおり、ドス黒い煙が辺り一面に立ち込めている。
「……美恵」
「……!」
美恵の名前を出された瞬間、桐山が一瞬表情を強張らせた。
が、次の瞬間佐伯の腕がスッと伸びていた。
勿論銃口が黒光りしている。
ズギューンッ!!
佐伯が撃つより早く壁を飛び越えていた桐山。
すかさず応戦しようと銃を構え……
「……クッ!」
……る前に右手に激痛が走っていた。
桐山同様壁を越えてきた佐伯の蹴りが桐山の右手に打撃を与えていたのだ。
カラカラッ……と、音をたてながら銃は数メートル先に。
桐山はベルトの後ろに差し込んでいた銃に手を伸ば……
「死ね!桐山!!」
……そうとしたが、ダメだ!
佐伯の踵落としが頭部に炸裂寸前だった。
反射的に腕をクロスさせて、その攻撃を食い止めた。
だが、佐伯の猛攻は止まらない。
スッと、一旦身体を引いたかと思うと、瞬時に蹴撃に転じたのだ。
とにかく一旦身を引かなければ。 桐山は背後に一歩下がった。
その時だ。グラッ……身体のバランスが崩れる感じがした。
何という事だろうか……階段が崩れた!!
ここはレストランの駐車場で、オシャレなレンガ造りの階段があったのだが、手抜き工事をしていたのだろう。
桐山が踏み込んだレンガが崩れたのだ。
瞬時に桐山の身体が背後に向かって転がりかけた。
勿論、桐山は脅威の身体能力の持ち主。
痣と擦り傷を造りながらゴロゴロ転がるなんてマネはしない。
後ろに倒れるかと思いきや、綺麗にトンボを切っていたのだ。
そして、これまた綺麗に着地を決めていた。
だが!着地を決め立ち上がろうとした瞬間、桐山の瞳は一瞬凍てついた。
佐伯徹が満面の笑みを浮かべながら桐山を見詰めていたのだ。
そう……銃を構えて。
「……さようなら桐山くん。今度こそ永遠に」
……美恵、これで終わりだ。
すぐに迎えに行く。もうすぐだ。
佐伯はグッと引き金に力を込めた。
「桐山くん!!」
瞬間、佐伯の表情が一変した。
「桐山くん、いるの!?私よ、天瀬よ!!」
この炎の向こうにいる。
「佐伯徹!お願い、いるなら返事をして!!
私の話を聞いて!お願い、お願いよ!!」
「美恵どうしてここに!?何してる、死にたいのか!?
早くここから離れろ!!」
「……徹?……そこにいるのね?あなたこそ何やってるの?!
早く逃げなさいよ!そんな所にいたら……」
「この集落にはガソリン缶がいくつもあるんだ!!
いつ爆発が起きるかわからない。早く離れろ!!」
「あなたこそ早くそこから……」
チュドォォーンッ!!
「……!!」
突然、激しい爆音が響いた。
佐伯の言ったとおりだ。ここは危険地帯。
たっているだけで地獄へ直行しかねない。
「……美恵!!」
「……痛…ッ」
爆風に数メートル飛ばされたが大丈夫だ。
何とか立てる。怪我もかすり傷だ。
炎の向こうから叫び声が聞こえた。
「美恵、どうした?返事をしろ!!」
「……私は無事よ。だから、あなたも……!」
「すぐに逃げろ!!オレも脱出する。だから、早く逃げろ!!」
炎の勢い。確かに佐伯の言うとおりだ。
ここにいたら、また爆発が起きる。 佐伯の言葉を信じて一旦離れるしかない。
ただ、桐山は、そこにいるのだろうか?
それだけは確認したかった。
だが、炎はさらに勢いを増し、もうすでに佐伯の声も届かない。
確認のしようがない。美恵は悔しそうに唇を噛むと、その場所から離れた。
とにかく佐伯は生きている。脱出するとも言っていた。
その言葉を信じるしかない。
佐伯が無事に脱出したら説得しよう。命をかけてでも。
ズギューンッ!!
「……しまった…!」
佐伯の銃が撃ち落されていた。
「……クソッ…!!」
だが佐伯は気付いた。自分は確かに感情的になっていた。
桐山への殺意に目が眩み、自分の置かれた状況を冷静に判断できなくなるほど。
しかし、突然の美恵の出現により目をさました。
そう自分の身にどれだけの危険が迫っていることに。
こんなことをしている暇は無い。
すぐに脱出しなければ。佐伯はチラッと背後を振り向いた。
レストランの駐車場。2.3台車が止まっている。
その中の1台(スポーツカーだ)に佐伯は走った。
桐山は、佐伯とは反対にレストランの中に駆け込んだ。
レストランの厨房。駆け込むと同時にガス栓目掛けて発砲した。
バァッッーンッ!!
途端に爆発、そして炎。
そして水。そう思ったとおり防火対策として厨房の天井にはスプリンクラーが設置してあったのだ。
急激に上昇した温度に反応して、盛大に水を噴射している。
桐山も全身びしょ濡れだ。勿論、立ち止まっている暇は無い。
桐山は厨房を出ると二階に駆け上がった。
佐伯徹は、あのスポーツカーで一気に炎を抜ける気だ。
佐伯はすでにエンジンをかけていた。
もちろん車には鍵がかかっていたが、そんなもの特殊な戦闘教育を受けた佐伯には一切通じない。
車の鍵をあけエンジンをかけることなど、佐伯にとってはピッキング以上に簡単な事なのだ。
ブロロォォォォ…!!
スポーツカーが勢いよくエンジン音を噴かした。
そして一気にタイヤが回転、即猛スピードで走り出した。
あの炎を一気に飛び越える。スタントマン顔負けの佐伯には朝飯前だ。
とにかく自分の身は安全だ。そして桐山は業火に焼かれて今度こそお終いだろう。
スピードを上げながら佐伯はそう確信した。
そして、ついに炎の中に飛び込んだ。その瞬間だ!!
ドンッ!!
鈍い音がした。何かが車の上に落ちてきた。
「……まさか!?」
桐山和雄か!?
しかし勿論停車して確認などしている時間など1秒もない。
そして次の瞬間には業火から飛び出していた。
バックミラーに炎が揺れる。そして、あっと言う間に小さくなっていった。
ズギューンッ!!
「……痛ゥッ…!」
銃弾が『真上』から佐伯を襲った。左肩がえぐられていた。
やはり桐山だ。あの時、飛び乗ったのだ。
「振り落としてやる!!」
キキィィーッ!!
嫌な音を連続して発生しながら佐伯はまるでアクション映画のスタントマンのように激しい蛇行運転をした。
勿論、車のスピードは全く落ちてない。むしろ上がっているくらいだ。
そして車は猛スピードで……
ドッカァッーン!!
ガードレールに激突、炎上した。
【B組:残り22人】
【敵:残り4人】
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