潮を含んだ風が冷たい
聞こえるのは波の音
そして微かな鳥の声
キツネ狩り―5―
美恵は砂浜を移動。岩場にたどり着いた。
人一人、やっと身を隠すくらいの隙間がある。
セーラー服が汚れるのもかまわず、半ば強引に入り込んだ。
ディパックの中からノート(美恵の私物だ)を取り出し、光が外にもれないようにノートで懐中電灯の光を覆った。
そして、地図を広げてみる。
坂持の下手な絵よりも正確だが、それでも書店に売られているような複雑なものではない。
島の外形と、主な道路、それに目印になるような建物のマークが記してあるだけ。
あとは畑だの集落だの手抜き同然に書かれているだけだ。
E地区に目をやった。
特徴的なのは湾形の海岸、そして、その海岸のちょうど中心部分に岩がある。
そういえば、ここまで歩いてくる時、それらしき大きな岩があった。
そのおかげで美恵は自分の現在地を、かなり正確に把握することが出来た。
そして時間は――午前3時。本来なら夢の中。
もっとも、これが本当に夢なら、どれだけいいか。
先程の教室は――C地区、つまり島の中心部にある小学校だと分かった。
中学校はD地区の海沿いにあるからだ。他に校舎らしき建物はない。
あの5人は、自分達を殺しに来るだろう。そうなれば、担当教官・坂持は無防備になるだろうか?
いや、ざっと見ただけで、10人ほどの迷彩服の兵士がいた。
それに、あらためて思い出してみると、校庭にはヘリが一機あったし、軍用車も数台あった。
他にも、兵士がいるだろう。もちろん坂持たちは武器をもっているだろうし。
とにかく今は仲間を集めなければ。
他の地区はともかく、雪子やはるかは、そう遠くにはいまい。
一刻も早く探さなければいけない。
もっとも、あの5人に出くわす危険を考えると、動きまわることすら難しそうだ。
そうだ、武器……!
美恵は、再度、デイパックの中を見た。ズシリと重い感覚。
銃、大当たりだ。
添付してあった説明書に早速目を通し、弾をつめ、安全装置を外す。
(これがあれば、多少、危険でも何とかなるかも知れない。でも……)
地図に間違いなければ、このE地区は海岸の向こうは林になっている。
ちょっと見ただけでも、明かり一つない。こんな暗闇、動き回った所で体力を消耗するだけだ。
少し考えて、日の出まで待つことにした。
(みんな、どうしてるだろう?)
時計の長針は10をさしていた。
「午前4時かぁ」
リリリリーン!!
「もしもし、こちらプログラム本部。そうか、全員降ろし終えたか」
坂持をガチャンと受話器を下ろした。
「おまえたち、そろそろ行くか?それとも、もう少し、様子をみるか?」
「オレは行くぜ。1000ポイントが、他の地区に行く前に殺っておかないとな」
「オレも行かせてもらうよ。ここで暇をつぶすのもあきたからね」
転校生チームにも、一応ルールはあった。
最初に進行するのは、それぞれ割り当てられた地域。出発した後、24時間は他の地区にいけない。
ただし、その後は、どこに行こうが勝手。
桐山、相馬など、ポイントの高い生徒がいるA地区は菊地直人の管轄だ。
そして、その優男ぶりからは想像もできないくらいの残忍さをB組生徒に見せ付けた佐伯徹はE地区。
当然、大勢の人間の前で、恥をかかせてくれた美恵を狙うであろうことは間違いない。
坂持たちの根城となった、この小学校があるC地区は周藤晶。
三村や川田がいるD地区は高尾晃司。坂持曰く、要注意人物。
そして、その高尾同様、要注意人物とされ、なぜか美恵に異常とも思える執着心をみせる鳴海雅信はB地区だ。
「佐伯と菊地は早速おでかけか。おまえたちは、どうする?」
「オレは寝る」
そう言って、その場に座り込むと同時にディパックを枕に寝そべる周藤。
「おい、いいのか?」
「どうせ、この暗闇の中じゃあ、奴等も動かないだろうし、あせることはないさ。
法が改正されてから、禁止区域も無くなって、時間を気にすることもなくなったしな」
それだけいうと周藤は本当に眠ってしまった。
一方鳴海は黙ってガムを噛みながら、ぎゅっとディパックを抱きしめるように抱えて教室を後にした。
そして、D地区担当の高尾というと無表情で何を考えているかさっぱりだ。
「高尾、先生なぁ、おまえに5万賭けてるんだ。頑張ってくれよな」
少々、面白くない面持ちで、薄目をあける周藤。
佐伯と菊地も同様に坂持を睨んでいる。
政府高官の間で、トトカルチョがはやっているのは知っていたが、やはり高尾が一番人気らしい。
それが周藤や佐伯、それに菊地には面白くなかった。
「ファイトだぞ高尾」
寡黙な高尾に対し、意味もなく燃えている坂持。
が、当の高尾は鳴海以上にシカトを決め込み、教室のドアに手をかけた。
「まてよ、晃司」
周藤は上半身を起こし、やや挑戦的な視線を向けた。
「軍養成施設始まって以来の天才と誉れ高い高尾くん」
「………」
「おまえは今まで、他人に負けたことがないのが御自慢らしいが、ひとつ忠告しておいてやるぜ」
先程、菊地に因縁をつけられた桐山のように振り向かない高尾。
だが、確実に聞いてはいる。
「奴等のなかにも天才はいるぞ」
【B組:残り42人】
【敵:残り5人】
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