いつか三村や杉村と別れる時が来るかもしれない
友達ってものは出会い、そして必ず別れるものなのかな
いや……それは違う
どんなに時が過ぎようと、どんな事があっても
オレとおまえは、ずっと友達だ
そうだよな――慶時。
キツネ狩り―31―
「うわぁぁー!!」
七原は吊り橋のロープに咄嗟に掴まった。
見た目はボロだったが、吊り橋は壊れることなかった。
七原を乗せたままギイギイと耳障りな音を発し、やがて止まった。
「ふーん、結構丈夫なのね。安心したわ」
「……そ…ま」
「七原くーん、戻ってきて」
今だに吊り橋を渡っていない光子が、何事も無かったかのような顔で、そう言った。
「相馬、何するんだよ!!落ちたら、どうするんだ?!」
いくら女に甘い七原でも、これで怒らない法は無い。
「いいから戻ってきてよ」
渋々戻ると「はい、これ」と、再びディパッグを持たされた。
「そんなに怒らないでよ。ちょっと橋の強度を調べただけじゃない」
「相馬……」
「何よ、もしかして、あたしに身体で償えって言いたいの?」
「え”」
「……ったく、しょうがないわねえ。言っておくけどゲームが終わってからにしてよ」
「……ちょ、ちょっと…ま、待て…くれ、よ!!
お、お、オレは…オレは…そんな、そんなつもりじゃ……!!」
所詮、七原が光子に勝負を挑むなど100年早いのだった。
結局、七原は衝撃のあまり真っ赤になって、再び光子の後をついて歩いた。
この時ばかりは、場慣れしている三村を羨ましく思ったものだ。
しばらく歩くと光子が止まった。
「相馬、どうした?」
「C地区よ」
「C地区?やっと着いたんだな。慶時に会えればいいけど」
「国信くん?あんたたちって、本当に仲がいいのね。もしかして、おホモだちなの?」
「な、な…なに言ってるんだよ!!…オレ達は…!!」
クスッと光子が笑った。
「冗談よ。本当に七原くんって、からかいがいがあるのね」
それから今度は真剣な眼差しで言った。
「……少し、羨ましいわ。あたしには家族なんていなかったもの」
「相馬?」
その時、先程まで散々な目に合わされた事も忘れて、七原は不思議な表情で光子を見た。
今まで悪い噂しか聞かなかったが、もしかして相馬は寂しくて悪ぶっているだけの普通の女の子かもしれない。
そう思うと先程まで感情的になっていた自分が、なんだか小さな男に思えてきた。
「国信くん、みつかるといいわね」
「ああ」
――慶時……無事でいろよ
「は、放せぇ!!」
「そうか」
周藤が手を放した途端に国信の身体が一気に引力の餌食と化し、次の瞬間地面に叩きつけられていた。
国信が起き上がるより先に、周藤が飛んでいた。
そして、トンと、ほとんど音も出さずに軽やかに着地し、見下すような目で国信を見た。
「もう一度聞く。今死にたいか?」
「だ、誰が!!誰が死ぬものか!!」
そうだ、こんな所で死なない。秋也や典子さんと一緒に帰るんだ。
良子先生だってオレ達の帰りを待っている。
オレを捨てた両親はどうでもいい。
でも良子先生は、オレの、いやオレと秋也の帰りを待っていてくれてるんだ。
必ず帰る!!
「そうか、今死ぬのは嫌か……それなら、後で死んでもらうか」
周藤が言い終わると同時、目にも止まらぬ早さでナイフが飛んできた。
「…痛っ!!」
右肩をかすめた。学生服は破れ血が滲んでいるが大した傷じゃない。
国信は棒を拾い上げると周藤に打ち込んだ。
が、周藤は余裕たっぷりに紙一重でよけ、さらにスッと右足を出した。
つまずき見事に転倒する国信。
勝てるわけが無い!!
秋也…!良子先生……典子さん……!!
死にたくない、そんな思いで立ち上がると走った。
逃げる、ただ、それだけの行為が今の国信にとって精一杯の戦いだ。
しかし、国信は気付いてなかった。
周藤は追いかけるどころか、助走もつけずに垂直飛びをすると右手で岩の頂上を掴んだ。
そして自分自身の身体を持ち上げるように、一気に岩の上に移動する。
それから逃げる国信の後姿に視線を送ったが、全く追う気配はない。
「アディオス」
そう言うと国信のデイパッグを調べ、例の赤外線装置を取り出すとその場を後にした。
鳴海雅信は暇を持て余していた。
ゲーム開始から早々と殺戮を開始し、わずか半日で多くの生徒を倒した為だ。
もう何時間も生徒を見つけることすら出来ないでいる。
例の24時間ルールのタイムリミットは9時間以上もある。
それまでは、このB地区からでることは出来ない。
雨宿りも兼ねて民家の軒下に腰をおろしていたが、ふいにディパッグから分厚い資料を取り出した。
政府が参考資料として渡した、B組生徒たちのプロフィールだ。
天瀬美恵のページを開いた。
写真の中、これ以上ないくらい明るい笑顔で輝いている。
鳴海は他人を否定する生き方しか出来ない男だ。
軍の裏の、そのまた影の部署に所属し、殺し以外の事を教えてもらっていない人間。
そんな彼にとって、他人を否定する=殺すということに他ならない。
そんな鳴海が初めて、殺すのではなく、手に入れたいと思ったのが天瀬美恵だった。
(必ずオレのものにしてやる。一生、いや永遠にだ)
鳴海を睨んでいる二つの目があった。
――プリーシア・ディキアン・ミズホよ、覚悟はいいですか?
はい、光の神アフダ・マスダさま
――あなたは選ばれし戦士なのです。
――そのスターライト・エクスカリバーは必ずや、あの悪魔を滅するでしょう。
――そして、その聖なるクリスタル・ペンダント(通販で購入したただのガラス)
――それをつけている限り、あの悪魔の攻撃は全て無に帰すのです。
――何も恐れることはありません。
はい、でも……
――どうしたのですかミズホよ?
私と同じ光の戦士だったメグミとカオリは、すでに倒されました。
なぜ光の戦士なのに死んだのでしょうか?
なんと、ミズホは、なぜか第六感で2人の死を感知していた。
アフダ・マスダの神通力か?はたまた偶然か?
――思い出しなさいミズホよ。汝が光の戦士として啓示を受けた、あの日のことを
『ねえ、私たちは光の戦士だったのよ。三人で、この地球の平和を守るのよ』
『み、瑞穂……本気で言ってるの?』
『瑞穂の言うことって、時々ついていけないよね』
そうだ確かに2人は瑞穂の啓示を信じようとしなかった。
――彼女たちは、己の力を信じることが出来なかったのです。
――完全な光の戦士となることが出来なかったのです。
――しかし、あなたは違います。さあ、剣をとりなさい。そして戦うのです。悪と!!
はい、アフダ・マスダさま!!
瑞穂は茂みから一気に飛び出した。鳴海は相変わらず、美恵の写真を見詰めている。
「悪魔ルシフェル!!覚悟しなさい!!」
瑞穂はスターライト・エクスカリバーを振りかざし、悪魔に向かって聖戦を挑んだ。
今こそ、光の戦士として、この地球を守る時が来たのだ。
鳴海雅信は、サバイバルナイフ(民家から調達したものだ)を取り出すと相変わらず、美恵の写真を眺めながら投げた。
ナイフは一直線に飛び、瑞穂の眉間に深々と突き刺さった。
しかし、瑞穂にはナイフは見えてなかった。
瑞穂に見えたのは、聖なる剣で、悪魔を滅した己の雄姿だけだった。
瑞穂はゆっくりと倒れた。光の神アフダ・マスダの声が聞こえた
――ミズホよ。よく、やりました。あなたは悪魔を打ち滅ぼしたのです。
ああっ、アフダ・マスダ様っ!!
――あなたの役目は終わりました。さあ、眠りなさい。
はい
薄れゆく意識の中、瑞穂は確かに見た。
白い翼を持った天使たちが自分をいざなう為に降り立つ神々しい姿を。
こうして瑞穂は光の戦士としての使命を全うし、その魂は天界へと昇っていったのだ――。
鳴海は、相変わらず美恵の写真を眺めていた。
そして、時計を見た。
「……あと、9時間」
【B組:残り23人】
【敵:残り4人】
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