閃光、そして熱風が高尾を中心に一気に広がった――。
キツネ狩り―199―
「あ、あれは……!」
戦艦の窓からもはっきり見えた。
特撰兵士なら、あの閃光の正体は誰もがわかる。
自爆用の小型爆弾の光。
特に高尾が所持しているのは最大級の威力を持つものだった。
『どんな手段をもってしても敵を殲滅せよ。
万が一、戦死するようなことがあれば道連れにしろ』
その命令を高尾晃司は最後まで忠実に遂行したのだ。
人間兵器として生まれ、人間兵器として生き、人間兵器として死んだ。
「……おい秀明」
堀川は無表情のまま島を見詰めていたが、やがて静かに言った。
「高尾晃司戦死、第二作戦に移行する。
全員、第一種戦闘態勢に入れ。行くぞ、今からオレ達の仕事だ」
「……ぐっ」
「きゃぁ!」
爆風が背後から迫ってきた。車が風圧によって大きくバウンドする。
後輪が浮き、さらに車が大きく横倒しになった。
「美恵!」
桐山は美恵を抱きしめた。
「畜生!あのクソガキっ!!」
川田は必死にハンドルを回転させるが、こうなったらもう運転など不可能。
運命を天にまかせて祈るしかない。二転ほどして車は止まった。
しかし、まだガタガタと揺れている。数十秒後、やっと爆風が収まった。
「美恵、大丈夫か?」
「……うん、私は大丈夫。桐山くんは?」
「オレはいい。おまえが無事なら、それ以外は望まない」
「ありがとう……川田くんは大丈夫?」
川田は痛そうにわき腹を抱えていたが、ニッと笑って親指を立てた。
「とにかく出るぞ」
爆発のせいでドアが僅かに変形してなかなか開かなかった。
桐山は強引に蹴りあけると、まず美恵に手を伸ばした。
美恵を外に出すと、今度は川田に手を指し伸ばした。
「立てるか?」
「ああ……しばらくバカンスに行きたいくらいだがな」
それから川田は、「奴は本当に死んだのか?」と言った。
「これだけの爆発だ。こんなこと疑問に思うなんて無意味かもしれん。
だが……死体を確認するまでは安心できない。
例え、1%でも奴が生きている可能性があるならほかってはおけない。
奴は……あいつはそれだけの男だ。1%でも多いくらいだ」
本部長はデスクに額をこすりつけうなだれていた。
「……無敵を誇っていた高尾が負けた。わ、私まで処分される」
騒々しい複数の足音が近付いてきた。
「な、なんだ?」
ハッと顔を上げると、タイミングよくドアが開け放たれた。
「げ、堀川!!」
本部長は立ち上がろうとして、派手にバランスを崩し椅子ごと床に倒れた。
「沖木島プログラムの指揮権は科学省に移行される。
貴様は、ただいまを持ってプログラム本部長の地位を解任。
今後は、この戦艦及びプログラムの指揮権は全てオレが代行する」
堀川は懐から取り出した命令状を広げて見せた。
「何か異論はあるか?」
「……ありません」
「結構だ。おまえの身柄は上が決定するまで謹慎処分とする。
早々に退室して個室で大人しくしていることだな」
本部長――いや、すでにその地位には無い――が退室すると堀川は部屋の中央の椅子に座った。
「政府が用意したプログラム内容だ」
書類が投げつけられる。他の特撰兵士はそれを受け止めた。
「それに書いてある通りだ。質問は?」
要約すると内容はこうだ。
1、対城岩中学の任についた少年兵士は、第二等幼年兵とする。
(その幼年兵達は任務中に戦死したものの死体が見付からず今だ正式に死亡届けがなされて無い連中だった)
2、高尾晃司、以下四名は対テロリストの海外任務中に病死および殉職したものとする。
3、城岩中学の生徒は全員プログラム中に戦死したものとする。
4、桐山和雄に対する処分は国家機密レベルとし終生口外を禁止する。
「質問なんて今さら無いだろう。大体予想はついていた」
「結構だ。行くぞ、川田章吾及び天瀬美恵は殺害処分、桐山和雄は生きたまま捕獲する」
「こ、これは……」
美恵に支えられながら爆心地に歩いてきた川田は目を疑った。
高尾晃司の死体はなかった。何もなかったのだ。
あったのは、高尾晃司が最後に横たわっていた地面に大きくくり貫かれたような穴があっただけ。
半径10メートルの円形状に草一本なかった。
「……肉片一つ、髪の毛一本残さなかったってわけか」
川田は安堵感から一気に脱力し、その場に崩れかけた。
「川田、まだ終わって無いぞ」
桐山の淡々とした言葉に川田は新たな決意を胸に、「わかってる」とはっきり答えた。
迷彩模様の小型ボートが6隻、戦艦から島に向かっている。
もちろん格ボートには、特撰兵士一人及び兵士が数人ずつ乗っていた。
(速水志郎は高尾の死に衝撃受けて個室に引きこもっていた)
目的は川田と美恵の殺害、および桐山の捕獲。
「手段は問わない。桐山和雄の身柄は科学省預かりとする。
だから命だけはとるな。生きてさえいれば後はいい」
和田は無線機を通して、7人の特撰兵士に再度任務内容を伝えた。
無線機越しに和田が「生きてさえいれば文句はないんだな」と念を押してきた。
「ああ、そうだ。科学省は桐山の遺伝子を欲しがっている。
手足が無くなろうと、遺伝子の損傷さえなければ任務に支障は無い」
「そいつを聞いて安心したぜ」
無線機の向こうで和田がニヤッと笑っている姿が容易に想像できた。
ボートは島を囲むように海上を走り続けた。その様子は桐山たちからもはっきり見えた。
「……来たぞ桐山」
「ああ、完全に取り囲まれたな」
ボートは同じスピードで水上を滑走していたが、その中の一隻が急激にスピードアップした。
「随分とせっかちな奴がいるな。どうする桐山?
脱出ルートを決めなければならない。まずは様子を見るか?」
双眼鏡を片手に立っていた桐山は静かに言った。
「時間との勝負だ。グズグズしていたら、それこそ逃げ場がなくなる」
「確かにそうだが、敵を一人に絞るには様子を……」
「先頭のボートに乗っている奴がいい。あいつに決まりだ」
「オラオラ!もっとスピード上げろ!!」
「は、はい少尉殿!」
軍用ボートが砂浜に乗り上げると同時に、さっと血の気の多そうな男が飛び降りた。
「一番乗りは特撰兵士最強の和田勇二様だぜ!!」
和田はスッと左手を背後に伸ばした。下士官がいそいそと拡声器を差し出す。
「聞えているか桐山和雄!!無駄な抵抗はやめて今すぐ出て来い!!
大人しく従えば命だけは保証してやる!!
てめえは科学省に引き取られることが決定した。
ありがたく思え、晃司の代わりにクローン生産してもらえるんだ」
拡声器なしでも聞えるくらいの音量だった。
予想外の申し出に桐山はともかく川田と美恵は驚きを隠せない。
だが、同時に和田は二人が予想していた最悪のシナリオも教えてくれた。
「もっとも、残りの連中は死んでもらうぜ。恨むんだったら、てめえらの運命を恨むんだな!!」
和田が真正面の砂浜に着いたので、他の連中は大きく迂回して各自島の脱出ポイントとなる箇所へと向かっていた。
他の連中が島に到着するまで三分もかからないだろう。
本当に時間がなかった。急がなければいけない。
和田勇二がどんな人間で、特撰兵士の中でどれくらいの位置にいるのかはわからない。
川田は、「あの化け物より上ってことはないだろうが」と呟くように言った。
それは美恵を安心させる為、そして自分自身のためでもあった。
「行くぞ、やるやら早いほうがいい。歩けるか川田?」
「……ああ、なんとかな」
そうは言ったものの、一歩足を踏み出すだけで凄まじい痛みが川田を襲った。
「桐山くん、川田くんにこんな状態で戦闘なんて無理よ」
美恵の言うとおりだ。川田は戦闘どころか、逃げる為の走行すらもはや不可能なのはあきらか。
これだけの傷、そして出血量を考慮すれば意識を保っているだけでも不思議なくらいだった。
「……すまん、下してくれないか」
桐山と美恵は木陰にそっと川田を下ろした。
川田は覚悟を決めたように落ち着いた口調で一つの提案をした。
「……オレを置いて行け」
「川田くん、何を言うの!?」
「……どうせオレはもう助からん。自分の体だ、オレ自身が一番わかってる」
川田はそっと瞼を閉じた。
「だが、おまえさんたちは違う。生き延びてくれ」
「バカなこと言わないで!」
「何がバカなことだ……。未来のある連中の為に大人が引き際をわきまえるのは当然だろ。
昔、どこかの国のお偉いさんがこう言ったことがあるそうだ。
『老兵は死なず。ただ消え去るのみ』ってな。
おまえさん達が生きてさえいてくれれば、オレも一緒に生き続けられる。
命ってのは、肉体的に息ができる状態を維持することじゃない。
自分の信念や魂を後世に伝えられるかどうかだ。そうだろ?」
川田の演説中も、敵は待ってくれない。和田は着実に近付いてくる。
他の連中も、次々に島の各港や砂浜に到着しだした。
不幸中の幸いなのは高尾に匹敵する実力を持つ堀川が島の反対側だったことだろう。
氷室隼人も一番離れた港に向かっている。
もし勝利=運命で決定するというのなら、今、桐山は運命の女神に愛されていた。
高尾や周藤に匹敵する特撰兵士が、自分達から最も遠ざかった場所にいるのだから。
そして激情型の和田勇二が相手というのも、まさに運命の女神の恵みだといえよう。
「川田、おまえを置いてはいかない」
「……ふっ……嬉しい事言ってくれるじゃないか桐山……。
おまえの口から、そんな台詞聞けるなんておもわなかったなぁ……。
だが、おまえなら理解できるだろう、今、オレがどんな状態なのか。
あの騒々しい男はおそらく転校生達に匹敵する兵士だろう……。
軍のエリートを5人も倒したおまえを生きたまま捕獲しようって連中の一人だからな。
オレはお荷物だ。こんな怪我人を抱えて、そんな奴相手に戦えると思うか?
いいか桐山……誰かを助けようとすることは、他の誰かを見捨てることだ。
おまえは、お嬢さんを守ることだけを考えろ……オレのことは考えるな」
桐山は何か考えているようだった。やがて静かに言った。
「川田、オレに考えがある。乗ってみるか?」
「……桐山、それは」
「運が良ければ、三人とも脱出できる」
「堀川大尉、どうしたんですか?」
島に到着するなり堀川は砂浜に直立し、瞼を閉じジッと瞑想していた。
「……ここにはいないな」
「大尉?」
堀川は無線機を取り出した。
「全員聞えているか?」
『どうした秀明?』
「ここにはいない。おまえ達のほうはどうだ?」
『今の時点では結論は出せない。影も形も見えないし気配もない。
オレはおまえや晃司と違って広範囲で気配を感じるなんて芸当はできない。
集落や森を探せば見付かる可能性だって捨てきれないだろう』
「そうか油断だけはするな。半死半生だと舐めてかかれば晃司たちの二の舞になる。
五体満足の状態だと思って容赦なくやれ、それがオレ達の任務だ」
『ああ、わかっている』
「隼人、おまえは安心だ。俊彦、おまえはどうだ?
直人の復讐なんて考えるな。桐山和雄は生きたまま捕獲が絶対条件だ」
『……わかってる』
「薫、まさか徹や晶を殺してくれた礼に見逃してやろうなんて考えて無いだろうな?」
『まさか』
感謝はしてるけどね、と薫は心の中で呟いた。
「攻介、おまえは単純ですぐ熱くなりすぎる。
冷静になって事に当たれ。失敗は許されないのがオレ達の仕事だ」
『OK、OK。わかってるよ、そう念を押すなって。オレだって、この国の頂点に位置する特撰兵士なんだぜ』
「それでいい。勇二、一番心配なのはおまえだ、大丈夫だろうな?」
『な……!』
「繰り返す。大丈夫なのか?」
『て、てて……てめえ……!』
「どうした?繰り返す、任務を遂行できるだろうな?自信がないのなら、今すぐ、オレがおまえの援護に――」
『ふざけるんじゃねえ!オレを誰だと思っている!?
陸軍最強!特撰兵士最強の和田勇二様だぞ!!
桐山和雄?民間人のクソガキなんて目じゃねえんだよ!!
オレは晃司や晶たちみたいな間抜けじゃないんだ!!
あいつらと同じミスなんて天地が逆さまになったってしやしねえ!
取り消せ!殺されたくなかったら、オレに対する暴言を取り消せ!!』
堀川は和田の怒鳴り声が終焉を迎えるまで無線機をオフにしていた。
そして勘で、そろそろ言い終わっただろうという頃に再びオンにした。
和田が何か言ったのか、そんなものは大体見当がついた。
だから、「わかった。いくらでも取り消してやる」とだけ答えた。
『当然だ!』
「おまえを信じよう。早速、全員くまなく桐山たちを探せ。
少々乱暴な捜索方法でもかまわない。桐山さえ生きていればいいんだからな。
桐山を発見次第、即連絡しろ。いいか即だ」
誰もが『了解した』と返答したが、和田だけは面白くないようで返事がない。
「どうした勇二。聞えてないのか?」
『…………』
「指揮権はオレにある。今のおまえの上官はオレだ」
『威張り散らすんじゃねえ!連絡すればいいんだろ!!』
「そうだ。それでいい」
『……ちっ、くそ面白くねえ』
「おまえが面白かろうが、なかろうが関係ない。オレ達の仕事は任務を遂行することだけだ」
『……おまえも晃司と同じ人間兵器だぜ。感情なんてありゃしねえ』
「それがオレだ」
『……オレはおまえたちは心底反吐がでるくらい嫌いだぜ。
おまえたちには自分の意志ってものがないんだ。晃司にしたって、結局は科学省の道具で終わった……』
その時、無線機の向こうの和田の声が爆音により消された。
「勇二?どうした勇二返答しろ」
『畜生!!まだ爆弾仕掛けてやがったのか!!』
「勇二、何があった?状況を報告しろ」
『うるせえ!後で連絡してやる!!』
一方的に無線機が切れた。
『おい、どうする秀明?今すぐ勇二の支援に行くか?』
「いやいい、爆弾は囮かもしれない。一箇所に敵を集め、手薄になった場所から脱出する。
そんなのはゲリラの常套手段だ。
勿論、勇二を倒して突破口を開くつもりでいる可能性も考慮する必要がある。
勇二の支援には隼人、おまえが行ってくれ。オレはここを守る」
『了解した』
氷室はすぐに和田の元に向かった。
その行く手を遮るかのように前方でカッと閃光が炸裂する。
氷室は爆風に飛んで来た瓦礫を全て避けたが同行していた兵士達は、あっと言う間に地面に沈んだ。
しかも、それは一発では終わらない。再び爆音が轟いた。それも島のあちこちからだ。
「随分とご丁寧に仕掛けてくれたようだな」
氷室は無線機で和田に指示を出した。
「勇二、聞えるか勇二?」
『うるせえ!今、こっちは取り込み中だ、話かけるんじゃねえ!!』
確かに悠長に話せる状況ではなさそうだ。無線機の向こうから派手な爆音が何度も聞えてくる。
「勇二、冷静になれ。オレが駆けつけるまで蟻の子一匹逃がすな。
いいか、絶対に誰一人として島から出すな。オレが――」
『うるせえ!!てめの指図は一切受けねえ!!』
プツっという音がした。
「勇二、おい勇二。……あいつ切ったな」
嫌な予感がする、早く駆けつけないと。氷室は全速力で走った。
「和田少尉……い、いったん安全な場所に避難しましょう」
ただでさえ怒りモード全開だった和田は、その言葉に完全に切れた。
「ふざけるな!!てめえら、オレに逃げろって言ってんのか!?」
「い、いえ……そうではなく」
「この特撰兵士最強の和田勇二様を何だと思ってやがる!!
くだらねえこといってねえで、さっさと桐山を探しに行け!!
オレの勘だ!必ず奴は近くにいる!!
さっさと探し出せ!!奴を探してオレに連絡するくらいできるだろ!!」
「は、はい!」
哀れにも兵士達は和田の命令でいつ爆発が起きるかわからない集落に行く羽目になった。
その間にも、爆発によって辺り一面が炎上。
何人たりとも侵入は許さないと無言の威圧感を与えているように見えた。
「おい、まだか!?桐山は近くにいる可能性が高い。
さっさと発見しろ。発見さえすれば、後はオレがやる」
和田は無線機で尚も兵士達を急かした。
『も、申し訳ありません。桐山どころか猫の子一匹姿が見えず……あ』
「どうした?」
『うわぁ――』
「おい、何があった!?」
突然、兵士の言葉が中断され、代わりにザーと雑音が聞えた。
「おい、どうした!このバカ者どもが、ガキのお使いじゃねえんだ!!
こんな簡単な任務もこなせないのか、役立たずどもめ!!」
和田は激怒し、猛然と走り出した。
集落は黒い煙と炎が渦巻く火炎地獄と化していた。
もっとも、いくら和田が猛獣のような男でも火など恐れたりはしない。
彼の怒りの炎にガソリンをぶちまける材料でしかなかった。
煙と炎が行く手を遮り視界が悪い。それが、ますます和田の感情を悪い方向へと刺激したのだ。
バラバラと家屋が崩れ、車両が次々に爆発してゆく。
「どこだ!おい、どこにいる!?」
返事はない。たとえあったとしても、この轟音の最中ではかき消されてしまうだろう。
和田は神経を集中させた。そしてハッとした。
はるか後方に気配を感じる。振り向くと煙の向こうに三人の兵士が見えた。
一人はその場に腰をおろしているではないか。それが和田の怒りのパロメータをさらに上げた。
「てめえら何くつろいでやがる!!時間給じゃねえんだぞ!!
さっさと桐山を探しやがれ!!」
「爆発に巻き込まれて負傷したんです」
「何だと?」
「先ほどの爆発で負傷者が出たんです。それも重傷です。
戦艦の医療設備ではダメです。すぐに本土に輸送しないと。
でないと命の保証がありません。どうしたらいいでしょうか?」
大事な任務の途中なのだ。たかが兵士一人の命など和田にはどうでもいい。
そんなことの為に、自分の感情を害されたことの方が問題だった。
もしも至近距離で、そんな質問されていたら相手の兵士を殴っていただろう。
「そんなこと知るか!!てめえらで片つけろ!!
オレは桐山を探す、そいつを助けたかったらてめえらだけで戻れ!!」
「……しかし任務中なので」
「うるさい、役立たずはっさと帰れ!!オレが許可してやる!!
さっさと衛生兵に話して本土でもどこへでも行きやがれ!!」
「はい」
負傷した兵士の腕を肩に回し、その三人は慌てて退却した。
「ちっ、雑魚が!」
軍用ボートが戦艦に戻るのがチラッと見えたが、和田はすぐに視線を逸らした。
貴重な時間を無駄遣いした。いや、させられたのだ。
「下士官の分際で……任務が終わったら雑兵に格下げしてやる!」
「勇二!」
氷室隼人だった。
「なんで、おまえがここにいるんだ?」
「おまえ一人に任せられないから来た。他の連中はどうした?」
「ふん、あの役立たずどもなら負傷して、さっさと戦艦に戻ったぜ」
「何だと?」
途端に氷室の目の色が変わった。
「島から出したのか!?」
「そうだ。それがどうした?」
「間違いなく軍の兵士だと確認したのか?!」
「確認だあ?」
「顔を見たのか!?まさか軍服を着てるだけで軍の兵士だと信じたのか!?」
氷室は、「しまった」という表情で視線を戦艦に向けた。
戦艦から緊急用の高速輸送機が飛び去ってゆくのが見えた。
「――やられた。まんまと出し抜かれた」
【B組:残り3人】
【敵:残り0人】
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