「……晃司とやるまでは絶対に外さないつもりだったが」

周藤が服の裾を上げた。ベルトのようなものが巻かれている。
桐山は無表情だったが川田は目を見開いた。
「……ま、まさか」
「背に腹は変えられないからな」
そのベルトのようなものを外し放り投げた。
ドン!と鈍い音がして、地面に食い込むように落ちる。
「……お、おもり……だと?」
驚愕する川田をよそに、相変わらず桐山は瞬き一つしていない。
まるで、『それがどうかしたのか?』と言わんばかりの無関心な表情。


「……本当に晃司によく似てるぜ。そこが余計に癇に障る」


そう言い放った直後、周藤が動いた。
まるでオリンピックのメダリストが100メートル走のスタートを切ったような瞬発力。
桐山の目が初めて拡大された。そして腕をクロスさせる。
周藤の蹴りが来る。顔面にだ。そう予測した。
ところが、そう予測した瞬間、周藤の姿が消えた。ハッとする桐山。
背後から空気のうねりを感じ、咄嗟に桐山は左腕を挙げ裏拳を繰り出した。
ギシッと痛みが走る。周藤の脚が腕に直撃していた。


(いつの間に背後に……!?)


その動きは桐山にとっても驚くべきものだったに違いない。
頭部に対する打撃は避けたものの、その為に腕を犠牲にせざる負えなかった。
しかも、それだけでは終わらない。
桐山の身体は宙を舞っていた。周藤のパワーのほうが勝っていたのだ。
「き、桐山!」
川田の目の前で、桐山がアスファルトの車道に落ちていった。




キツネ狩り―182―




ヘリコプターがヘアポートに着陸した。
ここからは車に乗り換える。もちろん軍仕様の特別車だ。
その後は、軍船に乗り換え沖木島に向かう。
「ご苦労様です」
ヘリから降りると、下士官が敬礼して新しい資料を渡してきた。
分厚い書類。そして一枚のDVDだ。
「ご命令通り、沖木島の隠しカメラに仕掛けた全映像をダビングしたものです」
「ご苦労」
氷室はそれだけ言うと車に乗り込んだ。他の六人もそれに続く。
リムジンにも似た大型車の中にはプラズマテレビも完備されている。


氷室は早速DVDをセットし再生した。五人の特撰兵士による殺戮の数々。
民間人の中学生がまるで虫けらのように殺されてゆく様は地獄絵図だった。
それを直視できる段階で、彼等はある意味人間ではない。
もっとも氷室達にとって、殺戮シーンは意味などない。
氷室はリモコンの早送りボタンを押した。
映像が瞬く間に変化してゆく。そして、ある場面になると氷室はボタンから手を離した。
見たかったのは、特撰兵士による一方的な殺戮ではない。
特撰兵士と桐山和雄との戦闘シーンだった。
最初に映ったのは菊地直人。瀬名が悲痛な表情を浮かべ魅入った。


「あいつは民間人なんかに殺されるたまじゃない。どんな手を使ったんだ?」


油断したとしか思えない。瀬名は親友の死をそう捉えていた。
だが、映像に映ったのは偶然の勝利ではなかった。
立花や和田などは軽い気持ちで最初見ていたが、徐々に表情が変わっていった。




「なんなんだい彼は?動きが普通じゃない、僕達と同じ訓練された人間の動きじゃないか」
「おい、どういうことだ?これが一般の中坊かよ?」

桐山和雄の連勝は決してまぐれではないということを理解するのに数分もかからなかった。
極めつけはラストだった。菊地が桐山を倒したと思われた次の瞬間、桐山が姿を現した。
そして菊地が急所に被弾。ジ・エンドだ。


「……単に強いだけじゃない。頭もいい、プロだ」


普段は無口な堀川が簡潔に呟いた。
そうだ、単にパワーがあるとか、スピードがあるとか、そんなレベルじゃない。
次に佐伯との戦闘を見た。佐伯も頭が回る男だ。
むしろ姦計を使わない菊地直人より厄介な相手かもしれない。
その佐伯にも勝った。ただ、とどめを刺す前に高尾が突如として乱入していた。


「……本当に何だよ、こいつ。あの徹がやられるなんて信じられないぜ」
蛯名は、これが偽の映像としか思えないほど驚愕していた。
「……妙だな。徹はとどめは刺されていないじゃないか」
その疑問を氷室が口にした時、立花は別の意味で心臓がビクッと鼓動した。
幸いにも鳴海が佐伯を殺した映像は無い。
(鳴海だって馬鹿では無い。隠しカメラがない場所でやったのだ)


「そ、そんなことどうでもいいだろう。あの怪我だ失血死に決まっている」
「薫、おまえ、少し変だぞ」
「そんなことより、雅信との戦闘シーンが見たい。
彼は徹や直人と違って本能だけで戦うタイプだ、一番やりにくい相手だよ。
その雅信も倒したんだろう?早く見てみたいんだ」
立花は何とか話題を変えた。


「……雅信の奴、随分気が立ってるな。バカめ、だから負けるような目に合うんじゃねえか」
和田は悪態をついた。確かに、その通りだが、雅信は感情が高ぶった方がパワーを発揮するタイプでもある。
その雅信の全力をもってしても桐山は倒せなかった。
DVDの映像は、そこで停止された。桐山の戦闘シーンは、そこで終わりだったからだ。
隠しカメラからダビングした映像は、その後の高尾と杉村・貴子、および三村との戦闘シーンもあった。
しかし、その三人はすでに死んでいる。見る必要はなかった。
必要なのは桐山和雄のシーンだけだ。
それを見た結果、桐山を民間人だと思う人間は一人もいなくなかった。




「奴は特撰兵士……いや、晃司や秀明クラスの人間だと思ったほうがいいな」

それが氷室が出した結論だった。
「恐ろしく手強いぞ。奴一人に三人もやられたわけがよくわかる。
舐めてかかったら二の舞だ。オレ達より、ずっと上の人間だと思って戦うべき相手だろう」
「でも隼人。まだ晶が」
瀬名が周藤の名を口にした。


「晶は妙な自信家だが、かといって強い人間を見くびる奴でもないぜ。
間違いなく全力で倒しにかかる。本気出したあいつに勝てる人間なんてそうそういるかよ」
「徹たちも死ぬまではそう言われ続けてきた人間だ」
「じゃあ晶が負けるっていうのか?」
「そうは言ってない。だが、絶対に勝つともいえない。
万が一の場合は数の上では有利なんて考えずに全力でかかれ。
オレ達に課せられた任務は、殺しより厄介なことなんだ」
全員の表情が歪んだ。
「ああそうだ。クソったれが!殺せってだけなら、どれだけ楽か」
和田が面白くなさそうに爪を噛んだ。














桐山の体が大きく曲線を描き、そしてアスファルトに落ちた。
だが、冷たいアスファルトに叩きつけられる衝撃はない。
代わりに桐山の体の下で、何かが潰れるような感触を感じた。
「……っ」
おまけに呻き声まで聞える。
「川田、なぜ、オレの下でうつ伏せになっているのかな?」
「呑気なこと言ってないで早く起きろ!」


桐山が飛ばされた瞬間、川田は走っていた。
体育での自己最高速度は100メートル13秒だ。
しかし、その時のダッシュだけなら、陸上選手顔負けだっただろう。
そのくらい、見事なスタートダッシュだった。
そして桐山の落下地点に滑り込み、体を張って桐山を直撃から守ったというわけだ。
桐山の落下地点には大型バイクが不法駐車しており、それに頭部が当たった。
痛かったが、痛いなんてわめいている暇もないことは川田は十分承知していた。


「早く起きろ!奴が来るぞ!」
川田の言葉が言い終わらないうちに、それは実現していた。
周藤が大きくジャンプしている。目標地点は桐山の胸部だ。
周藤の飛び蹴り。桐山はそれを受け止めようと構えた。
しかし川田がいち早く反応していた。
「馬鹿野郎!避けろ!」
川田は桐山を突き飛ばした。二人の体の間の距離が一気に開く。
その距離の中に周藤の蹴りが割って入った。


川田の咄嗟の機転で桐山と川田は周藤の蹴りを避けた。
だが、哀れにも二人の身代わりとなったものがいる。
それは、先ほど川田の坊主頭と接触した大型バイク。
こんな田舎の島には不似合いのハーレーだ。
それがガシャンと大きな音をたて、蹴り飛ばされたかと思うと、ガードレールに衝突した。
まだ真新しいボディに大きなへこみができ、さらにハンドル部分が粉々に砕け散った。
バイクには哀れだったが、持ち主に悪いと思う余裕もない。




「撃て、撃つんだ桐山!」
川田はマガジンを取り出した。こいつを桐山に渡さなければ。
今まで桐山にその視線を集中させていた周藤の目が川田に向けられた。
(まずい!)
川田は反射的にマガジンを桐山に向かって投げた。
自分が危害を加えられるのはかまわない。
だがマガジンを奪われるのだけは避けなければならない。
奪われる前に桐山に渡さなければ、と思ったのだが、川田は咄嗟の事で判断を誤った。


川田はマガジンを高々と投げた。周藤が、どんなに高く手を伸ばしても届かないように。
それこそ、ジャンプしても届かないくらいに高くだ。
だから、もう奪われない。桐山に届く、そう思った。
だがマガジンを掴んだのは周藤だった。
周藤は川田がマガジンを投げると同時に走った。
そして、ガードレールを踏み台にして、高く飛んでいたのだ。
ガードレールまでは計算に入れてなかった川田はしまったと心の中で叫んだ。
叫んだが後悔先に立たず。その言葉の意味をこれ以上ない形で川田は思い知らされたのだ。


これでは桐山が手にしている銃など何の役にも立たない。
一連のシーンを見て今度は桐山が動いた。奪われたら奪い返せばいい。
先ほど周藤が仕掛けたように、今度は桐山が跳び蹴りを炸裂させた。
だが蹴りを繰り出した瞬間、周藤はスッと自分の体を持ちあげるように飛んでいた。
桐山の頭上でクルリと回転。さらに両手で桐山の頭部を掴んだ。
そのまま周藤が回転すれば、桐山の首の骨は間違いなく折れる。
桐山もさすがに少し焦ったのだろう。周藤の手首を掴んで強引に外した。
周藤の手が桐山から離れる。だが、反撃を許したわけではない。




周藤は着地と同時に回し蹴りだ。これは避け切れなかった。
「き、桐山……うっ!」
桐山の体が小石のように飛ばされた。
川田にぶつかっていなければダメージは大きかっただろう。
ところが、その二人に向かって周藤が走りこんできた。


「……くっ」
桐山は腕を上げた。ガードの体勢だ。
周藤の脚を今度はしっかり受け止めた。しかし周藤はニヤッと笑みを浮かべた。
桐山の顔が歪む。腕がギシギシと悲鳴をあげる。
耐えられなかった。桐山の体が蹴りのパワーを受け止め切れなかった。
川田ごと、桐山がふっ飛ばされる。
二人の身体は電信柱に衝突してやっと止まった。


「き、桐山……大丈夫か?」
連戦による疲労と怪我。それを考え川田は自分の肉体より桐山を心配した。
しかし、そんな気遣いは桐山には無用だと言わんばかりに立ち上がっている。
ところが、足元が少しふらついていた。周藤をそれを見逃さなかった。
周藤がまたしても攻撃をしかけてきた。
今の無防備な状態で間合いに入られたらやばい。
桐山はナイフを二本取り出した。1本は一直線に周藤に向かって飛んだ。
もう1本は全く見当違いの方向に飛んでいった。
周藤は自分に向かってきたナイフを軽々と掴みきった。


並みの悪役なら、こう叫んでいたことだろう。
「どこに向かって投げている?」――と。
ところが周藤は違った。掴んだナイフを振り向きもせずに背後に投げたのだ。
カチャっという金属音が周藤の背後から聞えた。
周藤が投げたナイフと、桐山が投げたもう一本のナイフがぶつかり合って落ちたのだ。
桐山は闇雲に投げたのではない。
最初の1本は囮だ。周藤を倒す為に投げた本命は外したと思われたほうのナイフだった。


ブーメランのように回転して戻ってきていたのだ。
それは周藤の背中の左、つまり心臓に突き刺さるはずだった。
「残念だったな」
そういいながら周藤の手刀が桐山を襲った。桐山は当然それを受け止めようとする。
だが手刀に気を取られた、その一瞬で周藤は攻撃を変えた。
斜め下から雷のように繰り出される三段蹴り。
最初に腹部、そして胸部、最後に狙うは桐山の頭部だ。


桐山も反射神経はずば抜けている。即座に反応し、腕でボディをガードした。
だが、あまりにも鮮やかな周藤の動きに完全な防御はできない。
頭部、正確には顎に強烈な痛みが走り、桐山の身体はブロック塀に叩きつけられる。
桐山の口の端から血が流れた。
咄嗟に背後に体をずらした為、衝撃を押さえることには成功した。
そうでなかったら、間違いなく顎をくだかれていただろう。
頭部への強烈な一撃は、相当なダメージを桐山に与えた。
頭がくらくらして、眼前にいる周藤がぼやけて三人に見える。
そんな状態でも周藤は容赦ない。
とどめを刺してやるとばかりにメリケンサックを装着して飛び掛ってきた。
しかしエンジン音が響き、周藤はクルッと頭を横に向けた。




「いい気になるなよ小僧!」
川田だった。四輪駆動のジープに乗って猛スピードで突っ込んでくる。
どんな化け物でも生身の人間である限り車には勝てないはず。
「これで終わりだ!」
川田はすでに踏み込んでいるアクセルにさらに力を込めた。
バン!そんな音がした。周藤が、車のボンネットを叩くように手をついた。
と、同時に周藤の体が一気に上に上がった。
フロントガラス越しに川田は特殊なサーカスを見せ付けられたのだ。
そして、周藤の姿が川田の視界から消えた。


「あ、あのガキどこに……」
ドン!そんな嫌な音が川田の真上から聞えた。
川田が見上げる前に、何かが破壊されるような音が耳を突き抜けた。
その音はさらにバリバリと嫌な音を出しながら真上から川田に迫ってくる。
視線を上に向けると視覚いっぱいに手が映り、一気に川田に伸びてくる。
「……ぐっ!
川田の首ねっこを、その手が掴んだ。凄い力だ。
息が詰まり、泡を吹く寸前の状態。それだけでは終わらない。
川田の首根っこを掴んだまま、その手は今度は引っ込んだ。
川田の体が一気に引き上げられ、穴の中に引きずり込まれた。
その穴のサイズは川田の体よりもずっと小さい。


当然、川田の体は引っ掛かったが、そんなことお構い無しにだ。
激しい痛みを伴いながら、川田は車の外に引きずり出される。
そして、投げ飛ばされる。川田は何メートルも飛ばされ歩道に叩きつけられた。
ドライバーを失ったジープは、そのスピードを落すことなくブロック塀に突っ込んだ。
周藤は当然のように、ジープが衝突する寸前に車体から飛び降りている。
強烈な音がして、ジープが爆発炎上した。
その煙で視界が遮られたほんの一瞬、桐山が周藤に体当たりしてきた。


周藤はすぐに桐山の襟を掴むと、強引に引っ張り桐山の体勢を崩した。
ズボッと桐山の腹部に、周藤の膝が食い込む。
桐山の眉が大きく歪んだ。さらに、周藤は桐山の顔面目掛けて拳をうならせた。
メリケンサックというおまけ付き。これはヤバイ。
桐山はさっとナイフを顔の前に上げた。
鈍い金属音がして、ナイフの刃に瞬間的にひびが走る。
間髪いれずに周藤の蹴りが桐山のボディに命中した。
桐山が小さくうめき、そのままワイヤーで引っ張られたように飛んでゆく。
「き……桐山っ」
川田は立ち上がったが足元がふらついている。
桐山は頭からガードレールの向こう側、何メートルも下の道へと落ちていった。














「……終わった」
美恵は川田に渡されたメモを何度も見直した。
大丈夫、ミスは無い完璧だ。
次に起すべき行動を美恵は考えた。
桐山たちの元に駆けつけるか、それとも先に学校に戻るか。
そんなことを考えていると、また煙が上がるのが見えた。


「……また爆発が」


桐山と川田は強い。二人のことは信じている。
それでも一抹の不安が胸を過ぎった。
自分が駆けつけたところで役にはたてないだろう。
でもだからといって自分だけ安全な場所で、ただ待っているのも嫌だった。
二人の邪魔にならないように、とりあえず距離を保ったまま近付こう。
万が一、二人が敗北していた時は、玉砕覚悟で周藤に立ち向かうつもりだ。
美恵は煙が見える方向に向かって一直線に走り出した。














「抜け目のない奴だ!」
周藤が忌々しそうに叫んだ。
川田は何事かと周藤を見る。周藤は自分の懐に手を入れていた。
川田はハッとした。マガジンだ、桐山は最初からそれが狙いだったんだ。
周藤がひらりとガードレールを飛び越えていく。
「に、逃げろ桐山!」
この男のことだ。マガジンを詰める時間なんてくれやしないだろう。
案の定、飛び降りると同時に桐山の手を蹴り飛ばしていた。
マガジンが宙に舞い、さらに下の道路に。
そして、車の開け放たれた窓の中に入っていくのが見えた。


「川田!」
桐山が珍しく大きな声をだした。
「おまえは美恵を連れて戻っていろ!」
それだけ言うと桐山はさらにガードレールを飛び越えて下に落下。当然、周藤もそれを追う。
川田からは何も見えない。足をふらつかせながらガードレールまでくると、車が走っているのが見えた。
その後を、バイクに乗った周藤が追いかけている。
周藤と自分との距離が開く。川田は自分の命が安全圏に入ったのを実感した。
同時に桐山の命がまだ危険地帯にあることも認識している。


「……あいつ、まさかオレの為に?」


単にマガジンを詰める余裕さえ与えられなかったから、距離を稼いでいるのかもしれない。
だが、川田にはそんな気がした。
そして二人の姿はあっと言う間に川田の視界から消えた。

「……あいつ、一人だけかっこつけやがって」

少しは大人に甘えろ、そう言ったのに……。

中学生に守ってもらうなんて、オレのガラじゃない。
そう思いながらも、このふらつく足では立っているのもやっとだと認めざるをえないのも事実。




桐山はバックミラーで周藤を確認。追いつかれるのも時間の問題だ。
アクセルを踏んだまま、片足を上げてハンドルを固定。
両手をフリーにして銃にマガジンを詰める。バックミラーの周藤がフッと姿を消した。
振り向いている暇なんてない。前方は行き止り。
桐山はハンドルを切った。車が急ブレーキをかけながら、ほぼ90度に回転する。
そして一方通行の道路に差し掛かったが、その桐山の視界に再び周藤が映る。
先回りしていたのだ。この狭い一方通行の道路ではUターンもできない。
まして左右とも、建物が建っており逃げ場も無い。
周藤のバイクがスピードアップ。周藤が銃を構えるのが見えた。


パン!と銃声が、その狭い道に響き渡る。
フロントガラスが一瞬で木っ端微塵になり、桐山の姿をさらけ出した。
だが一方通行で逃げ場がないのは周藤も同じ。
今度は桐山の番だ。桐山が銃をスッと上げた。
銃口が鈍い光を放ちながら周藤を睨んでいる。
桐山がトリガーにグッと力を込めたときだった。
バイクが進路を変えた。一気に浮上している。
壁だ。まるでサーカスのように、周藤は建物の壁をバイクで走ったのだ。


バイクが車の後ろの位置に。これはとんでもない不利だ。
桐山は思いっきりアクセルを踏んだ。
一方通行の道を出たと同時に周藤がナイフを投げてきた。
それがタイヤに直撃。パンと乾いた音がして車の車体がガクンと右に沈んだ。
前方に塀。ぶつかる!
塀の横には小道が見えたが、それはとてもじゃないが車が通れるようなスペースではなかった。
周藤は桐山が車ごと塀にぶつかる、そう確信したことだろう。
ところが、バランスを失ったはずの車が、グッと左に傾いた。
そして、左側のタイヤだけで走っている。片輪走行だ。
車は一気に小道を駆け抜けていった。




【B組:残り3人】
【敵:残り2人】




BACK   TOP   NEXT