高尾晃司は、林の中を歩いていた。
「三村信史を片付けたようだな」
高尾はチラッと視線を上に向ける。周藤が視界に入った。
「ああ、今頃は心拍停止しているだろう」
「今頃は?珍しいな、おまえが止めを刺さなかったなんて」
「刺そうとした。だが邪魔が入った」
「あの炎の中に三村を救出しに来たのか?」
「オレと同じように地下を使ったんだろ」
高尾はそばにあった木の幹に背を預け、そのまま腰をおろした。
三村は高尾の逃げ道を全て塞いだつもりだったが、地下までは気が回らなかった。
マンホールから地下に降りて、あの炎に包まれた集落からやすやすと脱出したのだ。
そして、近づくのも困難な焦熱地獄の中を、桐山と川田が三村救出に迎えたのも、同じルートを使った。


「……下水道を通って、三村の元に行ったわけか。
それにしても、素人がよく位置を間違えずに正確にたどり着けたものだな」
「桐山和雄は普通じゃない。オレと同じように生まれながらに戦闘の勘がずば抜けている」
「そうか」
高尾は腕時計の目覚ましをセットした。
「おまえはこれからどうする?」
「30分だけ仮眠する」
「仮眠……か。せいぜい、最後の疲れをとるんだな」




キツネ狩り―165―




桐山たちは、集落から離れた場所にいた。
4、5軒ほどポツンポツンと家がはなれて建っている。その中の一つに五人はいた。
七原はリビングルームから、川田と桐山は二階の寝室から外を見張っている。
光子と美恵は、ダイニングリームに隣接する和室にいた。
女生徒は一番、奥の安全な部屋にというわけだ。


「桐山、飲むか?」
川田がマグカップを差し出してきた。
「まずいコーヒーだが、眠気覚ましくらいにはなるぞ」
「オレは別に眠たくないぞ」
「まあ、そういうな。少しでも疲れを取らないとな」
「オレは必要ない。おまえが飲め」
「やれやれ……」
川田は、桐山の手を取ると、マグカップの取っ手を握らせた。


「いいから飲め。いざという時、おまえの倒れられたら、こっちが困るんだ。
おまえはテストの成績も学年トップで知識も優秀だが、年長者の言う事は聞いておけ。
亀の甲より年の功というだろう。人間、知性や教養だけではダメなんだ。
人生経験豊富なオレの意見をたまには大人しく聞き入れてくれ。
それが人生の大先輩に対する礼儀って奴だろ?
おまえは、ずば抜けて優秀な奴だが、そういう点だけは人一倍未熟だな」
「オレが未熟?」
桐山は何だか不思議そうな表情で川田を見詰めた。




「……おい、なんだ、その顔は?」
「オレは父に常に人の頭を踏みつける位置にたてと教えられてきた。
中学の知識など入学前に全て教え込まれた。今の家庭教師に教わっているのは国立大学の勉強だ」
川田は転校して間もない。その川田から見ても桐山は欠席の多い生徒だった。
そのはずだ。桐山にしてみれば、とっくの昔に卒業したも同然の知識なんか、今さらお勉強もクソも無い。
「学問以外のあらゆることも教わった。護身術もその一つだ。銃の扱いも軍人上がりの護衛から習った」
「そうか……道理で」
「父は、おまえは期待以上だ、これからも上を目指せといった。
何度も言われた。『おまえは誰かに負けることは許されない。常にトップに立て』
それが父の言葉だ。おまえのように、年長者の意見を尊重しろなんてことは一度も言った事は無い」
川田は当然ながら桐山の父親など知らない。
知らないが、たったそれだけの会話で、少なくても温かい父親などではないことは理解できた。


「……他におまえに、そういうことを教えてくれる人間はいなかったのか?」
「他?それは、どういう人間だ?」
「どういうって……父親がダメなら母親だろう」
「母はオレが生まれると同時に死んだ。それしか聞いてない」
川田は懐の煙草に伸ばしかけた手を一端止めた。
「……悪いことを聞いたな」
「何故だ?」
「なぜって……そうだな、例えば、天瀬がもし死んだら」
桐山の表情が僅かに変化した。
「その死因を赤の他人に根掘り葉掘り聞かれたら、おまえは気分いいか?
よく考えてみろ。そして、おまえなりに答をだせ」
桐山は考えてみた。そして言った。




「……良くは無いな。なんだか胸がムカムカする」
「そうだ。それでいい。それが人間なんだ」
「……人間」
「ああ、おまえさんの中にも、人間らしさってのはちゃんと残ってる。
ただ、おまえさんは、それを表現する方法を周りの大人から教えてもらわなかっただけだ。
おまえには親父の他に家族はいなかったのか?」
「祖父がいたが、一度しか会ってない。祖父はオレを見て言った」
「何をだ?」


「『娘には似てないな。父親似か、化け物め』――だ」


川田は取り出した煙草を落しそうになった。それが実の孫に対する祖父の言葉なのか?
それから妙な違和感を、その言葉に感じた。
ちょっと考え、すぐに違和感の答がでた。


「桐山、おまえはもしかして、今の親父の実子じゃないのか?」
「ああ、そうだ」
「……そうか」
それでわかった。桐山と父親との妙に冷たい関係も。祖父が残したという、これまた冷酷な一言も。
桐山は、桐山の祖父にとって、娘の相手としては相応しくない男の子供だったのだろう。
そういう種類の人間が嫌うのは血筋や家柄が釣り合わない相手だ。
おそらく、いや絶対に、二人の仲は大反対されたはず。
しかし、桐山の両親は周囲の反対を押し切って結ばれ、桐山が生まれた。
桐山の祖父は、それが許せない。だから娘の子である前に、憎い男の血を引く桐山が嫌いなのだ。
それを差し引いても、実の孫に『化け物』とは、あんまりだが。




「桐山、おまえは愛されて生まれてきたんだな」
「愛?」
「ああ、そうだ。おまえが、あのお嬢さんに抱いている気持ちと同じだよ。おまえの両親は心から愛し合った。
だから、おまえが生まれたんだ。もし、おまえが将来、あのお嬢さんと一緒になって子供が生まれたら」
川田は煙草をくわえ、マッチを取り出して火をつけた。
「おまえの両親が、おまえを愛したように愛してやれ。
記憶にはなくても、おまえは間違いなく愛されていたはずだ」
「そうなのか?」
「ああ、そうだぞ。それが親ってものだ」


「おまえは不思議な存在だな川田」
「おいおい……オレからみたら、おまえのほうが不思議な存在なんだよ」


「おまえはオレの知らない知識を多く持っている。どこで教わった?」
「……教わるなんてたいそうなもんじゃない。ガキが親を見て、普通に知るものだ」
「そうか、ではオレは普通じゃないのか」
「普通というには、おまえさんは特殊すぎる。だが今のおまえは以前よりも普通の人間に近づいてきている。
自分でもわかるだろう?あの、お嬢さんのおかげだな」
昔のおまえだったら、三村に安らかな死は与えてやら無かっただろう。

(嘘つきめ……か)

川田はふいに、三村の最後の言葉が気になった。
三村は笑っていた。嬉しそうな、それでいて悔しそうな、そんな笑顔。

「三村の奴、最後に笑っていたな」

あの微笑みは、プログラムで死んでいく人間の顔じゃなかった。
学校でいつも三村が見せていたサードマンの顔だった。

「なあ桐山、一つ聞いてもいいか?」
「何だ?」
「おまえ、あの時、三村に何を言った?」














(……三村)
七原は、頭ではわかっていたが、見張りに集中できなかった。
壁に背をもたれ、その場に座り込んで俯いてしまっている。
三村は親友だった。しかし、三村の死のショックは、親友の死以上の衝撃だった。
三村死んで6人が5人になった。43という数字がどんどん減っていくときはこんなこと感じなかった。
6が5になったとき、七原は思い知った。仲間が死ぬという事、勝ち目の無い戦いをする悲壮感。
そして、何より、自分が三村になってしまうかもしれない恐怖。

(いや、オレだったらまだいい。でも美恵さんに何かあったら……)

守ってやりたいと、実際に守りきるのとはわけが違う。
守りたいという気持ちが真実でも、気持ちなんて能力が備わってなければ役に立たない。


「七原くん」
その言葉に七原は俯いていた顔を上げた。
「疲れたでしょう。私と光子が代わるわ」
「いいよ。二人も疲れてるんだろ、一緒だよ」
七原は差し出されたコーヒーをぼんやり見詰めながらそう言った。
「おなかもすいたでしょ。ろくなもの作れなかったけど……」
美恵はサンドイッチを差し出した。
これが何気ない日常なら、喜んで好きな女の子の手作りを味わっていた。
でも今はそんな気になれない。
「……ごめん、せっかくだけど」
「何言ってるの。いざというとき動けなかったら」
「そうよ。今も真っ青で見てるこっちが不安になってくるわ」
七原はハッとした。
(……いけない、オレがしっかりしないと。守ってやるべき相手に励まされてどうするんだよ)
七原はサンドイッチに手を伸ばした。


「ありがとう」
美恵はホッとした。七原が笑ったから。
「桐山くんと川田くんにも上げてくるわね」
美恵がサンドイッチを乗せた皿を持って二階に上がっていくのを七原は目を細めながら見ていた。
「……美味しいな。ちょっと辛子がききすぎてるけど。……美恵さんの手作りか」
「あら、違うわよ。美恵の手作りは桐山くんと川田くんに持ってった方、そっちはあたしが作ったの」
「……え?」














二人がいる部屋の前に立って、ドアをノックしようと右手を上げた時だった。
「おまえ、三村にそんなこと言ったのか!?」
川田の驚いた声が聞えてきた。
(三村くん?)

何を話しているんだろう?

「ああ、言った。七原は三村が喜ぶことを言えといった。だから言ったんだ」
「……おまえ」
話の内容からして三村の最後のことのようだ。桐山は淡々としてるが珍しく川田が驚いている。
「……桐山、おまえ」
美恵からは見えないが、川田は思わず煙草を落しそうになっていた。
「……く」
川田は、もう笑うしかなかった。


「アハハハハ、全く、おまえってやつは。負けたよ、おまえには」
あの寡黙な川田が笑っている。美恵には、それも驚きだった。
やがて笑い声は止み、今度はうって変わって真剣そのものの川田の声が聞えてきた。
「……全く、おまえは多分、深く考えないで言った事だろうが、一歩間違ったら嫌味だぞ」
「三村は喜ばなかったのか?」
「さあな。嬉しかったかもしれなかったし、そうじゃなかったかもしれない」
「おまえにもわからないのか?」
「ひとの気持ちなんて、他人どころか本人にもはっきりわからないものなんだ。
だがな、これだけは言っておく。この事は、あのお嬢さんには言うな。
お嬢さんは優しいから、悲しむかもしれない。いいな?」
「ああ、わかった。どうしてかはわからないが、おまえがそういうなら、それが正しいのだろう」
美恵は、成り行きとはいえ盗み聞きをしてしまった気まずさもあり、サンドイッチをそっとドアのそばに置いて立ち去った。
全てを知りたいという気持ちもなかったではないが、それ以上に、自分が足を踏み込むべきではないと思ったのだ。














「……あそこか」
周藤は双眼鏡を通して、ある家に注目していた。
何の変哲も無い人家。だが、直感でピンときたのだ。
もちろん、直感だけではない。周藤が、その人家が怪しいと断定した理由もある。
「あの家だけが家中カーテンが閉まっている」

当然だな。姿を見られるわけにはいかないだろう。
オレが素人なら区別もつかず一軒一軒調べたが、生憎とオレはプロなんだよ。

「残り5人、まともにオレと戦えるのは桐山と川田だけ。他の3人を守りながらオレと戦うのは至難の業だろうな。
だが、こちらとしても、手加減してやるつもりは毛頭ない」

5人まとめて片付ける。いや、まずは最初が肝心だ。一気に奇襲をかけて、桐山以外の四人を殺す。
桐山はその後だ。あいつだけは、あっさりと片付けられはしないだろう。

周藤の背後で物音がした。周藤は振り向かずに言った。


「仮眠するんじゃなかったのか?」
「30分した。もう十分だ」
「そうか」
周藤は面白く無さそうに口元を歪めた。
「おまえも、すぐに攻撃を仕掛けるのか?」
「ああ、全員揃っているからな。もう決着をつけてもいいだろう」
「簡単にはいかないぞ。桐山和雄はⅩシリーズ並の戦闘センスの持ち主だ。
油断した直人や、くだらん感情に溺れた徹や雅信のような失敗をおまえがするわけない。
だが、それを差し引いても特撰兵士を3人も倒した男だぞ。おまえは桐山和雄を予定通り殺せると思うのか?」

「晶、おまえは誰に向って口をきいている?」
「……それでこそ高尾晃司だ」














「桐山、少しは休め。用心深いのはいいが、敵とやりあってない時に神経を疲労させるべきじゃないぞ」
「……静か過ぎる」
「桐山?」
「三村と転校生がやりあってから42分経過した。
連中はオレ達を探しているはずだ。だが、今だに何も仕掛けてこない」
「まだオレ達の居場所を把握してないんだろう。だから、今のうちに少しでも休んでおけ。
トラップを仕掛けてあるだろ。連中が近づいてきたらトラップにかかるはずだ」
「…………」
桐山は少しだけ窓を開けた。
「おい、桐山」
川田は慌てたが、桐山はナイフを、その窓の隙間から飛ばした。
トラップに仕掛けた糸が切断され、缶が小さな音を立てて草むらに落ちた。
静かだった。何も異変は無い。だが桐山はすぐに立ち上がった。


「この家を出るぞ」
「桐山?」
「奴等が来ている。一刻も早く、この家を出るんだ」
「どうしたんだ?」
「小鳥が飛ばなかった」
その言葉に川田はハッとした。草むらには小鳥が大勢いた。だが飛ばなかった。
ただの一羽もいなくなっていた。それは、小鳥が何かに怯えて、とっくに飛び去っていたからに他ならない。
二人は階段を駆け下りた。
「どうしたんだよ、二人とも血相変えて」
「すぐに出るぞ!武器を持て!とりあえず武器だけでいい、他の物は置いていく!」
5人は、すぐに車を止めてある裏口に回った。




「すぐに車に乗ろう!!」
七原が車に近付いた。
「下がってろ!!」
「え?なんだよ桐山、早く逃げないと……」
「伏せろ!」
桐山は美恵を抱きかかえ、その場に伏せた。それを見て川田と光子も伏せる。七原も思わず伏せた。
直後だった。車が大爆発を起こしたのは。
危なかった。立っていたら爆発をまともに食らうところだった。


「こっちだ!」
桐山は、美恵の手を引いて走った。家の陰に飛び込む、3人も後に続いた。今度は銃声だ。
「て、転校生がきたのかよ!畜生、いつの間に!!」
七原は悔しそうに叫んだ。
「トラップはどうなったんだ。奴等が近付いたら引っ掛かって合図が出るはずだっただろ!?
それに爆弾トラップだってあったんだ。爆発どころか、物音一つしなかったぞ!!」
「残念だが七原、相手はプロだったってことだ!」
「そんな川田!」
「文句を言う前に、おまえも銃を取れ!!」
桐山と川田はすでに銃で応戦している。七原はハッとして銃に飛びついた。


「どっちなんだよ!あの長髪か、それとも慶時を殺した奴か!?」
銃声が鳴り響く中、はるか背後でカチっという無機質な音がした。
他の四人は聞えなかったが、絶対音感を持つ桐山には聞こえた。
「両方だ」
「え?両方?」
「後ろにもいるぞ」
ぱららら!!今度は、タイプライターのような音が鳴り響いた。




「何なんだ!あいつら、何なんだよ!畜生、二人かがりなんて卑怯だぞ!!」
「落ち着け七原!仕方ない、一端、家の中に戻るぞ!!」
このままでは鉛玉のシャワーの餌食になるだけだ。
5人は一端、家の中に戻った。戻ったが、あくまでも一時的なもの。
すぐにでも家から出なければ。ここにとどまっていれば、逃げ道を完全に失う。
敵は左右から挟み撃ちをしてきた。どちらかに狙いを定めて突破口を切り開かねば。
どっちだ?どっちにしても無傷ではすまないだろう。
下手に飛び出しては、背後から攻撃を受ける危険がある。


「川田」
こんな時でも、桐山の声は冷たく静かなものだった。
「奴等の現在位置は、こことここだ」
桐山は、リビングルームの家具の上にあったガラス細工の置物を敵に見立てて説明した。
「奥の部屋の窓から裏山に向かって逃げるんだ。家の陰になるから、取り合えず銃弾の的になる事は無い」
「確かにな。すぐに裏山の林に飛びこめば。あいつがすぐにでも追いかけてくるだろうが。
だがな桐山、これは敵が一人ならの場合だ。確かにあいつからは一時的に逃げられる。
しかしマシンガンの奴からは格好の標的になるんだぞ」
「マシンガンの方は心配いらない」
「理由をいえ」
「奴はオレが引き止める。だから、おまえ達にかまっている暇は無くなるはずだ」
桐山の提案に美恵は慌てて、「ダメよ!」と叫んだ。


「ダメよ桐山くん!!もう離ればなれになるのは!!
残っているのは、もう私達5人だけなのよ。二度とバラバラになるべきじゃないわ!」
「そうだぞ桐山!美恵さんの言うとおり戦う時は全員一緒だ!」
「だったら七原、おまえは、他に名案があるのか?」
七原は、思えず「うっ」と言葉を詰まらせた。
「無い様だな。だったら、オレは行く」
「待つんだ桐山!!」
今度は川田が止めた。


「桐山、あのマシンガンはおそらく高尾晃司だぞ!!」
「そうか、ならば、その高尾晃司を倒せばいい。
遅かれ早かれ、奴は倒さなければいけない。それが早まっただけだろう?」
「ああ、そうだ。だがな、それは全員で力を合わせての話だ!
単独で奴を倒そうなんて思うな!!死ぬだけだぞ、三村のように!!」
「オレが負けるといいたいのか?」
川田は一度唇を噛み締めたが、意を決したように非情な答をはいた。
「ああ、そうだ。おまえは負ける」
冷たい空気がその場に流れていた。
美恵も、光子も、七原も、恐怖の色を瞳に浮かべ、言葉を失っていた。


「以前のおまえなら……勝つ可能性もあったかもしれない。
だが、今のおまえでは奴には勝てない。勝てない理由があるんだ」
「どういう意味だ?」
川田は、無言のままスッと指差した。その先には美恵がいた。

「……美恵?」
「そうだ」

「どういうことだ?なぜ……」
「高尾晃司の強さは、徹底して非情になれることだ。
愛情ってものを知らずに育った。だから、何か執着する事がない。
自分の命にさえだ。だから、何の迷いも無く、ただ敵を倒す事しか考えない。
おまえも高尾と同じ種類の人間だ。以前のおまえは高尾と同じだった。だが……」




「今のおまえには執着するものがある。人間、愛するものが出来ると弱くなるんだ。
守るものが何も無い人間の無機質な強さほど厄介なものはない。
大切な人間がいると、そいつと生きたいと思う欲が人間には芽生える。
その想いが自分でも気づかない内に、自己保身というブレーキをかけるんだ。
心のどこかで自分の命を守る為にあらゆる面に迷いが出る。
その迷いが高尾には全く無い。敵を倒すことしか頭にない人間なんだ。
敵を殲滅する為なら、自分の命すら計算しない人間におまえは勝てると思うのか!?」


「そうか。オレは負けるのか」
「ああ、そうだ。だから一人で無茶な行動は……」
「川田、美恵のことは頼む。オレも、全てが終わったら後を追う」
桐山は歩き出した。川田は当然ながら慌てて後を追った。
「おい桐山!!オレの話を聞いてなかったのか!?」
「聞いていた。今のオレでは勝てないんだろう?」
「ああ、そうだ。だから別行動は……」
「川田、オレにはよくわからないんだ」
「桐山?」
「父の言うとおりに生き、自分で何か答を出した事は一度もない。ずっと、そうだった。美恵に会う前では」
「…………」
「今度も事もそうだ。よくわからないし、勝つ自信もない。
おまえも言うとおりかもしれない。オレは以前のオレよりも劣っているかもしれない」


「だが、美恵を守る為なら、オレは以前よりも強くも非情もなれる」




【B組:残り5人】
【敵:残り2人】




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