「……新井田くん、あんた、あたしにケンカ売ってるの?」
光子は、その美しい顔で、妖しい笑みすら浮かべていたが、目は笑ってなかった。
それどころか、とても冷たい光すら放っていた。
「……うっ!」
新井田は、その敵意に満ちた視線をもろに受け、思わず一歩下がった。
新井田が臆病者だったわけではない。
はっきりいって、光子よりずっと背が高く拳法の達人である杉村だったとしても結果は同じだっただろう。
そのくらいの迫力が光子にはあった。普段の新井田だったら、すぐに尻尾を巻いて逃げていた。
だが今の新井田は違った。ここ一番の根性を出していたのだ。


「だ、だって、そうだろう!転校生に捕まっておきながら殺されないなんて不自然じゃねえか!
きっと、何か取引があったって思うのが普通だろ?そうでなければつじつま合わないぜ!」
新井田はどもりながらも言い切った。
「……た、確かに……言われてみれば妙だな」
「相馬さんが嘘言っているようには見えないけど、おかしいよね」
ちらほらと、新井田の意見に賛同するような声が上がっている。
もちろん光子を恐れているのか、はっきりと声を大にする者はいないが。
「だろ?オレだって、こんなこと言いたくねえよ。でも、こんな時だ。
念には念を入れとかないとな。でなきゃ全滅しちまうぜ」
光子の視線が痛い。おまけに貴子まで『あんたごときが何言ってるのよ』と睨んでいる。


胃液が逆流しそうだ。でも、オレは負けないぜ。
何ていったって、オレにはあのひとがついているんだ。
いずれ逝っちまう、おまえたちとは違うんだよ。


『相馬光子がオレの命令に従えばそれでいい。だが、あいつはおそらく裏切る。
その時は、おまえの出番だ。せいぜい相馬が疑われるように熱弁ふるってやれ。
ただし、疑心が湧く程度でいい。あまり深追いするな。
おまえみたいな馬鹿が調子に乗ると、言わなくていいことまで言ってボロを出すからな』



ほんの数分前に周藤から新たに入った命令が新井田の脳裏に何度も反復されていた。




キツネ狩り―141―




「桐山くん、痛くない?」
「ああ、大丈夫だ」
ソファに横になっている桐山をかいがいしく世話している
二人を見詰めながら川田は半分安心し、半分呆れていた。

(まったく……オレがあれだけ言っても大人しくならなかったのに。
その、お嬢さんがそばにいるだけで借りてきた猫状態か。
本当に恋は盲目だな。それも本人も全く自覚がないとは)

だがが見付かって心底嬉しいのは川田も同じだ。
クラスメイトが一人無事だったことも勿論だが、これで桐山は大人しく協力してくれるはず。
クラスメイト達との共闘を拒み続けていた桐山だったが、が見付かった以上、今後は協力してくれるだろ。
転校生五人のうち三人は死んだ。残りはたったの二人。
だが、その二人が厄介だ。傷だらけの桐山が単独で戦って勝てるレベルでは無い。


、どこに行く?」
洗面器を持って立ち上がったの腕を桐山が慌てて掴んだ。
「水を取り替えてくるだけよ。傷の手当てしないといけないもの」
「そんなものいいからそばにいろ」
「そうはいかないわ。大丈夫よ、キッチンはすぐ隣じゃない」

やれやれ、ほんの少し離れるのも嫌か。
まあ、無理もないな。ゲーム開始以来ずっと捜していたお姫様だ。

「桐山はなしてやれ。キッチンは、このリビングから見えるだろ。
全く、おまえは過保護だな。安心しろ、そのお嬢さんはもうどこにも行きはなしない」
桐山はやっと手を離した。川田の言うことにも素直にきくようになっている。
がはなれたのを見計らって川田は桐山のそばにきた。そして少し厳しい表情で口を開いた。




「残っている敵は二人……勝てると思うか?」
「誰だろうと倒せばいい。それだけだ」
「やれやれ……簡単に言ってくれるな。その自信が羨ましいよ」
川田はやや躊躇ったが、とんでもないことを口にした。
「オレは一年前に、このクソゲームに放り込まれた」
桐山がどう思ったのかは、表情からはわからない。
「そうか、おまえは経験者だったのか。優勝者だから場慣れしていたんだな」

『優勝者』という単語には二つの意味がある。
一つはクソゲームの生き残りであること。
そして、もう一つは、生き残る為にクラスメイトを殺害した人間だということ。
桐山は深く考えずに、前者の意味で言ったのだろう。


「ああ、そうだ。オレはゲームの優勝者だ」
川田は続けた。
「オレは……転校生の一人に会ったことがあるぞ」
桐山の瞳が僅かに揺れた。驚いているのだろうか?
「前のプログラムで会ってるわけはないな。どこで会った?」
プログラムで会っていたら、川田と転校生が揃って生きているはずがない。
それに坂持は言った。常に転校生側の勝利だったと。だから川田のプログラムは改正前の旧プログラムだ。


「全然違う場所でだ。スラムで医者の息子なんてやっていると色々な奴に会うんだよ。
最初におまえを見たときは、一瞬、おまえが、あいつかと思った。そのくらい雰囲気が似てたんだ。おまえと奴は」
「どっちだ?」
「高尾晃司。あの長髪野郎のほうだ」
「そうか」
桐山は天井を見詰めながら淡々と答えた。
「どうした。まだ話は続くんだろう?」
「そうだな。オレも当時はガキだったが、奴はもっとガキだった」
川田はゆっくりと過去を語りだした。




「オレがスラムにいた頃に、怪我をした男が路地裏に迷い込んだことがあってな。
真夜中だったこともあったが、何より、その男はわけありだった。
だから、正規の病院ではなく、オレの親父のところに運ばれてきた。
オレの親父はまともな病院には行けない、わけありの患者を時々診てやってたんだ。
ガキのオレにもわかったよ。その怪我はチンピラ同士のケンカでついたものじゃないって。
だが、親父は何も言わなかったし、オレも何も聞かなかった。
あまりにも幼すぎるオレは、まだ知ってはいけないことだと理解してたんだろう。
その男はしばらくうちに入院させることになったんだ。
まあ、入院施設なんかない貧乏医院だ。ただ、二、三日泊めてやるだけのことだった。
男は軽傷だったらしく、すぐに動けるようになった。動けるようになると、男はすぐに出て行こうとした。
だが、頑固だった親父は、完全に傷がふさがるまでは絶対に許さないという。
男は言ったよ。『オレがここにいると、あんたたちに迷惑がかかる』と。
男は何かに怯えていた。逃げなければ、いずれ追っ手が来ると何度も言っていた」


「追っ手?」
「ああ、オレは夜中に親父とその男が話しているのを見たんだ。
男は反政府活動をしていたらしい。それも過激な方法で。
政府の要所に侵入して、その怪我はその時にできたようだ。
だが、傷と引換えに、政府の重要なデータを盗むことにも成功したと言っていた。
なんとか逃げ切ることにも成功したらしい。それなのに、その男は怯えていた。
政府のお尋ね者になったとはいえ、あの怯え方は異常だった。
奴は言ったんだ。『オレが侵入したのは科学省の施設だった。必ず、奴が殺しに来る』と」














「あんた、あたしをそんな目で見てたのね」
「見てたも何も、おまえだから信じられないんだよ!」
「あたしは光子より、あんたのほうがよっぽど信じられないわよ」
「な、なんだと千草!おまえ、いちいちオレの言うことに逆らいやがって!!
そんなにオレのこと嫌いなのかよ!ええ!そうなのかよぉ!!」
「当たり前でしょ!はっきり言って、あんたなんか死んで欲しいと思っているくらいよ!!」
「なんだとぉ!千草、てめえ!!」
「あら貴子の言うとおりよ。はっきり言って空気の無駄遣いよね」
「相馬ぁ!!やっぱり、おまえ転校生とグルだったんだな!!
クラスメイトのオレの死を願っているおまえらなんて仲間じゃねえよ!!」


「いい加減にしろよ、おまえら!!」
七原がたまらず三人の中に割って入った。
「こんな時に言い争ってる場合じゃないだろ?新井田、おまえの気持ちもわかるけど、相馬だって仲間なんだ。
それを崩すようなこと言わないでくれよ。今は一致団結するしかないんだぞ。
川田も桐山もいないんだ。仲間割れしてどうするんだよ」
「じゃあ、聞くが七原。おまえは、どう思うんだ?」
「え?ど、どうって?」
「もしも相馬の言うことが正しいとしてだ。この後、どんな行動とるべきだと思う?」
「ど、どうって……川田はここで待ってろって言ったんだぞ」
「川田は待ってろって言ったが、転校生に見付かった場合を想定した指示は出してねえんだろ?」
「そ、それは……そうだが」


川田がここにいろといったのは、はぐれた場合の待ち合わせ場所としてのつもりでいったことだ。
転校生に攻撃された場合はどうすればいい?
川田はここにいない。川田がいない以上、自分達で考えなければならない。


「なあ、どうする三村?おまえなら、名案すぐに浮ぶだろ?」
「そうだな……」

三村は意味ありげに新井田と光子を交互に見た。
はっきり言って、光子を100パーセント信用できるかといえば、そうでもない。
こんな時だ。新井田の言うとおり、自分の命を守る為にクラスメイト売っても不思議じゃない。
だが、光子は転校生がわざわざ自分から逃がしたことを正直に告白した。
もしも裏があるのなら、疑われるようなことを正直に言うわけがない。


(相馬が言っていることはおそらく真実だろう。
だとしたら、この近くに転校生がひそんで様子を伺っているはず)


「三村!考えている暇なんてねえんだよ!!
さっさと、ここを出ようぜ。でないと、相馬から連絡受けた転校生が来るかもしれねえぞ!!」
「いや、ここから出るのは危険だ」
三村はそう判断した。
「この暗闇の中、相手がどこにいるのかもわからないのに外にでるのか?
それこそ、攻撃してくれと言ってるようなものじゃないか。相手の姿が見えない以上でるべきじゃない。
それよりも全出入り口の警備を強化するのが最優先だ。第一、国信は寝込んでいるんだ。無理はさせられない」
「そうかよ!全く、オレはしらねえぞ」
新井田は、「おまえらなんかと心中は真っ平だぜ」と捨て台詞を残して部屋を後にした。
「お、おい新井田」
後を追おうとする七原を三村が止める。
「今は何をいっても無駄だ。あいつは小心者だから苛立ってるんだろ」














「男はスラム街の片隅に建っていた廃工場の倉庫にしばらく身を隠すことになった。
汚い場所だったが、扉は鉄製で、中から施錠ができたし、頑丈な造りだったからな。
男は中から鍵をかけた。つっかい棒までしてた。
重機でも持ち出して壁か扉をぶっ壊しでもしない限り、倉庫の中には入れない。
その倉庫は窓もなかったしな。いや……一つだけあった。
だが、その窓は明かり取り用の小さな窓で、天井に近い位置にあった。
梯子でも使わなければ届かない。たとえ届いても、男が恐れるような追っ手が入ることはまず出来ない」


「なぜだ?」
「明かり取りの為だけの窓だ。サイズが小さかったんだよ。
そうだな……せいぜい小さい子供がやっと通れるくらいの窓だった。
とてもじゃないが、大人が通りぬけできるようなしろものじゃない。
男が倉庫に身を潜めて二日後だった。スラム街を歩いていると、チンピラの声が聞えたんだ。
路地裏から、『金だせよ。ガキだからって容赦しねえぞ』ってな。
聞いたことがある声だった。スラムじゃあ名の知れた不良のリーダーだったんだよ。
オレは、すぐに路地裏に駆けつけた。そして呆気にとられた。
そこにはチンピラどもが気を失って倒れていた。7人もいたのに全員白目を剥いてノックダウンさ。
オレは、路地裏の角を曲がった。そこにガキが立っていた。
最初は、このガキもオレと同じように偶々この現場に居合わせた目撃者だと思った。
だから声を掛けたんだ。『おまえ、あいつらを倒した奴の顔見たか?』ってな。
だが、オレはここで妙なことに気付いた。オレは路地裏から誰かが出てきたのを見てない。
そして、この路地裏の奥は角を曲がれば行き止まりだ。
高い塀がたっていて、梯子やロープでもない限り、とてもじゃないが超えられない。
少なくても、そのガキには不可能だ。いや、チンピラたちはほんの十数秒前にはカツアゲの最中だった。
そんな短時間で、道具も無しに塀を飛び越えて消え去るなんて大人でも出来ない」


「オレは、もう一度聞いたんだ。『あいつらをのした奴を見なかったか?』と。
オレは、そのガキに何か得体の知れないものを感じていた。
今ならわかる。あれは恐怖感だった。だから言って欲しかった『ああ、見た』と。
オレの想像を否定して欲しかったんだ。だが、そいつがゆっくりと振り向いた瞬間、オレはさらに恐怖した。
そのガキの目は……子供の目なんかじゃなかった」


「どういうことだ?」
「おまえと同じだ桐山。何も無い色をしてたんだ。あんな目は大人でもできやしない。
オレは思わず息を呑んだ。そのガキは言った。『わき腹に怪我をした男を見なかったか?』と。
オレは思わず、『あのおじさんのこと知ってるのか?』と答えた。
答えてすぐに後悔した。直感で言うべきではなかったと思ったんだ。
ガキは、『そいつは今どこにいる』と聞いてきた。オレは嘘を吐いてやったよ。とっくに街から出て行ったってな。
だが当時のオレはほんのガキ。おそらく顔に嘘だって書いてあっただろうな。
そのガキから目をそらして、どもりながら答えたんだ。どんな馬鹿でも嘘を言っていると気付くだろう。
オレはどうしたらいいかわからなくて俯いた。オレのせいで、あの男を危険にさらすと直感したんだ。
はじめに言っておくぞ桐山。オレが俯いたのはほんの一瞬だった。おそらく、時間にして一秒程度だっただろう」


「何が言いたい?」
「オレが再び顔を上げたとき、奴の姿は消えていたんだ」
「それが高尾晃司だと?」
「ああ、あの目は忘れたくても忘れられるものじゃない。
付け加えて言えば、その男は死んだ。ナイフで喉を一突きだ。
倉庫は完全な密室状態で、親父も他の大人も逃げられないと悟っての自殺だと考えた。
それが当然だろう。だが、オレはそうは思わなかった」
「当時の奴なら、窓から出入りが可能だった。そうだろう?」
「ああ、そうだ。ヒットマンが子供だなんて誰も考えなかった。だから自殺と考えた。
だが、その子供が奴なら、簡単な仕事だ。それこそ朝飯前のな」














「どう思う?」
「ど、どうって……オレに聞かないでよ」
「そ、そうだよ。自分で考えろよ」
「ふん、こんな所でコソコソと。意見があるなら、さっき言えばよかったじゃないか」
大木、滝口、飯島、それに織田が井戸端会議。そこに新井田がやってきた。
「おまえら、こんな所で油売ってるのかよ」
「に、新井田……」
「ああ、そうだ。オレはとんずらすることにした。おまえ達から七原に言っておいてくれ」
「え?」
4人はビックリして新井田を見上げた。


「オレの勘は当たるんだ。今に転校生が攻めて来るぜ」
「だ、だったら皆と協力して戦わないと……」
「滝口、おまえはバカか?いいか、よく聞け、そのオレの意見をあいつら無視したんだぞ。
第一、オレは相馬は敵と通じていると睨んでいる。
内通者がいるってのに、いくら見張りを強化したって無駄無駄。
オレの忠告を無視するような連中と付き合って命を粗末にするなんてオレはごめんなんだ。
だから、ここから出ることにした。おまえらはどうする?」
全員、お互いの顔を見合わせていた。どうやら決心しかねているようだ。


「ふん、臆病者。オレは行くぜ。じゃあな、縁があったらまた会おうぜ」
新井田が背中を見せた瞬間、大木が、「待てよ新井田!」と叫んだ。
新井田は心の中で、かかったな、とにんまり笑った。
「な……なあ新井田。あの話、本当なのか?」
あの話とは新井田が助かる方法はあるとちらっともらした例の話だ。
「ああ、本当だぜ。だからこそ助かるチャンスをふいにしたくないんだ。と、いうわけでオレはいく。あばよ」
新井田が歩き出した。そして裏口の戸を開けると本当に暗闇の中に飛び出して行ったのだ。
それを見た瞬間、さきほどまでの優柔不断な様子が嘘のように大木達が変化した。




「ま、待てよ新井田!オレも行くぞ!!」
「オ、オレも連れて行ってくれよ!」
「抜け駆けするなよ。オレだって、こんなところとはおさらばだ!」
大木が駆け出し、続いて飯島、織田と続いた。
「ま、待ってよ皆!!三村くん達にせめて一言断ってから……」
慌てて滝口が止めようとしたが、すでに4人の姿は暗闇に消えた。
「ど、どうしよう。ダメだよ……ちゃんと皆で協力しないと……連れ戻さないと」
滝口はおろおろしていたが考える余裕もなく、とにかく新井田達を止めないといけないと思い後を追った。
四人が追いかけていることを確認しつつ、新井田は四人が追ってこれる速度で走った。




(四人か……)
自分を入れて五人。それなりに人数がまとまったグループだ。
周藤が出した命令はもう一つあった。


『ポイントが高くない連中をそそのかして外に出ろ。
いいか、三村や杉村には絶対に気付かれるな。
連中はポイントが高い。ポイントが高い連中には残ってもらう。
おまえが相馬を叩けば必ず疑心暗鬼になる連中が出てくる。
小心者で、戦闘能力の低い連中だ。そいつらを懐柔して連れ出せ。
とにかくまとまった人数で、すぐにそこを出ろ。
いいか、必ずポイントの低い連中だけに声を掛けろよ』



なぜ周藤がポイントの低い連中にこだわっていたのかは新井田にはわからない。
もっとも新井田は疑問すら持たなかった。
とにかく、命令通りに動けばいいんだ。命令通りに――。














「慶時、どうだ?少しは良くなったか?」
国信は「大丈夫だよ」と笑っているが、大丈夫なわけがない。
油汗、それに熱……まさか、たちの悪い病気では?
七原は必死になって祈った。

(死ぬな……死ぬな慶時。川田……おまえ、何してるんだよ……。
早く戻ってきてくれ……早く……頼むから戻ってくれ)


「……秋也、熱いよ。少し窓開けてくれないか?」
「あ、ああ」
窓に近づくのは危険だが、そうも言ってられない。七原は注意深く外の様子に気を配りながら窓に近づいた。
「……あれは」
その時、暗闇に影が。それも一つや二つじゃない。最初は転校生かと思い、思わずドキッとなった。
しかし、その影は五つ……転校生ではない。つまり……クラスメイトたちだ!
先ほどの光子と新井田の口論から推理して、すぐに新井田だと思った。
その新井田に賛同した連中がいて、ついて行ったのだろう。


「何てバカなことを!」

こんな時に!全員が協力しなければいけないのに!

「ごめん慶時、オレちょっと行って来る」
「秋也?」
「新井田達が単独行動起したんだ。連れ戻してくる。
大丈夫だ、すぐに戻るから」
七原は、急いで部屋を後にした。そして自慢の足で新井田達を追いかけた。




「1、2……全部で5人。いや……6人か」

三村達が潜伏している建物を見下ろしている丘の上に男が立っていた。
腰まである長髪が風にたなびいている。転校生チーム最強の駒である高尾晃司だった。
高尾は暗闇の中にうごめく気配を確実に読み取っていた。
闇夜が視界を遮っている為に、視力では確認できないが、確実に動いている。
高尾はすでに次の行動まで決めていた。
連中が移動している先には開けた場所がある。そこで迎え撃つ。もちろん皆殺しだ。


高尾の姿はもう丘の上から消えていた――。




【B組:残り16人】
【敵:残り2人】




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