再び歩を進めた
また止めた――おかしい
微かだが、違う足音がする
間違いない、尾行されている
キツネ狩り―14―
微かだが確かに足音だった。
三村は振り向かずに集落のはずれにある家の角で曲がった。
追いかけてくる足音が早く大きくなり、三村は銃を握り締めた。
(近づいてくる。このサードマンを甘く見たな。
エリート兵士だか、将官候補生だかしらないが返り討ちにしてやる!!)
さっと、角を曲がってきた学生服の男の襟元を掴み上げ、背中から壁に叩きつけた。
その喉元に銃口を押し当てグッと左人差し指に力を込める。
しかし、咄嗟に三村は、その動きを止めた。
「……笹川!!」
――危なかった。危うく撃つところだった。
ロンゲの茶髪、ひねくれたツラをした、桐山ファミリーの一員だ。
「おまえ、どうして……どうして、オレを尾行なんか……」
と、言いかけて、三村は改めて笹川の姿を見直した。そして、理解した。
何があったかは知らないが口が血まみれ、右手も不自然な形だ(おそらくは複雑骨折だろう)
そして、目だ。ひどく恐怖に怯えている。
学ランのあちこちに土がつき、破れていた。
あきらかに何者かと戦った証拠。もちろん、あの5人のうちの誰かには違いない。
「……オ、オレ……おまえを…見つけて、声をかけようと……」
「わかった、喋るな」
喋るたびに血が滴っている。かなり辛そうだ。
とにかく、三村は手近な家にお邪魔して(幸運にも鍵はかかってなかった)手当てをしてやった。
右手の骨折はどうにもならないが、とりあえず口の血を拭き取ってうがいをさせた。
(顎は……まさか割れてるなんてことはないよな。だとしたらお手上げだ。オレは医者じゃない)
笹川はケンカなれしている男だ。B組男子の中でも、かなり強いほうだと思う。
それが、この様だ。もちろん相手が、すごい武器を持っていたとなると話は別だが。
佐伯はかなり満足していた。
倒した相手清水の得点がE地区生徒の中で最高点だったからではない。
(たかが100ポイント、たいした数字じゃない)
清水を倒したおかげで、またしても銃を手に入れることが出来たからだ。
二つの銃。そして天瀬美恵、桐山をおびき寄せる最高級のエサだ。
「さて――と、かえるとするか。用は済んだし、お姫様が待っているしな」
屈辱に耐えている美恵を眺めるのは、実に楽しいことだった。
「その前に、もう一つ用を済ませておかないとな」
佐伯は、この辺りを、もう一回りする予定だ。
もちろん隅々までなんて労力のいることをするつもりはない。
美恵を監禁しておいた家を中心に、数箇所に渡り佐伯は粉を撒いておいた。
(何でもよかったが、小麦粉だと目立つのでインスタントコーヒーにした)
もちろん自分で踏み足跡を残すなんてヘマはしていない。
もしも、そこに足跡があれば――ターゲットの誰かが、そこを通ったということだ。
案の定一箇所だけ(目立たない一軒家の農家の門のそばだ)踏まれた跡があった。
大きさからして男子生徒だろう。
「ビンゴ♪」
どうやらネズミがかかったようだ。
美恵の美しい顔が脳裏に浮かんだ。
「天瀬さん、寂しいだろうけど、もう少し辛抱してもらうよ」
「おまえ、誰にやられたんだ?」
それが一番重要な事だった。この近くにいる可能性だってある。
「誰かと一緒じゃなかったのか?」
特に豊だ。豊の消息を知っているのか、それだけは聞き出したかった。
「相手は、よほど凄い武器を持ってたんだな」
「……違う」
ここに来て、怯えて黙ってた笹川がやっと口を開いた。
「違うんだ」
「違うって何がだ?」
「オレの……オレの武器は……マシンガンだった」
三村は目を見開いた。マシンガン、笹川の支給武器はなんとマシンガン。
つまり、その相手は――。
「誰だ!?」
マシンガンを持った笹川に勝ったということだ!!
「誰なんだ!!?」
「……やられた……日下も、南も……江藤も……」
三村は顔色を失った。日下も、南も、江藤も死んでいる。
すでに3人ものクラスメイトが、その男の手にかかり、この世から消えたというのだ。。
しかも笹川の話だと3人同時に殺されたらしい。
「……勝てるわけがない!……あんな奴に勝てるわけがない!!
オレたち死ぬんだ!!あいつに殺されるんだぁ!!」
「おちつけよ!!」
三村は両手で笹川の襟元を掴み上げた。
「泣きわめくなら後にしろ!!おまえ、それでも男か?!
これ以上泣き言いってみろ、オレが殺してやる!!」
「……み、三村……」
「詳しく話せ……知ってること全部だ」
「あ、ああ……」
うな垂れる笹川だが、三村の叱咤が効いたのか幾分落ち着きを取り戻した。
「もう一度聞くぞ。誰にやられた」
「あ、あいつだよ。坂持のヤローが要注意人物だっていってやがった……」
三村は二人の人物を思い浮かべた。
一人は金髪フラッパーパーマ、もう一人は――
「……あの長髪男だよ」
もう一人は――腰まである髪を首の辺りで束ねていた。
かなりの美形にもかかわらず全くの無表情な男だった。
「高尾晃司か」
【B組:残り32人】
【敵:残り5人】
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