女にいつも囲まれていた。いつも向こうから寄って来た。
でも自分から愛した事も求めた事も一度も無い。



一生、誰も必要としない。
――そう、思っていた




キツネ狩り―10―




ゲーム開始から数時間、自分は無事だ。今のところは。
だが、他の生徒はどうなのか知る由も無い。

「……天瀬……」

彼女は無事だろうか?


左耳にピアス。少々派手な顔立ちの男。
サードマンこと三村信史は商店街の片隅にいた。
降ろされた林を抜けて、すぐ見つけた道路をたどり、ここにたどりついたのだ。
どうやら、色々と道具を仕込むには、この辺鄙な島ではここが一番の場所らしい。
だがグズグズしていられない。いつ奴等がくるかわからない。
それに守ってやりたい存在もある。


天瀬美恵


三村にとって初めての女友達。
不特定多数の『彼女』と違い、『友達』と呼べる唯一の女。
友情を感じることが出来る、たった一人の女だった。
その『友達』に友情以上の感情を感じるようになったのは、いつからだろうか?


七原が『オレ、美恵さんのこと好きだ』と打ち明けてきたときか?


それとも、あの桐山と親しくしている様子に、なぜか焦りを感じた、あの時か?


今では、ポケットの財布の中に、 美恵の写真が入っているくらいだ。


美恵はE地区だ。幸いにして、三村のD地区と隣接地。
早く行かなければならない。
そして一刻も早く見つけ出し、その華奢な体が壊れるくらい抱きしめたかった。
しかし三村には、もう1人守りたい人物がいた。


「豊……おまえ、どこにいるんだ?」
そう、一番の親友・瀬戸豊もD地区だ。
出来れば、D地区に捨てられたクラスメイト全員と一緒にと思うが、それ以上に 美恵が大事だった。
しかし豊だけとは合流したかった。  
三村は、その類まれなる身体能力に加え、尊敬する叔父から戦い方を仕込まれている。
しかも支給武器はベレッタM92Fだ。


豊はどうだろうか?奴等と渡り合えるような武器だろうか?
いや、ダメだ。たとえバズーカー砲でも、あの豊に殺し合いが出来るわけがない。
天瀬……無事でいろよ。豊を見つけたら、すぐに助けに行ってやる


チラッと時計に目をやった。
「……8時か」
辺りを確認しながら、雑貨屋の裏口から外に出た。
しかし三村は気付いていなかった。
ほんの数十メートル先から、自分を見つめている学生服の男に。














「……あなた、何を企んでるの?」
「企む?人聞きが悪いなぁ」

強がってはいるが、美恵の声は震えていた。
束縛された姿のまま、目を覚ましてから30分以上も、この男と狭い部屋に二人っきりなのだ。
そして、自分が恐怖に耐えている姿を、佐伯は面白そうに眺めているのだ。
いや正確に言うと、始終、見詰められているわけではない。
佐伯は部屋の隅にモニターを3台設置していた。
映し出されているのは、一つは舗装されていない道路、一つは山の中らしい石段、最後の一つは集落だ。
(かなり高い位置から見下ろしているカットだった)


「ああ、これ?」
佐伯は美恵の不思議そうな顔つきに気付いた。
「オレの支給武器」
「何を見てるの?まさか……」
「君たちと違って、オレ達にはルールってやつがあるんだ。
そのルールのせいで、24時間はこの地区から離れられない。
他の地区に逃げられたら困るんだよ」
「………」
「その前に探したいところだけど、君から、あまり離れるわけにもいかなくてね」
佐伯の言いたいことは美恵にもわかった。つまり生徒を監視しているのだろう。


「君たちが通りそうな道や、居着きそうな集落に隠しカメラを仕掛けておいたんだよ」
説明を続けながら、佐伯は銃の手入れをしていた。
その銃は元々は美恵に支給された武器だ。
「君のおかげで銃も手に入れたし」
その時だった。だるそうにモニターを見ていた佐伯の目が瞬時に鋭くなった。
咄嗟にモニターに視線を走らせる美恵。




「……清水さん!」
ツンツンにたった髪に短く加工したスカート。
遠目からでも、モニターは、その特徴はしっかりと捉えていた。
佐伯が立ち上がった。
「お願い、やめて!!」
「やめるわけないだろ?っと、その前に」
ポケットから、白い布を取り出した。もちろん、さるぐつわ用に用意しておいたものだ。
「いやっ!」
顔を背け必死の抵抗を試みる美恵。すると佐伯の手が止まった。


「?」
まさか、この虚しいまでの反抗が功を奏したのか?と美恵は一瞬思った。
だが、それは違った。
佐伯はズボンのポケットから携帯を取り出した(マナーモードにしておいたのだ)
「もしもし………雅信?」

(雅信!!あの男!?)

美恵の全身に恐怖の戦慄が走った。
さるぐつわ用の布を持ったまま、佐伯が美恵の口を押さえた。
んんっ、と、その口から苦しそうに息が漏れる




「珍しいこともあるものだな。君が℡してくれるなんて」
『……あの女は見つかったか?』
「あの女?」
『とぼける気か?オレが言ったこと忘れてないだろうな?あの女には手を出すな』
「ああ、もちろん覚えているよ。彼女とは、まだ会ってない」
『本当だろうな』
「オレは嘘は言わない。約束は守るよ」
『あの女に手を出したら………おまえを殺す』
「わかってる。信用しろよ……っと。……一方的に切りやがって」


「嘘は言わない、約束は守る……か」


天瀬さん。あいつ、随分と君にご執心らしい」


そうだ……この目前にいる男より、あいつの方が怖い。
……それは確かだった。


「君にしたことが、あいつにバレたら、オレは殺されるかもしれないな」





【B組:残り37人】
【敵:残り5人】




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