阿部健二郎の証言――「あ、あああ……あんなのと係わり合いになれるかぁ!!ひぃぃー!!」
石黒智也の証言――「あいつの親父って息子にすごく甘いんだろ?……羨ましいな」
内海幸雄の証言――「根はいい奴だと思うよ。…………多分」
楠田隆文の証言――「誰だって?ああ、あいつ……って、あ、ああのひとについて何も言う事はない!ありません!!」
椎名誠の証言――「そ、そんな!!本音で話せるわけないだろう!!」
相馬洸の証言――「見てて面白いよ。彼に怯えているクラスの皆は下手なバラエティより笑えるね♪」
都築茂男の証言――「あいつは生意気だし傲慢だしいい奴とは言えないだろ。まあ顔も成績も凄くいいけど」
寺沢海斗の証言――「……頼むから美恵のことはほっといてくれ」
仁科悟の証言――「あの傲慢で冷酷非情な乱暴者なんかクズ以下だ!」
根岸純平の証言――「羨ましい!あんな美人で若いお母様がいるなんて!オレのおふくろと取り替えてほしいよ!!」
服部雄太の証言――「強くてスポーツ万能だと夢が広がっていいよなぁ。インディ・ジョーンズにだってなれるんだから」
古橋大和の証言――「やっぱり持つべきものは守ってくれる女の肉親だな」
三村真一の証言――「オレは嫌いじゃないぜ。でも色々と揉め事起こすから周りの奴等は怖がっているんじゃないのか?」
安田邦夫の証言――「お願だからクラスの皆にはもっと優しくしてください」
山科伊織の証言――「あいつに必要なのは協調性なんだ。人間は一人じゃ絶対に生きてないんだってことを全然わかってない」
横山康一の証言――「……逆らわないほうがいい。彼にはユカギルマンモスの霊がついている」
吉田拓海の証言――「いいんじゃないか?人間自分の好きなように生きてもさ。じゃ、おやすみ」
五十嵐由香里の証言――「顔は超いいんだけど、性格がねー」
内海千秋の証言――「せめて気の弱い女の子にはもっと温厚な態度とってくれればいいんだけど」
鬼頭蘭子の証言――「男なら、あのくらいはっきりした奴のほうがいいね」
小林静香の証言――「カッコイイとは思うけど……怖くって」
曽根原美登利の証言――「何よ。いつも威張って何様のつもり?レディに対する礼儀がなってないわ」
西村小夜子の証言――「冷たそうでなんだか近寄りがたいわ」
星野美咲の証言――「うーん。せっかくハンサムなんだから、もっと笑ったほうがいいとおもう」
村瀬菜摘の証言――「この前誠くんと話してたら『うるさい』って……もう、怖くて」
望月瞳の証言――「みんな、全然わかってないのよ。あのひとはああいう性格だから萌えるのよ。あれで優しかったら三流少女マンガの毒にも薬にもならない優等生ヒーローになっちゃうじゃない」
Solitary Island―79―
走った。おそらく桐山和雄と特撰兵士を除けば貴弘はクラスで、いや学校で一番足が速い。
ちなみに、その次はおそらく三村真一か内海幸雄だろう。
(そう早乙女瞬が体力テストで手を抜いてないという前提で)
すでに陸上に力を入れている有名高校から推薦の話が来ているくらいだ。
もっとも貴弘は学校から部活動を強制されてまでの推薦には全く興味がなく片っ端から断っているが。
とにかく、かつて中学生時代短距離走県内№1だったという母から受けついた才能は、そのまま貴弘の中で大きく開花していたのだ。
しかし、それもこれも全て相手が人間だったらという前提だ。
(なんて速いんだ!このままじゃあ、追いつかれるのも時間の問題だな)
体のつくりが違う上に、仲間を殺されて怒り狂っている。
下等生物は脳の中身も単純なら、行動も単純だ。
一匹が走りながら大きくジャンプした。
そのまま、貴弘に飛びついて、一気に頭を噛み砕こうとでもいうのか?
「……うざい!」
貴弘は、一瞬だけ立ち止まるとスッと上半身を沈めた。
そして、自分の真上を飛んでいるF2の片足をつかむ。
「ギ?」
「そんなに飛びつきたかったら……」
そのまま、近くにあった岩に向かって投げ飛ばした。
「岩にでも飛びついていろ。下等生物!!」
顔面から岩にぶつかっている。
そして、小さくうめくとひっくり返ってパタパタと足を動かしている。
どうやら完全に頭に衝撃を受けたようだ。
しばらくは頭の周りをお星様が回ることだろう。
だが、貴弘には休む暇さえない。もう一匹がさらに逆上して追いかけてきたからだ。
貴弘はすぐに猛ダッシュした。
そして思った。奴等は動きが大きい。
だから狭い場所に誘い込めば接近戦を得意とする自分にいくらか有利になる。
問題は、相手は牙と爪という武器があり、自分は丸腰。
しかし、今の状況よりはずっとマシなはずだ。
そして貴弘が望んだとおりの地形の場所が見えてきた。
波の音。そして、切り立った岩壁。
崖が近い。貴弘はさらにスピードを上げた。
そして、ついに最終地点についた。
その向こうには、はるか下に岩壁に叩きつける波しかない。
海に面している断崖絶壁にきたのだ。
前方には断崖絶壁。後方には粘着質の下等生物。
逃げ場は無いが、これで奴も一方からしかせめて来れないはずだ。
背水の陣だが、貴弘はこういうギリギリのプレッシャーに負けるような気の弱い男ではなかった。
それも母から受け継いだ性格だ。
父は一見、無愛想で無口に見えるが、その内面はシャイで奥ゆかしいところがある。
貴弘は、不思議なくらい、その父には似てなかった。
母親似と言ってしまえば済む事だが、貴弘のような性格は社会の中では疎外されがちで、父は非常に心配していた。
だが、平和な日常ではなく、こんな異常な場合なら、貴弘の性格はむしろ良かったとしかいいようがない。
他のクラスメイトのように泣く事も喚く事も弱気になる事も全くないのだから。
「なんだって?寺沢と三村が行方をくらました?」
『三村』という名前を聞いた瞬間、川田と三村が反応した。
『ああ、おそらく美恵に会いに単独行動に出たんだろう。
一応、攻介が追いかけたからすぐに見つかるとは思うが、そちらに行ったら保護してやってくれ」
「保護だって?」
徹は忌々しそうに顔をしかめた。
(あいつらは前から気に入らなかったんだ。オレの美恵に付きまとって。
しかも、美恵に会うために勝手な行動に出ただって?
ちょうどいい、奴等を始末したところで怪しまれないだろう。Fシリーズの仕業に見せかけて……)
『徹』
「なんだい?」
『断っておくが、バカなことはするなよ』
「…………」
どうやら、何を考えているのか、隼人にはお見通しだったようだ。
「わかったよ。来たら一緒にいてあげるよ」
『本当だな?』
「しつこいな。オレは約束は破らないよ」
もっとも、ここに来るまでに奴等に襲われたらオレの責任じゃないけどね。
無線機を切ると即座に川田が立ち上がっていた。
「どうした坊主!真一がどうかしたのか?!」
「別に。ただ、お友達と二人でこちらに向かっているようですよ」
「な、なんだと!?」
こんな危険な島を?自殺行為じゃないか!!
「心配しなくても、今捜索してるらしいからすぐに見つかりますよ」
すぐに見つかるだと?その前に襲われたらどうするんだ?
川田は焦った。すぐにでも探しに言ってやりたいが、この子供たちを見捨てるわけにはいかない。
(もっとも徹は川田たちの庇護など全く必要としてないし、むしろいらないとさえ思っていただろうが)
「……あのバカ、何考えてるんだ」
行動力があるのはいい事だが、オレは無謀な行為はしろなんて教えた覚えはないぞ。
「おい、川田」
「なんだ三村」
「……妙だと思わないか」
「何がだ?」
「あのガキだ」
「あのガキ?」
「早乙女ってやつだよ」
真一のことで一瞬冷静さを失った川田は我に返った。
「……遅いと思わないか?」
そうだ。確かに遅すぎる、何分たっているんだ?
「少し見てくる」
そういった三村が部屋の外に出て数分後、少し慌てて帰ってきた。
「川田!」
「どうした三村」
「いない、あのガキどこにもいないぞ」
「なんだと!?」
こんな危険な中、外に出たのか?
「一体、どうなってるんだ?」
何考えている、死にたいのか!!
ガキのお守りで、こんな苦労するなんて、21年前に七原と組んだ時以来だ!!
川田は昔を思い出したのか、頭を抱えた。
「ギィギィ!!」
「さっさと大人しくくたばったらどうだ!!」
貴弘は往生際が悪いくらいにジタバタと暴れるF2の顔をを地面に強引に押し付けていた。
狙い通り、崖っぷちに来た事でF2の動きは鈍った。
貴弘目掛けて飛び掛ってきたものの、貴弘の背後にある崖が気になったのか動きには切れが無い。
その隙を狙い貴弘は素早くF2の背後に回ると、腕をとり地面に押し付け、さらに腕の付け根を押さえつけた。
思いっきり不自然な方向に向かって捻じ曲げてやったのだ。
晶に技を仕掛けたときは、単に関節技をかけただけだった。
だが、今度は違う。テコの原理で骨をねじ折った。これは、いくら下等生物でもたまらない。
そして、下等生物といえども痛みはある。
F2は貴弘という敵の存在さえ忘れて地面をのた打ち回った。
そのF2に対して貴弘は非情にも、もう一本の腕まで使い物にならなくしてやったのだ。
ここまでやれば普通の人間なら全ては終わったと思うだろう。
だが貴弘は違った。
窮鼠猫を噛むということもある。
例え手足全てを折ってやっても、ほんの一瞬油断したら逆襲してくるかもしれない。
そう思った貴弘はF2を地面に押し付け窒息死させてやろうと思った。
だが、思ったより生命力がある。
「……仕方ないな」
貴弘は立ち上がると、F2の尻尾を掴んだ。
そしてズルズルと引っ張り出した。崖のほうに向かって。
「ギィ!?」
貴弘が何をするつもりなのか、低脳な下等生物でも本能でわかったらしい。
「ギィギィ!!」
必死になって地面にしがみ付こうとするが、もちろん両腕の骨を折られてしまった以上、そんなことは出来ない。
「観念して大人しくしたらどうだ?」
「ギィィィー!!」
「叫んだって誰も助けちゃくれないんだ。理解できたか?」
それはもはや未知の怪物と中学生の構図ではなかった。
無力な希少動物と動物虐待者の図式でしかない。
崖から下を見下ろすと、はるか数十メートル下で波が生き物のようにうねりを上げている。
「ギィィッッ!!」
思ったとおりだ。追い詰められた奴は最後の最後に死力を尽くす。
どこに、こんな力が残っていたんだ?というくらいに。
F2は立ち上がり様、貴弘に体当たりを食らわそうと突進してきた。
が――。
「グッドラック」
「ギ?」
貴弘が投げ飛ばすほうが早かった。F2の体は崖から離れた位置にいた。
「最後の最後まで絶対に油断するな」
F2は目を見開いて貴弘をみていた。
恨みがましい目ではない。自分に何が起きたのか把握仕切れないでる、そんな目だった。
「母さんの言う事は正しいよ。全くもって絶対だ」
F2は、やっと自分の立場を理解したのか恐怖に引き攣った目をしていた。
しかし、次の瞬間には猛スピードで体が落下していき、その悲鳴さえ貴弘には、あまり聞こえなかった。
「……くそ」
怪我はない。しかし体力を消耗した。
貴弘は微かによろけた。とんでもないアクシデントだった。
早く……早く母さんを助けに行ってやらないと――。
「ッ!!」
貴弘の目が一瞬僅かだが拡大した。
クルリと向きを変えた貴弘にF2が飛びついてきていた。
あっと言う間に角膜いっぱいに奴が写る。
新手の敵ではない。先ほ岩にぶつけて脳震盪を起こさせてやった奴だ。
貴弘がここで戦闘を繰り広げている間に、体力を回復し追いかけていたのだ。
しかも貴弘が仲間を崖から投げ捨てたのを見ていたのか、その目はギラギラと光っている。
「舐めるなトカゲ野郎ッ!!」
貴弘は飛び掛ってきたF2の首根っこと腕を掴んだ。
そして、飛びつかれた勢いに強引に抵抗することなく、むしろそれを利用して巴投げを仕掛けた。
F2は飛んでいく。先ほど海に落とされたF2の後を追うはずだ。
しかし、戦闘態勢をとる暇もなく襲われた代償は大きかった。
貴弘の身体は崖っぷちにあった。勢いで崖から転がり落ちた。
しかし、そこは反射神経がモノをいった。
貴弘はしっかりと掴まり何とか落下を免れていたのだ。
だが、こんなことろにヤモリのように引っ付いているわけにはいかない。
貴弘はすぐに上に上がろうとした。
しかし左足首が一気に重くなり、身体全体がガクッと落ちかけた。
貴弘は下を見た。そして驚いた、そして次にカッとなった。
なんということか、F2が自分の左足首を掴んで落下を免れているではないか。
「なんて図々しい奴だ!さっさとはなせ!!」
はなせと言われて素直にはなすわけがない。
只でさえ今にも落ちそうな状態なのに、このオオトカゲの体重まで支えなければいけないなんて!!
F2もはなせば死ぬことをわかっているか、しっかり掴んで離そうとしない。
F2がはなすのが先か、それとも貴弘の体力が尽きるのが先か。
(どうする?どうすればいいんだ?)
貴弘はここに来て初めて激しい焦りを感じた。
はるか下方では激しい波が今か今かと貴弘が落ちてくるのを待っているかのように荒れ狂っている。
あの中に落ちたら引きずりこまれて、もしかしたら死体さえ上がってこないかもしれない。
いや、その前に岩壁に叩きつけられて波に飲み込まれるまえに血みどろの死体になるかもしれない。
冗談じゃない。いくらなんでもトカゲと心中なんて愚の骨頂だ。
かといってF2が自分から離すはずはない。
「……だったら、こっちがはなしてやるだけだ」
貴弘は崖から手を離した。
「ギ?!」
命綱の代用だった貴弘が、その役目をなさなくなった。
F2は思わず手を離してしまった。
「所詮はトカゲだったな」
F2は、さきほど落ちた仲間と同じように叫びながら落下していった。
貴弘の瞳の中に写ったF2は瞬く間に小さくなったかと思うと波に飲み込まれ、二度とその姿を現すことはなかった。
貴弘はというと、崖から突出していた枝に掴まっている。
この枝を見つけたとき、貴弘は一か八かかけたのだ。
そして、その賭けに勝った。
後は早く上に上がるだけだ。貴弘は用心深く崖を上がりだした。
いくらスポーツ万能とはいってもロッククライミングは専門外だった。
距離にしたらほんの二メートルほどの距離だっただろうが、それでもこんな命懸けの状況では重労働だったに違いない。
そして、やっと右手があと少しで届くというところまで来た。
その時、貴弘が左足をかけていた小さな足場が崩れた。
貴弘の身体は崩れた岩壁と共に海に吸い込まれていった――。
「……美恵」
瞬は、チラッと背後を振り向いた。
(あの連中を目覚めさせれば全てが終わる。ⅩシリーズとFシリーズは決して相容れない者同士だ。
晃司たちが勝つか、奴等が勝つか……どっちにしてもオレはもう引き返せない)
瞬は、再び歩き出した――。
「…………」
貴弘は言葉を失っていた。
確かに自分は海に吸い込まれていった。
本当なら、あのまま海の藻屑になっていたところだった。
しかし、貴弘は落ちていなかった。
誰かが貴弘が落下する寸前に、その右手首を掴んでいたのだ。
貴弘は上を見上げた。太陽の光で顔がよく見えない。
「大丈夫か貴弘?」
「――父さん」
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