「周藤もやることがあくどいよね。まあ片棒担いだオレも同罪かな?」
洸は用心深く外に出た。
「あいつらに襲われたら大変だから、カギくらいはかけておいてあげようかな」
入り口に鍵をかけ、それから少し歩くと振り返り言った。
「心が痛むけど元気でね♪」


それから、5.6分ほどたった頃だろうか。
残された生徒たちは今だに肉体の痺れから解放されていなかった。


「……か、体が……」

体が動かない……千秋、千秋は?

手を伸ばした。ポニーテールに手が触れた。


いる。よかった、倒れているだけだ。
くそ、どうしてこんなことに!!と、とにかくだ……何とかしないと
かすむ目で周囲を見渡すと誰もが倒れて込んでほとんど動かない。
かろうじて自分だけが微かにうごけるのか?
スポーツで鍛えた身体だ。なんとか動くのだろう。しかし、こんなの動けるうちにははいらない。


……誰か……誰か動ける奴はいないのか?
……誰か……誰か動ける奴はいないのか?


必死になって周囲をみた。
ボーと霞む視界に誰かがムクッと起き上がるのが見えた。
よかった。動ける奴がいるんだ!!
ところが、そいつは自分達には目もくれずにスタスタとドアに向って歩いている。

「ま、待ってくれ……ち、千秋を助け……」

幸雄は必死になって、そいつのズボンの裾をつかんだ。
ズボンだ。男には間違いないが顔が見えない。
ドカっ!と掴んだ腕を踏みつけられ痺れた手は簡単にズボンを離した。
そいつは幸雄を見もしないで再び歩き出した――。




Solitary Island―68―




「……何ですって?晶、もう一度言って!!」
美恵はかなり感情的になっていた。
「何度でも言ってやるさ。相馬から連絡が入った。すぐにキーが来る」
あれだけ反対していた伊織が簡単にキーを渡すわけが無い。
そして晶の性格は知っている。目的の為なら手段を選ばないことも
「あなたクラスメイトたちに何をしたの!?」
「安心しろ死んではいない。しばらく動きが取れないだけだ」
「……薬を盛ったのね。何てことしたのよ!!あの化け物たちに襲われたらすぐに殺されるわ!!」
「あいつらは戦うことを拒否したんだ。遅かれ早かれそうなった。仮に今襲われたとしても、その時が早くきただけだ」
「……相変わらずね。あなたって」
美恵は立ち上がると走り出した。


美恵、どこに行くつもりだ!?」
慌てて海斗が腕を掴む。
「今、あいつらに襲われたら全員死ぬわ。助けにいかないと!!」
「だったら、オレも行く」
「……カイ?」
「おまえを一人にはしない。決めたんだ、ずっとおまえのそばに……」
途端にカイの頭にガンっと鈍い音がした。
「どさくさに紛れて都合のいいこと言ってるんじゃないよ。このゲイ野郎」
「徹!!カイに何てことするのよ!!」
「手が滑ったんだよ」




「ちょっと待て、また相馬から連絡だ」
晶はトランシーバーを耳に当てた。
「なんだ?」
『ちょっとさ……ヤバイ雰囲気なんだよ』
「Fシリーズと鉢合わせか?」
『違うんだけど……妙なんだ。すごく嫌な感じがする。上手くいえないけど……オレをつけてる奴がいるんだ』
「何だと?」
晶は珍しく表情を歪ませた。
Fシリーズは所詮は下等生物。もしFシリーズなら間髪いれずに襲ってくるだろう。
……いや、F3は狩猟タイプだから洸の後をつけることでより多くの獲物を狙うつもりでいるかもしれないが。
とにかく今洸に死なれるのは困る。洸はともかくキーは無事に手に入れなければ。
「わかった。すぐに人を向わせる」
晶の決断は早かった。

「俊彦、攻介。すぐに相馬を迎えに行ってくれ。様子が変だ。美恵、おまえもそんなに心配ならついていけばいい」














「これでやっと家に帰れるよ。ま、もっともその前に派手なアクションしなくちゃいけなくなるだろうけどね」
まあ将来玉の輿に乗る苦労を考えれば、そのくらいは我慢我慢。
洸は木々や茂みの間を素早く駆け抜けながら、そんな不遜なことを考えていた。
「……!」
何かいる!!洸は走るのをやめた。
そして学ランの内側に隠してあった銃にそっと手を伸ばした。

(……いる。例の化け物か?だけど複数じゃない一匹だ。それに……襲ってこない。妙だな)

洸は試しに何も無かったかのように再び走り出した。


(追いかけてきている……何なんだ?)
とにかくピッタリついてきている。全身に鳥肌がたつのを覚えた。
しかし本当に洸がぞっとしたのは、次の瞬間そいつの気配が消えたことだ。
「……っ!!」
気配を消した?オレが気配に勘付いたことに気付いたんだ。
まずい……これでは、いつどこから襲われるかわからない。
洸はトランシーバーですぐに晶に連絡した。
そして、その後は全速力で走り出した。とにかく正体がわからない以上逃げるしかない。
少し走ると見晴らしのいい場所にでた。岩が一つある。
洸は一気に岩を飛び越えると、岩の向こう側に隠れて様子をみた。

(……今背中をさらしたらすぐに攻撃される)

洸はジッと様子を伺った。




五分経過……お互い様子見だろうか?
とにかくジッとしていれば晶がよこした救出部隊が来るんだ。
だから無理に戦う必要は無い。
どうやら、相手はすぐには襲わず様子を見ているようだから、じっとしていればいずれ味方が来る。
自分は何もしなくていい。ただジッと隠れていさえすれば危険は無いはずだ。
「……ッ!!」
その瞬間洸の全身に一気に恐怖の旋律が走った。


気配を消したはずの相手から気配……いや恐ろしいくらいの殺気!!
そう、奴は様子見をやめた。襲ってくるつもりだ!!
オレを……本気で殺すつもりなんだ!!
冗談じゃない!!簡単に殺されてたまるか!!
オレは他人を踏みにじるのはよくても踏みにじられるのはゴメンなんだよ!!


しかし、その殺気は一瞬だった。
(……殺気が消えた?)
そして、数十秒後「相馬ッ!!」と自分を呼ぶ声が聞こえた。
洸はホッとして、その場に座り込んだ。
やがて洸の目の前に、桐山と美恵、それに徹と雅信と貴弘と真一と海斗が現れた。
美恵が行くといった途端、桐山たちがどうしてもついて行くと言い出し、結局俊彦と攻介の出る幕はなくなったのだ。
ちなみに秀明も行くといった(秀明曰く「オレには美恵を守る義務がある」)
隼人がこれだけの人数がついていれば大丈夫だと諭したので残ることになったが。




「もう遅いよ。何やってたんだよ」
洸はぷくっと頬を膨らませている。
「相馬くん、無事だったのね」
「ああ、オレは無事だよ。何があってもオレは自分だけは守ってみせる」
「そんな口がきけるのなら、あなたの心配は無用だったようね。ねえ、クラスのみんなは?」
「ああ、入り口に鍵かけてきたから大丈夫だと思うよ。そろそろ痺れ薬も切れだすだろうし」
「そう……とにかく、あなたは例の基地に行って。私はみんなを見てくるわ」
天瀬」
桐山がそっと肩に手をおいてきた。


「相馬は入り口に鍵をかけたといっているだろう。だから心配することもない」
「そうだよ。それにオレ、あいつらに少しだけ酷いことしたんだ。今さら再会なんて気が進まないな」
「そんなこと言っている場合?とにかく私は行ってくるわ。せめて様子くらい見ないと」
「そうかわかった。天瀬が行くならオレも行こう」
桐山はすかさず自分をアピールした。もっとも計算した行為ではないが。
「まちなよ桐山くん。彼女はオレが守る、君は引っ込んでいてもらおうか」

すかさず徹がしゃしゃり出てきた。
美恵は溜息をついた。そんな場合じゃないのに……。




そんな美恵たちをジッと遠くから見ている人間がいた。そう人間が。
(……相馬の奴。オレに気付くとはな。ただのあくどい蝙蝠野郎かと思ったが甘かった)
それから今度は美恵を見た。
(……美恵)
行くのか、あの場所に……。
(手遅れになってなければいいがな)
そらから今度は自分の詰めの甘さを呪った。


悠長に後をつけずにさっさと洸を殺してキーを奪えばよかった。
残念だが、もうその機会はない。キーは連中の手に渡るだろう。
せっかく先回りして、あの『化け物』たちを覚醒させてやろうと思ったのに……。
あの『化け物』たちが目覚めれば当然Ⅹシリーズと殺し合いを始める。
オレが手を汚さなくても、連中同士で潰しあってくれるというものだ。
とにかく、これでオレの計画は一からやり直しだ。
他の方法を考えなければ。なんとしても、あの『化け物』たちの封印をとかなければ。

(……晃司はすでにオレを怪しんでいる。オレの正体がばれたら、間違いなくオレも晃司たちに殺される。
その前に、あいつらを皆殺しにしてやる。ⅩシリーズもFシリーズも。
科学省に作られた連中は皆殺しだ……美恵、おまえも例外じゃない)

とりあえず、この場所から……あいつらから離れよう。
気付かれる前に……。

――早乙女瞬は、その場から立ち去った。














「みんなー、お待たせ♪」
洸の明るい声が響いた。洸に酷い目に合わされた攻介と俊彦はむすっとしていたが。
「キーは?」
再会の挨拶も無しに晶が本題に入った。
「はいコレ♪」
洸は例のカードキーを差し出した。
「よくやった相馬。民間人にもおまえみたいに使える奴がいるなんて捨てたものじゃないな。
おまえほど、仲間をゴミのように平然と切り捨てられる人間は軍の中にも滅多にいない」
「やだなぁ、褒めすぎだよ」
誰も褒めてないぞ!!と、その場にいる誰もが思ったことだろう。


「……美恵、美恵は?」
志郎だった。帰ってきた連中の中に美恵がいないのだ。
他に帰っていない連中はいたが志郎にとってはどうでもいい。
美恵さえいれば、他の人間など数にも入らないのだ。
洸と一緒に帰ってきたのは海斗と真一と、驚くべきことに雅信だった。
美恵が洸を守ってくれたら、帰ってからデートすると約束したからだ。
が、徹はバカではないので、そんな嘘には騙されなかった。雅信は単純なので騙されたのだ。
そして今「もしかしてオレは騙されたのか?」と思い始めている)
真一と海斗は美恵の頼みを断りきれなかった。
だが貴弘はその押しの強さで美恵の頼みを断りきり美恵について行ったのだ。














「……こ、これ……どういうこと?」
元の場所にもどった早々、美恵は我が目を疑った。
洸は鍵をかけてきたといっていた。
だが……今、十数メートル先にある入り口のドアは開き、風によって開いたり閉じかけたりしている。
(どうでもいいことだが瞬が鍵をかけなかったのだ)
とにかく、中のみんなが危ない!!そう考えた美恵は走った。
中に入り廊下を走った。
クラスメイト達は無事なのか?
そしてメインルームに辿り着いた。ドアは開かれている!!


「みんな、無事なの!?」
部屋に入った途端、つんとした臭いが鼻を刺激した。
この臭いは……血ッッ!!!!!
ゴクッ……と唾を飲み込んだ。そして見た、部屋の向こう側の壁に背もたれしているモノに。
「……伊藤さん」
昌宏や理香の同級生の伊藤すみれだった。胸が真っ赤にそまり、ピクリとも動かない。
それは衝撃的なシーンには違いなかったが、美恵は傷口が気になった。
「……内側から開いている」
そう敵は開いているドアから侵入したのではない。
最初から中にいたのだ。伊藤すみれの胎内に。




「……どうしてこんなことに」
おそらく伊藤すみれがあれほど狂気に近い状態になっていたはこれが原因だったのだろう……。
正体不明の敵に襲われるという恐怖。
それもあるが本能で自分の身体に異変が起きていることに気付いていたのだ。
すみれは、この島でクラスメイト達が惨い死に方をするのを見てきた。
その中には、体の内側から攻撃された者もいたはずだ。新たに誕生した化け物も。
だから打ち明けることもできず、同級生の昌宏すら拒んでいたのだろう。
もしバレたら……最悪の場合、同級生に殺されるかもしれないのだから。
美恵は知らなかったが西村小夜子と同じ死に方だった。
もっとも小夜子にとりついた生物とは種類が違うのか、こちらのほうが潜伏期間が長かったようだ)
とにかく、可哀想だが死んでしまったすみれより生きているかもしれないクラスメイトたちを探さなければ。

……コトッ。物音がした。クローゼットに中だ。
美恵はすぐに扉を開けた。途端に「うわぁ!!」と叫び声がして誰かが飛び掛ってきた。




「く、来こないでぇ!!この化け物ぉぉ!!」
「望月さん!!」
望月瞳だった。
天瀬……さん?」
「良かった無事だったのね」
瞳だけではない。千秋も理香も千鶴子もいる。
さらにクローゼットの一番奥では誠と菜摘が抱き合ってガタガタ震えていた。
「他のみんなは?」
そうだ。それは重要な問題だ。
「ゆっくんが……!!」
千秋はそれだけいうと「わぁ!」と泣き出した。
あの気丈な千秋が……幸雄に何があったのだろうか?


「内海さんしっかりして。彼はどうしたの?」
「……あたしを……あたしたちを助ける為に……」
千秋は言葉に詰まって顔を両手で覆い言葉を出せなくなった。それだけで幸雄に何かあったのことだけはわかる。
「何があったの?」
だが千秋はそれ以上は答えられないようだ。
「柿沼くんと彼が……」
代わりに千鶴子が口を開いた。


「すみれから化け物が生まれて……みんな大騒ぎで隠れたりしてたの。
逃げようとした奴もいたわ。でも、そいつら引き返して来たのよ。
入り口からもっとすごい化け物が入ってきたって……。
その化け物が彼女を襲おうとしたのよ。そしたら彼が……」
彼とは幸雄のことだろう。
「彼が……その化け物に何かをぶつけて挑発したの。
『オレを追いかけて来い化け物』って……柿沼くんも理香から引き離そうとして彼と一緒に挑発して。
二人とも、そのままどこかに逃げたの。化け物も二人を追いかけて……」

なんてこと……では二人は……。


「逃げたのは二人だけか?」
今度は桐山が質問していた。
「……あの人。ほら、基地には行かないって猛反対していたひと」
伊織のことだ。
「彼も二人と一緒に……」
責任感の強い伊織のことだ。
自分の判断によってみんなを危険な目に合わせた上に幸雄たちにだけに重荷を背負わせることができなかったのだろう。
「他の連中は?」
「わからない……隠れるだけで精一杯だったから……」
美恵たちは手分けして建物内を探した。そして、それぞれ隠れていたクラスメイト達を探し出した。
不幸中の幸いと言っていいのかわからないが犠牲者はすみれ一人。
そして現在行方不明者は……4人のみだ。




「……こんなことなら最初から周藤くんについていけばよかった」
瞳は泣きじゃくってそういった。
「そうだ!!山科がつまらない意地をはった為に……!!
全部、あいつの判断ミスだ!!あいつのせいでオレたちは……クソッ!!」
悟は忌々しそうに叫んだ(ちなみにキッチンルームの戸棚に隠れていた)
「……化け物と戦うなんて絶対にゴメンだって残ったのどこの誰だよ」
「なんだと吉田!!おまえはオレの自己責任だっていうのか!?
山科の野郎が残ろうなんて言わなかったら、オレたちは周藤について行ったんだ!!
それなのに、あいつはさっさと逃げたんだぞ。許せるか!!」
「そ、そうだよ!!結果的には山科のミスが招いたことなのに自分だけ逃げるなんて卑怯だ!!
オレはいいけど、菜摘まで危ない目にあったんだぞ!!」
小心者の誠まで悟につられて文句を言いだした。


「いい加減にしてよ!!」


美恵が怒鳴った。いつも学校では大人しい美恵が。
クラスメイト達は驚いていたが、美恵を良く知っている徹はそうでもないようだ。
むしろ優越感に浸っている表情。
「山科くんが言い出したことだろうと決めたのはあなたたち自身よ!!
自分の判断で選んだことを他人のせいにしないで!第一、今はそんな言い争いしている暇はないのよ!!
4人を探さないと……こうなった以上、ここに残るつもりはないでしょ?すぐにあなたたちは例の基地に行くのよ」
美恵、君はどうするんだい?」
徹が面白そうに質問してきた。


「4人を探すわ。まだ遠くには行っていないはずよ」
「OK、君ならそういうと思った。手伝うよ」














「……あれが例の島か。見てみろよ、中途半端な豪華客船が半分沈んでいるぜ」
ふぅ……っとタバコの煙をふきながら川田は船の先端から島を見詰めていた。
「……あの中に国家機密が眠っているのか。まったく、おぞましい島だぜ」
「あの島に……子供達が」
七原はジッと島を見詰めた。いや睨んだ。水平線上にポツンと浮ぶ悪魔の島を。


「無事でいるかしら。まあ、あいつのことだから大丈夫だと思うけど。
何しろ、誰に似たのかしらないけど、要領だけはいい奴なんだから」
光子も同様に島を睨んでそういった。
「わかってるわね弘樹……何がなんでも貴弘を見つけるのよ。あたしのことは一切気にしないで。あの子が最優先よ」
「ああ……おまえもオレの命なんか一切考えるな。貴弘だけはなんとしてでも助けるんだ」


「川田、ついに来たな。あの時以来だ、恐怖のデスゲームは。覚悟は出来ているだろうな?」
「当然だ。おまえも、気を引き締めろよ三村」
それから川田は、再度島に視線を向けてこういった。


「待っていろよ真一」




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