「行くか行かないかはオレたちの自由だ。てめえは黙ってろ。それとも殴られたいのか?」
俊彦が「よせよ勇二」と横から口を出している。
「オレは絶対にそんな身勝手なこと認めないぞ!!
おまえたちだけでなく、オレたちまで危険にさらすことになるんだ!!
これは自由とかそういう問題じゃない。クラス全体の安全の問題なんだ。
全員が納得できる答えをみんなで考えるべきだろう?絶対にオレは賛成できないし、許さない!!」
そらから伊織は周囲を見渡してさらに言った。


「皆はどうだ?行くのか行かないのか?」
「ぼ、僕は……山科君の意見に賛成です。あまりにも危険が多すぎますから」
「……あたしはどっちとも言えないけど、性急すぎるんじゃないのか?
すこし考えて他の方法模索するほうがいいと思うけど」
邦夫と蘭子は伊織に賛成らしい。
「あ、あたしも嫌よ。そんな怖いところ行きたくないわ、そうでしょ誠くん?」
「ああ、いくらなんでも無謀すぎる」
菜摘と誠は抱き合ってそう言った。
「……オレもいきなり化け物とアクションってのはなぁ。ま、結論急がずに少し考えたほうがいいんじゃないの?」

拓海もやはり化け物と直接対決は避けたいらしい。
基地に行くか、行かないか……クラスメイトたちは大いにもめている。
そんな時だった、晃司が「早乙女、おまえはどうする?」と意見を求めたのは――。




Solitary Island―67―




「ここが入り口か……嘘じゃないだろうな不和?」
「う、嘘なんていってねえよ!!もう、拷問はまっぴらだ!!」
礼二は相変わらずロープで縛られていた。そのロープの先を勇二が持っている。
「……と、言ってもここはまだ入り口じゃない。
この建物はカモフラージュの為のもので、階段を降りたところに隠し扉がある。そこが入り口だ」
「そうだ。そうやって大人しく吐けばいいんだよ」
その建物の中に入った。見た感じ、どこかのビルのオフィスのようだ。


「とにかく、今後どうればいいのか対策を練りましょう。キーがない限り、入れないんだから」
「……美恵」
「何、雅信?」
「……惚れ直している」
「…………冗談はやめて」

目的地についたはいいがキーがない。
だからとりあえずは作戦を練る。それが妥当だろう。
今、この場所にいるのは美恵に桐山、特選兵士の面々。
そして真一と貴弘と海斗(海斗は基本的には伊織の意見に賛成だったが美恵が心配でついてきた)
それに美和と美登利も一緒だった(薫についてきたのだ)
つまり他の連中は全員伊織の意見に賛成して残った。
伊織はカンカンに怒って「おまえたちは間違っている!」と叫んでいた。




「晶、いいか?」
隼人が晶を呼び出し、二人だけ別の部屋に入った。
「なんだ隼人?」
「キーがなければ中には入れない」
「ああ、そうだ」
「不和礼二はどこで落としたのか見当もつかないといっている」
「ああ、そう言っていたな」
「それなのになぜおまえは平然としている。おまえの性格は知っている。
おまえがそういう態度に出るということはキーのありかは見当がついているということだな?」
「ああ、そうだ」
隼人は「やっぱりな」と一言いうと、椅子に座った。そして続けた。


「山科は随分と強気の態度だった。あいつが何か知っている。
おまえはそう考えたんじゃないのか?」
「ご名答」
「だが、あいつは絶対に口を割らないだろうし。あいつを拷問にかけるのは美恵が承知しない。
おまえは揉め事を起さないように何かはかりごとを仕掛けた。
どうだ、オレの言ったことは間違っているか?」
「いや大正解だ。さすがにオレが終生のライバルと見込んだだけあるな隼人」


「それともう一つ気になることがある」
隼人はさらに真剣な表情にになって言った。
「気になること?ああ、早乙女のことか?」
隼人が口にする前に晶が答えを言っていた。
「そうだ。あいつは普通の人間のはずだ。オレたちや桐山とは違う。
その早乙女のことを、なぜ晃司が気にする必要がある?」
「確かに妙だ。あいつは学校でも特に目立つことのない奴だった。
成績も中の上。妬まれず、かといってバカにされない程度。そんな男をなぜ晃司が……。
実際、あいつは他の臆病者たち同様に、あの場所にとどまることを選んだ。それなのになぜだ?」
そう一悶着あったが、クラスメイト達は完全に分裂した。
早乙女瞬は危険は避けたいと伊織の意見に賛成したのだ。
「まあいいさ。どうせ、あいつらは時間の問題だ」
晶はそう言って、「それよりキーが来るまでに作戦を練らないとな」と言った。














「…………」
伊織はかなり落ち込んでいた。自分は正しい選択をしたはずだ。
なのに、結果的に止められなかった。
せっかく全員集まったのに、半数が出て行ってしまったのだ。
(約一名は捕虜だが)
もっとも、出て行った連中と、今残っている自分達とを比べると、どう考えても戦力は半分以下になったと言えよう。
それでも何とかしないといけない。
婦女子だっているんだ(半数近くは女生徒だ)
とにかく考えないと……あれだけ啖呵を切った以上、自分達で脱出ルートを探さなければ。
いい方法が見つかれば、きっと彼等も戻ってきてくれる。
伊織はそう思った。ただし、その脱出ルートが思い浮かばないが。


「……山科」
背後からかったるい声がした。
「……なんだ吉田か」
「おまえさぁ……後悔してるのか?あいつら強いもんなぁ。
いざとなったら、オレたちだけで、あんな化け物と戦えるはずないって……」
「……オレは正しいと思っている」
「……そっか。でも、あいつらが鍵を見つけたら……」
「それは……大丈夫だ」
「なんで?」
「……いや、この森の中で落としたものをそう簡単に探せるはずがないだろう?
まして化け物がうようよしている以上、歩き回るわけには行かないし」
「……まあ、そうだな」




「……ゆっくん、本当に良かったの?天瀬さんのこと心配なんでしょ?
今からでも行く?あたし、ついていってもいいわよ」
「馬鹿なこというなよ千秋」
「……でも、本当は行きたいんでしょ?」
「彼女には……その強いナイトがいっぱいいるし、オレなんか必要ないよ。
それよりオレにはおまえを守ることが一番大事なんだ。
美恵さんのことは本当に好きだけど……家族には変えられないだろ?」
「……ゆっくん」
千秋は嬉しい反面寂しそうな表情を見せた。
その理由を幸雄は勘付いていた。俊彦と袂をわかったからだ。


「……千秋こそいいのか?その……瀬名のこと」
「……瞳や菜摘をおいて行けないし。でも、二人とも怖がってるから」
「……だよな」
千秋はクラスの女生徒の中心的メンバーだった。
クラスの女生徒とはみんな仲がよかった。
瞳は仲良しグループのメンバーだし、菜摘ともそれなりに仲がいい。
まあ蘭子とは単なる同級生だが。
とにかく友達をおいていくことも、危険を承知で無理やり連れて行けない性格だということも幸雄は重々わかっていた。
そして、そんな千秋のことが幸雄は大好きだったのだ。

「瀬名も見る目ないよな。オレだったら千秋みたいな美人で優しい女ほかっておかないのに」
「ゆっくんだって、十分カッコイイわよ。あと、もう少し成績が良かったらもっといいけど」




「とにかく……残ったみんなをまとめないとな」
伊織は拓海を見上げてこう言った。
「頼りにしてるぜ吉田」
「……オレに言われてもなぁ。委員長に言えよ」
「安田はいい奴だよ。真面目で責任感もあって」
その通りだ。今もクラスメイト一人一人を回って「体調は?どこか、怪我はしてないですか?」と聞いている。
「……でも、こんな時だからな」
伊織は頭を抱えた。
「……心配する気持ちわかるよ。もし桐山たちがキーを発見して基地の封鎖を解いたら化け物が何倍にもなる」
「…………それは」


「ねえねえ」


その時、重苦しい二人の間に明るく弾んだ声が響いた。
「ねえ何の話?」
「……相馬、おまえいいな。悩みがない顔できて」
「そんな事ないよ」
そう言ってニコニコしている。本当にねたましいくらいの明るさだ。
「おまえ……何で、残ったんだ?おまえは杉村や三村みたいにあいつらについていくと思ったんだが」
「何でって?オレたち仲間だろ?特にさぁ、山科とは一年のときからずっと一緒のクラスだったし」
洸は急に真剣な表情で話し出した。


「最初はオレ、山科みたいなおかたい奴は嫌いだったんだよ。
でもさ、山科って偉いよね。オレみたいな人間がめんどくさがってやらないことも真剣にやるんだからさ。
時々思うんだよ。山科みたいに真面目な人間に生まれてくればよかって……」
「……相馬」
それは嬉しい半分、戸惑い半分だった。
あの相馬洸がこんな風に自分を考えてくれていたなんて意外としかいいようがない。




「その山科が真剣にクラスメイトのことを考えて出した結論だろ?
だからオレ思ったんだ。信じてみようって。確かにあいつらは強いし頼りがいがあるよ。
でも仲間って、強いとか頭がいいとか、そんなことよりずっと大事なものがあると思う。
山科たちはそれを持ってると思ったんだ。
吉田も何だかんだ言っていい奴だし、内海なんて正義感の塊みたいな奴だろ?」
「……そんなに持ち上げられても困るな。オレはおまえの期待に応えられるような人間じゃない」
「いいんだよ。オレが好きでここに残ったんだ。第一、桐山たちって途中で転校してきた連中だし。
やっぱりさ……ずっとクラスメイトとして一緒にやってきた連中といたいよ。
オレ上手くいえないけど……ずっと仲間だった時間捨てられなかった」


「……相馬、ありがとう」
山科は素直に感動していた。正直言って洸はもっと計算高い人間だと思っていた。
オレは相馬のことを誤解していた…… すまない相馬。
「キーがなければ例の基地には入れないんだろ?
だったら、あいつらもあきらめて帰ってきてくれるよ。そしたら、また一緒に脱出の方法を考えようよ。ね?
大丈夫。あいつらだって同じクラスメイトなんだから、きっとわかってくれるさ」
「……そうだな」
「でもさ……その前に、あいつらが鍵発見したら全部台無しだね」
洸は口惜しそうに俯いた。


「……鍵が見つかったら……あいつら絶対に基地の封鎖解くよ。
そしたら仲直りもなにもあったものじゃない。
すぐに化け物がでてくる。あいつらも……オレたちも死ぬかもしれないんだ」
「……相馬」
「……やっぱり黙ってみてることなんて出来ないよ」
洸は立ち上がった。
「今からでも遅くない。オレが行ってあいつらを説得してくるよ」
「相馬?」
「あいつらがもしキーを発見したら全部水の泡だ。その前に、オレが言って説得してくる」
洸は真剣な眼差しですぐにドアに向って歩き出した。




「待ってくれ相馬!!」
伊織は慌てて止めた。
「説得するって……外に出たら襲われるかもしれないんだぞ?」
「平気だよ。ほら、オレ足速いし」
洸はかまわずにドアを開けようとした。慌てて伊織がドアノブを押さえる。
「そんなことする必要はないんだ!!あいつらは絶対に入れないんだ!!」
洸はいかにも何で?という表情で伊織をみた。
「……どうして、そんなこといえるんだよ山科。あいつらがキーを発見したら……」
「キーならここにある。だから絶対に大丈夫なんだよ」
伊織はポケットからカードキーを取り出した。


「……山科……おまえ……」
拓海も驚いている。洸はもっと驚いた表情をした。
「あの不和って奴が落としていったものだ。オレが拾ったんだ」
「……じゃあ」
「ああそうだ。オレは黙っていた、あいつらに言ったら絶対に取られるからな。
これをオレが持ってるなんて、あいつらは知らない。
だから相馬、おまえがそんなことする必要ないんだ」
「……良かった」
洸はホッと胸を撫で下ろした。


「全く、それならさっさと言ってくれよ。オレ本気で行く気だったんだよ」
「すまない相馬。あいつらの前ではいえなくて……。
一旦、隠すとなかなか打ち明ける機会がなくてな」
「でも良かったよ。これで、あいつらも無謀なこと出来ないよね」
「ああそうだ。きっと時間がたてば冷静になってオレの言ったことを考え直してくれるはずだ」
「本当によかったよ。あー、緊張したらのど渇いた。
そうだ、確かコーヒーあったよね。オレ入れてくるよ。みんなで一休みして脱出のこと相談しようよ」
「ああ、そうだな」
伊織と拓海はとりあえず他のみんながいる大部屋に移動した。
そして洸に打ち明けたようにカードキーのことを話した。
最初は皆驚いたが、全員ホッとした。これで、化け物が地表に出てくることもない。


「みんなー、コーヒーはいったよ」

洸がお盆を持って一人一人回った。
ここにいる者全員にコーヒーを配っている。
そして、何とか脱出プランを練ろうと、コーヒーを飲みながら話し合いが始まった。














「最初はこの部屋だな。警備室なら武器があるはずだ。
それから、こことここ……軍の施設は大抵武器の隠し部屋がある。
おそらく、この部屋だろう。まず二手に分かれ武器を回収した後、この階段で合流。
研究施設の規模からいって、この第一封鎖壁から第五閉鎖壁まではおそらくF2程度だろう。
F2なら簡単だ。一気に全滅させた後、今夜はこの医務室だ。
見てみろ、このドア……それに、この廊下の非常ドアを溶接すれば外部からの侵入は防げる。
これで医務室の安全は確保できるだろう」
晃司は基地の見取り図を見ながらテキパキと作戦を指示していた。
「相変わらずお見事だな晃司。完璧だ」
晶はそういったが、勇二はなんだかふてくされていた。
「だがキーがなければ何の役にもたたない作戦だ」
晃司は呟くように言った。
「ああ、その点は心配ない」
今度は晶が不敵な笑みを浮かべて言った。
「キーは手に入る。そのうちにな」














「とにかく……今は焦ってるから考えもまとまらないんだと思う。
みんな疲れてるしな……今日は見張りをたてて寝よう。明日また答えを出せばいい」
幸雄の意見にみんなは頷いた。
「そうだな……じゃあ、最初の見張りはオレが……」
と、伊織が言いかけたときだった。手にしていたコーヒーカップが床の上で砕けた。
そして伊織はその場に崩れこんだ。身体が動かない!!
「や、山科くん!!」
慌てて邦夫が駆け寄ろうとするも……足がもつれ倒れた。
そして邦夫も動けない。全身がしびれている。


「……な、なんだ!?」
その異変は幸雄も襲った。しびれだけではない目がかすむ。
慌てて千秋をみると千秋はすでに倒れていた。
女生徒たちは全員ダウン。オタク三人組もダウンしている。
いや、全員がふらふらと倒れだした。全く同じ症状だ。
「……な、なんだ……なんだ、これ?」
コーヒーカップを震える手で持っていた拓海もついにカップを支えることが出来ずに手を離した。
派手な音と共にカップが砕ける。
全員。そう全員手足のしびれ、そして眩暈、目の霞を感じ倒れこんだのだ。

いや……一人だけ平然と立っている者がいた。

その男はスタスタと伊織に近づくとポケットからカードキーを取り出した。
そして携帯のようなものを取り出した。
伊織の目にかすんで映ったそれは小型のトランシーバーだった。
それも陸軍専用の。




「もしもしー。あー、周藤。オレだよオレ。やっぱ周藤の言うとおりだったよ。
うん、山科が隠し持ってたんだ。じゃあ、今からそっちに行くよ」


伊織はゆっくりと顔を上げた。顔がよく見えない。
ただ、その相手はこう言った。

「ごめんね山科。オレ実をいうと最初っから周藤についてたんだ。
周藤がさ。『山科が怪しい』って言ってさ、命令されてスパイやってたんだよ。
だって、こういう異常な状況の場合、強い奴についたほうが得だろ?
長いものにはまかれろってねー。だからさ。本当にごめん、うらまないでよね。
ああ、それから、コーヒーに入れたの単なる痺れ薬だから、そのうち元に戻るから安心しなよ」


「じゃあ、オレ行くからバイバイ」


かすかな意識の中、伊織が見たのは去ってゆく洸の後姿だった――。




【残り34人】




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