「それにしてもよかったですね。クラスメイトがこうして集まることが出来て」
邦夫は余程安心したのか、胸を撫で下ろしていた。
「聞いてくれ諸君!!」
隆文だった。まるで地獄の渕から救いの蜘蛛の糸を見つけたように目が輝いている。
「我々は今とてつもない幸運に直面している。この大宇宙の歴史の生き証人になろうとしてるんだ!!
この島には地球外生命体が‥‥」
ガンっ!!言い終わらないうち頭に鈍い音が響いた。
「……おまえは黙ってろ。話がややこしくなる」
貴弘だった。その一撃で隆文は床に顔面から激突する羽目になってしまった。


「ねえ、これからどうするの?」
だった。いや、この場にいる大半の生徒の代弁とも言える。
「こいつから聞くことがあったんじゃないのかな?」
桐山は哀れにも囚われの身になった礼二の後ろ襟を持ち上げ、静かな声でそう言った。
「そうだ。おまえが知っていること全て話せ」
さらに追い討ちをかけるように晃司が言った。
「だ、だから…知らないって言ってるだろ……」
礼二はあくまでも知らぬ存ぜんを通すつもりのようだ。
「おい、まどろっこしいことはやめて、さっさと拷問しようぜ」
勇二だった。特殊な生徒達は平然としていたが、その他の一般の生徒は『拷問』という言葉に過敏に反応した。
もちろん一番反応したのは、当の本人である礼二そのひとだったが。


「ま、まてよ和田……こ、こんな所で……女だって見てるんだぜ?」
「女が見てたらやらないと思ってたのか?おめでたい野郎だぜ」




Solitary Island―66―




「ギャァァァー!い、言うっ!何でも喋るっ!!だ、だからっ!!だから殺さないでくれぇぇー!!」
部屋の中から痛ましいまでの絶叫。晶は腕時計を見て冷たく言った。
「……23分か。思ったより短かったな、根性のない奴だ」
ドアが開き、勇二とフラフラになって鼻血まで流している礼二が出てきた。
「早速全部はいてもらおうか」
「ま、待ってくれ……み、水を……」
礼二はその場にひざまずくと「……い、一杯だけ」と懇願した。
「フン、女々しい奴だ。それでよく特選兵士になろうなんて考えられたものだな。
貴様、陸軍だと言っていたな。所属部隊はどこだ?」
「……か、関東第五歩兵団の少年部隊だ」
「ああ、あそこか。オヤジが言ってたぜ、あの地域はレベルが低いってな」
「ここから出たら、オヤジに進言して部隊そのものをなくしてなるぜ」と告げながら晶は、「さあ、さっさと話せ」と促した。
水を一杯飲み干すと礼二は大きく一回深呼吸して話し出した。


「おまえたちも知ってのとおり、この島は政府や科学省のトップシークレットだ。
この島の存在は政府や軍、それに管轄の科学省でも一部の人間しか知らない。
ここ数年の少子化にともない教育委員会が縮小され、プログラム予算が大幅に減額した。
そのせいで教育委員会がプログラムの実地を他の管轄に依頼しまくってることも知ってるだろう?」
礼二は一呼吸おいた。そして再び話し出した。
「名乗りをあげたのは科学省と関東陸軍だった。で、合同でやることになったんだよ。
科学省は『何か』のデータ収集の為、関東陸軍は戦闘データ収集と人材の発掘が目的だった。
主導権は科学省が握ってた。実地も科学省がやってた。数年たった……生存者が極端に少なくなっていた……」
生存者が少ない?何を言っている、もともとプログラムはそういうものだろう、誰もがそう思ったに違いない。

「優勝者がいないんだよ……いるはずの優勝者が……。
全員、首輪の爆発でくたばったとか、ラストで相討ちになったというのも考えられるが、
いくらなんでも科学省が受け持ったクラス全クラスがそうなんてちょっと出来すぎてると思うだろ?
不信に思った人間がいて科学省にスパイ送り込みやがった……そして知ったんだ」

「最初っから優勝者なんていなかった。全員死亡が確定してたってことを」




「男子16番死亡……優勝者決定、男子11番の生徒です」
しばらくした後、優勝者である男子生徒が放心状態で両脇を抱えられ連れてこられた。
「プログラム所要時間は18時間と6分か……まあまあの数字だな」
そのときだった。男子生徒が「うぎゃぁ!!」と恐ろしい叫び声を上げ、胸をかきむしりだした。
そして、メキメキっと嫌な音がして胸を突き破って恐ろしい生き物が誕生したのだ。
「……優勝者は深手を負い、プログラム終了直後に死亡」
プログラム担当者は冷静にそう言った。
そして、その化け物をスタンガンで気絶させると「まだまだ未完成だな」と溜息をつき、「次回はF5で実験を行うぞ」と言った。
それが陸軍がはなったスパイが見た光景だった。





「……F5」
晃司が呟いていた。
「どうした晃司、おまえ科学省がプログラムを利用して実験繰り返していたこと知らなかったのか?」
「オレの専門外だ」
多くの罪の無い少年少女が科学省の実験によって殺されていたというに晃司は顔色一つ変えない。
「と、とにかくだ。F5は奴等にとって機密中の機密。でも各軍部は奴等がどんな化け物が知りたがってる。
で、またスパイ送ったんだが……ばれて殺されたってわけだ。
死ぬ間際にマイクロチップを送ってよこした。F5の戦闘能力を測る為に実地されたプログラムの記録を」
「どんな内容だった?」


「F5は全部で七匹だそうだが……一匹VS一クラス、禁止エリア無しの島で全員一日もかからずに40人皆殺しだ。
それも連中遊んでたって話だぜ。特にブルーと呼ばれている化け物は5時間かからなかったそうだ」
「ブルー?」
「オレも上からスパイが残した記録の一部をチラッと見せてもらったばかりだからよくしらねーよ。
正式名称はアルファベットと数字を組み合わせたややこしい名前なんで学者達はあだ名つけて呼んでたらしい。
とにかく、そのプログラム結果に科学省は顔をしかめた……殺し方が凄惨だったとかで。
で、怖くなった連中はF5を至急処分することにしたらしいんだが……」


「何があった?」
「さあな、しらねーよ。本当だ。ただ、科学省はこの島を引き上げた……。
と、いうか連絡がつかなくなったそうだが、この島には大事なペットがいる。
食料や繭になる人間が必要だ……だから、それだけは送り込んでいたらしい。
で、その生徒の中に潜り込めばこの島の所在地やFシリーズの正体がつかめる。
関東陸軍はそう考えてプログラム候補のクラスにオレのような少年兵士を何人も送りこんだ。
で、運悪くオレの転校先が生贄に選ばれたクラスだったってわけだ」
「おまえはどうやって脱出するつもりだったんだ?」
「本来なら、関東陸軍が迎えに来る手はずなんだが、発信機の故障か障害電波がでてんのかしらねーが、音沙汰無しだ。
仕方ないから奥の手使うことにした。
殺されたスパイ……そいつが送ってよこしたものは、もう一つあったんだよ。
カードキーだよ。この島を支配する秘密基地に入れるIDか−ドさ。
この島には何箇所か建物がある。ここもそうだ。でも、この島の本拠地はずっと地下にあるんだよ。
そこは最新のコンピュータで完全管理されている施設なんだ。
科学省はこの島へは潜水艦で来てたっていうから、そこに行けば何とかなると思ったんだ……」

「なぜ、そうしなかった?」
「オレ一人じゃメインルームにつくまでに殺されるからだ」




「……どういうことなの?」
だ。殺されるという言葉に敏感に反応したらしい。
「殺されるってどういうこと?あの化け物たち以外にも何かいるの?」
、何を興奮しているんだ?」
海斗がの両肩に手をおいて心配そうに尋ねてきた。
「その基地の中にも化け物たちがいるってことだろ?」
今度は伊織がもっともらしいことを言った。確かに、あんな化け物が建物の中にいたら誰でも入りたくはない。
しかし桐山や特選兵士、それに貴弘や真一、洸は全く違うことを考えた。
一番最初にの疑問を口にしたのは桐山だった。


「化け物がいるのは、基地の外でも同じことだ。リスクがあろうと脱出に賭けるのが普通だが、こいつはしなかった。
つまり、化け物たちより基地の中のほうがずっとリスクが大きい。そう考えたんだろう

「……ええ、桐山くんの言うとおりよ」
クラスメイト達はようやく気付いた。そうだ同じように危険なら、助かる可能性がある基地を選ぶ、普通は。
そうしなかったのは、基地の中のほうにより危険があるということだ。
この島を我が物顔で暴れまわる化け物以上の危険が。


「……今、この島にいるのは連中のほんの一部さ」
礼二はゆっくりと語りだした。
「基地はいざという時の為にセキュリティーシステムが万全。ただし外部からの侵入を防ぐ為じゃない。
内部から外部への脱走を防ぐ為のシステムだ。これを見てみろよ……」
礼二はディスクのようなものを放り投げた。
「なんなのこれは?」
「基地の最上階にいた科学者が残した記録だ。第一種警戒態勢になる何かが起きた……そう記録されている。
その後、基地の全システムをメインコンピュータが自動的に完全封鎖。
何か異常事態が起きたときに発動されるようになってたんだよ。
各階全てが一斉封鎖。基地の中で作られていた化け物たちも当然基地の中だ。
だが、何匹かは基地が完全封鎖される前に逃げ出したらしい。
つまり……だ。基地の中にはオレたちが今まで見てきた化け物がうようよいる。
それも、比べ物にならないような数の化け物がな……」


桐山は礼二が放り投げたディスクを拾った。
「この中には他に何が入っていた?」
「何って……大したものはないぜ。基地の見取り図とかパスワードとか……」
「基地の広さは?メインコンピュータルームはどこにある?」
「……そんなところまでみてねーよ。地下20階はあるし、とにかくだだっぴろい。
上の階は研究施設らしいから制御室は下のほうじゃないのか?」
「どうやって中に入る?」
「……そのキーを無くしたんだよ」
礼二は忌々しそうに吐き出すように言った。
その言葉を聞いた礼二はポケットの中にあるカードキーを握り締めた。
「……とにかくキーで中に入れば各階の封鎖壁はパスワードを入力すれば手動で開けられる。
そうやって制御室に行けば後はなんとでもなると思ってたんだ。
だが、制御室に行くまでに化け物たちを一人で片付けるなんて到底無理だ。試しにやってみたが……」
『試しに』という言葉にいち早く隼人が反応した。




「……貴様、誰かを騙してやらせたのか?」

隼人の言葉に今度は昌宏が反応した。

「誰かって誰だよ!ま、まさかおまえ……おまえ、クラスメイトたちを!!」
「……ああ、7人ほど基地の中に入れた。化け物のことは伏せてやったぜ。軍の機密だからな。
でもダメだった。一階も突破出来ずに全員やられたんだ」
「……何の為に、オレと内海を攫ったんだ?」
今度は伊織が質問した。

「……決まってるだろう?無理だとわかっていてもやるしかない。
何とか頭数そろえて制御室に送り込む。一か八か、やってみるしかなかったんだ。
もしかしたら宝くじ並みのラッキーで化け物の攻撃潜り抜けて制御室に辿り着くかもしれない。
そうなったらオレの出番だ。オレなら、メインコンピュータの軍専用OSを使える。
オレがやらなければ遅かれ早かれ全員死ぬんだぜ?
だがオレの作戦が上手くいけば少なくてもオレは……オレと残った連中は生き延びることが出来る。
クラスメイトや、おまえたちを持ち駒にするのも当然だろ?上手くいけばオレのおかげで脱出でき……」


そこまで言って礼二は頬に強烈な衝撃を受けた。
の平手打ちという名の洗礼だった。

「……あなたって本当に最低ね。自分は何もせずに周囲の人間を利用するだけなんて。
あなたのおかげで生き延びるですって?ふざけないで。
一つ教えておいてあげるわ。あなたが特選兵士に選ばれなかった理由。
確かに特選兵士には褒められた性格じゃない男が何人もいるけど、
少なくてもあなたみたいにバカな勘違いするようなふざけた男は一人もいないわ。一人もね。
自分一人じゃ何も出来ない男に特選兵士は絶対に務まらない。
そんなことすら気付かないようでは100年たっても絶対に選ばれないわよ」




「とにかくキーを探す必要があるな」
桐山だった。
「どこで無くした?」
「……どこって?おまえ……行く気かよ」
「それが一番確実な方法ではなかったのかな?」
ほぼ全員が驚いた表情で桐山を見ていた。この男の話を聞いていなかったのだろうか?
化け物の集団が口を開いて待っているというのに恐怖すらないようだ。
晶が大声で笑い出した。それこそ面白くて仕方がないというように。


「気に入ったぜ桐山和雄。オレたち以外に、そんなこと考えるやつがいるとはな」
晶がこんなに感情をさらけだすことは滅多にないので、他の特選兵士は少々驚いていた。
「どうする、おまえたち?桐山は行くと言っている、おまえたちはどうなんだ?」
晶の問いに最初に反応したは直人だった。
「答えがわかっているようなことを聞くな晶。
オレが、あんな下等生物相手にひるむとでも思っているのか?」
直人は自分より先に桐山が行くと言ったのが気に入らなかったようだ。
面白くないと言った表情で桐山を睨みつけている。
「そうだな、ま、それしかないよな。一番早くて手っ取り早いぜ」
攻介もやれやれと、その場から立ち上がった。
「こうなったら直人はテコでもうごかないからなぁ。しょうがない、付き合うぜ」
俊彦もさっさと参加を表明。


、おまえはどうする?晃司たちは当然行くぞ」
晶はにも意見を求めた。
]シリーズの任務は化け物の殲滅。当然、晃司たちは行くだろう。
「行くわ。ここにいても埒が明かないもの」
「そうか。おまえなら、そう言うと思った」
晶はニッと笑った。考えるまでもなかったようだ。
が参加を表明した途端、「もちろんオレも行く。恋人を守ってやるのは男として当然だからね」と徹がしゃしゃり出た。
はオレの女だ。守るのはオレだ」
すかさず雅信が反論する。
「やれやれ相変わらずだな。大丈夫だよ、僕がついてるから」
薫など、つい先ほど自分をめぐって女同士が醜い争いを繰り広げたことさえ忘れたようだ。
「まったく、うざい奴等だぜ。特選兵士は全員行くに決まってるだろ」
勇二も当たり前のようにそう言った。


「そうだな。おまえたちはどうする?」
隼人はチラッとクラスメイト達に視線を配り意見を求めた。
「オレは行く」
真っ先に名乗りを上げたのは貴弘だった。
「……そうだな。こんなところで考え込むより行動したほうがずっといい」
真一も貴弘に続きそう言った。




「おい待てよ!!」
その時、幸雄が手を上げていた。
「行くって……化け物がうようよいるんだろ?襲われたらどうするんだよ?」
幸雄の質問はクラスメイト全員の質問でもあっただろう。
「戦う、それだけだ。何か疑問でもあるのかな?」
桐山はサラッと言ってのけた。
しかし、化け物に襲われ殺されそうになった幸雄にとっては冗談ではない。
「戦うって!あいつらに殺されるぞ!!」
「殺される前に殺せばいい。違うのかな?」
「な、何言ってるんだ桐山!ろくに武器もないのに!!
とにかくだ。救助がくるかもしれない。それまで待ってよう!!」
「救助?これは政府が仕組んだことだ。救助なんて来ない。違うのかな?」
「……っ!!」
幸雄は口惜しそうに唇を噛んだ。確かに桐山の言うとおりだ。
しかし、だからといって、そんな危険な賭けには賛成できない。


「オレは……オレは千秋やさんを危険に巻き込む考えは賛成できない!!」
はオレが守る。だから、おまえが心配する必要は無い」
幸雄は言葉に詰まった。そんな幸雄に晶が追い討ちをかけるように言った。
「内海、オレ達は行く。止めても無駄だ。だが、おまえたちについて来いとは言ってない。
選ぶのは、おまえたちの自由だ。ここに居たければ好きにしろ」
「何をバカなこと言ってるんだ周藤!!」
今度は伊織が口を出してきた。
「こんな時だ。クラスメイトが分裂してどうする?
それに基地の封鎖を解けば、あの化け物が地表に出てくるんだろう?
オレも内海と同じ考えだ。絶対に賛成できない。
他にいくらでも方法はあるはずだ。それを皆で考えるべきじゃないのか?
あの化け物たちと戦って勝てるとは思えない。返り討ちにしてこっちが殺され……」


「ちょっと待った!!」
勢いよく隆文が手を突き上げていた。
「さっきから聞いていれば戦うだの殺すだの。ま、まさか、おまえたち……あの生物を殺すつもりじゃあ?」
「当然だろう?全滅させてやるぜ」
晶が冷たく言い放った。隆文は眩暈がしそうになった。
「いいか諸君。よく聞いてくれ、彼等はとても貴重な生物なんだ」
なんだ?何が言いたい?クラスメイト全員がそう思った。
「その彼等を殺すだなんて。ましてや全滅だなんてそんなバカなこと許されると思っているのか?」
貴弘が立ち上がった。貴弘の気性を知っているクラスメイト達は一斉に青ざめた。
もちろん一番顔面蒼白になっているのは隆文だが負けられない。

命など信念を貫き通す為にあるものだ。そうだろモルダー?


「おまえ……自分が何を言ってるのか、わかっているのか?」
「い、今、我々はとても感情的になっている。当然だ、理解するよ。
だ、だが!!だからといって、この大宇宙の大いなる生態系を一時の感情で崩していいのか?
彼等は大自然の一角をになう貴重な生物なんだぞ。そんな暴挙を見てみぬフリなんて出来ない。
あの貴重な生物たちを滅ぼすなん絶対に承知できない!オレたちにそんな権利は一切無いんだ!!」
隆文一世一代の大演説だった。しかし貴弘は冷たく突き放す。
「あるに決まってるだろ」
そんな貴弘に真一まで同調した。
「ああ、そうだ。皆殺しにしてやるぜ、臆病者は黙ってみてろ」
「し、しかし……だ、大宇宙の……大宇宙の生態系を……」


「いい加減にしろ!!」
怒鳴ったのは貴弘でも真一でもない。伊織だった。
「さっきから黙ってきいていればバカなことを!そんなことは絶対に承知できない!!
基地に行くのはおまえたちの勝手だなんて言わせない!!オレたちは仲間なんだ。
そんな勝手なことはオレが絶対にさせない!!絶対にだ!!」
いつも毅然と冷静な態度を取っていた伊織が珍しく声を荒げていった。
口調には強い決意も込められている。その態度を見て晶は思った。


あいつ……何か隠しているな。
切り札となるようなものを。




【残り34人】




BACK   TOP   NEXT