礼二は悪態つきながら森の中を歩いていた。
「……とにかく、この島の秘密はオレが握っているんだ。これさえあれば、なんとでもなる……あれ?」
礼二はギョッとした。そして、さらに真っ青になった。
手を突っ込んだポケット。ない!なにもない!!
あるべきはずのものがない!!
「そ、そんな!!」
な、ない!!キーがない!そんな、あれが無ければ、この島から脱出できないじゃないか!!
まさか、落としたのか?ど、どこで落とした?畜生、どうすればいいんだ!!
Solitary Island―63―
「……ん」
美恵の寝顔を見ていた桐山たちだったが、俊彦が「おい、ちょっといいか?」と起きている連中を連れ出した。
礼二の居場所が特定できたので魔女狩りならぬ魔男狩りをしようというわけだ。
最初は「そんな奴どうでもいいよ」「……オレは美恵からははなれない」などと言っていた徹や雅信も、
礼二が美恵にした非礼の数々を知った途端、「掴まえて八つ裂きにしてやる!」だ。
「とにかく奴には聞きたいことがある。生け捕りにしろ」
晃司がさらに冷酷にも「その後はどう扱おうが、おまえたちの勝手だ」と付け加えた。
「よし、すぐに奴を捕獲するんだ」
スッと貴弘が手を上げていた。
「殺さなければ多少のことはいいんだな?骨の一本や二本くらいならかまわないだろうな」
誰も特に驚かなかったが、俊彦は「おい、マジで言ってるかよ。おまえ、それでも善良な一般市民か?」と言ってきた。
「人間には200本以上の骨がある。一本や二本くらいなんだっていうんだ」
貴弘の答えはとてもじゃないが善良な一般市民のセリフではなかった。
「好きにしろ。奴が口がきける状態でありさえすればいい」
追い討ちをかけるように晶が冷酷な言葉を吐いた。
「晃司、晃司」
今度は志郎が手を上げていた。
「秀明は探さないのか?」
今、この建物内には生き残っている連中がほとんど集まっている。
秀明、洸、真一、海斗。この四人を除いてだ。
「秀明がついているなら大丈夫だろう。今は奴を捕獲するのが優先事項だ」
「……そうなのか?」
「そうだ。秀明は後でいい。わかったな?」
「……晃司がそういうなら。美恵は?誰が守る?」
美恵の名前を出すと数人が顔を曇らせた。
「オレが残って守る。それでいいな?」
桐山だった。途端に数人の顔がしかめっ面になる。
「ちょっと待ちなよ桐山くん。それは無いんじゃないかな?」
徹が口を出してきた。
「彼女はオレが守る。君は引っ込んでいてくれ」
「おまえは不和礼二を八つ裂きにすると言っていたがしないのか?」
「……それは」
佐伯徹。生まれてはじめてのジレンマだった。
「オレが残ろうか?」
今度は隼人が立候補した。
「君はお仕事してきなよ。僕は残らせてもらおうよ。ちょっと疲れたんだ」
薫がさも自慢げにそう言った。
こうして、薫を除いた連中。つまり桐山、晃司、晶、隼人、徹、雅信、攻介、俊彦、志郎、雅信、直人、貴弘で狩りを行うことにした。
出かける前に桐山はもう一度だけ美恵の顔を見ておこうと考えた。
「……!」
ドアの隙間から美恵が眠っている部屋の中が見える。
部屋の中にいるのは疲れて眠っている連中だけだ。だが1人起きている。早乙女瞬だ。
桐山は妙な違和感を覚えた。瞬が起きているのはいいとして、美恵の顔を覗き込んでいるのだ。
(……早乙女?)
瞬がジッと美恵の寝顔を見ている。そして、その頬にそっと触れている。
なぜ、あの男がこんなことを?桐山には理解できなかった。
ただ、その表情がいつもの早乙女瞬のそれとは全く違っていた。
いつも他人のことには一切口出ししない冷めた表情のツンとすました男だったのに。
その表情には何かしら感情があった。それが何なのか桐山にはわからない。
「……おまえも」
瞬はさらに美恵の顔を覗き込むように近づいた。
「……おまえも、オレと同じはずだったんだがな」
(……同じはず?どういうことだ?)
「……ん……」
……誰?……誰かいるの?
頬に温かい感触……誰かがいる。
うとうとした意識の中、美恵はその誰かの気配を感じた。
そして、うっすらと目をあけた。視界にぼやーと人影が映る。
(……秀明?)
何の根拠も無いが、美恵は秀明かと思った。
何となくだが、直感でそう感じたのだ。しかし、それは違った。
数秒後はっきりした意識の中見た相手は秀明ではなかった。
「……早乙女くん?」
瞬の顔が間近にある。途端に美恵は真っ赤になって起き上がった。
瞬は何事もなかったかのように「よく寝てたな」とだけ言い、先ほど自分が横になっていた長椅子に戻るとまたゴロッと横になった。
(……秀明かと思ったのに……でも、どうして?)
どうして彼は自分の顔をあんな間近で見詰めていたんだろう?
……あの一瞬……早乙女くんが私に近い人間に思えた。
どこかで出会ったことがあるような……どこだっただろう?思い出せない……。
「……とにかく考えろ……他に方法はあるはずだ」
礼二は必死になって考えていた。
あのキー……畜生、あれが無ければどうしようもないじゃないか!!
この島からどうやって脱出する?
そうだ、特選兵士達がいるんだ。奴等は絶対に脱出プランがある。
それに乗るんだ。そうなると、やっぱり天瀬美恵だ。
あの女を人質にとってしまえば少なくても科学省の化け物は思い通りになる。
「……よし、そうと決まったら隙をみて天瀬美恵を拉致してやる」
礼二は下卑た笑いを浮べ立ち上がった。
「誰を拉致するだって?」
洞窟内に綺麗な声が反響した。
「……だ、誰だ!?」
礼二は振り向いた。そして腰を抜かしそうになった。
そこには軍の少年兵士の中でも類まれな美貌と女の支持率で令名高き佐伯徹だった。
「さ、佐伯徹!!」
礼二は知っていた。徹が恐ろしく残忍な性格で有名だということも。
クルリと向きを変えるとスタートダッシュを切っていた。
が、いきなり足がもつれた。ロープが絡まっている、もちろん徹が投げつけたものだ。
礼二は必死になって絡まったロープを外しにかかったが遅かった。
徹がスタスタと近寄ってきたかと思いきや礼二の襟首を掴んで持ち上げたのだ。
「話は聞いたよ。オレの大事な恋人を連れ去ろうとしたんだって?」
「…………」
「知らなかったじゃすまないよ。オレにとって美恵がどれだけ大切な存在かってこと。
その美恵に手を出して、あまつさえ彼女の綺麗な顔を傷つけようだなんて……。
全く、反吐がでるほど嫌になるよ……覚悟は出来てるんだろうね?」
「……ま、ま、まってくれっ!!」
「嫌だね。知ってるかい?オレはね……」
ゴク……っ。礼二は固唾を飲んだ。
「オレとオレの美恵を侮辱する奴は絶対に許さない」
「…………ひ」
「……君、死になよ。もうそれしかないよ」
「ま、まってくれ……は、話を……」
「この犬のクソがっ!!」
「ぎゃぁぁぁー!!」
礼二の顔面に徹の拳がのめりこみ、鼻からドッと血が噴出した。
「……ひ、ま、待てよっ!!」
「よくもオレの女をっ!!」
言い訳する時間さえ与えない。徹の蹴りが今度は礼二の腹に食い込んでいた。
グボっと礼二が胃液を吐き出す。それでも徹の攻撃は終わらない。
「いいか、よく聞けクズ野郎!!美恵はオレの妻になる女だ!オレの宝だ!!
その美恵を拉致だと!?傷つけるだと!?ふざけやがって!出来るものならやってみろ!!
その前に、貴様を原型止めないくらいミンチにしてブタのエサにしてやる!!わかったか、このウジ虫野郎っ!!」
「ぎゃぁぁー!や、やめろぉ!!頼む、顔だけは傷つけないでくれっ!!」
「なんだって?そうか、わかったよ」
徹は礼二の首を鷲掴みにすると、これ以上ないくらい冷酷な笑みを浮かべた。
「特別サービスだ。そのうっとおしい顔に集中攻撃してあげるよ」
「っっっ!!」
「不和礼二を捕獲したのか。よくやった徹。だが……」
隼人はロープで縛られ拘束されている礼二を見て言った。
ちなみに礼二はロープで縛られた上に、まるで犬のように首をロープで縛られ徹に引っ張られてきたのだ。
「……不和礼二は女にモテると聞いたから、てっきり二枚目かと思ったが」
徹が連れて来た男は顔面がはれ上がり、右瞼は腫れ上がり、その上アザになって口や鼻から血を流していた。
「……お世辞にも二枚目とは言えないな」
「おまえのお仲間のせいで顔が変わったんだよ!!ちっくしょー!!」
礼二にとっては、ある意味殺されるよりつらかったに違いない。
「とにかくオレは命だけは助けてやったんだ。文句は無いだろう?」
徹の問いに晃司は「ああ全くない」とだけ簡潔に答えた。
「とにかく連れて帰るぞ。こいつには聞きたいことが山ほどある」
こうして礼二は呆気なく掴まった。そして例の建物に逆戻りだ。
だが建物に戻った礼二をまたしても衝撃が襲った。
「や、止めろ曽根原!!」
伊織が必死になって美登利を羽交い絞めしている。
「冷静になれよ徳永!!」
そして昌宏が美和を必死に制している。戻ってきた桐山たちは「何があったんだ?」と思った。
ふと見ると薫が「……全く、モテる本当に男はつらいなぁ」と随分悦に入っているではないか。
「天瀬、一体何があったのかな?」
「桐山くん……実はね」
美恵は困ったように説明してやった。
それは桐山たちが出掛けてすぐの出来事だ。
「立花くん、よかった無事だったのね」
美登利は薫の姿を見るなり嬉しそうに駆け寄ってお優しい声を掛けた。
他の男子生徒にはいつもツンとした態度を取っているのに。
やはり美登利も女の子だったということだろう。
好きな男の前ではごくごく可愛いただの女になってしまうらしい。
「立花くん、その手どうしたの?」
見ると薫の左手に傷が(もっともカスリ傷だ。ちなみに徹たちとやりあった時出来たものだった)
「ああ、大したこと無いよ」
「ダメよ。黴菌がはいったら大変だわ。私が手当てしてあげる」
美登利は内心嬉しくて仕方なかった。公明正大に薫とベタベタできるのだから。
一方、美和には同級生の昌宏がついていた。
昌宏はベッドの上でぼーとなっている美和に心配して話しかけているだが反応がない。
しばらくすると美和は頬に両手を添えて「……なんて素敵なひとなの」と呟いた。
昌宏は「はぁ?」、と我が耳を疑った。
だが美和は頬を染めて幸せそうにうっとりしている。
ふいに美和は立ち上がると、昌宏が「おい、どこに行くんだよ」というのも完全無視して何かを探し始めた。
「徳永、どうしたんだよ。何があったんだよ」
「……彼は?」
「彼って?不和か?」
「不和?」
「そうだよ。おまえが夢中になってる彼氏の不和礼二だよ」
「礼二ぃ!!?ああ、あれ?冗談じゃないわ、一緒にしないでよ」
「……え?」
やがて美和はある一室に辿り着いた。そして中に入った途端、固まった。
「はい、立花くん。あーんして」
美登利がフォークをかいがいしく薫の口元に運んでやっている。
利き腕に包帯巻いたので食べにくいだろうと、美登利がここぞとばかりにお食事係をかってでたのだ。
もっとも、その料理というのはもちろんインスタントで、しかも邦夫が作ったものだった。
とにかくだ。それを見た美和は切れた。
「こ、この泥棒猫っ!!」
そう叫ぶとイノシシのように突進して美登利を突き飛ばした。
そして「薫の面倒ならあたしがみるわ。引っ込んでなさいよ」と言い放ったのだ。
おまけに、「はい薫、アーンして」と美登利の役目を無理やり奪った。
もともと性格がいいとは言えなかった美登利が黙っているはずがない。
「何よ、この女っ!あなたこそ引っ込んでなさいよ!!」
そう言うと美和に平手うちを食らわしたのだ。それがコングだった。
「何するのよ、このアマ!!薫にベタベタしていやらしいのよ!!」
美和が美登利の髪の毛を掴むと美登利も反撃してきた。
「ふざけないでよ!立花くんが、あなたみたいな下品な女相手にするわけないでしょ!!
迷惑よ、そんなこともわからないの。このバカ女っ!!」
こうなると取っ組み合いのケンカだ。嫉妬に狂った女ほど始末の悪いものはない。
周囲は突然の騒ぎに慌てふためきオロオロするばかりだ。
その渦中にあって元凶たる薫は「まいったな」と、どう見ても嬉しそうな表情で優雅に前髪をかきあげている。
二人のケンカが殴りあいに発展しそうになった時だ。
「そこまでだ二人とも!!」
一人の男が二人の間に割って入っていた。
「なんなのよ、あんたは!!邪魔しないでよ!!」
「そうよ、黙ってなさいよ根岸くん!!」
止めたのは意外にも根岸純平だった。
「まあオレの話を聞いてくれ。二人とも事情を察するに立花くんを挟んだ三角関係で揉めているんだろう?
だったらケンカなんて野蛮なことで決着をつけようだなんて間違っているよ。
女性の美徳である優しさ奥ゆかしさ知性や教養で白黒つけるほうがはるかに健全じゃないか」
これにはオロオロしていた他の男子は感心した。
「根岸、見直したぞ。もっともな意見だ」
常日頃、純平を軽く見ていた伊織は初めて尊敬の眼差しで彼を見詰めた。
「……オレは悲しい。なぜ美しい女性達がケンカで、その女体を傷つけあわなければいけないんだ」
「……おい」
だが伊織が純平を尊敬したのは10秒にも満たなかった。
「オレだったら、どちらか一人につらい思いなんてさせない。
二人まとめて大事にしてあげるよ。立花くんなんてほかっておいて二人ともオレと……」
この直後純平が二人にダブルパンチをくらってノックダウンした事はいうまでもない。
二人のケンカはヒートアップして伊織と昌宏が止めにかかっていたのだ。
ちなみに邦夫も止めにかかったが美和に蹴りをいれられ壁に激突、気を失う羽目になっていた。
しかし、お嬢さまの美登利と、少々はじけた女子中学生だった美和との体力差が現れ始めた。
美和は美登利を突き倒すと馬乗りになって、その横っ面をこれでもかというほどひっぱたいたのだ。
慌てて昌宏が「や、やめろ徳永、彼女が死んじまうっ!」と美和を引き剥がした。
美和の動きが封じられた途端、美登利がそばにあったほうきを手に取り殴りかかろうとした。
今度は伊織が慌てて羽交い絞めをかけ今に至っている。
その話を聞いた攻介は「……だからオレは問題起きてもしらないぞ、って言ったんだ」と、またしても頭を抱えた。
「それで薫。おまえ止めようとは思わなかったのか?」
隼人がもっともな意見を言った。
「僕は自分が憎いくらいだ」
さも嬉しそうに前髪をかきあげる薫に隼人は「……止めるつもりはなかったんだな」とあきれ返っていた。
もちろん他の連中も(桐山と晃司と志郎と雅信以外)白けた目で薫を見ていた。
「とにかくだ。こいつをどうする?尋問するならオレがやってもかまわないよ。さっきは殴り足らなかったからな」
徹は礼二の首を繋いでいるロープをグイッと引っ張った。
「そうだな……おい不和。おまえが知っていること全部喋ってもらうぞ」
隼人は礼二を椅子に座らせると静かな声で静に言った。
「……な、なんのことだ?」
「おまえ何を隠している?なぜ晃司を尾行した?なぜ山科や内海を拉致監禁した?」
「……それは、おまえたちが敵だと思ったから」
ガンッ!礼二の後頭部に強烈な肘打ちが入っていた。
「今さらつまらねえ言い訳してんじゃねえよ。さっさと吐け」
ただでさえ短気な勇二はすでに精神の導火線に火をつけかけていた。
「……だから何のことだかオレにはさっぱりわからないって言ってんだろ!!」
礼二は必死に抵抗して見せた。民間人の手前、いくらなんでも拷問までするわけがない。
なんと言っても女もいるし、手荒なマネはしない。礼二はそんな甘い考えさえ持っていたのだ。
「全く、この後の及んで……美和、彼はいったい何を隠しているんだい?」
薫が礼二の『元』恋人に言った。
「あたしは詳しいことは知らないわ。
でも、あなたたちが来たら『いいカモが出来た』って言っていたから何か企んでたことは間違いないわね。
それによくキーみたいなものを眺めては言ってたもの。『オレ一人じゃ無理だ。利用できる人間が欲しい』って」
「そうか。他には?」
「それだけよ。でもあたしたちに拉致させたのは何かに利用するつもりだったらしいわ。
ねえ薫、あなたの役にたてたかしら?」
「ああ感謝するよ」
「よかった。嬉しいわ」
自分がこんな目にあってもかたくなに口を閉ざしているというのに、その自分の目の前でベラベラと喋る美和。
それをみた礼二の表情がどんどん変化していった。
目が大きくなり、頬の筋肉が引き攣っていく。それとは反対に美和は嬉しそうにニコニコしている。
考えるまでもなかった。美和の薫を見る目、それは媚を売っている女の目だ。
「美和ぁぁー!この裏切り者ぉぉー!!」
礼二は切れた。そして美和に向って走りかけた。
徹がグイッとロープを引いたため、数歩で断念こそしたが。
「貴様、その男に誘惑されて心変わりしやがったなぁぁー!!
この浮気者!アバズレ!!ぶっ殺してやるっ!!」
「引き際の悪い男だな。それじゃあ女性に愛想つかされても当然だよ」
「何だと、この女男!ひとの女寝取りやがってっ!!」
「馴れてるとはいえ、嫌なものだな。下種な男の醜い嫉妬は」
「なんだと、この陰険男っ!!」
薫に怒りはなかった。あるのは優越感と蔑みだけだ。
フフンと薄笑いを浮かべる薫に礼二の怒りはますます大きくなった。
しかも薫の代わりに怒声を上げたのは、他ならぬかつての恋人。
「ふざけないでよ!あんたみたいな男に薫を馬鹿にできる資格はないわ!!」
「なんだと、このアマ!あれだけオレにいかれてたくせ!!」
「なによ、あんたなんて薫に比べたらクズよ。下の下よ!!
あんたみたいな男と一年間も付き合っていたなんて自分でも嫌になるわ!!」
「言わせておけば!その腹切り裂いて内臓ぶちまけてやる!!」
「そこまでだ。痴話喧嘩なら後にしろ」
今度は晶が礼二の前に出てきた。
「……キーとかいったな。何のキーだ?」
「……し、しらねーよ」
それを見た薫は再度美和に聞いた。
「どんなキーだったんだい?」
「カードキーよ」
「み、美和ぁぁ!てめえ悪魔に魂売り飛ばしたのかっ!!」
(……カードキー)
一部始終を見ていた伊織はそっとズボンのポケットに手を入れた。
(あの時、あの男のポケットから落ちた……これのことなのか?)
礼二の様子からして、どこかのロッカーや物置のキーではないことくらいわかる。
(……きっとこれだ)
伊織は「みんな、ちょっと見てくれ。そのキーっていうのは……」と、言いかけポケットの中のキーを取り出そうとした。
その時だった。
爆発音が島中に響き渡った――。
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