晃司は礼二が無情にも置き去りにした二人の美少女に問いかけた。
「あの男はどこに行った?おまえたちなら知ってるだろう?」
「知らないわよ!知っていたとしても誰が言うか!!」
美和は余程頭にきたのか、ペッと唾を吐いた。もっとも晃司はスッと避けてしまったが。
「そんなことより鬼頭だ。頼む高尾、鬼頭を一緒に探してくれ」
「なぜだ?オレには関係ない」
「関係ないことないだろ?クラスメイトじゃないか」
伊織は必死に食い下がったが、晃司には本当にどうでも良かった。
「そうか、だったらもう頼まない!オレ一人で彼女を探しに行く!!」
伊織は走っていた。とにかく、とにかく蘭子を探さなければ……。
(……鬼頭、無事でいてくれ)
それから伊織はポケットから何か取り出した。
(……それにしても、なんだこれは)
あの時……晃司に殴り飛ばされた礼二が伊織の上に落ちてきたときに、奴のポケットから落ちてきたものだ。
(……何かのキーみたいだが。いや、そんなことどうでもいい。今は鬼頭を探すんだっ!!)
伊織はキーをポケットに入れ、再び歩走り出した。
Solitary Island―61―
「……なんだと?桐山、おまえオレにケンカ売っているのか?」
「なぜ、そうなるのか理解出来ないな。オレはただ天瀬を守るのはオレだから、おまえは必要ない。
そういっただけだ。だから彼女にはもうかまわないでほしい」
「それがケンカを売っていると言っているんだ。
断っておくが、オレは母さん以外の人間に命令されたことは一度もない。
親父でさえ、オレにそんな口を利いたことないんだ。
おまえの言い分なんて聞く気もないな。おまえこそ、彼女から手を引け」
「それは出来ない相談だ。おまえが引けば全てが解決する」
「そうか、よくわかった桐山。つまり、おまえはオレとやり合ってもいいということなんだな」
どこから、その結論に達するのかは不明だが、とにかくわかりやすい答えではある。
貴弘が学ランを脱ごうとした瞬間だった。
「……誰か来るぞ」
桐山が呟いた。そう感じたのは桐山だけではない。晶も直人も俊彦も、そして美恵もだ。
「杉村、おまえとの勝負は後回しだ。誰か来る」
「なんだと?まさかクラスの連中を殺した殺人鬼なのか?」
「それは捕まえてみればわかることだ」
とにかく皆それぞれ茂みの中に隠れた。蛇が出るか、蛇が出るか‥‥。
やがて誰かが猛スピードで走ってくる音が聞こえた。
そいつが姿を現した。その姿を見た瞬間、昌宏は立ち上がり叫んだ。
「不和!おまえ、不和じゃないないか。良かった無事だったんだなっ!!」
「あ、あわわ……」
誠はまるで立つことを忘れたようにシリモチをついた状態でガクガク震えていた。
実際、腰が抜けて立てなかったのだろう。
「椎名、さっさと立て。怪我はしてないだろう」
「ひ、ひ…むろ……さん」
やっと声が出せる情けない状態。それほど誠が目にした光景は凄まじいものだったのだ。
何も無い空間からいきなり化け物が現れたかと思いきや襲ってきた。
それだけでもショック死してもおかしくないくらいの衝撃なのに、誠が絶叫したと同時に隼人が現れた。
そして、そのおぞましい姿をした怪物を背後から飛び蹴り、怪物の体が地面にのめり込んだと同時に首をナイフでかき切ったのだから。
しかも血液は赤ではない。まるで蛍光色のような黄色。
いや、誠にとってはそんなこと問題ではない。
問題なのは、何も無い空間から突如として怪物が出現し、そいつが自分を襲ったこと。
「立て、まだいるぞ」
隼人の「たて」という単語はよく理解できなかった誠だが、「まだ、いるぞ」という単語には過剰なほど反応した。
誠はまるでムンクの叫びのように絶叫した。
隼人は、スッとナイフを2本取り出すと振り向かずに、それを背後に向かって投げた。
「ギッ!」と嫌な叫びがした。そして、さらに誠はギョッとした。
緑でおおわれた木々。その空間にナイフが突き刺さっている。
そして、蛍光色のような血が流れ出したのだ。
「ひ、ひぃぃー!な、なんで!!なんで血が流れてるんだぁぁー!?」
誠がパニックになるのも無理は無い。しかしパニックには第二弾があった。
何も無いはずの空間。その空間からまたしても怪物が突如としてして姿を現したのだ。
しかも今度は二匹。おまけに飛び掛ってきた。
誠の絶叫もさらにボリュームが上がる。
だが隼人は全く動じず、スッと振り向くと同時に銃口を上げた。
けたたましい銃撃音。そしておぞましい悲鳴。ドサッと二匹の怪物が地上に落ちた。
「……ひぃぃー!!」
誠はまだ叫んでいた。
「3匹……勇二が片付けたのを加えると4匹か」
(……厄介だな。銃があったから簡単に始末できたが、こいつら保護色で周囲の景色に溶け込むことが出来る。
オレたちのように訓練を積み気配を読み取れる人間ならともかく、そうじゃない奴は簡単に襲われる)
怪物たちは突然姿を現したのではない。カメレオンのように、保護色で姿を隠していたのだ。
隼人たちのように気配を読み取ることが出来る人間ならともなく、そうでない人間は遊び殺されるだろう。
古橋大和がそうだったように。
「たて椎名。すぐに元の場所に戻るぞ」
「不和、良かった無事だったんだな。心配したんだぞ!」
昌宏は笑顔でそう言った。しかし昌宏とは反対に礼二に笑顔はない。
「おまえ一人か?徳永たちは無事なのか?」
「……」
「おい、どうしたんだよ不和。オレの顔忘れたのか?」
礼二のただならぬ様子に昌宏の笑顔も少しずつ消えていった。
「なあ、何とか言えよ。徳永たちはどこにいるんだ?もしかして二人とももう死んだのか?なあ不和……」
「うるさいんだよっ!!」
昌宏の目が大きくなった。
「あいつらどうなろうと知ったことか!!いちいち五月蝿いこと言いやがってっ!」
「……不和?」
「ああ、もしかしたら死んでるかもしれないな!そう言えば満足かよ!!」
その言い方に今度は昌宏がかっとなった。
「なんだよ、その言い方は!徳永も皆川もおまえの彼女なんだろ!?」
「だから何だって言うんだっ!!あいつらの代わりなんていくらでもいるんだよっ!!
こっちは今、それどころじゃないんだ!!あいつらに構ってる暇あるかっ!!」
オレは科学省のリーサルウエポンに追われてる身なんだぞ!!
口にして出せないが礼二は腹の中で、これ以上ないくらい叫んでいた。
「ふざけないで!さっきから聞いていれば何なの、あなたはっ!!」
美恵だった。昌宏との会話から、この男が昌宏のクラスメイトだということはわかる。
こんな島にいたんだ。色々と事情もあるだろう。
だが、それにしても昌宏に対する態度といい、その内容といい最悪だ。
少し様子を見てみるつもりだったが、到底我慢できなくなったのだ。
礼二は、驚いたように美恵をジッと見た。
「柿沼くんは、あなたたちのことを心配していたのよ。それを」
「……誰だ、おまえ?」
美恵が名乗る前に昌宏が答えた。
「天瀬美恵さん。オレたちと同じように、この島に漂着したんだよ」
「……天瀬美恵?」
じゃあ……この女が科学省の?
礼二はジッと美恵を見詰めた。足先から髪の毛の先まで舐めるようにじっくりと。
その異様な目つきに美恵は嫌悪感を感じた。それも激しい。
(何なの、この男は?)
まるで身にまとっているものを一枚一枚はぎとられるような、そんな視線。
美恵だけでなく、昌宏もその嫌な視線に気付いた。
「お、おい不和」
「……好都合だぜ。こんなところでお目にかかれるなんて」
こんな時でもなければ大笑いしてやりたいくらいだ!!
礼二はまたしても腹の中で叫んだ。今度は少なからず笑みを浮かべて。
「期待以上だ……ぞくぞくするぜ」
「……え?」
「今まで付き合ってきた女が全員芋に見えるぜ」
礼二の目がギラッと光を放った。そして美恵に近づくと、その腕を鷲掴みにした。
「何するのよ!!」
「うるさい!黙ってついて来てもらうぜ!!」
「な、何するんだ!!」
慌てて昌宏が礼二を美恵から引き離そうとするが、その昌宏の顔面に礼二の拳がのめり込んでいた。
「おまえは黙ってろ!!」
こっちは科学省の化け物に追われてるんだぞ!この女、人質にして逃げてやる!!
こんな時でもなければ、どこかに連れ込んで即アバンチュールを楽しんでやっていたところだ!!
けどな、今のオレはそんな時間すらないんだよっ!!
ちっくしょぉぉっ!こんなチャンスまたとないっていうのになっ!!
「さあ、来い!おまえがいれば、いくらあの化け物でも簡単にオレに危害はくわえ……」
「おい、いい加減にしろよ」
様子を見るつもりだったが、あんまりバカバカしいから、その気も失せた。
そんな表情で晶が姿を現していた。その姿を一目見た途端、礼二の顔から一気に血が引いた。
「り、陸軍特殊部隊の……す、周藤晶っ!?」
「誰だ、おまえ?オレの顔を知っているということは……善良な一般市民じゃないな」
知ってるもクソもあるか!陸軍所属でおまえのツラしらない奴なんているわけないだろ!!
オレのこと知らないだって?むかつく奴だ!!
ああ、おまえは知らないだろうが、こっちは色々と迷惑こうむってんだよ!!
オレはな、おまえの弟に強引に『鬼龍院リサイタルのチケット』を買わされたことだってあるんだ。
しかもS席、二万円だぞ!!
大音響で、おまえの上官の歌聞かされて3日間耳鳴りに悩まされたんだ!!
だが、今はそんなこと問題じゃない。問題は奴だ、高尾晃司だ!!
悔しいが奴には勝てなかったが、おまえが相手なら十分勝機はあるぜ!!
「くたばれっ!!」
礼二は晶に飛び掛っていた。次の瞬間には晶の顔面に拳が炸裂してるはずだ。
が、晶はその拳を受け止めていた。
「ち!!」
ならば蹴りだ、礼二は即座に蹴りに転じた。
が、これも避けられていた。礼二はまたしても腹の中で中で叫んでいた。
さすがだな、オレの攻撃をかわすとは、だが次はこうはいかないぜ!!
「おい、おまえ」
晶は呆れたように言った。
「まさかとは思うが、そのレベルでオレにケンカ売ってるのか?」
「何だって?」
「オレと本気でやるつもりなのかと聞いてるんだ」
「オレは最初からそのつもりだ!!取り巻きがいないおまえなんて簡単にやれ……」
ガンッと、嫌な音が頭脳に響いていた。
「簡単になんだって?」
晶の拳が礼二の自慢の顔(『フフン、僕に比べたら全然大したことないね』と薫なら悪態つくだろうが)にヒットしていた。
おまけに背中から地面にダイビングだ。
「……つぅ」
「簡単になんだって?よく聞こえなかった、もう一度言ってみろよ」
晶は笑っていた。冷めた笑いではあったが。
「おい晶。そのくらいにしておけ」
「直人の言うとおりだぜ。言いたくないが、おまえ性格悪すぎるぞ」
直人と攻介の姿を見て礼二はまたしても衝撃を受けた。
(……菊地直人に蛯名攻介!!な、何てことだ、オレとしたことが気付かなかったなんて!!
クソ……っ!周藤一人ならいざ知らず、いくらオレでもこいつら三人まとめて倒すなんて到底無理だ!!
こうしている間にも、あの化け物はオレを追いかけているかもしれないんだ!!
どうする?……考えるまでもない、この女だっ!!)
礼二は懐からナイフを取り出すと美恵にとびかかり、その首に背後から腕を回した。
「動くなっ!オレに一歩でも近づいたら、この女の顔に傷をつけるぞっ!!」
直人と攻介の顔色が変わった。晶は全く変化は無かったが。
「いいか、よく聞け!女を傷つけられたくなかったら、今すぐ武器を捨てオレの視界から消えろ!!
今すぐにだ!!さっさとしろっ!!」
「不和っ!バカなマネは止めろよ、おまえ、どうしたんだよ!?」
「うるさい!!おまえは黙ってろ!!!いいか、一歩でも動いたら容赦なく……」
ガンッ、頭蓋骨に鈍い音が響いていた。
「……っ!!」
声にならない叫び。礼二は頭を抑え、その場にうずくまった。
「天瀬に手を出さないでくれるかな?」
「……最低のクソ野郎だな。母さんが一番嫌いなタイプだ」
桐山と貴弘が立っていた。もっとも礼二にとっては全く面識のない相手だったが。
「不和とかいったな。そんなに欲しければ、その女連れて行ってもいいぞ」
何を言ってるんだ!そんな表情で攻介と直人が晶を直視した。
「……な、何だと?」
「くれてやってもいい、そう言ったんだ」
そう言って晶は「ただし」と付け加えた。
「この5人の中の一人でいい。おまえが勝てたら好きにしていい」
5人……礼二は即、晶、直人、攻介を除外した。特選兵士と好んでやりあうほどバカじゃない。
一対一なら互角。いや……もしかしたら自分のほうが上かもしれない。
しかし、練習試合ならともかく、一刻を争うこの事態に、そんなお遊びしている暇なんてないんだ。
と、なると話は早い……礼二は意味ありげな目で振り返った。
無表情な男(ち!生意気に顔だけはいいときている)と、自分を蔑んだ目で見下している男(こっちも生意気に外見はいい)を睨んだ。
こいつらは間違いなく素人だ……問題はどっちが弱いかということだ。
礼二はジッと二人を見た。自分を背後から木の棒で殴ったこの優男……さっきの借りもある。
こいつにしよう。中背だしいかにもお上品な顔つきだし、きっとケンカなんてからきしダメだ。
礼二はそう思ったのだろう。スッと右手を上げると桐山に指差そうとした。
「周藤、オレはおまえのお遊びに付き合ってる暇はないんだ。
オレは虫けら以下の男に時間かけて何の利がある?
いや、虫けらに失礼だな。虫けらは生態系を維持するのに役立つ。
だが、このバカは空気中の酸素を無駄遣いしているだけだ」
礼二の中で何かが壊れた。礼二は桐山指すはずだった指を物凄い勢いで、自分を罵倒した男に突き指した。
「ふざけるなっ!ぶっ殺してやるっ!!」
「決まりだな。相手してやれよ杉村」
晶は近くの木の幹に背を預けると面白そうにそう言った。
「……本当にこいつを倒せば女を渡すんだな!?」
礼二は念を押すように低い声で叫んだ。
「ああ約束してやる」
「こいつをぶち殺しても文句ないだろうなっ!?」
「ああ、おまえに出来ればな」
「こいつが泣いて助けを求めたって、手は出さないと約束しろよっ!!」
「安心しろよ。こいつを助ける義理なんてオレたちにはない」
「その言葉忘れるなよっ!!」
礼二は物凄い形相で立ち上がった。
この女!この女を人質に取れば、いくらあの化け物でもオレには手を出さないはずだ!!
上手くいけばⅩシリーズを上手く操ることが出来るかもしれない。
とにかく、このド素人を片付ければいい。こんな身の程知らず、オレにはガキ殺すより簡単なことだ!!
「オレをバカにしたことを後悔させてやる!血反吐を吐かせ地面にのた打ち回らせてやるぜっ!!」
礼二はファイティングポーズをとった。
「ああ、そうだ。一つだけ忠告しておいてやる」
晶は意地悪そうに笑った。その横で直人が「悪趣味だな」と呟いてる。
「そいつに勝つのは、おまえじゃ無理だ」
晃司は礼二を追いかけてなかった。なぜか礼二より瞬のほうが気になったのだ。
だから、今はなるべく瞬のそばから離れたくない。そう思ったのだ。
が、礼二をほかっておくわけには行かなかった。
そして、この建物内を調べ、モニタールームを発見。
島中のいたるところに隠しカメラが仕掛けてあるらしく、およそ50ほどの景色がモニターに表示されている。
その中の一つに礼二はいた。いや、礼二だけではない桐山たちまでいる。
「ちょっと、あたしたちをどうする気!!」
美和と千鶴子をロープで縛ったまま連れて来た。
そして礼二の姿を見せた。礼二だけではない、女もいる。
美和の顔つきがガラッと変わった。そして礼二が「女を渡すんだなっ!!」と声を張り上げていた。
「礼二の奴!!また悪い癖が出たのね!!」
美和は金切り声を上げた。反対に千鶴子は悲しそうに俯いている。
とにかく画面の中で礼二がファイティングポーズをとっていた。
そして、なんだかきついが整った顔立ちの生意気そうな男がスッと前に出ている。
雰囲気でわかる。礼二はあいつとやるつもりね。女のことは別問題だが美和は叫んでいた。
「礼二、やってしまいなさいよ!!」
礼二ははっきり言って悪い男だ。とにかく女癖も悪い。
その礼二の数少ないとりえ。それは強いことだった。
美和はその派手な顔つきのせいか、それとも派手な装いが災いしているのか、男に言い寄られることが多かった。
もちろん、真面目でまともな男ではない。
いかにも自分の身体目当てに近寄ってきている、一目でそうわかるほどニヤついた嫌な男ばかりだ。
だが、ある日を境に美和にうっとおしいアタックをする男がいなくなった。
それは美和が礼二と付き合うことになった時からだった。
それでも近所に嫌な高校生がいて、美和にしつこく付きまとっていたバカがいた。
礼二はそのバカを「オレの女に近づくなよ」とぶっ飛ばしてくれたのだ。
校内では礼二は良くも悪くも誰からも一目置かれていた。
性格は軽いが、スポーツは学校で一番だったし成績だって悪くない。見た目も(目はにやついていたが)悪くなかった。
とにかく彼氏としては外見も中身もそれ相応に必要なものは揃っていた。
だから、ケンカもしながらも別れずずっと付き合ってきた。
礼二はお調子者だが、いざというとは本当に頼りになる。実に強い。
いつもは女の尻ばかり追いかけているが、本当は誰よりも男らしい。美和はそう信じていたのだ。
だから、あの男(顔だけは礼二よりいいけど、男は顔だけじゃダメに決まってるわ)だってコテンパンよ。
美和は確信していた。その美和の目の前で、見えないゴングが鳴らされた。
「戻るだって?」
「ああ、一度戻ってとにかく整理したほうがいい」
それから隼人は言った。
「美恵が心配だ。こんな化け物がウロウロしているんだからな。晶や直人がついている以上大丈夫だとは思うが」
美恵の名前を口にした途端、徹たちの顔色が変わった。
「すぐに戻ろう。彼女が心配だ」
「そうだ、オレの女だ。オレが守る」
「何言ってるんだい?彼女は僕が守ってあげるよ」
とにかく徹、雅信、薫には異存はないようだ。
「ふざけるな!!あんな女どうなろうと知ったことか!!」
ただ一人。勇二は猛反発した。
「嫌ならいい。美恵が死んでもおまえには痛くもかゆくもないからな」
「…………」
勇二は忌々しそうに隼人を睨んだ。
「だが、敵と戦うには情報を正確に集めることが大事だということはおまえもわかるだろう?」
勇二は「……断っておくが、オレは任務の為に戻ってやるんだからな!」と悪態ついた。
とにかく隼人たちは一度戻ることにした。
「……そ、そんな」
美和はこれ以上ないくらい目を見開き、その顔の筋肉はピクピクと引き攣っていた。
反対に千鶴子は信じられないと言ったショックな表情だった。
なぜなら美和と千鶴子にとって礼二は良くも悪くも頼りがいのある強い男のはずだったからだ。
その礼二が……見も知らない男にぶちのめされているだから!!
『……く、くそ!!オ、オレが通常の体力だったら』
『言い訳か。オレはいい訳するような男は一番嫌いだ』
『な、なんだとぉ!!』
礼二が再度飛び掛っていた。男がスッと避けると同時に足を出す。それに引っかかってこける礼二。
すかさず、男が強烈なひじ打ちを礼二の背中に打ち込む。礼二が地面とキスをしていた。
しかもだ。男が地面に倒れた礼二に連続蹴りだ!!
礼二が叫んでいるが全く止める気配がない。
しかも、礼二が必死になって身体の向きを変えると、その鳩尾をグイッと踏み込んだ。
礼二が「うげぇ!」と叫び、「た、助けてくれ!!」とついに助命の叫びを上げた。
それを見た美和はキッと画面を睨みつけると立ち上がって叫んだ。
「見損なったわ礼二っ!!」
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