「さあね」
瞬はクスリと笑った。悪魔の笑みというものはこういうものを言うのかもしれない。
礼二は心底ぞっとした。
「おまえさぁ……」
瞬が一歩踏み出した。途端に礼二の全身に恐怖の戦慄が一気に走る。
「オレにとっては邪魔者でしかないんだよ。オレは、オレの邪魔する奴、オレの邪魔になる奴は大嫌いなんだ。
そういう奴がいたら……とり合えず、さっさと片付ける。それがオレがオレ自身に課した掟なんだ」
瞬間、礼二の恐怖が防衛本能という導火線に火をつけた。
「ちくしょぉぉー!この化け物野郎っ!!」
先ほど瞬に絞め殺された蛇のように瞬に牙を向いた。
瞬の頬に礼二の左拳。が、瞬はほんの少し顔の角度が変わったくらいで微動だにしない。
「この程度か?……やっぱりな」
「……な、なんだと?」
「……おまえ特選兵士になり損ねたんだってな」
「……な、なんで……そんなこと……知ってるんだ?」
「さあな」
「……ぐえぇ」
礼二の顔が苦しそうに歪んだ。その首には瞬の手が。
「う、うぐ…ぅ」
もがき苦しむ礼二。苦悶の表情。
反対に片手だけで礼二の首を締め、尚且つ持ち上げている瞬は全く顔色を変えていない。
「思ったとおりだ。やはり、この程度だろうな」
Solitary Island―59―
「ここを出る?!嫌よ、あいつらが襲ってくるわっ!!」
「伊藤、大丈夫だよ。こいつら戦闘のプロなんだ、だから」
「いや、殺されるわっ!」
すみれは半狂乱になっていた。今まで化け物に襲われつづけてきたのだ無理も無い。
「おい、いい加減にしろ。出発するぞ」
「ま、待ってくれ。もう少し時間をくれよ」
昌宏はすみれを庇って、必死になって訴えた。
「伊藤はもともと大人しくて怖がりな奴だったんだよ。
それがこんな目に合って……男のオレでもどうにかなりそうだった。
まして伊藤が……それを少しは考えてくれ」
「だったら、おまえは残るのか?オレは行くぞ」
「……晶!!」
たまらず美恵が声を上げた。
「相変わらずね、あなたって……」
「ああそうだな。付け加えれば、オレにはこいつらを守ってやる義務も責任もない」
「……でしょうね」
美恵は溜息をついたが、同時にもっともだと思った。
元々、この非情な男に期待するほうが間違っている。
「天瀬」
「何?桐山くん」
「この女を連れて行きたいのかな?」
「ええ」
「そうか、よくわかった」
桐山はツカツカとすみれに近づいた。そして……!
「え?」
美恵は一瞬目を丸くした。桐山の拳がすみれの腹に入っていたのだ。
「……ぁ」
一瞬、目を大きくしたかと思うとすみれはガクッと気を失った。
「な、何するんだ、貴様!!」
昌宏は焦った。普通するか?こんなこと。
「大人しくさせただけだ」
「大人しくって……おまえなあ」
「ただの当身だ。しばらくすれば目が覚める。行くぞ」
桐山は美恵の手を握ると「さあ行こう」と歩き出した。
「お、おい!!」
「おまえが、その女を持って来い」
そう言うと桐山はスタスタと歩き出した。昌宏は慌ててすみれを背負うととにかく桐山についていった。
桐山の行動には攻介も直人も僅かだが驚いたらしい。
それでも、昌宏のように普通の人間としての感覚がないのだろう。
すぐに何事もなかったかのように荷物を手にすると歩き出した。
晶にいたっては面白かったのか笑っている。
瞳も慌てて小走りでついていった。こんな所で置いていかれてたまるものですか。
二週間後はコミケを控えているっていうのに!!
なんとしてもさっさとこんな島から脱出しないと。瞳は固く心に誓っていた。
「いたか?」
「いない。本当にどこ行ったんだよ」
海斗と真一は相変わらず施設内をウロウロしていた。
「あいつ小さかったからなぁ……きっとオレたちには入れないような隙間に入ったんだよ」
「だよなぁ……どうする三村?」
「どうするって言われてもなぁ……けど、あんな危険な生き物をそのままにしておくわけにもいかないし……。
ん……?なんだこれ?」
真一が屈んだ。何かを発見したようだ。
「何だよ?」
真一が何か手にしている。風船のようにぴらぴらしたものだ。
「……何かの抜け殻みたいだな」
「何かって?」
「オレが知るわけないだろ。正直言って生物学は専門外だ。蛇やトカゲじゃないことは確かだな」
真一はそれを天井の光に照らし、じっと見てみた。
「……あいつ……だよな」
「あれが脱皮したのか。だったら大きくなってるのか?」
「だろうな。さっさと探すぞ、きっとこの近くだ。
確か脱皮した後っていうのは皮膚が柔らくて敵に襲われやすいから、しばらくジッとしているはずだ」
「そうだな……」
海斗の顔色が変わった。
「どうした?」
「……ゆっくりだ三村」
「なんだよ?」
「ゆっくりと振り向いてみろ……」
真一はほうきの柄を強く握り締めると言われた通り、ゆっくりと振り向いた……。
「……!!」
何かが部屋の隅から飛び出して真一に襲い掛かった。
その勢いで背中から床に倒れる。
「……み、三村!!」
だが真一には後頭部を打った痛みを感じる暇なんてない。
目の前に牙、と唸り声を上げながら牙をむいている!!
防御だ。防御しなければ!!
咄嗟に、そいつの喉元を掴んだ。
「グェッ!!」
変な声がした。そのまま真一はそいつを壁に向って投げた。
「ギィィー!!」
真一はブリッジの体勢から一気に立ち上がった。
「なんなんだ、こいつは!?」
見たことない。いや、あいつか?あの死体から出来てきた奴か!?
でもなんだ、この大きさは!?あいつは手に平サイズだったのに、こいつは体長一メートルほどもある。
オレは理科は化学は得意だが、生物は苦手だ。
でも、こんな短時間でこれほど成長するなんて、そんな生き物存在するのか!!
いや、今はそんなこと考えてる暇は無い。こいつはオレたちを襲ってきたんだ!!
「上等だ!下がってろ寺沢!!」
真一はほうきを振り上げると、その未知の生物目掛けて振り落とした。
そいつは「ギギィ!!」と嫌な声を発すると真一の頭ほどの高さまでジャンプして、それを避ける。
早い!俊敏な動きだ!!
しかし、真一も負けてはいなかった。
「甘いんだよ!!」
「ギィィー!!」
真一の蹴りが、そいつの顔面にヒットして床に叩きつけた。
真一は、そいつの首を絞めるように掴み床にねじ伏せた。
「……く」
途端に真一の顔が歪む。そいつの武器は牙だけではない、強靭な爪が真一の腕に喰い込んだのだ。
「て、寺沢!何とかしてくれ!!」
「あ、ああ!」
突然の化け物の強襲に一瞬我を忘れた海斗だったが、すぐにそいつの腕を押さえた。
「ギィギィ!!」
まだ抵抗を止めない。それどころか腕に尻尾を巻きつけ締め上げている。
「なんて醜い生物だ。おまけに往生際が悪いぜ、おい大人しくしろ!!」
真一と海斗はとにかく捕獲しようとガムテープを取り出した。
「ギシャァァー!!」
最後のあがきか、何と二人を突き飛ばすと部屋の隅にあった小さなドア(おそらく通風孔の入り口)に逃げこんだ。
「クソ、逃げやがった!!寺沢、おまえはここで待ってろ」
「おい、どうするんだよ」
「決まってるだろ、追いかけて掴まえる。あんな物騒な奴を野放しに出来るか。
そろそろ堀川たちが戻ってくるだろうから、事情を説明しておいてくれ」
そう言うと真一はさっさとその狭い通風孔に入ってしまった。
「おい三村!!」
海斗は一人じゃな危険だと思ったが、真一はさっさと行ってしまった。
仕方ない、とにかく秀明たちが帰ったら事情を話そう。海斗は嫌な予感がしながらも、秀明たちを待つことにした。
「……杉村、ほらこれ」
七原はコーヒーを差し出した。
「……ありがとう。でも今はそんな気分じゃない」
「いいから飲めよ。落ち着くぞ」
「……息子のことが心配で」
「おまえの気持ちはわかる。オレだって人の子の親だからな……」
「……おまえのところも男の子だったよな?」
「娘もいる。男女の双子だったんだ」
「……そうか」
「二人ともイイコだぞ。千秋は幸枝に似て優等生だし。幸雄はオレに似て学校の成績はよくないけど優しくて明るい。
とにかく二人ともオレには勿体無いくらいイイコだよ」
「……そうか。貴弘も似たようなものだ」
「おまえの息子さんってどんな奴だ?」
「背は昔のオレと同じくらい……顔は貴子にそっくりだ」
「千草に似たのか。ハンサムなんだな」
「ああ、こんなことを言ったら失礼かもしれないが、おまえの中学時代よりずっと上だぞ。
特に目がいい。貴子にそっくりな強い信念を持った光を放ったいい目をしている。
貴族的な整った顔立ちでアメリカあたりにいたら絶対にハリウッドのスカウトマンに目をつけられるような風貌だ。
もちろん、顔がいいだけじゃない。成績もいいんだぞ。
貴子も中学校時代の成績は良かったが貴弘はもっといいかもしれない。
オレは国語と体育くらいしかよくなかったし、それも特別いいとは言えなかったが貴弘は違う。
ほぼ全教科成績いいんだ。あいつは国語は苦手だと言ってるんだが、それだってオレの時よりずっと上だ。
あいつが4と5以外の成績をとったのは一度も見たことがないんだ」
「杉村と七原は何か話しこんでるな。作戦会議か?」
川田はタバコの煙を吐き出すと船内を歩いた。
小さな快速船だ。すぐに操縦室につくと、三村が操縦していた。
「おい、どうだ?」
「順調だ。この調子なら時間通りに到着する」
「そうか」
三村は自動操縦に切り替えると「川田、ちょっといいか?」と一枚の地図を取り出した。
「これは?」
「例の島だ。ハッキングしたときダウンロードしたんだ。こことここ……それにここ」
赤ペンでいくつも赤丸を書き込んでいく。
「この五箇所が科学省の施設がある箇所だ。もっともメイン研究所がどこかはわからないが……」
「位置的にみて、船が衝突するのはどこだと思う?」
「そうだな……この海岸だろう」
三村は指差した。それは当たっていた。
「そうか……だったら、ここからまず探すか」
「研究所を優先に探すべきじゃないのか?」
「研究所より子供達だ。まして杉村たちが承知するわけがない。
おまえは知らんだろうが、あの夫婦の我が子に対する溺愛ぶりはノーベル賞ものだぞ」
「……そうか。だったら杉村たちはここで降ろして、オレは……こっちのルートで行く」
「真一は探さないのか?」
川田はタバコを灰皿に押し付けると静かに言った。
「…………」
「それとも、もうくたばっていると思ってるのか?」
「……あんな島にいるんだ。その可能性も高いだろうな」
「真一は強い奴だぞ。強いし、それに頭も切れる」
「中学生レベルで切り抜けられるかどうか」
「忘れたのか?オレたちがプログラムを脱出したときも中学生だった」
「……ああ、そうだったな」
「なあ三村」
「なんだよ」
「真一が士官学校に推薦入学することが内定していたこと知っているか?」
三村は僅かに目を大きくした。
川田は予想していたのだろう、驚きもしなかったが残念そうに表情を曇らせた。
「……やっぱり知らなかったのか」
「そんな話は聞いたことがない」
「士官学校は学費も要らないし全寮制で生活費の面倒も全部見てもらえる。
将来軍を背負って立つエリート養成学校だ。学費免除どころか、毎月小遣いまでくれる。
オレは……反対したんだ。軍に入るなんて……」
軍がどんなところか、どんな非道なところか……。
それはプログラムを経験した者なら誰でも身体の芯までわかるだろう。
そんな世界に自ら飛び込もうと言うのだ、川田は当然のように反対した。
だが真一は「わかってくれ、おじさん。オレはこの生活から抜け出したいんだ」と決意を変えなかった。
「先月……真一が20日間くらいいなかったことが無かったか?」
「……友達の家に泊まったんじゃなかったのか?」
「軍のな……推薦入学のテスト受けに行っていたんだ。
軍に20日間仮入隊して訓練を受けるんだ。そこで最後まで残った奴に推薦入学の権利が貰える」
「初耳だぞ……オレは何も聞いてない」
「知ってたら止めさせていたか?」
「当然だ、おまえも知っているだろう!?オレがどんなに軍を憎んでいるか。
叔父さんも軍に……いや、国に殺されたんだ!その軍側の人間になるなんて承知できるわけが無い!!」
なんてことだ。全く知らなかった。
それにしても、どうして川田がそんなことを知っているんだ?
「全部真一から逐一報告受けたからだ」
三村の疑問を察したのか、質問される前に川田が答えていた。
「どうしてオレに何も言わなかったんだ!?」
「……おい、簡単に言ってくれるな。こんなデリケートな問題、そうやすやす口に出来るわけが無いだろう。
真一の奴、おまえに言ったところで頭ごなしに反対されるだけだから黙っていてくれ、そう言ったんだ」
「あいつが黙ってろと言ったからオレには秘密にしてたのか?おまえはどっちの味方なんだ?」
「……悪いな三村。オレはどっちの味方でもない。どっちの味方でもありたいと思っているだけだ。
この話は向こうについたら、おまえから真一に言ってくれ」
「もちろん貴子に似て運動神経抜群でな。特に短距離で、あいつより早く走る奴はいないだろう。
七原、おまえは中学時代クラスで一番足速かった。でも貴弘は間違いなく、おまえの上をいっているぞ。
陸上部の顧問が何度も勧誘してきたんだが、貴弘は部活動には興味がないと言って断っているんだ。
ああ、貴弘を勧誘しているのは陸上部だけじゃないない。
貴弘は貴子に似て何でもできるからな。
オレは拳法やっていたが、貴弘は空手と柔道と合気道をやってるんだ。もちろん全部有段だぞ。
特に空手は県大会で優勝している。その時の相手は前年度の全国チャンピオンだったんだ。
貴弘は成績もいいし、スポーツマンだし、天は二物を与えずという諺、あれは嘘だな。
何でも出来る人間は天狗になって鼻持ちならない性格になる場合が多いが貴弘は違うぞ。
決して自惚れず、誰よりも誇り高くて自分に自信を持っている」
「……そ、そうか」
七原は激しく後悔していた……。
なぜ「息子さん、どんな奴だ?」なんて聞いてしまったんだろう……。
あれから、ずっとこの調子で杉村に息子の自慢を延々を聞かされているのだ。
自分も子煩悩なほうだが完全に負けた。七原は心の中で悲鳴をあげていた。
もう……一時間もこの調子だぞ。
「ちょっと、何二人して油を売ってるのよ」
貴子だった。助かった、七原はホッと一息ついた。
「いや、七原にオレたちの息子の良さを聞かせてやっていたんだ」
「……そうだよ。一時間も」
「一時間?弘樹、あんたまさかずっと?……本当にバカね。
あの子の魅力を本気でわからせるには24時間あっても語り尽くせるわけないでしょ」
「そうだよな。すまない貴子」
「…………」
七原は顔の筋肉が引き攣るのを感じていた……。
「……ぐ、……ぐえ」
苦しい苦しい!こいつ本気だ、本気でオレを絞め殺すつもりだ!!
礼二はもがいた。だが瞬の手の力は全く緩まない、むしろ強くなっているくらいだ!!
「もがくと、余計に苦しくなるだけだ。いい加減に……」
「?」
瞬の殺気が消えた。何だ?
ガクッと、身体が沈み膝が地面につく。何が起きたのか知らないが、手の力が緩んだのだ。
礼二は瞬を突き飛ばすとぜえぜえと大きく深呼吸をした。
そして瞬を見た。瞬は俯いている。顔の表情はわからないが、何かおかしい、先ほどと全く別人だ。
特選兵士ほどではなくても礼二も軍の中で育った人間。
それゆえ、気配やオーラなどで、その人間のことはある程度わかる。
これは瞬ではない。少なくても先ほど、自分を絞め殺そうとした人間の気ではない。
どうなっているんだ?なぜ、急に人が変わった?
しかし礼二に考えている時間はなかった。足音が近づいてきている。
高尾晃司だ!!奴が来たんだ!!
「クソッ!」
礼二はとにかく走った。全力疾走だ。
ギィー……。ドアが開いた。
「……?」
晃司は僅かに眉を寄せた。瞬の様子がおかしい。
「早乙女」
声を掛けたが反応がない。今度は近づいた。そして少々乱暴だが、前髪を掴むと俯いている顔を上げた。
「早乙女、どうした?」
「……高尾」
「何があった?」
「何でもない……」
「あいつは?」
「……あいつ?」
「あいつが逃げてきたはずだ……あっちか」
足音が遠ざかっている。あの程度の速度なら、すぐに追いつく。晃司はすぐに追いかけようとした。
「高尾!」
だが走る前に瞬が腕を掴みとめていた。
「邪魔をするな。奴を捕獲する」
「……あいつは……ほかっておけよ。それより、仲間同士が離れたら後々都合が悪くなる」
「オレが今最優先することは奴の捕獲だ」
「いいから、ほかっておけよっ!!」
「!」
なんだ?まるでオレを止めたいみたいだな……。
「あいつはいずれまた捕獲する機会があるさ」
「…………」
「それより、もっと建設的なことを考えないと……おまえもわかっているだろう?
ここは危険だ。今は早く仲間を探して団結することのほうが大事なんだ」
それは、もっともな意見だったし、正当な主張のように思われた。
だが晃司は全く別のことを考えた。
なぜかはわからないが……先ほど自分を止めた時の瞬は何かが違った。
自分はこの学校に転校してきてから日が浅いし、クラスメイトのことことは何も知らない。
まして特選兵士以外の連中とははっきり言って口も利いたこともほとんど無い。
この早乙女瞬ともそうだ。
だが、こんな奴だったか?少なくても単なる普通の中学生だったはずだ。
成績も、スポーツも……特に目立ったことはない。
いつもすました表情で、その端正な容姿からかお高くとまっているという印象もあった。
大抵一人でいて、親しい友人はこれといっていない。でも、本当にごくごく普通の生徒だったはずだ。
それなのに、あの一瞬だけ、晃司が知っている『普通の人間』ではなかった。
いや……あの一瞬垣間見た『何か』は……むしろ懐かしい感じすらした。
まるで……あいつらと一緒にいるような。
この瞬間、礼二は晃司の興味の対象から完全にはずれた。
礼二なんかより、この男のほうが気になる。なぜかはわからないが。
「中にいたのは、あの男だけだったのか?」
「いや山科と内海がいた」
「二人が?どうしてた?」
「縛られて監禁されていた。他にも女が二人いた、奴の仲間だ」
「大変だ。助けてやらないと」
瞬は「さあ、行くぞ」と晃司を促すように中に入った。
「早乙女」
「何だよ」
「おまえ、どこかで会わなかったか?」
「……!」
「オレが転校する前……どうかで会った事はないか?」
「何言ってるんだ……オレには全く覚えはないぞ」
「そうか」
「それより早く行くぞ」
「…………」
『おまえ、どこかで会わなかったか?』
……瞬は心の中で舌打ちしていた――。
【残り34人】
BACK TOP NEXT