「どうした内海」
「なんでもないよ。ただ……千秋のことが気になって」
「委員長なら海岸で皆と一緒だろう。危険などない。まあ、UFOがくれば話は別だが」
「……そうだよな。……大丈夫…だよな?」
何だろう?……この不安は……。
千秋に何かあったような気がする……。
Solitary Island―32―
「立花くん、私…怖くて…怖くて…」
「ああ理解するよ。よく一人で頑張ったね」
この女にはもう少し貢いでもらうまで長生きしてもらわないと。
そこへ攻介と俊彦が戻ってきた。
何があったのか知らないが、表情が異常に暗い。
それとは裏腹に洸は先ほど桐山たちを怒らせたことが嘘のように明るい。
洸の登場に徹と雅信が一歩でたが(止めを刺すつもりだったらしい)美恵 が「お願い止めて」と止めた為に事なきを得た。
一人とはいえ生存者が見付かったのだ。これで何があったのかきくことが出来る。
「曽根原、何があったんだ。説明しろ」
まず短気でお率直な性格の貴弘が切り出した。
「そうだ、おい他の奴等はどうしたんだよ!全員いないってのはどういうことだ?西村は一緒じゃなかったのかよ!?」
「鬼頭はどうした!?安田は!?早く説明してくれ!!」
次に智也と伊織が口を開いた。
「何が襲ってきたんだ?奴の姿を見たのか?」
続いて晶が冷静な口調で質問した。
「……な、何よ!!一度に聞かないでよ!!」
ただでさえ精神的に参っていた美登利はヒステリックになってしまった。
「何よ、あなたたち!ずっと島を歩いていて何も知らなかったくせに!!」
「だからこうして聞いてるんだ。誰がおまえの愚痴を聞きたいといった?」
貴弘の言葉は正論には違いないが、パニック状態の女の子に対する言葉としてはあまりにも不適切だった。
「ひ、酷いわッ!やっぱり、このクラスの男子でまともなのは立花くんくらいよ!!」
美登利は泣き出してしまった。
「どうして、どうして、この私がこんな島でこんな思いをしなくちゃいけないのよ!?」
わんわんに泣き出した美登利に貴弘や晶はうんざりしだした。
「こんなことなら修学旅行になんて来るんじゃなかったわ!
そもそも、この私がこんな安っぽい修学旅行に来ること自体が間違ってたのよ!!」
「……あー、うるさいなぁ。オレ、うるさい女って嫌いだよ」
「何よ、私だって、あなたのような軽い男は嫌いよッ!!こんなことなら……う…ぅぅ……」
「あのさぁ、泣けば済むと思ってるの?いいよなぁ、苦労知らずのお嬢様は浅はかで深く考えないで済むから。
まあ気の済むまで泣けば?でも成金にお嬢様も何もないよね。
どうせ総資産数億円程度なんだろ?その程度で普段威張り散らしているから罰が当たったんだよ」
あーあ、うるさいなぁ。そんな同情の欠片のない表情で洸はクルリと向きを変えた。
どうやら美登利の泣き声が煩くて、この場にいるのも嫌なようだ。
そして歩き出した。
「失礼ねッ!我が家の総資産は30億よッ!!」
その時――洸の足が止まった。
「うわぁぁぁー!!何だよ、『コレ』はッ!冗談じゃないぞ、何だよ、コレはぁぁー!!」
腰が抜けたのか、その場に尻餅をついて叫びまくる純平。
いや声が出るだけましだろう、椎名誠なんか座り込んで顔面蒼白になったまま声も出ない。
大和も誠ほどではないが、声がでない。
ただポカーンと口を半開きにして宙を見詰めている。
どうやらショックのあまり精神がストップしてしまったようだ。
無理もない。クラスメイトの死体(それも惨殺された)を発見してしまったのだから。
「オレは…ッ!オレは女の肢体は好きだが死体は嫌だぁぁー!!
誰か…ッ、おいおまえたち何とかしてくれよぉぉー!!」
そう言っても二人とも座り込んだまま動かない。
純平の声が聞こえてないかのようだ(実際に聞こえてなかったに違いない)
ひたすら叫びまくる純平。
正気を失った表情で、ただただ呆然としている大和。
顔面蒼白で今にも気を失ってしまいそうな誠。
どのくらい時間がたっただろうか?
ふいに吉田拓海が覚悟を決めたように冷たくなった由香里に近づいた。
そして、その死体を注意深く観察している。
「お、おい…吉田?」
「あー、大丈夫だよ。死後数時間たってる。だからさぁ、近くに加害者がいるなんてオチはないと思うよ」
「そんなこと問題じゃないだろ!!!?ひとが、クラスメイトが死んでるんだよッ!」
「なんで?けっこう重要なことだと思うけど……だって、もしも犯人が近くにいたら……。
オレたち殺されるかもしれないよ?」
「ひぃぃぃー!イヤだぁぁー!!オレは、オレはぁ!!ハーレム作るまで死にたくねえよッ!!」
「大丈夫……一生出来ないからさぁ」
なんの変哲もない日常なら、ただのツッコミで終わるだろうが、いまはそれどころではない。
「……でも、でもッ!!なんで死んでるだよッ!?」
いや、この場合は『誰が殺したんだよッ!!』が正解だろう。
「ヤバイなぁ……こんなことなら父さんから貰った護身用の銃持って来るんだった……」
拓海はふぅ…とため息をついた。
「おまえたち」
「氷室さん、何があったんですか?」
「これが川辺で倒れていた」
隼人の右手(正確には、その右手が掴んでいるもの)を見て2人はアッと思った。
「に、仁科ッ!!仁科じゃないか!?」
それはまさしく仁科悟だった。
全身びしょ濡れで、髪は垂れ下がり、オーダーメイドの制服は泥まみれ。
まるで雨に打たれた野良犬のようなみすぼらしい有様だったが、間違いなく悟だった。
海岸にいるはずの悟がなぜここに?いや、それよりも生きているのだろうか?
何しろ生気のない顔をしてぐったりとしている。
その目はかたく閉じられ、開かれる気配がない。
幸雄は恐る恐る隼人に尋ねた。
「……まさか死んでるのか?」
「いや、気を失っているだけだ」
それにしてもグッタリしている人間に対して隼人の扱いは少々乱暴だった。
何しろ悟の後ろ襟を掴み引きずってきたのだから。
隼人は悟の両肩を後ろから掴むと瞬間的に力を入れた。
「…うッ…」
そんな声を出して悟は覚醒した。
「……ここは?」
悟はぼんやりと辺りを見回した。自分に何が起きたか理解してないような表情だった。
「なんだこれは……」
晃司はあるものを発見した。死体だった。
ただし、それはクラスメイトの死体などではない。
「……この大きさ。F2か」
それは幸雄と隆文を襲い隼人に命を奪われた生物と全く同じ生き物だった。
しかし隼人が殺した奴とは違う。なぜなら晃司がその死体を発見した場所は森の中。
そして、その死体は木の枝をまるで杭でも打たれてかのように胸に突き刺され死んでいたのだ。
隼人が殺した奴とは死に場所も死因も全く異なる。
その生物は己の胸に突き刺された枝を抜こうとしたらしい。
だが、非情にもその枝の先端をグイッと踏み押されて絶命していた。
かなり苦しんで死んでいる。
隼人なら敵だろうと下等生物だろうと確実に急所を狙ってひとおもいに殺すはずだ。
しかし、こいつを殺した奴は違う。
晃司は推理した。今この島にいる奴の中で奴等と互角に戦える人間を。
そして、その中で、この残忍な殺しをやってのけれる奴を。
まず隼人は除外した。勇二も違う、自分はここに来る前に勇二と会っている。
そして勇二より先に森の中を進んでいた、瞬間移動でもしない限り勇二に殺せるはずがない。
秀明と志郎、そして晶、徹、雅信、薫は一緒にいる。桐山もそうだ。
攻介、直人、俊彦も3人でいるはずだ。
単独行動をとっているのは自分と隼人と勇二だけだ。
どういうことだ?――。
この島に、自分達特選兵士と、あの桐山和雄以外に、コレを殺せる奴がいるのか?
それとも仲間同士で殺しあったのか?
いや……それも違う
コレを殺した相手は、無慈悲にもその顔を踏みにじっている。
こんなことをするのは『人間』しかいないはずだ。
しかもそれを裏付けるように、よく見ると顔に靴の跡がついている。
誰だ?オレたち以外にコレを殺せる奴は――。
クラスメイトの中にそんな奴がいただろうか?
桐山と特選兵士を除き、まず目に付くのは杉村貴弘だが、美恵たちと行動を共にしている貴弘にそんなマネが出来るはずがない。
このクラスで他に目立つ奴といえば三村真一、吉田拓海、相馬洸、寺沢海斗だが、やはり無理だろう。
なぜなら、このF2は簡単に殺されているからだ。
辺りに殺した奴のものと思われる血液はない。
そして、これほどの死に方をしているにもかかわらず、それほど争った形跡もない。
それは、この戦いが呆気なく終わったからということに他ならないのだ。
『オギャーオギャー……』
ふいに晃司の脳裏に記憶に残っているはずのないシーンが浮かんだ。
『さて…と、顔を見てやるか。今度も秀明や晃司と同様優秀な子に違いない』
『……そ、それが長官』
『何だ?』
『……残念ですが……今度生まれた子は……その』
『何だ、はっきり言え』
『……残念ですが、今度の子はあきらめた方がいいかと……』
なんだ、この感じは……この島には奴等以外に敵がいるような気がする
その敵は……オレと秀明と志郎と……そして美恵を狙っている、そんな気が…。
「どうして、この私がこんな無人島でこんな目に合わなければいけないのよッ!
こんなことならボディガードも連れてくるんだったわッ!!」
美登利はヒステリックに叫び、その泣き声に薫と洸以外の男達は表情を曇らせていた。
いや桐山と秀明と志郎だけは相変わらず無表情だったが。
「こんな庶民の旅行なんて来るんじゃなかった!私がいつも行ってるのは海外旅行なのよッ!!
パパやママと一緒にいつも別荘で安全なバカンスしてたのにッ!!」
美登利のヒステリックはさらに酷くなっていた。
ただ、なぜかあれだけ美登利に悪態をついていた洸が美登利のそばの倒木に腰掛けて真剣に話を聞いている。
「うちの別荘はセキュリティーシステム万全なのよ!ハワイの別荘も、ヨーロッパの別荘も!!」
(……外国に別荘……か)
「パパと一緒にクイーンエリザベス二世号世界一周旅行に行けば遭難することもなかったのよ!!」
(……クイーンエリザベス二世号。世界最大級の豪華客船だね)
「いいえ、こんなことなら家にいれば良かったのよ!!こんな目に合わなかったもの!!
家のプールやテニスコートで遊んでた方がずっとよかったわッ!!」
(自宅にプールにテニスコート……か)
「家に帰らせてよ!!」
「ねえ曽根原。ちなみに自宅の敷地は何坪?部屋はどのくらいあるの?」
「500坪に本家が37部屋、離れが12部屋よ!それがどうしたって言うのよッ!!」
「曽根原……結婚しよう」
【残り38人】
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