『大東亜共和国第六十八番プログラム』

その詳細そして結末は軍部により封印され国防省の秘密ファイルに保存。
42人の生徒は全員死亡。 担当教官坂持金発および護衛の兵士は事故死――。

それが関係者家族および世間が認知している情報である。




Solitary Island―2―




「実は昨日の夜アンドロメダ星人との交信に成功したんだ」
美恵と桐山が船内の客室に入ると入口付近にいた楠田隆文(くすだ・たかふみ)【男子7番】の、
どう考えても正常とは思えない言葉が耳に入った。
しかし隆文はこれ以上ないくらい真面目な表情。本人は本気でそう思っているのだ。
「オレが開発した交信機に彼等からの友好メッセージが届いたんだ。テープに録音したから聞いてくれ」
そのテープからはギーギィィー(時々ビィ…ピー)と怪しい音が聞こえている。
そして、隆文の話を真面目に聞いている人間は2人いた。
服部雄太(はっとり・ゆうた)【男子22番】と横山康一(よこやま・こういち)【男子31番】だ。


「……これは宇宙人じゃないだろ」
そう言ったのは雄太だった。
「オレの見立てでは異次元に歪みが生じ、その音波をキャッチしたんだ。うん、そうだ。間違いない」
「それも違う……これは死者からのメッセージだ」
この3人は、それぞれUFO、超常現象、ホラーのマニアでいつも3人で怪しい話をしている。
もっとも第三者から見たら同じ穴のムジナだろう。




その近くの席では、椎名誠(しいな・まこと)【男子10番】と村瀬菜摘(むらせ・なつみ)【女子8番】が笑顔で何か話している。
おそらく先日言ったデートの思い出話だろう。
第三者には全く価値の無い会話だが、2人にとっては楽しい時間に間違いない。




客室の1番前の方の席では女子委員長の内海千秋(うつみ・ちあき)【女子2番】を中心に
小林静香(こばやし・しずか)【女子4番】、西村小夜子(にしむら・さよこ)【女子6番】、
星野美咲(ほしの・みさき)【女子7番】、望月瞳(もちづき・ひとみ)【女子9番】が集まっている。
女子はグループを作るというが、女生徒の少ないこのクラスも例外ではないらしい。
どうやら島に上陸した後、どこに買い物にいくか、観光は等々、今から楽しい思い出作りの井戸端会議と言った所だろうか。


「あ、これ。お母さんが作ってくれたんだ、皆で食べなさいって」
そう言って美咲は鞄から綺麗にラッピングされた包みをいくつも取り出した。
美咲は少々甘やかされて育った子だ。 兄弟は年の離れた兄が2人いたが、両親は年をとってから生まれた末っ子。
一人娘の美咲が可愛くて仕方ないらしく、加えて兄たちからも盛大に甘やかされて育った。
そのせいか美恵かれ見たら、とても同級生とは思えないほど子供っぽい面もある。
反対にリーダーの千秋は委員長を務めるだけあってクラスメイトの信頼も厚くしっかり者。
教師の受けもよく、成績もいい。つまり模範的な優等生という奴だ。
「ありがとう」
その千秋は包みを一つ貰うと席を立ち、一人の男子生徒の元に行った。


「ゆっくん」
「ん?何」
「はい、これ。美咲のお母さんが作ってくれたお菓子よ」
その男子生徒は包みの中のお菓子を一つつまむと口に運んだ。
「どう?」
「……ちょっと甘すぎるな。母さんや千秋が作る料理の方が美味しいよ」
「そう?でも、美咲にはそんな事言わないでね」
「わかってるよ」
その男子生徒の名は内海幸雄(うつみ・ゆきお)【男子3番】
知的でハツラツとした千秋とは雰囲気こそ違うが、目元や頬の輪郭がよく似ている。
2人は男女の二卵性双生児。つまり双子なのだ。 幸雄は千秋の弟とは思えないほど成績は平凡。
だが、スポーツは得意で小学生の時は将来はプロの野球選手になると豪語するほどの超凡な才能を見せていた。
だが呆気なく野球をやめ、中学に入ってからバスケ、体操と入退部を繰り返した挙句、今は帰宅部という経歴の持ち主だ。
そして何より顔がいい。カッコよくて目元がカワイイと女生徒には人気も高い。
そう言えば、このクラスにはやたらとイケメンが多かった。




その筆頭は今美恵の隣にいる桐山、そして今だに外で何やら話し込んでいる晃司だろう。
しかし、この2人は完璧なくらい整った顔立ちとは反比例して愛想と言うものが全くない。
それどころか近寄り難い雰囲気、とても「好きです。付き合って下さい」などと告白するような親しみやすい対象ではないのだ。
そういう意味では晃司とよく一緒にいる秀明や志郎も同類だろう。
ふと見ると、氷室隼人(ひむろ・はやと)【男子24番】が右手を頬につき窓の外を眺めている。
桐山や晃司ほどではないが、整ったほりの深い日本人離れした顔立ちで、何より冷静沈着で大人の雰囲気だ。
無口なことも手伝ってか、とにかく近寄り難い。




そして、このクラスにはもう一人近寄り難い美形がいる。
杉村貴弘(すぎむら・たかひろ)【男子11番】だ。
キツイが整った端麗な顔立ち。背も高く(180近くある)まるでモデルだ。
この町に在住している美人なら全員把握していると豪語する男・根岸純平(ねぎし・じゅんぺい)【男子21番】
彼の個人情報によると、貴弘の母は女優やモデル顔負けの美人らしい。
男の子は母親に似るというが、貴弘はその典型で、その容姿だけではなくプライドが高くキツイ性格も母親譲りだった。
付け加えれば貴弘はスポーツだけではなく全教科ほぼ成績がいい。
その為優等生とは程遠い反抗的な性格であるにもかかわらず、教師の誰も貴弘にうるさくいう人間はいなかった。




その貴弘から二つ前の席に座っている三村真一(みむら・しんいち)【男子27番】
彼も、かなりのハンサムで、そのうえハデなくらい目立つ容姿だ。
とにかくトレンディドラマに出てきそうな風貌。
加えて大会が近づけば助っ人として部員に勧誘されるほど身体能力が高い。
本人がその気になれば、それこそ女にモテモテなのだが、その気がないらしく反対に女性を避けている面がある。
何より何となくだが陰がある。それは家庭の事情が複雑なことだが、クラスメイトの誰もその事は知らない。














美恵、美恵」
海斗の明るい声が聞こえる。
「ほら、ここ座れよ」
どうやら場所をとっていてくれたらしい。
「ずっと外にいたから寒かっただろう?」
そう言って、上着を手にすると駆け寄ってきた。
その時だった。いきなりドンッ…!と海斗が突き飛ばされたのは。
「……ツゥ…!」
「カイ」
心配そうに駆け寄ろうとした美恵。
美恵さん、寒かっただろう?」
ところが、それを遮るように、すかさず美恵に上着を掛けてきた恐ろしいくらいの美少年が。


「春とはいえ外はまだ寒いからね」
「……さ…佐伯…ッ」
海斗が恨みがましい目で睨みつけた。その相手は佐伯徹(さえき・とおる)【男子8番】
桐山や晃司とは違い、女にモテるタイプのハンサムボーイだ。
「なんだ。いたんだ寺沢くん」
「ひとのこと、どつきやがって……」
「ごめん、全然気付かなかったんだよ」
徹は少し屈んで倒れている海斗に目線を合わせると、さも申し訳無さそうに、海斗の肩の埃をはらいながら「悪かったよ」と謝った。


だが、海斗は知っていた徹の本性を。
「痛い目に合いたくなかったら彼女に近づかないことだな。このゲイ野郎」
美恵には聞こえない小さな声でと脅迫じみた言葉を吐いたのだ。
海斗は今時珍しくもなくなってきたが、それでも異質な存在として世間から白い目で見られがちの人種。
だからこそ美恵とは男女を越えた友情で結ばれている。
同性愛者でさえなければ、それなりに女にモテるだけの容姿と素質はあるのだが。


そして海斗に悪感情を抱いている佐伯徹。
女生徒が少ない春見中学校において、女生徒たちから最も熱く絶大な支持を受けている。
この男の本性を知っているのは、このクラスの一部の人間だけだろう。
海斗は勿論、士官学校進学組の連中だ。
そう、春見中学校は士官学校進学校としての校風が強いため、将来軍人を目指す男子生徒が多い。
このクラスの男子生徒も半数以上が軍人志望者だ。
特に徹は、専守防衛軍予備軍と化しているという噂すらある国立の孤児院の出身なので、当然のごとく士官学校志望だった。
ちなみに徹を含め、孤児院で育った連中はこのクラスに12人いる。
そして彼等は、学校の寮で生活しているわけだが、その素性は美恵と、その12人以外誰も知らない。
特にデリケートなプライベート情報なので、学校側も黙っていてくれているのだ。




「ねえ、お菓子袋まだあるけど」
「え…と、これは佐伯くんと立花くんと相馬くんの分」
美咲は少々赤面しながら、そう答えた。 このクラスには女生徒に非常にモテるタイプの男が3人いる。
佐伯徹と、立花薫(たちばな・かおる)【男子16番】と相馬洸(そうま・たけし)【男子14番】だ。
その洸はダルそうに海を見詰めている。 実際、とても退屈してたのだろう。
「喉かわいたな……なぁ、ジュース買って来てよ。あ、炭酸抜きだぞ」
渋々と根岸純平(ねぎし・じゅんぺい)【男子21番】が立ち上がった。
どういうわけか純平は洸に頭が上がらない。
それは、ほんの二ヶ月前の出来事だ。洸は純平を校舎の裏に呼び出して、こう言った。




「おまえ、昨日の日曜日喫茶店で女ナンパしようとしただろ?」
事実だった。喫茶店で見つけたセクシーかつ愛らしい笑顔の年上の女性。
思い浮かべるだけで溜息がでる。が、なぜ洸がそれを知っている?
「あの女はオレの……」
ま、まさか彼女?!それともお姉さんなんてオチか?!
だが洸は純平が全く予期していなかったとんでもない事を言ったのだ。

「オレのママなんだよ」
「え?」

どうみても20代半ばくらいに見えたのに!!
この瞬間、純平の中学校生活は終わった。
よりにもよって同級生の母親を口説こうとしたなんて、他の奴等にバレたら何を言われるかわからない。
洸が具体的に純平を脅迫した事実は無いのだが、とにかくその日から純平は洸にいいように使われるようになったのだ。














「カイ大丈夫?」
「ああ」
「佐伯くん、ちょっといい?」
美恵は少々強引に佐伯を連れ出し客室の外の廊下に出た。
「カイに酷いことをするのはやめて」
「酷いこと?」
「とぼけないで。私が気付かないとでも思ってたの? あなた、小声で何か言ってたじゃない」
「何だ。気付いてたんだ」
徹は、さも愉快そうに笑った。そして、今度は真剣な表情になった。


「だったら話は早い」
徹は美恵の正面にまわると、美恵が背にしている壁に手をついた。
「君には近づかない方がいい。それは彼の為でもあるんだ。
そうだろう?」
「……カイとはそんなんじゃないわ。大きなお世話よ」
「だったらいいけど。君が忘れてなければいいんだよ。自分が何者なのかを。
君と一緒にいたら彼の命にもかかわるんだ」
「………」
「あいつが君と一緒にいること自体間違いなんだ。君と一緒にいられるのはオレのような男だけだ」


「そうだろ美恵」
「わかってるわ……徹」




【残り42人】




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