「……そこまで知ってるなんて」
翠琴は苦々しそうに晶を射抜くように睨んだ。

(……こいつ、生かしておけないわ)

才能に関しては問題ない。顔も性格も翠琴のタイプ。
ただ一つの欠点それは翠琴の思い通りにならなかったこと。
クレオパトラの手の上で踊らされ、非業の最期を遂げたアントニウス。
後世の歴史家に『世界の王となれる器を持ちながら欲望に勝てなかった』と評された男。
あのバカのように、女に対してだけは愚か者だったなら良かったのに。
そうすれば長生きできたのよ、あなた。
少なくても、私に対して種馬としての役目をはたすまでは……ね。
翠琴は銃を手に取った。


「服もさっさと着ろ」
「この方が動きやすいわ。それとも、私の裸に気をとられてしまうのかしら?」
晶は全く眉を動かしてない。
「……そう、そういうこと。私の裸体には……興味すらそそられないってことなのね!」
翠琴は怒りにまかせて銃口を晶に向けた。その怒りのままに引き金にかかっている指に力を込める。
いや、込めようとしたが、その前に晶が動くほうが先だった。
晶が一瞬にして翠琴の間合いに入って、手首をひねり上げた。
翠琴の顔が痛みで歪む。悔しそうに晶を睨んだ。
「おまえ……!」
「最初に言っておいたよな?オレは女でも容赦しない。特に惚れてもいない女には一切容赦しないから覚悟しろ」




Solitary Island―142―




「さあ機嫌を直して」
珀朗は食堂の椅子につき、ニコニコと天使のような微笑を見せていた。
しかし美恵は憮然としたまま、一向に心を許してくれない。
「悲しいな。そんなに僕の事嫌いになったのかい?」
「…………」
答えすら返さずに、ふいっと顔を横にそらしてしまっている。
「僕はこれでも傷つきやすいんだ。声もかけてもらないなんて、悲しいよ」
珀朗はテーブルの上に置かれている美恵の手に、そっと自分の手を重ねた。

「触らないで!」
「やっと口をきいてくれたね」
ニッコリと笑う珀朗。
「さあ機嫌を直して食事にしようか。全部、僕が作ったんだよ」
珀朗は、美恵と瞬の前に美味しそうな料理を並べた。
瞬は遠慮なく食べているが、先ほど騙された美恵は素直に好意を受け取れない。
「まだこだわっているのかい?君は思ったより強情な人だな。そんなところも僕は好意に値すると思っているんだよ。
でも僕が笑っているうちに、素直に好意を受け取ってくれないかな?」
美恵はハッとした。最後の台詞……なんだか口調が違ったのだ。
珀朗を見ると表情も態度も何も変わってない。
でも、確かに、さっきは、口調が冷たく低くなった。
聞き違いだろうか?いや違う。なぜなら瞬も怪訝そうな表情をして珀朗を見つめていたから。
「やれやれ困ったな。怖いひとが帰ったきたようだ」
美恵はハッとして食堂のドアに視線を移した。




「黒己にどういう処分を下したんだい?」
「F4に喰わせた」
美恵の表情が変わった。『喰わせた』……ですって?
「あ、あなた……あいつに何をしたの?」
「もしかして、黒己に対して情でも芽生えていたのか?」
「まさか!」
美恵は強調するように大声で否定した。
「安心しろ。奴は生きている、残念ながらな。だから、おまえが危険なんだ」
「え?」
「危険?美恵が危険というのはどういうことだ?」
「オレは黒己の性格はよく知っている」
蒼琉は美恵の隣に座ると、美恵の目の前に置かれた料理に手を伸ばしデザートのりんごを手にした。
しゃりっと小気味いい音が蒼琉の口から漏れた


「あいつは気に入ったものを嫌いな人間にとられるくらいなら破壊する」
意味ありげに美恵を見詰めた。
気に入ったもの……そして、その視線。美恵は嫌な予感がした。
「忘れるな」
蒼琉は、食べかけのリンゴを放り投げると、美恵の後頭部に手を回して引き寄せた。
「今度、あのバカがおまえの前に姿を現す時は、おまえを殺すことが目的だ」
「……なっ」
「死にたくなかったら、オレのそばから離れないことだな。
これからは、オレがおまえを見張るんじゃない。おまえがオレのそばにいるんだ。
そうだな、入浴やトイレ、それにベッドの中でも一緒にいたほうがいい」
「ふざけないで!」
「オレは大真面目だ」




「蒼琉、彼も帰ってきたみたいだよ」
『彼』……誰のことだろう?黒己ではないのはわかっている。
あの赤毛の男と、それに銀髪の少年、どちらかだが、どっちだろう?
「ああ、それに、もう一人いるな。あいつは黒己と違って使える」
もう一人、その言葉に美恵はギクッとなった。
瞬に対する踏み絵として、特撰兵士を一人殺させる、それを思い出したのだ。
蒼琉は食堂に備え付けてあるテレビ画面にリモコンを向けた。
赤毛の男。紅夜という男のほうだ。その紅夜が、男を一人かかえている。
随分と痛めつけているらしく呻き声が聞える。


「……そんな」
美恵は立ち上がった。蒼琉が、すぐに手首を掴んでくる。
「大人しくしてろ。それから、オレから離れるな。黒己が襲ってくるぞ」
黒己のことはもうどうでもよかった。美恵の頭の中は踏み絵一色に染まっている。
「俊彦!」
「俊彦……瀬名俊彦か。確か海軍少尉だったな」
蒼琉は立ち上がると、珀朗に「女は独房に入れておけ。おまえは一緒にいろ」と命令した。
そして、瞬には、「10分後だ。いいな?」と念を押した。
「ああ、構わない」
「ここで待ってろ」
蒼琉は食堂から出て行った。
「さあ、行こうか」
珀朗が美恵の肩に手を置いて促す。美恵は瞬に飛びついた。




「やめて!!俊彦は友達よ、大切な仲間なのよ!!」
「…………」
「お願い!彼を殺さないで!!お願いよ、お願いだから!!」
珀朗が美恵の肩を掴み強引に瞬から引き離し歩き出した。
「瞬!もう殺さないで、もうやめて!!」
「…………」
「俊彦を殺さないで!!お願い瞬、お願いよ!俊彦を……俊彦を殺さないで、命だけはとらないで!!」
泣き喚く美恵を強引に引きずるように連れてゆく珀朗。
食堂から姿が消えても、その声はまだ消えない。


「瞬!!殺すなら、私を殺して!!俊彦は科学省とは関係ないじゃない!!
俊彦には何の罪もない。だから、殺さないで!私、なんでもするから!!」
叫び声が遠ざかっていく。

「……殺さないで、か」

無理なお願いだな。それにオレはすでに特撰兵士を一人殺した。
科学省だけを相手にすればいいわけじゃない。特撰兵士を殺した以上、残った連中も全員オレを敵とみなしている。
残念だが、どちらかが死に絶えない限り終わらないんだよ。


「お願いよ兄さん!!」


……美恵、もう無理なんだ。
瞬は、じっとテレビ画面を見ていた。














「ふん、おまえも私が女だからって油断しないことね!」
翠琴が、その近すぎる距離から、晶の顎目掛けて蹴りを突き刺すように繰り出した。
足の爪一つ一つ赤いマニキュアが綺麗に塗られている。
だが、その中に、他の爪とは微妙に違う色のマニキュアがある。赤いが、やや黒みを帯びた親指の爪。
晶は、翠琴を突き放し、背後に退いた。
いつもの晶なら、一度動きを止めた敵から手を離したりはしない。
蹴りなど、腕で受け止めていただろうが、そうはしなかった。

「おまえ、随分と危ないものを足に塗っているんだな」
「気付いたの?本当に隙のない男ね」

翠琴は面白く無さそうに眉間にシワを寄せた。
親指の爪の先には猛毒が塗ってあった。
爪で相手の皮膚をちょっとかすっただけで勝てたのに!

(毒爪か……おそらく、もう片方の足、いや手の爪のほうも毒爪があると思ったほうがいい)

体力ではどうしても男に劣ってしまう女にとっては実に有効な戦法だろう。
まして、翠琴の美貌と、豊満な裸体を見れば、大抵の男は誘惑にのって抱きしめてしまう。
引っかき傷をつくる隙など容易くできるのだ。
翠琴にとって、晶がその手のタイプではなかったことは大きな誤算であり、不運だった。
もちろん、だからと言って、「ごめんなさい」と侘びを入れて無条件降伏するつもりはない。
敵にひれ伏す屈辱が嫌だからではなく、味方に敵以上に恐ろしい男がいるからだ。
蒼琉は決して裏切りを許さない男だ。そして失敗にすら厳格な男。
何が何でも勝って、この男の首を手土産に帰らなければならない。
(生け捕りは完全に諦めた。そんな悠長なこと言ってはいられない)




「そのハンサムな顔が潰れるの勿体無いけど一発ぶち込んであげるわ!」
翠琴は再び銃を向けた。と、同時に何かが飛んで来る。
「……あ!」
あれは……あたしの爆弾仕込みのハイヒール!!
「シット!」
翠琴は舌打ちすると、ハイヒールを銃で叩き飛ばした。
空中でクルクルと回転するハイヒールがカッ!と閃光を放った。
翠琴は床に突っ伏して頭を抱えた。熱を含んだ風が頭上を走りぬける。
「なんて奴なの!敵の武器を使うなんて!」
翠琴は立ち上がった。


「敵を殺す為の道具で殺されかけるなんて……屈辱だわ!
なんて性根の腐った陰険男なの!蒼琉は底意地は悪いけど、粘着質じゃなかったわ!」
立ち上がった翠琴は「あ」と声を漏らした。
密着しそうなほどの至近距離に、いつの間にか晶が立っていたのだ。
「そうか、だったら、もっと屈辱味あわせてやる」
パン!頬に痛みが走った。顔!こいつ男のくせに女の顔を殴った!!
「な、何するのよ!顔は、この美しい顔だけは触れないで!」
「美しい顔だと?やはり、その手のタイプだったのか」
晶は思わず舌打ちした。嫌なことに、どうも自分はナルシストに縁がある。
それも普通のナルシストではない。根性の腐ったナルシスト限定だ。
「私の美貌は誰にも穢させなどしないわ。他の女とは違うのよ。私の美貌は至宝、誰にも触れさせないわ」

(至宝だと?よく、言うぜ。少なくてもオレの目から見たら美恵のほうが、ずっと上だ)




「黒己を……蒼琉までたぶらかそうとしている、あの科学省のメス豚とは違うのよ!」
「……科学省のメス豚?」
心当たり一名。ただし、メス豚と言う代名詞には到底賛成できないが。
「おまえたち美恵に何をした?」
「何をしたですって?あの女が来てから全てがメチャクチャよ!!
黒己も蒼琉も……いえ、紅夜でさえ狂い始めている。
私がいるのに……十年以上も一緒にいた私にも、あんな眼差し見せたことないのに!!
なぜ、あんな女に気をとられるのよ!!私のほうがずっとずっと美しいのに!!
あんな女、ただ物珍しさからかまっているだけでしょうけど、私を無視してまでなんて屈辱よ!!」
パン!また頬から音がした。


「な!……顔、顔だけは叩くなって!」
パン!今度は反対側の頬から音がした。男の力というのは強い。
翠琴は体勢を崩して、倒れかけた。
でも倒れなかった。晶が翠琴の足を踏んづけたので、テコの原理で倒れなかったのだ。
パンパンパン!!連続して往復ビンタ。
「や、やめ……やめなさい、この悪魔!!顔、顔だけは……っ!!」
翠琴はたまらず晶を突き飛ばした。
「よ、よくも……よくも、この私に対して!!」
翠琴は頬に手を添えた。痛い、まだ痛みを感じる!
「言ったはずだ。オレは女でも容赦しないと」
「蒼琉にさえ……」
翠琴は苦々しそうに唇を噛んだ。

「蒼琉にさえ顔を殴られた事なかったのに!!」
「そうか」

晶の腕が一瞬で翠琴の顎に伸びてきた。




「……んっ」
顎を掴まれ声がでない。
「どうやら美恵はもう拉致されたらしいな。もう、おまえと遊んでいる暇はない」
もしも晃司や秀明がこの事を知ったら、間違いなく救出に駆けつけるだろう。
美恵を救出、つまりF5(それも、こんな小者とは違う。正真正銘の強者)との直接対決だ。
「晃司たちに遅れをとってたまるか」
晶のⅩシリーズに対する強烈なライバル意識と対抗心に火がついた。もう翠琴なんかに構っていられない。
「……ぃ……ぃ」
翠琴が何か言おうとしているが、もちろん言葉にならない。
(いつまで、私の美しい顔を歪ませているのよ!)
翠琴は膝を突き上げた。
(急所に一撃よ。どんな男でも急所をやられれば……)
バシィーーン!今まで以上に強烈な平手打ちだった。
翠琴は床を数メートル滑っていた。銃が手から離れて回転しながら、今だに床を滑っている。


「……く!」
翠琴は悔しそうに唇を噛んだ。
銃!丸腰では勝ち目は無い!!銃を取らなければ!!
翠琴は銃に向かって走った。だが、晶の動きのほうが早かった。
「これで終わりだ」
女を殴るのは趣味じゃないが、そろそろお終いにしてやる。
晶は右腕を挙げ、拳を握り締めた。鉄拳による攻撃を予測し翠琴は恐怖した。
晶が腕を振り落とした、まさに、その時だった!




「何だと!?」
それは晶でも驚愕すべきことだったに違いない。廊下の角から、影が一つ飛び出したのだ。
凄まじいスピードで!それが晶と翠琴の間に素早く割り込んでいた。
ボキっ!!鈍い音がした。翠琴ではなく、その影……いや、根岸純平の顔面から!
晶の拳は純平の顔面に食い込んでいる。
そして、翠琴を庇うように両腕を広げて飛び出してきた純平が障害となって翠琴の姿が一瞬見えなくなった。
まずい!晶は直感した。戦いの最中に、たとえ一瞬でも相手の姿を見失う事は命取りだ。


「クソ、どけ!!」
晶はすでに白目を剥いている純平を蹴り飛ばした。
純平の体の影に隠れいた翠琴の姿が再び晶の目に映る。
しかし、翠琴が浮かべていた表情は、先ほどの怯えたものではなかった。
その手には銃が握られ、そして銃口は晶に向いている。晶は咄嗟に右にステップを踏んだ。
「遅いわよ」
翠琴の口の端が上がり、銃口が火を噴いた。
「……っ!」
晶の顔が僅かに歪む。命中だ。
しかし、翠琴は必ずしも、してやったりという歓喜の笑顔を見せなかった。
翠琴が狙ったのは左胸、つまり心臓だ。
だが、銃弾が貫いたのは晶の左腕、晶がステップを踏むほうが僅かに早かったのだ。




「今度こそ!」
翠琴は再度引き金にかかっている指に力を込めた。
「遅い!」
「きゃあ!」
だが、今度は完全に晶のほうが動きが早かった。
翠琴が引き金を絞る前に、晶の飛び蹴りが決まっていた。翠琴の手から銃が弾き飛ばされる。
「覚えてらっしゃい!」
翠琴は踵を翻すと全速力で走り出した。
「逃がすか!」
捕らえてアジトの居場所を力づくでも吐かせてやる!
晶は、追いかけようとした。だが、途端に左腕から激痛が走る。


「……くっ」
流血が酷い。弾は晶の腕を貫通していた。晶は、ハンカチを取り出すと、腕に巻いた。
止血だけでもしておかないと、戦えなくなる。
追いかけなければ。晶は翠琴を追って廊下の角を曲がった。
しかし、すでに翠琴の姿はそこにはなかった。逃げられたのだ。晶は悔しそうに唇を噛んだ。

(まさか、こんな邪魔が入るなんて!オレのミスだ。最初から全力で戦っていればこんなことにはならなかった。
第三者の乱入は計算にいれて当然のことだった。それなのに……!)

ハンカチはすでに鮮血に染まっていた。
「……左腕」
晶は苦々しそうに、左腕を見つめた。
なぜなら、晶の利き腕は――左だからだ。














「畜生!殺すなら、さっさと殺せ!!」
「ああ、そのつもりだ」
俊彦から色々と情報を聞き出すつもりだったが、俊彦も仮にも特撰兵士。
痛めつけられても、口は割らない……と、いうわけだ。
「これ以上は時間の無駄だな。待ってろ、すぐに望みをかなえてやる」
蒼琉と紅夜は、俊彦を部屋に放り込み鍵をかけた。
二人の足音が遠のくのを聞きながら、俊彦は自分の命運もここまでか、と覚悟を決めた。
「……あーあ、やられっぱなしかよ」
身体中が悲鳴を上げている。ちくしょー、あいつら加減ってものしらねえな。
ごろんと横になった。


「……オレってかっこ悪」

美恵……無事か美恵?それだけが心配だ……頼むから無事でいてくれよ。
オレはいい。でも、おまえだけは助けたい。おまえだけは……。

ズボンのポケットから何かが落ちた。
「…………」
俊彦はそれを手にして、じっと見つめた。
特撰兵士の勲章……これを手にする為に血の滲むような努力をしてきた。
今の状況ならば銃弾一発のほうが価値があるかもしれない。
それでも俊彦にとっては大切なものだった。
俊彦は起き上がると壁に背もたれして、その大切なものを胸のポケットにしまった。




「Ⅹ6、ついて来い」
食堂でじっとテレビ画面の中の俊彦を見ていた瞬はゆっくりと立ち上がった。
そして、蒼琉と紅夜の後に黙ってついていった。たどり着いたのは、とある部屋の前。
「開けてやれ紅夜」
紅夜は鍵を取り出すと、ドアの鍵を外し、ゆっくりとドアを開いた。
俊彦は俯いていたが、ドアが開く音に反応して、顔を上げた。
そして見た。自分の数メートル先に立って、こちらを見ている瞬の姿を。
「……お、おまえ」
俊彦の目つきが変わった。先ほどまでの疲れきった半分死んだような目ではない。
「…………」
瞬はというと、一言も発せず、何の感情も無い目で、ただ俊彦を見ていた。


「……会いたかったぜ早乙女。いや……Ⅹ6」


俊彦は立ち上がった。その目は赤く色づいている。
「……おまえ、よくも」
「…………」


「よくも、攻介を殺しやがったなぁ!!」


俊彦が瞬目掛けて突進してきた。しかし、瞬に届く事は無い。
なぜなら、その前に紅夜が俊彦を背後から押さえつけたからだ。
「は、離せ!離しやがれ!!」
俊彦は、それでも前に出ようと必死だった。
対して瞬は相変わらず何もない表情だった。
「離せ!!オレを勝負しろⅩ6!!攻介の落とし前つけてやる!!」
瞬は、蒼琉に手を伸ばすと一言だけ言った。「銃」と。




「オレとサシで勝負しろ!どうした、できないのかよ!攻介は殺したんだろ!だったらオレとも戦えっ!!」
それは虚しい光景だった。声が枯れんばかりに叫ぶ俊彦、何の言葉も吐かない瞬。
一方的過ぎる光景。第三者が見たら俊彦は哀れな存在でしかない。
美恵……美恵はどうした?あいつをどこにやったんだ!?」
「…………」
その時、初めて瞬が俊彦の目を見た。
美恵はおまえの妹だろうが!!あいつをどうしたんだ、この野郎!!」
「…………」
「どうした、何も言えないのかよ!!言えよ!!言い返してみろよ!!」
俊彦の怒声は止まなかった。そして俊彦の言葉に、瞬は一言も返答しなかった。
返答の代わりに……銃口を向けた。


『殺さないで!俊彦を殺さないで、お願いよ!』


美恵の声が頭の中を過ぎった――。
「……どいてろレッド」
紅夜は俊彦を突き放した。同時に銃声があたりを包んだ。
俊彦の体がふっとび壁に叩きつけられ、その衝撃なのか、俊彦は血を吐き、そのまま床に落ちた。
そして、動かなくなった。
硝煙が立ち上る銃口を、瞬は静かにおろすと蒼琉に言った。


「これでいいのか?」
「ああ、満足した。おまえを信用してやる」




【残り23人】
【敵残り6人】



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