「どうだ秀明?」
「ダメだ、全く動かない」
秀明は、「遠回りするしかないな」と呟くように言った。
「他にルートは無いのか?」
桐山は淡々と言葉をつむいだが、その口調は僅かに焦っている。
もちろん、他人どころか、彼自身すら気付かない小さな変化ではあるが。
「奴に逃げられたのは痛かったな」
隼人はやや俯きながら言った。
黒己に逃げられたのは、とんでもないミスだ。今頃、美恵が酷い目に合わされているかもしれない。
その時、かすかに震動を感じた。音も聞えた。


「……おい、あの音」
貴弘が不安そうに、しかしキッと天井を睨みつけて言った。
「ああ、例の爆発だろう。時間が経つごとにこの基地は崩れるようになっているからな」
晃司はまるで他人事のように言った。
「おまえたちは天瀬のことが気にならないのか?」
桐山には晃司たちの態度は気に入らなかったらしい。
「オレは違う。オレはここが痛むんだ」
桐山は、そっと心臓の部分に手を添えた。


「……桐山、晃司たちは顔に出さないだけだ。おまえと同じように」
隼人は、すかさずフォローを入れるが、桐山には理解出来ない。
自分の気持ちすら理解出来ないのに、他人の気持ちなんか理解できるわけがない。
「これからどうする?」
隼人の問いに、秀明は拳を顎につけて考える仕草を見せていたが数十秒後に歩き出した。

「これまでの経過を科学省本部に連絡して指示を仰ぐ」




Solitary Island―141―




「おじさん、あの音……」
「気にするな。それより、作業を続けろ」
「ああ、でも呑気に捜してられないぜ」
真一は、動かす手を早めた。この部屋にきて、どのくらい時間がたっただろう?
あれから川田たちは科学省の丸秘ファイルをいくつか探し当てた。
しかし、それはどれも科学省の秘密の研究のことであり、重要ではあるが政府を転覆させられるものではない。
「川田、オレ達間違っていたんじゃないのか?本当に何か見付かるのか?」
七原が不安を吐き出した。


「見付かるまで捜すんだ七原」
「でも、こんなことしている間にも、この基地は爆発し続けるんだぞ。
おまえ、わかっているのか?オレはおまえを信じている、でも……」
「でも何だ?無理にオレについてる必要は無いぞ七原。嫌なら、さっさと逃げ出せ。おまえには息子や娘だっているんだ。
ここでオレ達と違う道を進んでも誰も責めたりしないぞ」
「オレは……そんなこと言ってるんじゃないんだ」
七原は俯き、「ごめん……少しイラついてたんだ」と謝罪した。
川田は、「謝られる覚えは無い。おまえの言い分ももっともだ」と返した。
川田自身、自信がなかったのだろう。
本当に、政府を転覆できるだけのものがでてくる確証ははっきりいってない。
あるのは自分の勘だけなのだ。


「……これも違う」
川田は関係ない書類を放り投げた。ゴミ箱に当たって跳ね返る。
真一は立ち上がると、その書類を手にしてゴミ箱に手を伸ばした。
「悪いな真一」
「いいって。おじさんは自分の仕事だけしてろよ。ん……?」
真一は、ふとゴミ箱からはみ出している書類が気になった。
取り出して、その書類に目を通す。何だか小難しい単語が並んでいるではないか。
先ほど、七原が捨てた書類だった。必要ないと七原が判断したそれをみて真一は固まった。
「お、おじさん!」
「ん、どうした?」
「これ!これ見ろよ!」
真一が差し出した書類をみて、川田は目を大きく見開いた。














「……て、てめえ勇二をやりやがったな」

俊彦は額から流れる汗をやけに冷たく感じた。
動かない勇二。外傷もある。首を絞められた痕も。
対して、相手の紅夜はかすり傷程度。そして、何事もなかったかのように立っているのだ。

これがF5?勇二は仮にも特撰兵士だ。全国の少年兵士の頂点に君臨する存在なんだぞ。
その勇二をいとも簡単に殺しやがった。舐められてたまるか。オレも特撰兵士だ。
それにオレにはやるべきことがある。
どうしても、Ⅹ6に、早乙女瞬に、攻介の借りを返さなければならない。
何より、美恵を……命があるうちに彼女を助けなければならない。
死んでしまった攻介の分まで守ってやりたい。


「簡単にはやられないぜ」
俊彦が戦闘態勢をとろうとした、その瞬間に、紅夜が動いた。
「!」
俊彦の目が一気に拡大した。まるで瞬間移動のように一気に距離を縮めた!
俊彦は反射的に両腕をクロスした。直感で思ったのだ。
次は攻撃だ!頭部に蹴りが来る!
しかし、目の前に来たかと思った紅夜が姿を消した。
いや、どんな人間だろうと超能力者でも、魔法使いでもない。
奴は消えてなどいない。上だ!
俊彦は、咄嗟に顔を上げた。読みは当たった。紅夜は、上に飛んでいたのだ。
天井を背景に、紅夜が真上から襲ってきた。
俊彦は、床を蹴り、その勢いで数メートル背後にジャンプするように下がった。
しかし、紅夜の反応も早い。また、一気に俊彦との距離を縮めた。


(早いっっ!!)
俊彦は、腕をあげた。頭部だけは死守しなければ。
腕に強烈な痛みが走った。紅夜の蹴りが食い込んでいる。
「……ぐ!」
骨が折れるような衝撃。そのままの体勢で俊彦は床を数メートル滑った。
(なんて威力だ……蹴りでここまで)
強い、強いなんてものじゃない。
(蹴りの衝撃でここまで押されるなんて……こいつ、晶や隼人よりも強いんじゃないのか?
パワーだけじゃない。攻撃がほとんど見えない。秀明クラスだ、こいつ)

オレは……ここで死ぬかもしれないな。

俊彦は無意識に口の端を上げていた。
恐怖は感じる。特撰兵士といっても死に対する恐怖は消せはしない。
この圧倒的実力差に俊彦は笑うしかなかった。


「はは……まいったな」
ここまでかよ……だったら、残された手段は一つしかない。
俊彦は上着の内ポケットに手を伸ばした。勝てないのであれば、道連れにするしかない。
攻介が瞬に対してした最終手段でもあった自爆、それしかないのだ。
だが、それも読まれていた。紅夜が再び動いていた。
自爆装置を握った手に手刀が入る。手に痺れが走る。

「オレと一緒に来てもらうぞ」
「何だと?」

紅夜は右手を大きく上げた。次の瞬間、再び手刀が振り下ろされた。
今度は俊彦の後ろ首に。
その瞬間、俊彦は意識を手離した――。















「……勇二」
遅かったか……直人は廊下の隅で冷たくなっている勇二を見て、そう思った。
(俊彦はどこだ?)
どこにも姿は無い。瞳も純平も。死体がないということは、生きている可能性が高いということだ。
だが、どこに行った?あの男の気配も全くない。
辺りを見渡していた直人だったが、勇二の足元に落ちているあるものを見つけた。
「……これは」
特撰兵士が全員所持している、いざと言うときに爆破装置。
ライターほどの大きさで、実際にそれを知らない人間が見ればライターだと思うだろう。
「これは俊彦のものだ」
俊彦はここにいた。勇二の死体があるということは紅夜もここにいた。
そして俊彦はいない。生きているかはわからないが、紅夜が連れて行ったということだろう。
「何のために俊彦を?」
考えている余裕は無い。直人は、再び走り出した。














「どうだ秀明?」
「何とかウイルスは除去できた。ただし、このコンピュータだけだ。
それに、このウイルスは、常に増殖して再度侵入を試みる。
一時的なものだ。このコンピュータも数分しか正常に動かない。
またすぐにウイルスに感染する。このウイルスを作った奴は頭が切れる」
感心している暇は無かった。
隼人は正直にいうと科学省が嫌いだった。
晃司や秀明と親しい間柄である以上、連中を嫌うようになったのも仕方のないことだろう。
しかし、F5の庭ともいうべき、この地下施設。科学省の情報が必要なのも確かだ。
「上手く通信システムが作動してくれればいいがな」
科学省の連中の顔なんて見たくも無いが、一刻を争う以上、今は贅沢も言ってられない。
まして美恵が攫われたのだ。すぐに助けてやらないと。
程なくしてモニターに(映像はかなり悪かったが)科学省長官・宇佐美が現れた。


『晃司、秀明、遅いぞ、おまえたち。なぜ、もっと早く連絡してこなかった?』

「言い訳するつもりはない」
晃司は、たった一言だけを返した。
『Ⅹ6は始末したか?』
「早乙女瞬の正体を知っていたのか?」
『なに?私からの連絡をまだ見てなかったのか?
全く、しょうがない奴等だ。あまり、私を失望させないでくれ』
隼人の顔が歪んだ。だから、宇佐美は好きになれない。
晃司や秀明が全く気にしてない以上、第三者の自分が口を出す事では無いので黙ってはいるが。
『それで島の様子は?』
「Fシリーズが完全に暴走している。科学者たちは全員死亡、生存者は現在のところゼロだ」
『そうか……やはりな』
宇佐美は額に手を添え、頭が痛いというように俯いた。




『原因は?』
「F5の反乱だ。連中が科学者たちを皆殺しにして、Fシリーズを各エリアから解放した」
それを聞いた途端に宇佐美はデスクを叩き付けた。
『やはり原因はあいつらか!思った通りだ、やはりあいつらは反乱を起した!!
あいつらが幼少の頃から、いつかバカなことをしでかすんじゃないかと思ったが、その通りだった!!
命を与え育ててやった私達はいわば親も同然の存在。
その私達に逆らい、生命まで奪うなんて、まともな人間にはできない所業だ!!
やはり、あいつらは悪魔だった!!生まれついての正真正銘の悪魔だっ!!』
その言い草に、「その悪魔を作り出して管理もできなかったのはどこのどいつだ」と貴弘は悪態をついていた。
F5に対する怒りで、その言葉は幸いにも宇佐美には聞えてなかったが。


「おまえの文句なんてどうでもいい」
今度は桐山が悪態をついた。この言葉は宇佐美に聞えた。
『……おまえは』
桐山を見て、宇佐美はなんだか驚いているようだった。
天瀬が攫われた。連中の居場所を知りたい」
そうだ。それは重要な情報だ。
コンピュータウイルスのせいで、この基地はあらゆるシステムが暴走している。
自動ドアが動かない。防災シャッターが勝手に下りている、など。
連中はおそらく育成エリアにいるだろうが、そこに行くまでのルートを知る必要がある。
美恵が攫われた?本当か?』
「ああ殺されてはいない。どうやら殺害目的で攫ったのではないようだ。
攫った男は取り逃がしたが、美恵に懸想している様子だった」
年頃の娘が男に拉致された。何が目的かなんて考えなくても容易に推察される。
「だから、オレ達は一刻も早く美恵を救出にいかなければならない。
最短ルートを教えてくれ。時間がないんだ」
それは秀明のみならず、その場にいた全員が望んだことだった。だが――。


『その必要は無い。美恵のことはほかっておけ』


宇佐美の言葉に全員が眉を寄せた。
『殺される心配は無いだろう。連中は少々、種族維持本能が強いだけだ。
おまえたちは研究の資料を守ることを最優先しろ。美恵は後回しでいい』
「……言っている意味がわからないな」
美恵のことは最後でいいと言っているんだ。殺される心配はまずないから安心しろ』
確かに殺される心配は無い。だが何もされない保障は一切ない。
「連中が美恵に何をするかわからない。美恵の体と精神に大きな傷がつくぞ」
宇佐美は僅かに口の端をあげて、微笑した。


『そうなればもっといい。むしろ好都合だ』


一瞬、全員の表情が固まった。
「ふざけるな!!」
貴弘がモニターに飛びついていた。
「おまえ、自分が何を言っているのかわかっているのか!?」
「杉村、よせ」
気持ちはわかるが、モニターに食って掛かったところで何も変わらない。
隼人は、モニターを破壊するのではないかという勢いの貴弘を羽交い絞めで制止した。
「どういうことだ?」
今度は晃司が質問した。


『聞えなかったのか?好都合だと言ったんだ』


「……一つ聞いてもいいか?」
『なんだ晃司?』
「科学省にとって美恵は何だ?」
『もちろん大切な存在だ』
「その大切な存在を、このクラスに転入させた。オレはそれが不思議だった。最初から、そのつもりだったのか?」
『期待はしていたがな』
宇佐美は随分と上機嫌だった。
『F5はとんでもない欠陥品だ。あんな、おぞましい冷酷で残忍な悪魔たちは生かしておけない』
だが……と、宇佐美は続けた。


『だが、奴等の戦闘能力は本物だ。だから遺伝子だけは残しておきたい。
母親がⅩシリーズの血を引く女なら、子供は我等に逆らうような愚かな人間にはならないだろう』

まさか、本当にF5が手を出してくれるとは思ってなかったのか、宇佐美は調子にのってさらに言った。

『特に蒼琉だ!奴の遺伝子を継ぐ子は是非欲しい!あいつが手を出してくれたら、最高なんだがな』


黙って聞いていた秀明が重い口を開いた。
美恵にはオレの子を生ませるんじゃなかったのか?」
『おまえの子は後でいくらでも手に入る。だが、奴等の子は今しか手にはならない!
F5とⅩシリーズの血を引く子だ。むしろ我等がもっとも望んでいた人間が生まれるかもしれないぞ。
晃司、おまえ以上のパーフェクトチャイルドかもしれん』
宇佐美には悪意は全く無かった。サラブレッドを交配させる程度の感覚だったのだろう。
そんな狂った科学者にとってⅩシリーズもF5も道具でしかなく、本人達の気持ちなど全く関係ない。
『いいか、これは命令だ。美恵のことはほかっておけ。脱出直前に助け出せばいい。それまでは絶対にかまうな』
命令という二文字が晃司と秀明にのしかかった。
どんな命令だろうと、上からの命令に二人が背いたことは一度もない。
それが例えどんなに理不尽な命令だろうと忠実にこなしてきた。


「これ以上は無駄なようだな」
桐山が荷物を持って歩き出した。
「桐山、どこに行く?」
隼人の問いに、「オレは軍とは関係ない。その命令に従う義務も無いだろう?」と簡潔に応えた。
「その命令、おまえ達が従うのなら、それもいいだろう。だが、オレには従う義務もないし、意思もない。それだけだ」
「…………」
「オレは天瀬を助けに行く。それも悪くないんじゃないか?」
「……オレも行くぜ。話にならない」
桐山に続いて、貴弘も付き合ってられないとばかりに歩き出した。




『いいか、脱出ルートを教えるから頭に叩き込め』
宇佐美が書類とパソコンを見ながら、脱出ルートについて詳細な説明をしだした。
美恵の件は、もう話すことは無いという雰囲気がありありとみてわかる。
『地下の最下階についたら、まずは非常装置を解除して……』
「本気なのか?」
『ん?秀明、何の話だ?』
美恵のことだ。美恵が暴行されても構わないのか?」
『何だ、その話はもう済んだだろう。くどいぞ、いいか、これは命令だ』
「……命令」


『そうだ。美恵のことはしばらく忘れろ。ただし脱出するときは必ず連れて来いよ。
F5はろくでもない連中だが、あいつらの能力だけは惜しいと思っていたんだ。
こうも簡単に思い通りにことが運ぶなんて私達は運がいいぞ。いいか、連中の邪魔はするな。奴等を殺すのは最後でいい。
蒼琉と紅夜にいたっては、もう時間も残り少ないだろうから戦わずに避けろ。
あの二人とやり合ったら、おまえ達といえど無傷では済まない。
おまえたちは科学省が誇る芸術品だ。傷をつけるわけにはいかない。
いいな。これは命令だ。絶対に蒼琉や紅夜とは戦うな。遭遇しても逃げろ。おまえと晃司、それに美恵は私の宝物なんだよ』
宇佐美は、『もうすぐ、宝物が増えるぞ』と楽しそうに笑っていた。
『そうだ。今後の連絡についてだが、一時間毎に……』
ブツ……モニターが消えた。
ウイルスかと思ったがそうではない。秀明が電源を落としていたのだ。














「どうしたんだよ川田?」
七原は川田と真一が手にしている書類を背後から見た。
「なんだ、それ。さっきオレが捨てた奴じゃないか。大した事ない書類だろ?
そんなものにかまってないで、さっさと調べようぜ」
「これだ!」
「え?」
川田は、自分が調べていた書類からある重要な資料を取り出した。
「間違いない。完全に一致する……あいつら、やってくれるじゃないか。こんな、とんでもないことを裏でやっていたとはな……」
「か、川田?」
「これだ!これを公表すれば政府は内側から崩れる!!」
「お、おい川田、どういうことだよ?」
七原は何が何だかわからなかった。
「おい川田、オレにも説明してくれ」
今度は三村だった。川田はすぐに二つの書類を三村に手渡した。


「……これは」
「わかるか三村?」
「ああ……科学省ってのは、とんでもない組織らしいな。
遺伝子操作で、政府の人間を自分達の思い通りにしようだなんて。総統一族も真っ青な権力欲の権化みたいな連中だぜ」
「おい、三村まで何言ってるんだよ!説明してくれよ!」
川田は一端間を置いて話し出した。
「いいか七原、科学省は遺伝子操作でF5を作り出した」
「それがどうしたんだよ?」
「戦闘能力を強化する為に残忍性、凶暴性を増幅させる遺伝子操作だ」
「だからどうだっていうんだ?わかりやすく説明してくれ」




「つまり、連中は遺伝子操作によって、ある程度だが、自分達の思い通りになる人間を作り出す技術を開発したんだ。
それを政府の中枢にいる人間の子供。つまり、将来の政府をになうべき人間に遺伝子操作を施したらどうなる?」
「どうなるって……?」
「わからないのか?科学省は裏から完全に政府を操ることができるんだ。
その為に、すでに政府のお偉いさんご用達の病院に裏から手を回している。
出産された未来のお偉いさん達に関して、絶対に公にできないことをしでかしたらしい」
「ま、まさか……!」
やっと七原にも事の次第がわかった。


「そうだ。連中は政府高官の子供や孫、つまり未来の政府高官達に遺伝子操作を施したんだ。
将来、自分達の操り人形になるようにな。その中には総統一族も含まれている。
この事実を公表したらどうなる?科学省は当然潰れる、反逆罪にあたる重罪だからな。
それだけじゃない。科学省は、この腐った政府が強大な力を保つ為に絶対必要な機関だった。
それが潰れれば、間違いなく政府の力もそがれる」
「オレ達反政府組織でも対等に戦えるくらい勢力が落ちる……と、いうことだな?」
「ああ、そうだ。付け加えれば、科学省の裏切り行為は政府の高官同士の信用に大きな亀裂がはいる。
連中が国民が逆らわないように、オレ達にプログラムを押し付けたのと同じ理由だ。
お互いを信用しなくなったら、政府はバラバラになる。
どんなに大きな組織でも、そんなことになったら、必ず内側から崩壊する」
「やったな川田!」
七原は泣きそうな顔で川田に飛びついた。
「勝てるぞ七原。このデータを何が何でも持ち帰る。おまえもやっと家族の元に帰れるんだ!」














「秀明、どこに行く?」
晃司は質問したが、秀明の行動は予測していたのか、全く動じていない。
「命令だ……と、言ったな、長官は」
「ああ、そういった」
「晃司、おまえは命令に従え。おまえは科学省の兵士の代表だ。上に逆らうわけにはいかない。そうだろう?」
「おまえはどうするんだ?」
「あれはオレの妻だ。それが攫われた」
「ああ、そうだ。そして、上の命令は『ほかっておけ』だ」
「科学省の兵士として、その命令に従う事は絶対だ。
夫として、妻を救出するのも、オレの義務だ。オレはどちらかを選ばなければならない」
当然、前者を選ぶのが使命だ。秀明は科学省の兵士なのだから。


「オレはこれからは単独行動をとる。これからのオレの行動には、晃司おまえは一切関係ない」
「秀明、おまえ一人で美恵を助けに行くのか?晃司に害が及ばないように。
おまえは、上の命令に逆らうのか?今まで、一度も逆らったの事のないおまえが」
「……あの時、あいつは泣いていた」
秀明は、もう一年以上も前の事件を思い出していた。
「オレは二度とあんな美恵は見たくない」


「たった今から、堀川秀明はただの男だ――美恵を救出する」




【残り23人】
【敵残り6人】



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