――教育委員会本部――

「しかし、あれですね」
「なんだ、あれって」
「プログラムといえば教育委員会の目玉だったのに、財政難でここ数年は他の部署に代行してもらわなければいけないとは」
「仕方がないだろう。何しろ少子化だからな」
「あれ?」
「どうした?」
「いえ、PCのOSをバージョンアップするためにファイルを整理してるんですけど」
「なんだ?……パスワード?」
「はい、そうなんです。このファイルだけパスワード制なんですよ」
「変なファイルだな」


「おまえたち、何してる」


「こ、これは教育委員長!!」
2人は即座に立ち上がり敬礼した。
「そのファイルは重要機密だ。いじるんじゃない!さあ、すぐに出て行け!!」
「は、はい!申し訳ございません!!」
2人が慌てて部屋から出て行くのを見届けると教育委員長はそのファイルのパスワードを入力した。




ダイ67プログラム……シロイワチュウガク3ネンBグミ……

……セイゾンシャハ……カワダショウゴ……
……スギムラヒロキ……ナナハラシュウヤ……
……ミムラシンジ……ウツミユキエ……
……ソウマミツコ……チグサタカコ……

……イジョウ7メイ……ゲンザイナオショウソクフメイ……




Solitary Island―10―




「行くぞ。この激突だ、多分船底に穴があいている」
「そうね。望月さん、歩ける?」
「……う、うん……何とか……」
フラフラになりながらも立ち上がった瞳を支えながら 美恵は歩き出した。
「急げ」














「まいったな」
見事に45度傾き、その半分は海の中に潜水している船をみて貴弘は溜息をついた。
怪我人が出なかったのは不幸中の幸いだ。 だが、この島はどうやら無人島らしい。
見た感じ、人工物は何一つない。もちろん人影も。
だが、もしかして島の向こう側なら……望は薄いかもしれないが何の行動も起さないよりはマシだ。
とにかく水だけは確保しておきたい。


「とにかく何人かに分かれて島を探検しよう。もしかしたら何か見つかるかもしれない」
「探検?!嫌よ、こんな島の森の中を歩き回るなんて!毒蛇や毒蜘蛛が出たら誰が責任取るのよ!!」
お嬢様の美登利はヒステリック気味に叫んだ。
「誰もおまえなんかに期待してない。自由にわめいてろよ」
冷たく突き放す貴弘に、幸雄が「おい杉村、言いすぎだぞ」と小声でたしなめた。
「あ、あたしも嫌……だって怖いもん!!」
美咲のリタイヤは当然といえば当然だろう。
「あたしも……気持ち悪くて」
「大丈夫、静香?」
元々、喘息もちで病弱だった静香はすっかり青白い顔になっている。
静香を気遣っている小夜子も大人しい性格なので、この状況に疲労の色を隠せないでいる。


「何も全員で行く事ないわ。特に女子は疲れているみたいだし」
美恵は今も怯えている瞳をそっと岩に座らせて、そう言った。
「三方に分かれていきましょう。 一隊は左側の海岸にそって、もう一隊は右側の海岸にそって。
そしてもう一隊は真直ぐに森の中を行くのよ」
「そうだな。で、誰が行くんだよ?オレはごめんだぜ!!」
仁科悟はこんな島1秒だって居たくないという態度だ。
まあ普段からチヤホヤされているお坊ちゃんには絶海の孤島など論外なのだろう。




「私が行くわ」
「おまえが?」
「ええ。言い出したのは私だもの」
「……そうだな。言い出した奴が行くのは当然だ。ぴったりだぜ!」
天瀬が行くならオレも行こう」
桐山が一歩前に出た。
「オレも行くよ。美恵だけに背負わせるわけには行かないからな」
海斗も同様に前に出た。無言ではあるが志郎もその気らしい。


「待ちなよ。オレも一緒に行く。 君たちなんかに彼女を任せられない」
だが徹が立ち上がった瞬間、美恵は嫌な予感がした。
「任せられないのは君も一緒だろ?心配だから僕も同行するよ」
やっぱりだ。薫も着いて来るつもりらしい。
そうなると雅信も……考えるまでもなかった、立ち上がっている。
「ここでジッとしていてもしょうがないしな。オレも天瀬と一緒に行く」
「ああ、杉村の言うとおりだ。オレもお供させてもらうよ」
貴弘と真一まで名乗りをあげた。そして少々鈍感な雅信は気付いてなかったが、徹は心の中で舌打ちした。


(……杉村、三村。こいつらいい子ぶりやがって計画的なのはみえみえなんだよ!!)
徹は貴弘と真一が美恵に気があるのを見抜いていたのだ。
(クスクス……笑っちゃうね。実にカワイイじゃないか。
いずれ僕のものになるとも知らないで。 まあ、せいぜい今のうちに頑張りなよ)
反対に薫はというと何の根拠があっての余裕かはわからないが、心の中で2人を嘲笑っていた。




「じゃあ私たちは、この9人で……」

「オレも行く」

その声を聞いた途端、美恵は背すじに冷たいものが走るのを感じた。


『晶には気をつけろ』


同時に蘇る隼人の忠告。

「……す、周藤くん……」

美恵?」
海斗が心配そうに美恵の顔を覗き込んだ。


『晶には気をつけろ』


(どうして?どうして晶が?)
ハッとして右斜め前を見詰めた。
(桐山くん!?彼が行くから?)
そして再び晶を見た。
(彼を見張るつもりなの?)




「オレたちは中央を行く」
晃司と秀明が歩き出した。
「待て、オレも行く」
隼人だ。志郎に宣言したとおり最も危険な道を選んだのだ。
「じゃあオレたちは右の海岸線をたどっていくよ」
俊彦、直人、攻介の3人は右の進路を選んだ。
「オレも行くぜ。こんな所で突っ立てるよりマシだからな」
普段は一匹狼で不良を気取っている石黒智也も名乗りを上げた。
「オレも行く。こんな時に傍観者を気取っているなんて到底できない」
「あーあ、オレ本当は金にならないことはやりたくないんだよ。
でも、しょうがないよなぁ……命あっての何とやらだから」
山科伊織そして相馬洸も立候補した。


「あたしも行くよ」
「ええっ!!?蘭子さんが?」
「何驚いてんだよ」
「蘭子さんが行くなら僕も行きます。女性に危険なことをさせて自分だけ高見の見物はできないですから」
「やめとけよ。女やがり勉男には荷が重過ぎる。黙って見てな」
その声の主は和田勇二だった。
「こんな時に男も女も関係ないだろ? あたしが女だからダメだっていうんなら天瀬さんはどうなるんだよ」
「あいつは普通の女じゃねえんだよ」
「え?」
蘭子は思わず美恵に視線を送った。いや蘭子だけではない、その場にいる全員だ。


「あいつはまともな女じゃないんだ。だから普通の女に対する扱いは無用なんだ」
それがどういう意味かはわからない。
だが、勇二の言葉は決して好意的なものではない。
むしろ敵意に満ちている。それだけは誰もが感じ取っていた。
そして、その敵意に満ちた目で美恵を見詰めた。いや睨んでいた。


「そうだろう?何しろ、おまえは……」
「勇二!!」


「……何だよ隼人。文句があるのか?」
「余計な事は言うな。それより、おまえは行くのか?行かないのか?
今すぐ、はっきりさせるんだな」
「……フン、オレはごめんだぜ。こんな島歩き回るだけ無駄だからな」
結局、智也、洸、伊織の3人は俊彦たちのメンバーに加わり、他の者は残ることになった。














「ねえ、ゆっくん」
「何だよ」
「いいの、行かなくて?」
「どういう事だよ?」
天瀬さんのこと心配なんでしょ?」
「……な、なんで…それを?」
「これでもだてに14年もあなたの姉をやってるわけじゃないのよ。
いいの?今からでも遅くないから追いかけたら?」
「……そういうわけには行かないよ。千秋を見捨てるわけには行かないだろ」




「なあ、ここは本当に無人島だと思うか?」
「まさかだろ?ここは政府の陰謀の地だ。きっとここで宇宙人に売った自国民を生体実験に使ってるんだよ」
「バカなこと言うなよ。それより……オレの第六感が告げているんだ。
ここはヤバイ。この地相は悪霊が集中し易いんだ。すぐに離れた方がいいぞ」
「他の連中はどうする?」
「彼等は憐れな人種だが、無知に勝る罪はない。
オレの警告を今まで散々無視して嘲笑ってきたんだからな。
彼等が悲劇に巻き込まれたのは彼等の自己責任だ。
それよりもオレにはこの島で政府の陰謀を暴き、それを国民に知らせる義務がある」
「隆文の言うことも一理ある。オレの考え聞いてくれるか?」
「「何だよ」」


「あの3人組だけど、オレの睨んだところ彼等はあやしい。何かを知っている」
「3人組?高尾さんと堀川さんと氷室さんのことか?」
「そう言われてみれば、やけに態度が落ち着いていたな」
「だろ?きっと、この島にはチュパカグラやネッシーを凌ぐ未知の生物が存在していて、彼等はそれを捕獲しに来たんだ。
こんなことが許されていいのか?未知の生物は未知のままそっとしておく。
それがオレたちUMA愛好者の使命なんだよ」
「雄太……断っておくがオレはUFO愛好者だぞ」
「オレは心霊研究家だ」
「いちいち突っ込むなよ。オレは、あの3人をこっそり尾行しようと思う。
彼等はきっと何かを知っている。それを、この目で見届けるんだ」
「そうだな。幸いにも杉村さんは一緒じゃないし」
「よし、こうなったら善は急げだ」




「本当に、ゆっくんって恋愛には不器用なんだから」
「何だよ、そういう千秋だって……アレ?」
ふと見ると、クラスでもキワモノで通っているオタクトリオが海岸を歩き森の中に入っていこうとしている。

「服部、楠田、横山。おまえたち、どこに行くんだよ?」
「「「ちょっと用足し」」」
「ふーん、早く戻れよ」

「ねえ、ゆっくん」
「ん?何?」
「あの3人……こんなこと言いたくないけど、普通じゃないし心配だわ。ついて行ってあげたら?」
「……それも、そうだな」
幸雄は、3人を追って森の中に走っていった。




【残り42人】




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