「た……助けてくれー!!」

パンッ――乾いた銃声が響く


「№4から本部に報告、最終標的死亡、プログラム終了時間午前3時42分」




キツネ狩り―1―




室内灯の消されたバスの中、明かりといえば国道を照らす街灯のみ。
時間は午前1時を過ぎた頃だ。
ほんの1時間程前は、たわいもない世間話に笑っていた恋人同士も友人たちも今は夢の中。
それは彼女、天瀬美恵 も例外ではない。


「……ん…」


寝言だろうか?かすかに寝息がこぼれる。
その隣、いささか襟足が長い一風代わったオールバック。
そして印象的なクールな瞳と、知的で端正な顔立ちが特徴の桐山和雄。
二人は恋人同士というわけではない。
だが、待ちに待った修学旅行に不必要なまでに、念入りに支度をしていた美恵は、
あやうく遅刻しかけたほどギリギリで学校に到着し、桐山の隣しか空いてなかったのだ。


他の女生徒なら不良グループのボスである桐山に恐れをなし補助席にでも座るだろうが美恵は違った。
くだらない噂で他人を秤にかけない美恵は、学校では決して悪さをしない桐山に悪い感情を持っていなかった。
むしろ席も近いこともあって、 時々ではあるが会話をかわしていた桐山に好意すら抱いていた。
その桐山は他の生徒が眠りにつく中、そっと瞼をあけ美恵を見詰めた。
無表情ではあるが、その瞳の奥は優しく穏やかな光を放っている。
自分の肩にもたれ掛かってきた美恵。桐山はそっと瞼を閉じた。




それから数時間後――生徒達は今だ夢の中

だが、何かがおかしい。学校出発時には数台だったバスが今は一台のみ国道をそれて走っている。
やがて停車すると同時に迷彩服を着た男達がバスに乗り込み生徒達を次々降ろし出した。
そんな状況になってさえ生徒達に目を覚ます者は一人もいない。














天瀬、天瀬!」


……誰かの声……。

「……桐山くん?」

体がだるい……それにここ?


ぼやけていた視界がはっきりした途端、美恵は自分達が異常な状況におかれていることに初めて気付いた。
教室だ。学校を出発したはずの自分達が教室に戻っている。
しかも窓ガラスには黒幕がたれ外が見えない。
よく見ると、自分達が慣れ親しんだ学び舎とは違う。


――違う教室、いや違う学校だ。


周りを見渡すと、やはり自分同様、怪訝そうな表情をしたクラスメイトたちが、あたりを見渡していた。
めいめい自分と仲のいい友人同士集まって話している。
そして修学旅行中の自分達が、なぜこんな所にいるのかという疑問をそれぞれ口にした。
だが、その疑問に答えを出す者はいない。
しかし桐山と、先月転入してきたばかりの川田章吾の二人だけは疑問すら口にせず黙っていた。




「桐山くん、ここどこなの?」

桐山は、その疑問には答えなかった。
ただ、美恵の肩に手をおくと、グッと自分の胸に抱き寄せた。

「……桐山くん?」

これが何の変哲もない日常なら、赤面の一つでもするところだ。
だが、美恵は気付いていた。
いつも無表情の桐山(今もそうだが)その瞳の奥にただならぬ何かを感じ取っている事を。




その時――何の前触れもなく教室の扉がひらいた。

「ハーイ皆さん。よく眠れましたかぁ?」

登場したのは背が低く、長髪の中年男。


「静かにして下さい。今日から皆さんの新しい担任になった坂持金発でーす」


その男に続き5人入室。見た感じ、自分達と同世代だろう。
それに、桐山ほどではないが美男子だ。だが、その瞳に何か異常な冷たさを感じ美恵はゾッとした。
何か――そう、何か恐ろしい事が起こる。そんな予感さえする。


「転校生を紹介します」


クラス中が怪訝そうな視線を、 その5人に送った。
転校生?修学旅行の最中に?
どう考えてもおかしいではないか。




「左から順に紹介します。佐伯徹くん」
「よろしく」
桐山や七原と同じくらいの中背だが、 やや華奢な感じのアイドル風の美少年が愛想よく挨拶した。


「菊地直人くん」
今度は挨拶もない。こちらも中背だが、がっちりした体つきだ。
そして何より敵意に満ちた鋭い目をしている。


「鳴海雅信くん」
「………」
先に紹介された二人より、やや背が高い。整った顔立ちだが、 服装は乱れだるい感じだ。
ガムでも噛んでいるらしく、興味無さそうに生徒達を一瞥しただけで床に視線を落としている。


「周藤晶くん」
ちょっとクセッ毛で背は高い。180cmはあるだろう。
多少哀れみを込めた、そして、まるきり見下すような感じで生徒達を見渡している。


「最後に高尾晃司くん」
腰までありそうな長髪を首の後ろで束ねている。
壁に背を持たれ、こちらを見ようともしない。
顔は――かなりの美形だ。だが、反比例して表情がまるでなく、その瞳は冷たい光を放っている。
なんとなく――そう、なんとなく出会った頃の桐山に似てる。
美恵はそう感じていた。


「はい、では本題にうつります」

そこでクラス中は再度、坂持に視線を集中させた。


「皆さんは幸運にも本年度のプログラム対象クラスに選ばれました」




『プログラム!!』




その言葉にクラス中の顔が引き攣った。中には顔面蒼白な者もいる。




「おめでとうございまーす」




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