朔夜がここに来て1年が過ぎた。
軍人に囲まれ、軍事施設に身を置きながら、相変わらず朔夜自身は穏やかに日々を過ごしている。

オレたちもすっかり朔夜の奇行に慣れてしまった。

最近は何も起きない日というのが、おかしいと感じてしまうくらいに……。




月と太陽――番外編――
〜隼人くんの秘密日記Part�U〜




▲月×日
談話室にて。

「朔夜」
「なーに、志郎?」
「この『ドロボウ猫』というのはなんなんだ?」

志郎が指す先にあるテレビでは先程、

”お義母さま……ッ!”
”このドロボウ猫ッッ!!!!”

というCMが写っていた。

「ドロボウというのは他人の物を盗む奴だ。この女はそうなのか? なんで猫なんだ?」
「ん〜〜〜」
考え込む朔夜。

他の連中は好きなことをしているが、さり気なく会話に聞き耳を立てている。

「オレの考えだと、
1.猫は他人の家からお魚盗んだりするから、人の物を取る人のことを『ドロボウ猫』っていう
2.あの女の人は実は猫が化けていて、その本性は『妖怪猫又』なので『ドロボウ猫』って言われた、のどちらかだと思う。
志郎はどっちがいい?」

2番が激しく気になった。

しかも志郎が決めていいらしい。

「あの女は妖怪なのか!?」

何故そこで迷わず2番を選ぶんだ志郎・・・・・・?

「どうかな、見た感じは普通の人間っぽいけど。でも、ありえないとは言い切れないな〜」
見た感じでわかるのか朔夜。

「朔夜は猫又を見たことがあるのか」
聞き耳を立てている連中も気になるらしく、談話室の空気が緊張を帯びていく。

「化けてるところは見たことないな」
「そうか」

ほっと空気が緩んだ。

「でも尻尾が7本ある猫なら見たことある!」


空気が痛かった。


「尻尾がそんなにあるとバランスが悪そうだな」
「別の生き物みたいにバラバラに動くんだよ」

そんな会話をしながら二人は談話室を後にした。



「……………………………………マジか?」

その呟きに答えられるものは誰もいなかった。





▲月◎日
朝、食堂にて。

朔夜がやってきてこういった。

「アン●ンマンって”愛と勇気だけが友達”なんだって。
たまに一緒に戦っている食パン●ンやカ●ーパンマンはなんなのかな?」

素朴な疑問をもらったが、オレには「アン●ンマン」とやらが理解できなかった。

なので、そのことを話して疑問を流しておいた。

昼、食堂にて。

朔夜がやってきてこう言った。

「隼人、わかったよ〜♪
食パン●ンやカ●ーパンマンは、アン●ンマンの『下僕』でいざというときの『捨て駒』なんだって!!」

薫、本当かどうか知らないが、もっとマシなことを教えろ。

このあと、志郎が『アン●ンマン』について朔夜に尋ねたところ、
アンパンマンというのは困っている人を助けるヒーローで、敵(巨大なバイキンらしい)と日夜闘い続けているんだそうだ。
顔がアンパンで出来ていて、お腹を空かせた可哀想な人に”ボクの顔をお食べよ”っと言って差し出したり、
顔が無くなると力がでないので、パン工場を持つオジサンをパトロンに下している宇宙人らしい。

……自分の顔を食べろとは随分殺伐とした話だ。大恐慌でも起こった後の飢餓が広がった世界なのか?
顔がアンパンで出来ている事も謎だが、顔が無くとも動く身体はナニで構成されているのだろうか?

謎は尽きない。


朔夜の説明を聞いて志郎が言った。

「オレは朔夜になら食べられてもいいぞ」

かしゃーん、と誰かがフォークを落とした音が食堂に響いた。(今日の昼はパスタだ)

「志郎……!」
感極まってか(いつものことだが)志郎を抱きしめると、頭を撫でながら言った。
「ありがとう志郎! でも俺は食べるのが苦手だし、残すと悲しいからその時は志郎が俺を食べて!!」
菜食主義じゃないけど、肉あんまり食べないからましだと思うよっと朔夜は自分を勧めた。(肉食・雑食動物の肉は不味い)

かしゃかしゃーん、と更にフォークが落ちた音が食堂に響いた。
昼食の最中にどちらが相手を食べるか譲り合う二人を見て、食欲が無くなったようだ。

譲り合いはしばらく続いたが、志郎が折れた。

「わかった。残さず食べる」


それもどうなんだ……。


何ともいえない会話が落着したところで、雅信がやって来た。

「……なんの話だ?」
嫌な予感がした。

朔夜が説明するより早く、志郎が口を開いた。

「オレが朔夜を食べるという話だ」

予感は的中した。

この場合の「食べる」は「物を食べる」というものだが、食べるモノが「朔夜」だったため、別の意味に聞こえる。
しかも聞いたのが「猟奇的変態野郎」とか「歩く野獣」とか「単細胞」「バカ」とか悪名十分な雅信だ。


勘違いしないほうがおかしい。


威圧的に志郎に近づくと宣言した。

「朔夜を食べるのはオレだ」
「いや、違うから」
朔夜はとりあえず雅信の勘違いを正そうとしたが、志郎が抱きついてきて阻まれた。

「オレが朔夜を食べるんだ。残さず食べると約束したからな」
朔夜の腰にギュッと力を込め同意を求める志郎に、諦めたような笑いを浮かべ朔夜は頷いた。

朔夜は説明を放棄した。

「許さないッ!!!」
怒りに顔を染め、突っ込んでいく雅信。
志郎は朔夜を放してテーブルを飛び越えた。
追って行く雅信。

雅信VS志郎(IN食堂)が始まった。

場所が場所だけに、食器の破壊される音や、食べ物が空を舞っている。
巻き込まれた他の奴らの悲鳴と文句が飛び交う中、秀明が現れた。

「どうかしたのか」
「えーっと……飢えた雅信が苛立ってる?」

違う。

完全な間違いでもないが……説明をめんどくさがって省いたな。
確かに、説明すると長いからな。アン●ンマンとか。

「短気な奴だな」
「カルシウムが足りないのかな?」
「牛乳と小魚か? 他にも足りなさそうだな」
「ビテミン・鉄分・ミネラルとか?」
「DHAも必要だろう」

安全圏に移動した二人は栄養素を語りながら食事に入った。










………………誰が止めるんだ?





▲月◇日
食堂にて。

デザートのさくらんぼを見ながら攻介が言った。
「そーいや、なんかでやってたよな。 さくらんぼの枝を口の中で結べるかってやつ」
「なにそれ?」
「おい、よせ」
「いいじゃないか、別に。なぁ俊彦」
「それってアレだろ、その……キスが上手いってやつ」
微妙に俊彦の頬が赤い。
想像したのか直人も微かに赤くなっている。

「へぇ、そうなんだ。攻介出来るの?」
じっと朔夜が攻介を見詰める。
よくわかっていなさそうだが、つられて志郎も攻介を見ている。

「まっ、ものは試しだな」
そう言うと、攻介は枝を口の中に入れて実践に入った。

四人が見つめる中、攻介は枝を出した。

「だめだ、できねぇ」

それを見ていた志郎が枝を口に入れた。
四人の視線が集中する中、志郎は枝を出した。

「出来たぞ」

おお〜っと朔夜が拍手を送る。

「本当に結べるものなんだな」
「やるな、志郎……」
「つーか、こういうことまで天才的なのかよ科学省め!」

簡単だ、と告げた志郎の言葉に攻介が再挑戦し、俊彦と直人も同時にサクランボの枝を口に運んだ。

「三人とも頑張って!」
朔夜は目を輝かせて結果を待っている。
明らかに楽しんでるな。


だが残念ながら三人は失敗した。

「くっそ〜! できねぇ!!!!!」
「短いんだよ!」
「…………」
志郎に出来て自分が出来なかった事に意気消沈する三人。

「他に誰が出来るかな?」
「あ? ……そーだな、雅信とか出来そうだよな」
「あと薫もな」
「二人?」
「「あいつらなら出来る!!」」
根拠のありまくる二人に納得し、朔夜は身を硬くして雅信を呼んだ。

雅信は早かった。

だが雅信が朔夜を抱きしめるより先に、志郎が朔夜を引っ張った。
雅信は怒りで志郎を睨んだが、志郎は気にすることもなく「コレできるか?」と自分が結んだ枝を見せた。

瞬時に意味を理解した雅信は、枝を口に入れ激しく口内を動かした。

視線が集中し、雅信が枝を吐き出した。

志郎より早く口から出された枝は見事に結ばれている。

二重に。

「おおー、二重結び」
拍手を送る朔夜。
志郎が再挑戦している。
「どうやってするんだ?」
「……あの短さでなんで出来るんだよ」
「どういう経験積んでんだアイツ……」

雅信はニヤリと笑うと、その笑みに危険を感じ距離を取ろうとした朔夜を捕まえ顎を掴んで、上を向かせる。

「教えてやる」
「結構です」


近づいてくる雅信に朔夜は薫を呼んだ。

「どうしたんだい朔夜」
「薫、コレできる? 口の中で」
朔夜は雅信が結んだ枝を指した。

雅信同様、意味を理解したのだろう。雅信から朔夜を放し、薫は枝を口に入れた。

睨みつける雅信を嘲笑すると、枝を出した。


ちょうちょ結びが出来ていた。


「うわー……」
ふっと髪をかきあげ勝者の笑みを浮かべる薫。
拍手を送る朔夜と再度挑戦する雅信。
志郎は不思議そうにちょうちょ結びがされた枝を見ている。
「ちょうちょだよ、おい」
「だてに経験値(逆援助交際)増やしてるだけのことはあるな……」
「…………」

何度やってもちょうちょ結びが出来ないのか、不快そうに枝を吐き出すと雅信はまた朔夜の顎を掴んで引き寄せた。
「うわっ! なに!?」
「練習する」
「うん、頑張ってッ……ちょっ…なにッッ!?」
「練習だ」
「はい?」

枝を結ぶのが上手い→キスが上手い。
キスが上手い→枝を結ぶのが上手い。
枝を結ぶ練習=キス

この方程式が雅信の中で確立されているようだ。

「雅信! 待って!! お願いだから!!!」
なんとか雅信から離れると、朔夜は枝を口に放り込んだ。



そして      。



朔夜が口から枝を取り出した。
「「「「「「………………………………………」」」」」」

「間に合ってます」

立派なちょうちょ結びが出来ていた。

2つ。

「じゃ、そーいうことで」
枝をゴミ箱に入れ、去ろうとする朔夜を雅信が素早く捕まえた。

「雅信、俺は……」
「教えろ」
「そうきたか…………!」

逃げる朔夜。
追う雅信。

「マジかよ……」
「……経験豊富?」
「…………(赤面)」
「意外とテクニシャンなんだね」
「オレも朔夜に教えてもらう」
「「「「それは止せ」」」」


『朔夜遊び人説』が浮上した。





……余談だが、晃司も出来た。(確認済み)





NEXT・・・・・・?


けむけむさま、大笑いさせて頂きました。
ああ……それにしても薫よ、生みの親として教育完全に間違えました(汗)
もっとも、教育間違えたキャラは他にもたくさんいますけど(笑)
雅信と薫見てると……プライベートが容易に想像できてしまい我ながら怖いものを感じてしまうくらいです。
それにしても朔夜くんの経験値が気になりますね。晃司は初期値が高いだけでしょうが。
一体、どんな人生送っているのか非情にきになります。
取り合えず、今気になるのは雅信から唇を死守してくれということです(笑)
奴は手強い上に少々(少々か?)変態入っているので大変とは思いますが頑張ってね。
もっとも、一度奴と朔夜くんの貞操をかけた争いを見てみたいな、と思う私も鬼かも(汗)
けむけむさま、次回も楽しみにしてます。頑張ってください。