ライナーは、その声に敏感に反応した。
訓練兵時代から好意を寄せていたクリスタだったからだ。
ライナーは心の中で「結婚しよ」とのろけるくらいクリスタが好きだった。
だが肝心のクリスタにとっては自分は大勢いる仲間の一人でしかないらしい。
それでもクリスタにお目当ての男の子がいないのだから、エレン信者のミカサに不毛な愛を捧げているジャンより恵まれていると思っていた。
そんなクリスタについに本命が現れたと思い穏やかではない。
結婚しよ
(ナナバさんか……た、確かに360度どこから見ても完璧な美男子、クリスタが惚れてもおかしくない。
そもそも無骨者そろいの調査兵団に、あんな貴公子然とした優男がいるなんて反則じゃないか?
引き替え、俺は完全な体育会系。世の中、不公平すぎる)
うなだれるライナーに親友のベルトルトが希望の言葉をかけた。
「あのねライナー。ナナバさんって女性らしいよ」
「何だと!?」
ライナー復活。
よし、早速勘違いしているクリスタの目を覚まさせてやろうと行動に出た。
「クリスタ、ナナバさんは女の人なんだぞ」
「え?」
「だから、いくら、おまえが好きでも交際は無理だぞ」
「何言ってるのライナー?だから素敵だと思ってるのに」
「はぁ?」
「だ、だから……女のひとだから、かえって毅然としててかっこいいなって思ったの」
ク、クリスタ……何だ、その意味深な笑顔は……?
「おいおいクリスタ、浮気かぁ?」
「あ、ユミル」
訓練兵時代から何かとライナーを敵視するユミルが現れた。
「やけるなあ」
「ナナバさんには憧れてるだけだよ。一番大切なひとはユミルだから」
お、おいクリスタ……お、おまえ、まさか……そういう趣味があったのかぁ!?
それはライナーにとってはウォールマリアが突破される以上の衝撃だった。
「僕、知ってたよライナー」
幼馴染のベルトルトに打ち明けると帰ってきたのは驚愕の言葉だった。
「だって、あの二人、よく一緒にいるし。第一、僕、昔から何かとユミルに脅されていたんだ。
君がクリスタに近づくたびに人気のない場所に呼び出されて何度怖い思いしたことか……」
幼馴染が自分のせいで恐怖の体験をしていたことも驚きだったが、愛しのクリスタにその気があるなど、あまりにも衝撃だった。
「でもさ、しょうがないよ。だってユミルは男の僕の三倍くらい逞しくて頼りがいあるし」
「いや絶対に十倍以上だと思うぞ」
「……そ、そうだね」
重苦しい空気が流れ、二人は何分も無言だった。
「と、とにかく、そういうわけだからクリスタのことはあきらめなよ」
「それができれば悩まんだろう」
「でもユミルは漢でありながら女性特有の繊細な機微も理解できるわけだし、到底かなわないよ」
「……くっ、同性の強みってやつか」
いや、待てよ……逆に考えればいいんじゃないのか?
「ねえユミル、今度一緒に買い物しよう」
「ああ、わかったよ」
「ユミル、勝負よ!」
「「え?」」
振り返った瞬間、クリスタとユミルは石化したのではないかと思えるほど硬直した。
ウェーブのかかった金髪(ヅラ)、ふりふりのピンクのワンピース、厚化粧。
それらに不似合いすぎるごつい体に厳つい顔……。
「あ、あなた……ラ、ライナーなの?」
「お、おまえ……そんな趣味があったのか?」
「今日から女になったのよ!これでユミルと条件は同じ!
絶対にクリスタをあきらめないわ。さあ、あたしと勝負なさい!」
「……ライナー、そこまで私のことを」
「……負けたよ」
「……と、いう作戦でクリスタのハートをつかもうと思っているんだが、どう思う?」
「……うーん」
エレンはため息をつきながらライナーの肩にぽんと手をおいた。
「ライナー、おまえさぁ……」
「疲れてるんだよ」
FIN
BACK