巨人との戦いに人類が勝利した記念すべき日から三年がたとうとしている――アルミン・アルベルト著




アルミン・アルレルト著




僕の名前はアルミン・アルベルト。 元調査兵団の兵士だ。
今、僕たちは旅の空の下にいる。
満点の夜空はとても綺麗で、かつてこの地上に恐るべき巨人が我が物顔で歩いていたことを忘れさせるほどだ。
巨人との戦いは多くの犠牲者をだしたが、人類の勝利で幕を閉じた。
そして目的を達した調査兵団は解散。
今は調査団と名を改め新たな任務に従事している。 僕もその一人だ。














「やっぱり納得できない!」
「いい加減に諦めるんだハンジ」
「でもエルヴィン、私はずっと楽しみにしてたんだ。あなただって知ってるでしょ?」
「私が彼の立場でも同じ判断をくだすよ」
「……エルヴィンは私よりリヴァイの意見を優先するんだ」
「しょうがないですよ。また前回みたいに危険なことになったらどうするんですか?」
「……モブリットまでリヴァイの肩をもつんだ」




ハンジ分隊長は引き続き団に残った。
その頭脳と探求心は巨人との戦い以上に、今の調査団の冒険に役立っている。
壁外調査で即時移住できる土地が発見されるたび人類は活動領域を広げている。
それもこれも団長の行動力、副団長であるハンジ元分隊長の頭脳のおかげだ。
しかし今回の壁外調査では、その団長の絶対命令の元、壁内に留守番となっていた。




「前回の壁外調査に強引についていって危うく流産しかけたんだ。あの時は私もおまえたちの親代わりとして生きた心地がしなかったんだぞ」
「……エルヴィン、退団した途端に説教臭くなったね、あなた」
「副団長は大切にされているんですよ。団長の厳命ですから絶対におとなしくしてもらいますよ」




エルヴィン団長は引退して政界に活動の場を移した。
もともと団長、いや元団長は、その手の駆け引きに長けているし、片腕を失った今、調査団に残るより、ずっといい選択だったと思う。
モブリットさんはハンジさんの秘書として調査団に残った。あのひとの苦労続きの人生はまだまだ終わりそうもない














クリスタ、いやヒストリアは退団しシスターとして残りの人生を信仰に捧げている。
その理由も僕は知っている。




「ユミル、今日はとてもいい天気よ」

教会の裏にある墓地に花を供えるうら若き修道女、それが今のヒストリアだ。

「近所の子供たちに読み書きを教えているの」

ユミルはクリスタを守るために人類側にたって戦った。
最後は人間として死んでいった。
彼女の菩提を弔うためにクリスタはシスターになった。
もともと優しい性格だった彼女には天職だったかおしれない。
今は穏やかな人生を送っている。














「こらぁ、サシャ!おまえは、また大事な食糧に手を付けたな!!」
「盗んだんじゃなくて、私は毒見を……」
「言い訳するんじゃない!!」
「いたっ!!」




サシャは移民団の移住、定住までの保護を目的をした隊に所属している。
巨人が全滅したといっても未知の土地ではどんな危険がはらんでいるかわからない。
そこで調査団は大きく二つに分かれ活動している。
探検をする隊、そして、それによって発見された即移住可能な土地に移民を先導、護衛する隊。
サシャは狩猟民族だ。移住先でも、その経験が生かされると判断されたのだが、彼女の性格が障害となっている。
彼女らしいといえば彼女らしいといえるだろう。














「……なあジャン、今日も徹夜か?」
「うるせえな俺だって好きでやってんじゃねえよ。何だよ、ここは。雑用は多い、上官は仕事しない。これが現実かよ」
「……あーあ、俺、調査団に残ればよかった」
「今更、愚痴いってんじゃあねえよ」




ジャンとコニーは調査兵団解体後、エルヴィン元団長のすすめもあって憲兵団に入った。
けれども憧れの憲兵団は彼らが思っていた楽園じゃあなかった。それを知るのに三日もかからなかったそうだ。
腐敗しきった憲兵団にエルヴィン元団長はメスを入れた。
汚職を一掃し、権力も悪用できなくし、本来あるべき姿に戻す。もちろん簡単にはいかないし時間もかかる。
エルヴィン元団長の指示のもと、ジャンとコニーは寝る間も惜しんで憲兵団の大掃除をしている。
だから今憲兵団は一番忙しい。




「……あいつら、今頃、何してんだろうなあ」
「……さっさと手動かせよコニー」














「なあ、アルミン。目的地まで、あとどのくらいだ?」
「そろそろなんだけな……この古地図に間違いがなければ」
エレンはいつになく目を輝かせ、僕が広げた地図を見つめている。
「ハンジさんは残念だったね。今回の目的地があれだから絶対に来たかっただろうに」
「しょうがねえだろ。俺だってミカサが同じ立場なら絶対においていく」
「はは、だろうね」
エレンは今や分隊長だ。実は僕も、そしてミカサも。


「来年あたりはミカサもハンジさんみたいにおめでたになってたりして」
「ば、馬鹿いってんじゃねえよ」
真っ赤になったエレンには、もう以前のようなとげとげしさはない。
「大丈夫エレン、もし子供ができても私は絶対にあなたについていく」
「あのなあ……俺に団長と同じ苦労させるつもりかよ」




今やミカサはエレンの婚約者だ。 ミカサの異常なまでの強い希望により挙式は来月。
未成年結婚だが、ミカサならふつうの奥さんよりしっかりした主婦になれると思う。
つまり、今回の壁外調査は二人にとって新婚旅行の前倒しになったわけだ。
幼馴染として幸せを心から祈っている。
ずっと辛い思いをしてきた二人だからこそ、残りの人生は幸福に過ごしてほしい。




「おい、おまえら。目的地が見えてきたぞ」
「はい!」
双眼鏡をのぞくと、はっきり見えた。 長年、憧れ続けた風景がそこにあった。
「エレン、アルミン、ミカサ。おまえたちは先遣隊として様子を見てこい」
それは嬉しい心遣いだった。
「はいリヴァイ団長!」














「これが……海」


想像してたより、はるかにはるかに海は広かった。
果てしないという言葉でも形容しがたいスケール。
どこまでも青が続き、どんなに双眼鏡をのぞき込んでも海の向こうは何も見えない。

「塩辛いな……おい、ミカサ、おまえもちょっと飲んでみろよ」

まるで子供のようにはしゃぐエレン。
ああ、やっと僕たちの夢がかなったんだね。




「アルミン、おまえも。ん、おまえ何してんだよ」

砂浜にひざまづき穴を掘り出した僕にエレンが尋ねた。

「きれいな場所だから、ここに埋めてあげようと思って」

僕は懐から一房の髪の毛を取り出した。きれいな金髪だ。

「彼女は許されないことをしたけど……でも、すべてが嘘なんて思えない。
世界中の人間に憎まれたままなんてかわいそうで。 だから、せめて僕だけでも仲間だと思ってあげたいんだ」


アニは人類の敵だった。僕たちを騙していた。
でも死ぬ瞬間にみせた涙だけは誰がなんといおうと本物だったと僕は信じている。
彼女が最後に言った「ごめんなさい」という言葉と共に。


「僕は間違ってるのかな?」

不安に満ちた質問だった。
エレンは巨人の襲撃によって目の前でお母さんを惨殺された。ミカサにとっても育ての母だった。
エレンたちにとって僕の行為は裏切りに値するかもしれないと。

「おまえはいつだって正しい答えをだしてきただろ」
「エレン?」
「そのおまえが許してやるって言ってんだ。俺も、もう恨んじゃいねえよ。あいつも好きで巨人になったわけじゃないって今の俺ならわかるしな」

僕は泣いていた。そして心の中で呟いた。


『よかったねアニ』


「二人とも話はそこまで。早く戻って報告しないと団長から躾を受ける羽目になる」
「そ、そうだった」
「早く戻ろう」


僕たちは慌てて馬上に。馬を走らせながら振り返ると、やはり海は広かった。
その果てしないグランブルーが今後人類の新しい色になるだろう――。




FIN




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