「こ、困るよ獄寺君!俺は普通の学校生活送りたいんだ、そ、それに、学校で、そんな話したら……」
「君たち」
で、でたーー!!
ツナは顔面蒼白になって全身硬直した。
最強の不良にして恐怖の風紀委員長・雲雀恭弥!!
「並盛町で、まして校内でヤクザな活動は風紀を乱す行為とみなすよ」
「わ、わかってます!」
「何言ってやがる、おまえの方がずっとヤクザだろうが!」
「うわー!獄寺君は黙っててくれよ!!ヒバリさん、二度としませんから許して下さい!!」
ツナは獄寺の頭を必死に押さえながら何度も土下座した。
「じゃあ今回だけは許してあげるよ」
愛しの並盛町
「ほんとムカつきますよヒバリの奴!十代目、ボンゴレファミリー全員で一度しめてやりましょう!」
「ご、獄寺君、なんて事を!!相手はあの最強のヒバリさんなんだよ、第一しめるだなんて」
「ツナの言うとおりだぜ獄寺。それにファミリーっていっても、俺達三人しかいないじゃないか。
三人でどうやって、あのヒバリに勝つっていうんだよ」
「山本のいう通りだよ。今まで何回ヒバリさんに負けたか獄寺君忘れたの?
それに俺争いごとは嫌いだし、もうヒバリさんに逆らわないでよ。
ただでさえ、俺達、風紀委員会から、『並盛の風紀を乱す生徒ブラックリスト』の常連なんだよ」
三人はいっせいに溜息をついた。
「何だ、おまえら、辛気くせーツラしやがって」
「リボーンはいいよな気楽で……見ろよ、これ」
ツナは生徒手帳をリボーンに差し出した。
「校則第一条・風紀委員会は神聖にしかおかすべからず。
第二条・元首は風紀委員長であり、主権は風紀委員長にある。
第三条・風紀委員会と一般生徒の関係は神と奴隷である……なんだ、これ?」
「ヒバリさんが新しく作った校則なんだよ。校則だけじゃなく町規まで勝手に作ってさ。
もう、この町って完全にヒバリさんの独裁政権……いや下手したら恐怖政治かも」
「ふーん、でもまあ、それで町の平和が維持されてんだからいいじゃねえか」
「確かにヒバリさんのおかげで、変な不良や暴力団も、この町には来なくなったよ。
町中綺麗で清潔だし、町民の統制はとれてるし。でもさ、何だか窮屈で……。
それにしても、何でヒバリさん、こんなに、この町の風紀にうるさいんだろう?
町の風紀を守るのは警察とか町内会の仕事だろ。中学生のすることじゃないよ」
と、その時、地平線の彼方から砂埃が上がるのがみえた。
「ん、何だろう、あれ?」
砂埃は、徐々に大きくなってくる。その砂埃の中心に人影が見えた。
「だ、誰だろう、あれ?走ってくるみたいだけど……」
「うぉぉー!!ボクシング部に入れ、沢田ー!!」
「きょ、京子ちゃんのお兄さんーー!!?」
極限状態で走ってくる笹川、もう誰も彼を止められない!
「つかまえたぞ沢田!さあ今すぐ入部しろ!!」
「ちょっと待って下さい、お兄さん、どうしたんですか!?」
「どうしたもくそもあるか!聞いたぞ、おまえ風紀委員会に入るそうじゃないか!!」
「へ?」
ちょ、ちょちょちょちょっと待ってくれーー!!
どういうことだよ、それ!!俺、何も知らないよ!!はっ、まさか!!
「……ふ、鋭くなったじゃねえかツナ」
「まだ何も言ってねえよ!!ってか、おまえ何てことしてくれたんだよ!!」
ツナはもう号泣状態だった。
よりにもよって風紀委員会に入会するなんて自殺行為に等しい。
「地元を守るのもマフィアのボスの役目だぞ」
「だから、俺はマフィアなんてならないって言ってるだろ!
しかも、あのヒバリさんの下につくなんて、絶対に次の日、死体になってるよ!!」
「そうならないために強くなりゃいいじゃねえか」
「簡単に言うなよ、あのヒバリさんだぞ!!無理、絶対に無理!!」
ツナは自分の今後の運命を瞬時に予想して強烈にへこんだ。
自分の周りには、このリボーンをはじめ、獄寺、ランボ、ビアンキとトラブルメイカーが勢ぞろいしている。
風紀委員会なんかに入ったら、すぐに問題がおきヒバリに粛清という名の暴力を受けることだろう。
「ああ、何だって、こんな事に……そもそもヒバリさんが並盛好きなのが元凶だよ。
何だって、あのひと不良なのに、こんなに並盛町や母校を守りたがるんだよ」
「それは、やはり恋人の意志を受け継いでいるからじゃないのか?」
笹川の発言に、その場の空気は固まり、次の瞬間騒然となった。
「こ、恋人ー!!あのヒバリさんに!?」
「芝生頭!てめえ、ふざけたジョークいうんじゃねえよ!!」
「おいおい落ち着けよ二人とも。先輩も冗談はいいっこなしだぜ」
「冗談なんかじゃないぞ。二年前、ヒバリには恋人がいた。
幼馴染であいつがそばに置いていた、たった一人の女だ」
―二年前―
「ちょっと恭弥、また掃除さぼったでしょ!」
「……ん?」
「もう、いい加減にしなさいよ。入学してからというもの、あなたの学校生活悪すぎるわよ。
屋上で昼寝ばかりして、ろくに授業もでてないじゃない」
「……出席日数だけは守るつもりだから大丈夫だよ。成績だって落ちてないからいいじゃないか」
「そういう問題じゃないでしょう。クラスメイトとの集団生活だって大事な社会勉強じゃない」
「俺は――」
「群れるのは嫌いだ、なんて言わないでよ。聞き飽きたわ」
誰もが恐れる最強の不良・雲雀恭弥。
そのヒバリと対等な口をきける、ただ一人の女生徒の名は天瀬美恵。
ヒバリにとって唯一の幼馴染。物心ついた時から一緒にいた人間だった。
「それより、座りなよ」
美恵が隣にちょこんと座ると、すかさずヒバリは美恵の膝に頭を乗せた。
「ちょっと恭弥……」
「眠いんだ。やっぱり、君の膝が一番心地いい」
「恭弥……って、寝ちゃったか。しょうがないわね、あーあ、私まで授業さぼる羽目になっちゃった」
そんな日々が過ぎていた。その頃は、ヒバリは風紀委員会など興味もなかった。
当時は風紀委員会は不良の集団などではなく、お堅い優等生を中心とした普通の委員会だったのだ。
だが、ある日、ヒバリにとって予想外のことが起きた。
「風紀委員?」
「うん、委員長自ら勧誘してくださったのよ。私は部活動もしてないし、やってみようかなって」
「風紀委員長が……」
ヒバリは風紀委員長の顔を思い浮かべた。ヒバリには遠く及ばないが、なかなかのハンサム。
生徒会長も兼任している優等生とかで、何かと目立つ上級生だった。
だが、その裏で女遊びが激しくて泣かされた女は一人や二人ではないらしい。
もっとも、どういう手段を使っているのか表沙汰にならず一般の生徒達は善良な優等生と信じている。
その偽善者が大事な幼馴染を誘った。途端にヒバリは不機嫌になった。
「……僕は反対だよ」
「どうして?とても責任のある立派な仕事じゃない」
「群れるからだ」
「あなたとは話しにならないわ。そんなに心配なら恭弥も入会したら?」
「僕はそんなもの真っ平ごめんだよ」
「だったら口出ししないでちょうだい」
ヒバリは面白くなかった。ずっと独り占めしてきた幼馴染だったのに、彼女はどんどん大人になっていく。
自分以外の男が興味を持つくらい綺麗になってきたのだ。
しっかり繋ぎ止めておかないと、他の男に取られてしまうかもしれない。
ヒバリは生まれて初めて焦燥感というものを感じガラにもなく苛立った。
そんなヒバリの気持ちを余所に美恵は風紀委員の仕事に懸命になって勤しんだ。
「あなた達、その髪型は校則違反よ」
「何だって?」
金髪や銀髪、はては真っ赤に染めた派手なアフロパーマや超ウルフロングの生徒達に注意を促す美恵。
まるでヘビメタのような連中だが不良なので教師も恐れて何も言わない。
だが正義感の強い美恵は一歩もひかなかった。
「うざいんだよ、てめえ!」
殴られる!美恵は思わず目を瞑った。
だが痛みは襲ってこなかった。目を開くと、スケバン達の腕をヒバリが掴んでいた。
「恭弥!」
「な、何だい、おまえは!?」
「……フン、弱い奴ほど、よく群れる」
その後は壮絶だった。雲雀恭弥は女だろうが容赦しない。
美恵が必死になってヒバリを止めなければ、彼女達は間違いなく再起不能となっていたことだろう。
「これでわかっただろう?もう風紀委員は辞めるんだ」
「でも恭弥……」
「でももへったくりもないよ。第一……」
「君にそんなこという権利は無いんじゃないのか雲雀君」
突然、第三者の乱入にヒバリは露骨にムッスーとなった。
「あ、委員長」
「美恵君は、もう大事な委員なんだ。
それに、こういっては悪いが不良の君が彼女と付き合うのは、どうかと思うよ」
「委員長、何を言うんですか!恭弥は大事な幼馴染です、撤回して下さい!」
「美恵君、僕は君の為を思って言ってあげているんだよ。不良と付き合ったら君まで変な目で見られるんだ」
ヒバリはむすっとしたのかトンファーを手にした。
「ぼ、暴力反対!見たかい、美恵君!彼は僕に暴力をふるうつもりだよ!!」
ヒバリの気持ちもわかるが、ここで暴力事件を起こさせるわけにはいかない。
美恵は必死になってヒバリを止めた。
「恭弥、やめて。こんなことが学校に知れたら、あなたが停学処分になるわ」
「かまわないよ。いっそ教師全員まとめて咬み殺してやろうか?」
「恭弥ったら……」
「……恭弥と委員長があんなことになるなんて。でも委員長の言い方は酷いわ。
風紀委員の仕事は好きだけど、恭弥を悪く言われるくらいなら止めようかな……」
委員長から呼び出しを受けている。美恵は、そこで退会を願い出るつもりだった。
ヒバリより大事な存在などなかったからだ。
風紀委員会室のドアをノックすると満面の笑みをした委員長が姿を現した。
「やあ美恵君、待ってたよ。実は君の仕事ぶりが優秀だから君を副委員長にしようと思ってね」
「あの、私、退会します」
「何だって!?」
「委員長のことは尊敬しています。でも、恭弥に対する暴言は許せません。ですから……」
「……ふふ」
「委員長?」
「もっと時間をかけて僕に惚れる様に仕向ける計画だったのに、こうなったら力づくしかないなあ」
美恵は突然押し倒された。
「何するの、離して!」
「君が悪いんだよ。ぐふふ」
「助けて恭弥!」
「無駄だよ。僕は実は暴力団の組長の孫なんだ。
その肩書きのおかげで、この辺り一体の不良は僕のいいなりでね。
そいつら全員で、今頃、雲雀君を半殺しにしているだろうさ」
「何ですって!?」
「……何、君たち?」
今時古くさいリーゼントの強面集団にヒバリは囲まれていた。
「おまえに恨みはないが、ある、お人の命令だな。悪く思うな、やっちまえ!!」
が!ヒバリは強かった。あっと言う間に不良集団はのされてしまったのだ。
「だから群れる奴は嫌いだよ」
ヒバリはそのまま立ち去ろうとしたが、不良達はフラフラになりながらも立ち上がるとヒバリを再び囲んだ。
「何、まだ、やるつもりなの?」
「とんでもない!」
不良達はいっせいに地面に両膝と両手をついた。
「あなた様こそ最強の男!お願いです、俺達の頭になって下さい!!」
「……群れるのは嫌いだよ。今から美恵を迎えにいくんだ、どいてくれ」
「そのひとなら委員長に呼び出しくらってますよ」
「……何だって?」
「委員長は気に入った女は強引に手に入れるひとですから、ちょっとやばいかもしれませんよ」
その言葉が終わる間もなく、ヒバリは駆け出していた。
「離してよ!」
美恵は男の腹に膝蹴りを入れた。
「いてえ!大人しくしろよ、すぐに気持ちよくなるから!!」
凄い勢いで扉が開かれた。その向こうから現れたのは怒りの形相のヒバリだった。
「恭弥!」
「……ひっ、雲雀君。イイコだから、すぐに帰るんだ」
「その顔、原型が残らないくらい……咬み殺す!!」
「ぎゃぁぁぁーー!!」
委員長が肉の塊と化すのに、そう時間はかからなかった。
「恭弥、やめて。これ以上やったら、本当に死んじゃうわ!」
美恵が制止したのでヒバリの攻撃もようやくストップしたが、もはや虫の息だった。
「無事だったかい?」
「ええ、ごめんなさい心配かけて。バカだと思うでしょ?
風紀委員になって学校をよくしたいと思って頑張ってきたのに……。
一番風紀を乱す人間が風紀委員会の中にいたんだから。私、表面しか見てなかった。お笑いよ」
「……美恵は悪くない」
ヒバリは美恵を抱きしめた。その時、ヒバリからは死角になっていた委員長の凶行を美恵は見てしまった。
委員長が懐からナイフを取り出したのを。
「よ、よくも……死ねえ!!」
「危ない恭弥!!」
美恵はヒバリを突き飛ばした。同時に腹部に鈍い痛みを感じた。
「……あ」
じゅうたんにぽたぽたと血が落ちるのがぼんやりした視界に見える。
ぐらっと足元が崩れ、そのまま体が沈んでゆく。
「美恵!!」
ヒバリが、その体を抱きとめた。
「しっかりしろ美恵!」
「……恭弥……私……」
「すぐに病院に連れて行く。だから……ダメだ、目を閉じるな!!」
「……恭弥、私……あなたのこと……好きだった」
美恵は静かに目を閉じた。
「美恵、目を開けろ!美恵、美恵!!」
「……と、言うわけで、その後、ヒバリの奴は彼女の意志を引き継いだわけだ。
自分を慕う不良どもと新生風紀委員会を設立した。
そして、ビシバシ学校の風紀を正すことに人生を賭けるようになったんだ。
極限、泣ける話だろう!ん、どうした貴様ら?」
「う、うう……ヒ、ヒバリさんに、そんな過去があったなんて……」
元々涙もろいツナはおろか獄寺や山本まで号泣していた。
「悪魔だと思っていたけど、あいつの体内にも赤い血が流れていたんですねえ十代目」
「ああ、いい話じゃないか。やりすぎてるところはあるけど、天国の彼女の為じゃ、しょうがないよな」
と、そこにタイミングよくヒバリが登場した。
「君たち、何群れてるの?赤ん坊から聞いたよ、君たち風紀委員になりたいんだろ?」
いつものツナたちならば、即行で否定しただろう。
しかし、今は笹川から聞いた話で感傷的になっていた
「はい、俺達でよければやらせてもらいます!」
「十代目がやるなら俺もやります!」
「じゃあ俺もやろうかな。ダチだもんな」
「そう、じゃあ決まりだね」
ミードリータナービクー♪すっかり御馴染みになったヒバリの着歌。
「もしもし、ああ美恵、久しぶりだね」
「「「え?」」」
ツナと獄寺と山本は目が点になった。
「じゃあ日曜日の午後二時に会いに行くよ。交通費?大丈夫、もう集金してあるから」
『集金?よくわからないけどデート楽しみにしてるわ。たっぷりサービスしてあげるからね』
ヒバリが携帯電話を切るとツナが震えながらヒバリに問うた。
「あ、あのヒバリさん……つかぬ事をお伺いしますが、ヒバリさんの恋人って……」
「何で君たちが僕の彼女の事を知ってるんだい?
一年前に親の仕事で転校してしまってね。現在は長距離恋愛中だよ」
「だ、だって……二年前にナイフで刺されたんじゃ?」
「急所はずれていたから命に別状はなかったよ。
もちろん、だからといって刺した奴を許してはやらなかったけどね。
災いは二度と起きないように元から立つのが僕の主義だから」
三人は顔面蒼白になった。
「じゃあ明日風紀委員室で待ってるよ」
ヒバリが立ち去ると三人は笹川に詰め寄った。
「どういうことですか、お兄さん!死んだなんて嘘つくなんて!!」
「俺は死んだなんて一言も言ってないぞ」
「ざけんじゃねえ芝生頭!あの話の流れからして普通死んだと思うだろうが!!」
「わからんのかタコヘッド!結末を言わないほうが極限ドラマティックだろうが!!」
「あほかー!!」
「……それよりどうするんだよツナ、獄寺……俺達、風紀委員になったんだぞ」
三人は、その場に崩れ落ちた。
こうしてツナ達の新たな学校生活が始まったのだった。
メデタシメデタシ
END
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