それもこれもリボーンが来てからだ……思えば、あれから平凡な年末を過ごした記憶がない」
ツナは溜息をついた。
「何、しけたこと言ってやがるんだダメツナ」
「げ、リボーン!」
話を聞かれた!嫌な予感がツナの全身を駆け巡った。
「今年は楽しい年末をすごさせてやるぞ」
「……た、楽しい?」
マフィアの楽しい年末なんて絶対にろくなことがない!
ま、まさか違法カジノでパーティー!?
それどころか麻薬パーティーだったらどうしよう!!
ツナはあらゆる最悪の事態を想定し顔面蒼白になった。
「落ち着けツナ。ただのゲームだ」
「信じられるか、そんなことぉぉー!!」
今までだって何度お遊びでとんでもない目にあってきたか。
しかもお遊びであるはずのゲームで負けたら処刑というのだ。
それを「マフィアの掟」だとさらりといってのける。
全うな常識人であるツナにはマフィアの世界は到底なじめるものではなかった。
「安心しろツナ。今回はゲームをするのはおまえじゃない」
「え……ほ、本当かよ?」
「ああ、本当だ」
ツナは少しだけホッとした。しかし安堵の時間は一瞬に過ぎなかった。
「参加者はヒバリと骸。おまえは2人をゲームに引きずり込んだ主催者という設定なんだ」
「X▼☆Д◆*%!!!!!」
――神様、冗談ならやめてください。
年末ゲーム
「……う、う……ん。こ、ここは……?」
ツナは不思議そうに辺りを見回した。
「確か俺、リボーンから逃げようとして……」
かなり思いだしてきた。頭をリボーンにどつかれて気を失ったのだ。
「ようやく目覚めたようだなダメツナ」
「げ、リボーン!!」
「安心しろ。さっきも言った通り、今回のゲームではおまえは無害だ」
「何が無害だー!今までよりも、ずっとタチが悪いじゃないかー!!」
「変な奴だな。ゲームに参加するのはヒバリと骸だ。おまえは痛くもかゆくもないだろう。
マフィアのボスらしく、もっと堂々としろよ」
「だからマフィアじゃないって言ってるだろー!!」
ツナはもう泣きたくなってきた。
「すでにヒバリはヒバードを人質に呼び出しているし、骸も復讐者との取引で出獄させている」
「……お、おい」
リボーンはツナの肩にポンと手を置いた。
「もう逃げられないぞツナ」
神様!俺が一体何をしたっていうんですか!!
「相変わらずネガティブな思考だな。あの2人はおまえと違ってヤワじゃねえだろ」
「は!」
そ、そうだよ。ヒバリさんと骸だよ。あの最凶最強の2人だよ!
俺と違ってマフィアのゲームなんか、きっとへっちゃらに決まってるよ!
安心したよ。ホッとしたよ。大丈夫にきまってい――
「ええー!!」
ツナは愕然とした。モニター越しにとんでもないものを見てしまったのだ。
雲雀と骸は密室にいた。部屋の中央には死体がある
(その死体はモレッティが死んだふりをしているだけだが)
2人の足は鎖でつながれている。それは一見しただけで異常な雰囲気だった。
「やあ、やっと会えたね」
「くふふふ、久しぶりですね」
すでに2人の間にはいやーなムードが漂いつつあった。
そして密室には壁にモニターがかけられているではないか。
そのモニターにぱっと映像が表示された。そこに映っているのはツナだ。
(ちなみに、それは本物のツナではなく、変装した第三者だった)
「俺がこのゲームを仕掛けた沢田綱吉だ。君達は死につつある」
それはとんでもない発言だった。
雲雀も骸も表情を変えてないが、変えていないが空気が冷たくなっている。
「6時までに鎖を外して脱出しなければ、その死体のようになるだろう」
モレッティは云わばゲームは脅しではないという証拠。
もっとも死体を目にしたところでびびるような人間ではない。雲雀も骸も。
「ノコギリがあるだろう。そのノコギリは鎖を切る為にあるんじゃない。
相手を殺すか自分が死ぬか2つに1つ。
2人とも助かる道はない、1人でも助かりたければ選択するのだ」
「……選択。つまりどちらかが死んで相手の体を切って脱出ってわけか」
「……沢田綱吉。君にこんなブラックジョークのきいたゲーム進行ができるとはね」
2人は相変わらず表情を変えてない。
雲雀は無表情。骸は笑顔。しかし殺気が半端ではない。
死体のふりをしているモレッティの額に脂汗があふれ出しているほどに。
「……な、な、な……何いってんだよ、あいつー!!」
その様子をモニター越しに見詰めていたツナは己を死を予感した。
「お、おおおお俺、しばらく旅にでるよ!」
「何いってんだツナ。2人のゲームを見届けるのもボスの仕事だぞ」
「何がボスだー!このままじゃ俺、殺されるじゃん、あの2人に!!」
「焦るなよツナ。2人は鎖に繋がれてるんだ。おまえを殺すどころか身動きがとれねえんだぞ」
「……そ、それは確かに」
「さあ選択するがいい。相手を殺すか、自分が死ぬか、さあさあさ――」
ガチャン!と盛大な音がしてモニターは粉々に砕け散っていた。
「鎖……こんなもので僕の動きを封じたつもりなのかい?」
「だとしたら随分と舐められたものですね。くふふふ」
(早速殺し合いか?)
モレッティは2人がノコギリ目掛けて猛ダッシュすると予測していた。
が、2人にノコギリなど不要!
モレッティの目の前で鎖が一瞬で引きちぎられた。
「げええ!」
びびったモレッティは即座に死んだふりを解除。
逃げ出そうとダッシュしたが後頭部にトンファーが食い込んだ。
「ぎゃあああ!!モ、モレッティが殺されたー!!」
次は自分だ!
ツナの恐怖は頂点に達した。
鎖を解き放った凶悪な悪魔はついに対峙。
トンファーと三叉槍が激しい音を生じながら交差した。
「この時を待っていたよ。今度こそかみ殺す」
「返り討ちにして差し上げますよ。今度こそこてんぱんにね」
「何だ、あいつら。ゲームなんか関係なく殺し合いはじめたぞ」
「い、今のうちだ。今のうちに逃げないと!
あの2人からなるべく遠くに!どこでやってるんだよ、このゲーム!?」
「どこって。後ろを見てみろよ」
「……え?」
ツナはゆっくりと振り返った。初めて気づいたが、ここは黒曜ランドの廃墟前だった。
「……ま、まさか」
「ここなら人目もつかねえからな」
「…………」
ツナの額から汗が流れた――。
同時に廃墟が内側から崩壊した。
2人の戦闘力の前に廃墟が耐えられなかったのだ。
「ぎゃあああああああ!!」
悪魔が解き放たれた!ツナは全力ダッシュ!!
が、勢い余って小石につまずいて地面に盛大なダイブ。
慌てて起き上がろうと顔を上げた時、2人分の足首が視界にはいった。
「どういうつもりだい。殺し合いをしたいのなら、気軽に言ってくれればいいのに」
「久しぶりに外にでたからなまっててね。まずは君の命で殺しの勘を取り戻させてもらうかな」
神様、もう一言OKですか?
もはや自分でも何を言っているのか意味不明なツナ。
今年最後の衝撃が始まろうとしている。
意識が崩壊してゆくツナの耳に、遠くから除夜の鐘が聞こえていた。
END
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