「……あ~気が重いよ」
ツナは重い足取りで校門をくぐった。
「シャキッとしろツナ!」
「ぎゃあ!」
背中にリボーンの飛び蹴りをくらい、ツナは地面にのめり込む。
「そんなことでマフィアのボスはつとまんねえぞ」
「だから、そんなものなりたくないって言ってるだろ!そ、それに元気になんてなれないよ……」
ツナは母校の校舎を見上げた。


「……あの骸が脱獄に成功した途端、毎日、毎日、並盛町は戦場になったんだ。
……雲雀さんの本拠地である、この並盛中学は超激戦地に――」

その時、校舎が内側から膨張し、次の瞬間壁が崩れ落ちた。




けんかするほど・・。




「十代目、しっかりしてください!!」
「……ご、獄寺君……大声出さないで……傷に響くよ」

ツナは重傷を負い自宅療養を余儀なくされた。
あの時、校舎の壁を破壊しながら出現したのは戦闘中の雲雀と骸だった。
そのゴジラVSキングギドラのごとくの破壊を伴った戦いに巻き込まれてしまったのだ。
「……二人のおかげで、この並盛町に安息の場所はない」
ツナはもう泣くしかなかった。
「泣くなツナ。守護者の争いを止めるのもボスの役目じゃねえか」
「勝手なこというなよ!誰があの二人とめれるっていうんだ、今日だって運よく怪我で済んだんだぞ!
今度、あの二人の戦闘に遭遇したら……お、俺……間違いなく……」


即死!!


「あー!もう本当に引っ越し考えるべき時かもしれないよー!!」
ツナはもう精神的にも肉体的にも限界にきていた。
「十代目、俺はどこまでもお供いたしますよ!」
「そ、そうだね……今夜、夜逃げしよう」
このままでは本当に殺されてしまう。ツナはついに決意した。














「……はぁ、住み慣れたこの街から夜逃げなんて」
ツナは荷物を背負い周囲を警戒しながら移動していた。
「それにしても、どうして二人ともあんなに仲悪いんだろう……本当に殺すつもりで喧嘩してんのかな?」
このままほっといていいのかな?ツナは気になった。
「駄目だ気にしちゃあ!あの二人にかかわったらこっちが死んじゃうよ。
雲雀さんも骸も言っちゃあなんだけど理不尽で粗暴で冷酷非情で好戦的で――」




「こんな真夜中に、何ひとの悪口言ってるの?」
「くふふ、どうやら僕を怒らせたいようですね君は」


「!!!!!」




ツナの心臓は凍りついた。
(ふ、振り返っちゃだめだ……い、今振り返ったら俺間違いなく殺される!!)
ツナは全力疾走した。
「このまま逃げ切るんだー!!」

逃げるんだ。このまま地の果てまで!!

「雲雀さんや骸のいない新天地。この世の楽園までつっぱし――」
何ということかツナは石段で足を踏み外した。
「え?」
そのままツナは何十段もの階段を転がり落ちて行った。














「十代目しっかりしてください!!」
「……ご、獄寺君?」
ツナはベッドに仰向けになっていた。
「心配しましたよ。屋根から落ちたと聞いて」
「屋根?」
自分は石段を転がり落ちたはずなのに。
「雲雀さんと骸が戦いを繰り広げる街にまだいるってこと?……ん?!」
その時、ツナはとんでもない事に気付いた。
「ご、獄寺君、き、君は!」
目の前にいる獄寺。粗暴で短気っぽい顔をした人間、だがツナが知っている獄寺と一つ大きな違いがある。
「私の顔に何かついてるんですか十代目?」


「お、女の子ー!?」


ツナは混乱した。獄寺が女の子、決して性転換したわけではない。
(そもそも、あの獄寺君が性転換手術なんかするわけないよ!)
ツナは頭の中を整理しようと必死に考えた。


「あ、あの獄寺君……いや、獄寺さん。つかぬことをお聞きしますけど山本は男ですか?」
「何言ってるんですか十代目。あんないけ好かない女」
(や、やっぱりー!)
ツナはようやく自分の立場に気付いた。

(間違いないよ。俺、石段から落ちたショックでパラレルワールドにきちゃったんだ!!)

しかも、その世界は性別逆ときている。だが、ここでツナは一つ妙な事に気付いた。
自分は男のままだ。そのことに獄寺は何の疑問も持ってない。
どうやら全員が元の世界と性別逆というわけではないようだ。


「頭うったショックで気が動転してるんですね。気晴らしに散歩しましょう!」
獄寺は半ば強引にツナを外に連れ出した。ツナが知っている並盛の景色がそこにはある。
「何か飲み物かってきますよ。十代目はここで待ってて下さい」
獄寺はツナ一人を残して走って行った。

(どうやら元の世界とはあんまり変わらないみたいだな。……って事は)




この世界でも雲雀さんと骸が殺しあってるかもー!!




二人から逃げるはずだったのに、これでは本末転倒!
せめて二人に会わないようにしなければならない。
そう決意したツナの視界に美しい少女がうつった。彼女はチラッとこちらを一瞥する。
そのクールだが、あまりの美しさにツナは思わず息をのんだ。
だが彼女の方は冷たくそっぽを向くと、そのまま立ち去って行った。


「……奇麗なひとだな。あんな美人初めて見た……でも、どこかで見たような」
長髪の奇麗なひとだった。年齢は自分より二、三歳ほど年上だろうか?
必死に思い出そうとしたが誰だかわからない。
(女の人は髪型や服装で雰囲気変わるっていうしな。もしもショートヘアだったら……)
ツナは脳内で彼女を短髪にしてみた。その瞬間、顔面蒼白になった。
「……か、かかかか彼女は」




「雲雀さんだー!!」




ひー!何てことだ。どんな美少女でも論外だよ!!
よかったー!かかわらなくて!!

「外見がどんなに奇麗でも中身はゴジラより怖いんだから!!」
その時、背後から何者かに頭をつかまれた。
「ひっ!」
あまりの出来事にツナは愕然とした。一体誰だ?


「久しぶりですね沢田綱吉」
「ひー!!ろ、六道骸ー!!」


「恭子に会いに来たのに、まさか君に会うとは思いませんでしたよ」
「き、恭子って、ま、まままままさか雲雀さん!?」
「おや彼女以外に僕が用がある女がこの世にいますか?」


ぎゃー!ど、どうしよう、やっぱり、この世界でも二人の仲は最悪なんだー!!
雲雀さんが女の子でも骸の奴、容赦なく戦闘する気なんだー!!
無茶だよ無謀だよ雲雀さん!いくら強くても女の子が勝てる相手じゃないよ!!


「む、骸!お、おおお俺は雲雀さんが男だから今までおまえたちの争いに口出ししなかったんだ!」
骸はきょとんとしている。それもそうだろう。
「で、でも、女の子をいたぶるとなると話は別だ。俺は断固としておまえと戦うぞ」




「戦うって恭子と?くふふふ、面白い冗談ですね。どうして僕が愛しい恋人と戦わなければならないんです?」




「……は?」
ツナは硬直した。今なんて言ったんだ?
「僕が彼女を守りこそすれ傷つけるなんて永遠にありえないことですよ。
君と今すぐ決着つけるのもいいですが、今から恭子とデートなので。また今度」
骸はそのまま霧のように消えてしまった。呆然とするツナを残して。




「十代目、お待たせしましたー!」
缶ジュースをかかえた獄寺が走ってきた。
「……獄寺さん、一つ聞いてもいい?」
「何でもどうぞ」
「あのさ……雲雀さんと骸って」
「ああ、あの熱愛カップルですか。本当に人目もはばからずにラブラブなんですから。
見てるこっちが恥ずかしくなるくらいですよ。交換日記とか、屋上で膝枕とか」
「……そ、そうなんだ」
ツナはくらっとした。何だか眩暈がする。
そのまま地面に激突。意識のかなたから獄寺の声がかすかに聞こえていた。














「十代目しっかりしてください!!」
「……ご、獄寺君?」
ツナはベッドに仰向けになっていた。
「心配しましたよ。壁に激突したと聞いて」
「壁?」
自分は地面に激突したはずなのに。
「あ、あれ獄寺君……男の子だ」
「は?何いってるんすか十代目」

もしかして元の世界に戻ったのか?で、でもおかしい。だったら俺は石段から落ちたはず!

試しにツナは獄寺に質問してみた。
「ねえ獄寺君、山本は男……だよね?」
「十代目、打ち所が悪かったんですか?」

どうやら山本は男……やはり元の世界に戻ったのだろうか?

「シャマルでも呼びますか?」
「シャマルを?」
女しか診ないというとんでもない医者のはずではないか。
「あのアバズレ、男しか診ないって最悪な奴ですけど腕は確かですから」


「……え?」


……今、何て言ったの?

「兄貴なんか、あいつに惚れられてて迷惑しっぱなしですけどね」
(ビ、ビアンキが男~!?や、やっぱり、ここ元の世界じゃないんだ……違うパラレルワールドにきちゃったんだ!)
「十代目、さっきからおかしいですよ。気晴らしに外出しましょう!」
青ざめるツナはされるがままに獄寺に引っ張られ外に出た。




「どこに行きましょうか?」
「……どこって」
先ほどの件がトラウマになったのか公園には行きたくない。
かといって並盛中学に行ったら十中八九雲雀に会うだろう。
雲雀がいない場所といえば例えば商店街――。


「商店街!そうだよ人が大勢いる場所なら群れるのが大嫌いな雲雀さんがいるわけがない!」


ツナは俄然元気が湧いてきた。
「獄寺君買い物行こうよ。うんと人がいるところ!」
「だったら隣町に新しい大型ショッピングモールができたから、そこ行きますか?」
「うん行くよ!!」
ツナはルンルン気分で隣町に向かった。
「ブティックやらエステとか女向けなんですけどね」
「ますます好都合じゃないか!」
雲雀がいる可能性はほぼゼロ!
「後、心配なのは骸の存在だけど、あいつだってそんなオシャレな場所とは無縁だろう」
そして例のショッピングモールに到着。だが、そこでツナは肝心な事を思い出した。




「……あ、あの獄寺君。六道骸の事だけど」
「ああ、あのいけ好かない女ですか。顔だけは超美人ですけどね」


……や、やっぱり……この世界では、あいつが女の子なんだ。


「……そうなるとクロームが男なのかな?」
「十代目、何をぶつぶつ言ってるんですか?さあ喫茶店にでも行きましょう。
ここの特大パフェは絶品だって評判っすよ。カップルが多いってのがうざいですけどね」
「はは」


そうか彼女持ちばっかりなのか……男二人組の俺と獄寺君、すごく浮くかも……。
ツナの心配は現実のものになった。店内はラブラブのカップルばかり。


(……ちょ、ちょっと場違いかも俺達)
「さあ十代目、あそこの一番いい席が空いてますよ!」
見ると窓際に一際目立つ高級なテーブルと椅子が並んでいる。
おまけに周囲数メートルに渡り他の客席がない。
獄寺は無意味に張り切っている。そしてツナをひっぱり席に着こうとした。
すると店員が慌てて走ってきたではないか。


「お客様、その席はご遠慮下さい!」
「何だと!客の俺達がどこの席につこうが勝手だろうが!!」
「そ、その席は特殊なお客様専用でして。しかも、本日来店するとご連絡があったのです。
よって本日は、そのお客様が来店次第他のお客様はお断りする事になってまして……」
見ると確かの他のお客も勘定を済まし次々に店を後にしているではないか。
「何しろ人ごみが嫌いな方ですので、その方が来店なさる時は貸切状態にすることになっているのです」




「そういう事ですよ。痛い目に合わないうちにさっさと帰ったらどうですか?」




「……え?」
ツナは恐る恐る振り向いた。そこには目の覚めるような美少女が立っていた。
「ろ、六道……!!」
嫌な予感的中。ツナはその場に崩れ落ちた。
店長らしき男が駆け寄ってきて深々とお辞儀をした。
「久しぶり店長。調子はどう?」
「はい、安心して営業できるのも全てはあなた様のフィアンセの雲雀様のおかげです」




……今、何て言った?




ツナの精神は崩れ落ちる寸前だった。

(……い、今……俺はとてつもなく恐ろしい言葉を聞いたような気がする……。
な、何かの間違いだよね……い、いくら異性とはいえ、あの雲雀さんが骸に心を開くなんて)




「君たち、ここで何してるの?俺のデートの邪魔するなら咬み殺すよ」




「……っ!!」
ツナの恐怖は頂点に達した。恐る恐る振り向いた。
「ひ、ひひひひ雲雀すわぁぁーん!!?」
「もう一度聞くけどデートの邪魔するなら咬み殺すよ」
「……と、ととととんでも……って、雲雀さんと骸がデエトォー!?」
「骸だって?何、ひとの彼女を呼び捨てにしてるの?」
雲雀がトンファーを取り出した。
「げっ!」
この展開は!!
「ひ、雲雀さん待って下さい。話せばわかります、話せば……!!」
懇願むなしくトンファーが盛大にふり降ろされた。














「十代目、しっかりして下さい!!」
「……獄寺君?」
「良かった。石段から転げ落ちて気絶なさったんですよ」
「石段……お、俺、戻ってきたんだ」
「さあ時間がありません。すぐに行きましょう」
「行くってどこに?」
「雲雀と骸の戦闘がヒートアップしまくりましてね。この地区もいずれ破壊されるでしょう。
その前に逃げるんですよ。さあ!」
「……あ、そうだよね」




家を出るとワゴン車が猛スピードで向かってくる。そして急停止した、山本家の自家用車だ。
「すぐに乗れツナ」
こうして沢田一家は山本の車に同乗して緊急避難。
「見ろツナ。並盛町の最後だ」
振り向くと車窓から家屋が次々に崩れ落ちるゆく様が見えた。


「まいったよな。何で、あいつらあんなに仲悪いのかな」
「どっちも性格が最悪すぎるからだろ」
「……あ、あのさ。あの二人、もしかして仲悪くないんじゃないかな。
実は相性いいから常人には理解できないコミュニケーションしてるのかも……」
「何言ってんだよツナ。あんな最悪な関係ないだろ」
「そうっすよ十代目。あいつらは前世からの仇同士なんですよ、きっと」
「……そ、そうだよね。俺どうかしてたよ」


街が崩れ去る中、ツナはパラレルワールドの事は忘れることにした。
――並盛町、滅亡まで後4日。




END




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