「転校生?」
「そうなんすよ十代目、それも三人も来るらしいっす」
「そっか、いいひとだといいな」
マフィア絡みの寒い人間関係しかもたないツナは、その転校生とやらに密かな期待を抱いた。
(どうか友達になれますように)
そんなツナの気持ちを察したのか、山本が苦笑いしながら言った。
「けど、その転校生って三年らしいぜ。残念だったなツナ」
「え、三年?そっか、残念だけどしょうがないな」
と、そこに!
「沢田ー!!ボクシング部に入れ、極限燃えようではないか!!」
「きょ、京子ちゃんのお兄さんー!!」
了平はまだあきらめてなかったのだ。
「本日、俺のクラスに転校生が三人もきた。強そうな連中だから、まとめて4人そろって入部しろ!!」
「お兄さんのクラスに?」
「そうだ。確か名前は……」
「六道骸、他二名だったかな」
……シーン。一瞬、辺りが静まりり返った。
「……六道骸?」
「うむ、極限、不吉な名前だろう。だが入部さえしてくれれば問題はない!」
「……ろ、ろ、ろ」
ツナの中で何かが壊れた。
「六道骸が転校してきたぁぁぁぁぁーー!!」
恐怖の転校生
「ど、どどどど、どうしようリボーン!!」
お昼休み、ツナたちは屋上で弁当を食べながら、今後の相談をしていた。
「どうもこうもねえだろ。落ち着けよツナ。一度は勝った相手じゃねえか」
「そうっすよ十代目!それに十代目には俺がついてます」
「そ、そんなこと言ったって。あの時は小言弾で、運よく勝てたようなもんじゃないか。
あの六道骸だぞ!まぐれ勝ちが二度も通用するような相手じゃないよ!
骸は、あのヒバリさんと互角に戦えるくらい最凶の……ん?」
そこでツナは肝心なことを思い出してしまった。
「ひ、ひひひひひひひひーー!!」
「ん、どうしたツナ。動物園にでも行ってマントヒヒでも見たいのか?」
天然の山本などは、妙な誤解までしている。
「ヒバリさんを忘れてたぁぁぁぁーー!!」
「ようやく一番大事なことを思い出したようだなツナ」
リボーンはニヤッと笑って帽子をかぶりなおした。
「落ち着いてる場合かよリボーン!ヒバリさんが骸のこと知ったら、絶対に黙ってないぞ!!」
「そ、そうだった!ヒバリは骸に負けた屈辱絶対忘れてないっすよ」
「ああ、間違いなく骸にケンカ売るよな」
「や、やばいよ。どうしようーー!!」
もはや泣き叫び状態のツナ。
「落ち着けよツナ。何もおまえが戦うわけじゃないだろ?」
「そうっすよ十代目。あいつら同士が潰し合ってくれるんなら、むしろ都合がいいじゃないですか」
「何言ってんだよ二人とも!あのヒバリさんと骸だぞ、最凶同士の殺し合いだぞ!!
絶対に恐竜の頂上決戦より凄まじいものになるに決まってる!!
そ、それが一般人が多数集まる、この学校内で起きるたら、どうなると思うんだよーー!!」
「「あ……そうだった」」
ツナが危惧していることを、ようやく獄寺と山本も理解した。
「……絶対に無関係な人間が巻き込まれて死傷者が多数でますね」
「……下手したら校舎ごと崩壊するかも」
三人はほぼ同時にゴジラとキングキドラにぶっ壊され破壊炎上する学校をイメージしてしまった……。
「超やばいじゃないですか十代目!」
「並盛中……いや並盛町の危機だぞ!」
「まあ、落ち着け三人とも」
慌てふためく三人を尻目に、さすがというべきかリボーンはどっしりと構えていた。
「ようは二人が会わなきゃ済む事だろ。骸のことだから一所に長いこといるわけねえしな。
きっと、すぐにいなくなる。それまで二人が会わないようにすればいいじゃねえか」
「た、確かに。そ、そうだよな、二人が会わなきゃ戦争だって起きないよ。
幸い、ヒバリさんは生徒が大勢いる時は、あまり出没しないし昼間は屋上にばかりいるしクラスは違う」
と、その時屋上の昇降口のドアが開いた。風紀副委員長の草壁だ。
「委員長はいないようだな」
「草壁さん。ヒバリさんを捜してるんですか?」
「転校生が来るからな。そろそろ委員長にお出ましねがわないと」
「ヒバリさんに?」
「うむ。委員長は転校生が来ると風紀を乱さない奴が見極める為に面会するお方なのだ」
「へえ、ヒバリさんってお仕事熱心なんですね……って、め”ん”か”い”ーー?!!」
その時のツナの表情は、まるで宇宙の果てでエイリアンと遭遇したかのような青々としたものだった。
「ああ、そうだ。邪魔したな」
草壁がドアを閉めるとツナはサードインパクトをくらって液体化したかのごとく倒れこんだ。
「ツナ、しっかりしろ!」
「大丈夫ですか十代目!」
「も、もう終わりだ……さようなら平凡な日常、さようなら並盛中学……。
人類の心の補完が始まるよ……ヒバリさんが四年二ヶ月十五日ぶりに切れるんだ……あはははは」
「全く、しょうがねえ野郎だな」
リボーンは銃を取り出すと、ツナに向かって発砲した。死ぬ気弾だ。
「リ・ボーン!!死ぬ気でヒバリと骸の対面を阻止する!!」
パンツ一枚でスーパーサイヤ人化したツナは全速力で階段を駆け下りた。
「うぉぉぉーー!!骸ーー!!」
その特異な姿で了平の教室に飛び込んだ。女生徒達の悲鳴が炸裂する。
「おおツナ、久しぶりだな」
「何?」
ツナの目に飛び込んだのは骸ではない。骸の影武者ランチアだった。
「ランチアさん?」
予想外の事にツナは正気に戻った。
「どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたもあるか。気が付いたら俺はいい年した大人の分際で中学生にされていたんだ。
おそらく通学が面倒になった骸の仕業だろう。奴の影武者として通学する羽目になった」
「じゃ……じゃあ骸は学校に来ないんですか?」
「ああ、多分な」
「……よ、よかった」
安堵のあまりツナはその場にペタンと座り込んだ。
と、タイミングよく、凄い勢いで教室の扉が蹴り壊された。
「……六道骸はどこだい?」
「げげー!!ヒバリさん!!」
それは転校生名簿を見た瞬間、超激怒モードになり、この教室に直行してきた雲雀だった。
「六道骸は俺だ」
ランチアが名乗ると雲雀は訝しげな視線でランチアを見つめた。
「君が六道骸?」
雲雀は何だか意気消沈したようだった。
「……そうか、ただの同姓同名か。だったら、もう用は無いよ」
雲雀は向きを変えると、そのまま、スタスタと立ち去っていった。
「……た、助かった」
ツナは自分がパンツ一丁というヤバイ姿にもかかわらず心から喜んだ。
これで学校の平和は守られた。死人は出ないのだ。
「おや、久しぶりですね沢田綱吉」
「……え”?」
そ、その声は……ツナは恐る恐る振り向いた。窓に腰掛けていたのは――。
「む、むむ骸ーー!!何で?おまえ通学面倒だから来ないんじゃなかったのか!?」
「クフフ気が変わったんですよ。久しぶりに君に会いたかったしね」
「俺は全然会いたくなかったよ!!」
「おやおやつれない人ですね。それに彼にも会いたいと思ってね」
「……か、彼?」
ツナの超直感がいやーな感じで反応した。
「また一段と強くなったでしょうね。彼、雲雀恭弥は」
「ふ、ふふふふふふふふ……」
「何がおかしいんですか?」
「ふざけるなよー!!おまえとヒバリさんが再会したらどうなるか、業火見るより明らかなんだよ!!
頼むから、今すぐ帰れ!帰ってくれよ!!こんな所をヒバリさんに見られでもしたら――」
「ああ、言い忘れたよ同姓同名。その頬の刺青は校則違反だから――」
立ち去ったはずの雲雀が戻ってきていましたさ……メデタシメデタシ。
でもって、当然のことながら六道骸と感動のご対面。
ツナは思った。
神様!今すぐ、俺を気絶させて下さい!!――と。
「やあ久しぶりですね、会いたかったですよ」
骸がニコっと笑った。
「僕も会いたかったよ六道骸」
雲雀がトンファーを構えた。
――もはや、言葉は無用だった。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁーー!!」
ツナはガバッと飛び起きた。
「どうしたツナ。随分うなされたぞ」
「リ、リボーン……俺」
窓から光が差し込み、雀の鳴き声が聞えてくる。毎日、繰り返されている朝の日常風景だ。
「……ゆ、夢……夢だったんだ。……よかった、俺……生きてるよ」
夢オチにツナは泣いて喜んだ。
登校すれば、獄寺や山本がいて、それもいつもと同じだった。
「よ、ツナ」
「おはようございます十代目」
「おはよう二人とも!」
「どうしたんだよツナ。今日はやけに明るいじゃないか」
「うん。やっぱり平凡が一番幸せだと思ってさ」
「そういえば十代目。今日、転校生が来るらしいですよ」
「ああ、俺も聞いたぜ。でも三年だろ?」
「……え、転校生?」
ツナは思わず顔面蒼白になった。嫌な予感が……。
と、そこに!
「沢田ー!!ボクシング部に入れ、極限燃えようではないか!!」
「きょ、京子ちゃんのお兄さんー!!」
そ、そんな!このパターンは!!
「本日、俺のクラスに転校生が三人もきた。4人まとめて入部しろ!!」
「……お、お兄さんのクラスに?」
ツナの全身に走る恐怖の戦慄。もはや立っているのがやっとだった。
「そうだ。確か名前は……六道骸、他二名だったかな?」
「ぎゃぁぁぁぁぁーー!!」
――現実は夢の続き。
END
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