「え?い、今、何て……?」
「何って頼みたいことがあるって言ったんだよ。君、耳が遠いのかい?」


遠いとか近いとかって話じゃないよぉー!!
ヒバリさんが!あのヒバリさんが、俺に頼み事だよ!!
絶対に絶対に凄まじいことに決まってるよぉぉ!!
も、もしかして、『君、死んでくれない』とか言われたら、どうしよう!!

ツナはすでに命の危険すら感じていた。

「半日ほど並盛を離れるから、夕方まで彼の面倒をみて欲しいんだ?」
「え、彼?」
「この子だよ」
「……え?」


雲雀が差し出してきた右手には、愛らしい小鳥がちょこんととまっていた。




ザ・ヒバード




「……あーあ、緊張した分、力が抜けちゃったよ……よかったぁ、大したことじゃなくて」
雲雀の頼みとは、ペットの小鳥・ヒバードを預かってほしいということだった。
「ミードーリータナビクー」
人の気も知らずに雲雀のお気に入りの校歌を歌いまくるヒバード。
「……でも良かったよ、理不尽な頼みじゃなくて。大人しくて可愛いやつだもんなヒバードは。
ランボに比べたら、小鳥の世話くらい簡単なことさ」




「オイ、ダメツナ!」




…………。
(……なに、今の声?)
ツナはきょろきょろと辺りを見渡した。誰もいない。
「……気のせいか」




「ダメツナ!コッチダ、コッチ!」




…………。
ツナはゆっくりと声の方向に頭だけ動かした。そこにいたのはヒバードだけ。
「…………」
ツナは額に手を当てた。
「……はは、俺……疲れてるみたい」




「オイ、ゲンジツカラ、メヲソラスナヨ、ダメツナ!!」




…………。
ツナはじっとヒバードを見つめた。
信じたくないが、この愛らしい小鳥が……この人畜無害そうな小鳥が……。

「なんで、俺の周りにはこんな連中ばっかりなんだよぉー!!」

もはや叫ぶことしかできないツナだった。














「オイ、ダメツナ!ハヤク、ゴハンダセヨ」
「……わかったよ」
ツナはピンセットにミミズをつまんで差し出した。
「ほら」
ブス!途端にヒバードのくちばしが額にぶっささってきた。
「な、何するんだよ!」
「オレサマニ、コンナゲテモノ、クワセルノカ!フザケルナ!」
「何言ってんだよ。鳥は虫たべるもんだろ!」
「オレサマハ、グルメナンダ!クダラネエ、ショミンノトリト、イッショニスルナ!」
(か、可愛くない……)
「オマエ、イマ、オレサマノコト、カワイクナイト、オモッタダロ?」
(お、おまけに勘がいいし)
いくらツナがひとがいいといっても、こんな可愛げの無い鳥、とっくに愛想をつかしてしまう。
それでも、嫌々ながらも世話を続けているのはもちろん……。




「ゴシュジンサマニ、アルコトナイコト、ツゲグチスルゾ」
「ヒバリさんが怖いからに決まってるだろー!!」




ああ、神様。どうか何事もなく、早く夕方になりますように!
今日に限ってリボーンやビアンカ、それにランボたちが出かけていて良かったよ。
これ以上、厄介なことになるとしたら、前触れもなく獄寺君や山本が遊びに――
「十代目、お邪魔します!」
「ツナ、これ土産の寿司」


「って、きちゃったよぉぉ!!」


もうダメだ、終わりだ!絶対に事件が起きるぅ!!
ヒバードに何かあったら、俺、ヒバリさんに殺される!!


「獄寺君、山本ぉ!頼む、一生のお願いだ。事件起こさないでくれぇ!!」
「じゅ、十代目?」
「お、おい、どうしたんだよツナ?」
入室するなり、号泣しながら飛びついてきたツナに獄寺と山本はとりあえず理由を聞いた。
ツナは涙ながらに今までのいきさつを話した。


「……なるほどそういうことだったんですか。ヒバリのヤロー、十代目に面倒なことさせやがって。
安心して下さい十代目!俺、十代目のお手伝いをしますよ」
「そうだぜツナ、水くさい友達じゃないか。鳥の世話くらいやってやるよ」
「い、いや、だからね……この鳥、普通の鳥じゃないんだ。その……」




「オイ、タコヘッド」




「……なんだとぉ?」

そ、そんなあ!!もう超陰険モードに突入してるぅ!!
獄寺君お願い、ヒバードには逆らわないでくれ!!
ヒバード、おまえも頼むから、これ以上悪態つくのはやめてくれ!!

「てめえ鳥の分際で人間様に対する言葉遣いしらねえのか!?」
「ウルセエ、オレサマニ、エラソウナクチキクナ!カテイ、ドロドログチャグチャノ、ブンザイデ!」
「……あんだと?」
獄寺はダイナマイトを取り出すと、導火線を煙草に押し当てた。
「うわぁー!獄寺君、それはない!!」
必死に獄寺を止めるツナ。
「止めないで下さい十代目!こんな糞鳥、死んだ方が世のため、ひいてはボンゴレのためです!!」
「そこをなんとか我慢してよ!!」
「そうだぜ獄寺、相手は動物じゃないか」
山本!よかった、やっぱり山本はわかってくれると思っていたよ!


「ウルセエ、オマエコソ、ダマッテロヨ、バカヤキュウ!」
げー!まだ悪態ついてるぅ!!
「はは、面白い奴だな」
で、でも、さすがに山本は人間ができてるよ。ヒバードの悪態も気にしてないなんて。
「オイ、バカヤキュウ!テメエ、イイヒトブッテンジャネエヨ!」
「まあ、そういわずに仲良くやろうぜ」
ヒバードの悪口にもめげずニコニコと満面の笑顔の山本、しかし――。




「シッテンダゾ、タカガ、コッセツシタクライデ、ジサツハカリヤガッテ、バヤヤキュウ」




……シーン。
(そ、そそそそそ、そんな山本の古傷をぉ!!)
「……なあツナ」
「な、なに山本?」
「こいつ、寿司のネタにしていいか?」
「そんな山本ぉぉ!!」
まずい、まずいよ!ついに山本まで怒らせちまったよ!!
「よく言った山本!協力するぜ」
「フザケルナ、オマエラ、カミコロシテヤルゾ!」
「できるものならやってみやがれ!」
「イイツケテヤル!」
「「なんだと?」」

「ゴシュジンサマニ、イイツケテヤル!!」

これには獄寺と山本も僅かに顔を引き攣らせた。
「オマエラ『サンニンニ』ギャクタイサレタッテ、ゴシュジンサマニ、ウッタエテヤル!!」

おまえら『三人に』って、俺もはいってるのー!!?

「マタマタマタ!オマエラ、ゴシュジンサマニ、ボロマケノ、シュウタイ、サラシタイノカヨ!!」
「こ、こ、この……糞鳥ー!!もう我慢ならねえ、今すぐ焼き鳥に……」
「ま、待ってよ二人とも!!」
ツナは必死になって両腕を広げてヒバードの前に出た。


「どいてください十代目、なーに心配には及びません。俺がヒバリを倒してやりますから」
「そうだぜツナ、俺達を信じろよ」

今まで何回もヒバリさんに瞬殺されてたじゃないか2人とも!
ごめん、悪いけど信じられないよ!!
……って、そうじゃなくてーー!!

「違うんだよ、ヒバリさんも怖いけど……でも」
ツナはそっとヒバードを胸に抱いた。
「こいつはさ、今でこそヒバリさんの元で何不自由なく暮らしてるけど、以前は最悪の飼い主にパシリにされてきたんだ」
「……十代目」
「……ツナ」
「あんな奴にこき使われて育ったんだから、性格歪んでもしょうがないよ。
俺だって今は獄寺君や山本がいるけど、以前は何やってもダメだからって仲間はずれにされて友達いなくて……。
ずっと寂しい思いしてたんだ。だから、何となく、こいつの気持ち……少しわかるかなってさ……」


(……ダメツナ)


「だからさ、大目にみて……」
ガラ!突然、窓が開いた。

「やあ沢田綱吉」
「「「ヒ、ヒバリーー(さん)!!」」」

雲雀の突然の登場に驚愕する三人を余所に、雲雀は何事もないように部屋に入ってきた。

(な、なんで、このひとはいつも窓から入るんだよぉ!
ここ二階だぞ、頼むから玄関から入ってよヒバリさん!!)

「迎えにきたよ、おいで」
雲雀はヒバードに手を伸ばした。ヒバードはすぐにその手に止まる。
「ゴシュジンサマ、スキー、ダイスキ」
「いい子にしてたかい?」
「ウン、ボク、イイコ」


こ、この子、鳥のくせに、ヒバリさんの前では猫かぶってるーー!!


「……何だか群れてるようだけど、彼らと何かあったのかい?」
ツナは全身硬直した。恐怖の戦慄で意識を失う寸前!!
過去の出来事が走馬灯のように蘇ってくる。
おまけに死んだじいちゃんやばあちゃんまで見えてきた。


「ツナハ、ヨクシクテクレタヨ」
……え?

「そうかい。一応礼を言っておくよ沢田綱吉。後日、借りは返す」
「バイバイ、ツナ」
雲雀はヒバードを肩に乗せて、さっさと窓から帰ってしまった。
「……あいつ、俺のこと、ツナって」














――3日後――


「ツっ君、お客さんよ」
「俺に客?」
階段を降りたツナの目に飛び込んだのは意外な訪問客だった。
「ボス、お久しぶりです」
「クローム、久しぶりだね!」
「あの、ボスにお願いがあって来たんですけど」
クロームは、あの六道骸一味とは思えないほど健気な女の子。
滅多に頼み事なんてしない彼女のお願いとあって、ツナは「俺に出来ることなら」と快く引き受けた。
その『お願いの内容』を聞かずに、引き受けてしまったのだ。


「私、しばらく出掛けるので、その間、この子を預かって欲しいんです」
クロームは梟を一羽抱きしめていた。
「……え?」
「ムクロウ」
「……え”?」


……ムクロウって確か中身は。

――フフフ、楽しい時間をすごせそうですね。沢田綱吉


そんな不吉な幻聴が聞えてきた。
しかも、悲劇はそれだけでは終わらなかったのだ。

「ごめんください」
また訪問客がきた。それも風紀委員会副委員長の草壁だ。
「く、草壁さん!?俺に一体何の用なんですか!?」

ツナの超直感が最高マックスで不吉な予感を告げた。

「先日はヒバードが随分世話になったようで。委員長はとても喜ばれてな」
「ヒバリさんが?」
「そこでお礼に」

ツナの超直感が大気圏外レベルで不吉な予感を告げまくった。

「委員長はこの度、君を風紀委員の新メンバーとして迎えるご聖断を下された」




ええええええええええええええっっ!!!!!!




「おめでとう。今日から君も風紀委員だ」
「ふふふ、全くもって君は楽しませてくれますね」




そ、そんなぁぁぁぁーー!!!!!!




――ツナ、あまりにも衝撃的なダブルパンチであった。




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