君がもし私の為に死んだら、
私は君の為に何が出来るだろうか。
小さな幸せ
手を、繋いで歩いていた。
今までで一番一緒にいた。
本当に小さな幸せを見つけた。
勿論、このゲームに巻き込まれてから、
今まで生きていたのが幸せだって思ったけど。
この暗い状況を撃破するがごとく、桐山君と小さな幸せをみつけた。
それは他の幸せよりずっと小さくて儚くて、
薄い氷の上にあるような物でも、
すがりつきたくなるように甘い、幸せ。
『待ってよ桐山君、歩くの、速いよ。』
繋いだ手が痛くなったのは、残りが二人になった時。
桐山君が歩調を速めた。
『ねぇ、痛いよ。手が痛いよ。どうしたの桐山君。』
『・・・・・美恵は・・・・・・・生きろ・・・・・・・・・・・』
本当に小さい声でポツリと呟いた後、
繋がれていた手がほどかれた。
『桐山君・・・・・・・・・・・・・・?』
パン!
派手な模様を描いて鮮血が舞う。
私の目は大きく見開かれたまま。
桐山君の肩が、地面に接した時、
ノイズのかかった放送が流れた。
「ぁ・・・・・・・・・・・・・・桐山君・・・・・・?」
時差が発生したみたいに、私の脳に情報は伝わってこなかった。
君がもし私の為に死んだら、
私は君の為に何が出来るだろうか。
本当に小さな幸せだった。
甘くて、触れるだけで壊れそうな。
大切にしておくはずだったその幸せですら、
無機質の塊が無遠慮に壊した。
「さて天瀬、船に乗れ。」
銃をつきつけられて、乗船する。
船の低いエンジンの音と波飛沫が島を遠ざける。
あそこに、桐山君はいる。
本当はここにいるのは桐山君の筈だった。
桐山君は、私の所為で死んでしまった。
本当は生きたい筈なのに。
痩せ我慢をして、自分で自分を殺した。
本当に小さな幸せだった。
甘くて、触れるだけで壊れそうな。
そんな幸せが長く続くとは思わなかったけど。
長く続くとは思わなかったけど、
願わないわけではなかった。
これから生きる私の人生は、
差別と、重荷で押しつぶされそうになる人生に違いない。
帰る場所がなければ、施設に収容されて、
精神が壊れるまでそこに居つづけなくてはいけない。
桐山君は助けてくれない。
だって、桐山君は死んでしまったから。
「ずるいよ・・・・・・・ずるいよ桐山君・・・・・・・・・・・・」
船の冷たい窓に頭を押し当てる。
「あんな風に死なれたら・・・・・・・・私は死ぬ事が出来なくなるじゃないか・・・・・・・」
きっと外は冷たい風が吹いているのかもしれない。
「手を繋いでいてくれるって約束したじゃないか。」
空は私と同じ気持ちで泣いているのかもしれない。
「ずっと一緒にいてくれるって。」
本当に小さな幸せだった。
甘くて、触れるだけで壊れてしまいそうな。
そんな幸せすら、もう見る事も許されない。
本当に小さな幸せだった。
甘くて、触れるだけで壊れてしまいそうな。
そんな小さな幸せを、桐山君は私にくれた。
君がもし私の為に死んだら、
私は君の為に何が出来るだろうか。
「・・・・・・・私は生きる。」
私の為に死んでしまった桐山君に、
「私は桐山君の為に生きる。」
本当に小さな幸せだった。
甘くて、触れるだけで壊れてしまいそうな。
失った幸せはもう元には戻らないけれど、
せめて君に生きる事で、
代用の幸せは見つかるかもしれない。
君がもし私の為に死んだら、
私は君の為に生きる事で全てを償う。