恋愛未満


――――俺は、本当に彼女の事が好きだったのだろうか?

――――失恋しても…。別に悲しくない。


・・・・・数時間前・・・・

「琴弾、この後ちょっと時間あるか?」

奥手な杉村にしては、珍しく積極的な行動。…琴弾に声をかけた。

「ごめん、彼氏とデートの待ち合わせがあるから、今急いでいるんだ。またね」

「……。」

「…まぁ、気を落とすなよ。琴弾だけが女じゃないさ」

呆然とたたずむ杉村に、三村が気を使うように声をかけるが、杉村にその声は届いていなかった。

そんなことより、杉村は…別のことにショックを受けていた。

――――琴弾に彼氏がいた…それを聞いて、ふーん、じゃあいいや。一瞬、そんな声が聞こえた気がする。

俺は…その程度だったのか?琴弾に対する思いは…。



1 恋愛心理学♪


先ほど書店で買った本、恋愛心理学♪。そいつを読みながら杉村は考えていた。

――――like or love それを決めるのは、その人を独占したいか、したくないかでハッキリします。

恋愛とは独占欲です。

「・・・。さらば俺の恋、勘違いだったようだ。」

杉村はその憤りをぶつけにチンピラ狩り…いや、公園で稽古をしにいった。



・・・・公園・・・・

「久しぶりですね、神守先輩。」

「よお、千草、ジョギング中か?」

「はい、もうすぐ大会ですから。」

喧嘩を売るのにちょうどいい相手…もとい、いい稽古相手はいないかとウロウロしていたら、千草の姿を見かけ

た。


――――貴子…。ひょっとして、その人、陸上部の先輩? 昔、お前があこがれていたとか言う…。

「先輩はどうしてこんなところに?」

「ああ、ちょっと待ち合わせしててな…」

神守がそこまで言いかけた時、ハスキーな声が・・・。

「蓮也、もう来てたんだ。いつもは遅刻してくるのに。」

「鈴鹿、お前も早いな、10分前だぞ。」

「私はいつもこのぐらいの時間に来ているもの。」

「そ、そうか?」

神守という男の恋人であろうか?姿を見つけるなり二人っきりの世界的なオーラを回りに張り巡らせた。

それを見て千草は、微妙に悲しそうな顔をする。

――――なっ!? お、俺は今まであんな貴子を見たこと無いぞ!! 貴子はいつも誇り高い女だった…そ

れなのに…あの男…。

「ねぇ、蓮也。その子は?」

「ああ、俺が陸上やっていた時の後輩。すげー美人だろ。」

「えっ!? 蓮也、陸上やっていたの? ボクシングだけが取り柄じゃなかったんだ。」

「俺は多趣味なんだよ、学生のうちに色々とやっときたいんだ。ちなみに小学校の時はバスケやっていたしな」

「…先輩、私そろそろ行きますね。」

「えっ、一緒に飯でも食おうぜ。バイト代入ったから奢るぞ。」

「アハ。せっかくのデートなのに彼女に悪いですよ。それじゃあ、また今度の機会ということで」

それだけ言って千草はそそくさと走り去ってしまった。

「ふむ、相変わらずだな。あいつ、妙に気を使いすぎるんだよな。それが誤解されて、周りと不仲になった

り・・・。不器用なやつだ。」

「ねぇ、あの子、ひょっとして、蓮也の事好きなんじゃない?」

「いや、それは無い。あいつ彼氏いるしな。それも、すげー恐い奴。背がでかくて無口な強面…拳法黒帯だってさ」

もう、そこら辺は聞いていなかった。杉村は飛び出しざまに神守に直突きを放っていた。飛び込んでの直突き・・・。別名槍突きと呼ばれるそ

れは、杉村の技の中で最も射程の広い打撃技だ。しかし、神守はそれを紙一重でかわした。

「うぉっ!!」

神守はとっさに避けると、かわしざまにボディブローを杉村に叩き込む。

「ぬるい!!」

杉村にボディブローはまったく効いた様子は無く、杉村は吐き捨てると、かまわず乱打する。

「ちょっ、まて!!お前っ・・・!!」

神守は必死になって杉村の猛攻を避け続けるが、今度はカウンターを使う余裕が無いばかりか、いくつかは被弾し、口から血が弾けた。

「ちょっと!!あんた何なのよ!!」

女が杉村にバックを振り回すが、杉村の剃刀のような鋭い前蹴り上げが、女のバックを切り裂いた。

「げっ…。」

その様子を見て青ざめた神守の顔に、杉村の掌低が叩き込まれた。

「ぶっ!!」

神守は派手にぶっ飛び、そのまま気を失う。それを見て、杉村はようやく落ち着いた。

――――しまった、これってただのカップル狩り?ってかなんで俺はこんなに怒っているんだ?

とりあえず、杉村は逃げることにした。

「だれかっ!!人殺し!!」

女の叫び声が杉村の背に響く。



家に着いた杉村は、さっきの出来事を反省し、そのときの気持ちを見つめなおしてみた。

――――あのときの俺は…。あの男が貴子を悲しませたと思ったら、殴りたく…いや、その前からだ、貴子があ

いつと楽しそうに話しているのを見た時から…なんかものすごい不快感を…。独占欲か?

「俺って、琴弾じゃなく貴子のことが好きだったのか?」

十数年目にして、ようやく杉村は自分の気持ちに気がつくことができた。



2  恋愛初心者


「俺自身が貴子を好きなことはわかった。だけど、問題は貴子も俺の事を好きかどうかだよな。」

杉村は、ブツブツ独り言を呟きながら恋愛心理学♪のページを捲っていた。

「おっ、これだ。相手が自分の事を好きかどうか確かめる術…なになに、パーソナルスペース。心理領域によっ

て、相手は気を許しているかどうかわかる。 パーソナルスペースとは、縄張りのようなもので、そこに親しくない

人間が入ると非常に不快になる。つまり、親しい人間に対してはパーソナルスペースは狭くなり、簡単にスキン

シップが図れるようになり、逆に嫌いな人間に対してはパーソナルスペースが広くなり、近づかれたら避けるよう

になるか・・・。もっとも、これは、満員電車とかやむをえない場所に入った場合は例外…か」


・・・次の日・・・

「貴子、俺が何度も誘っているんだし、たまにはOKしてくれよ」

「誘ってもらえるのは光栄だけど、私忙しいの」

千草は、肩に置かれた新井田の手を振り払い、その場から早足で離れていく。その間、一度も新井田の顔を

見ようとしない。

――――恋愛心理学♪によると、これは、めっちゃ嫌われているよなぁ・・・。ちょうど、比較するのにいいかも知

れない。

「貴子、今度の日曜日、一緒に映画見に行かないか?」

と言いながら、千草の肩に手を置く。新井田と同じ反応をされたらどうしようと、心持ち緊張した。

「今度の日曜ね、暇だからあんたに付き合ってあげるわ」

千草はそういって、自分の肩に置かれた杉村の手の上に、自分の手を重ねた。

――――しまった。OKが出た場合の事を欠片も考えていなかった。




 杉村は三村から金を借りて、ついでにデートのアドバイスを受けた。

・・・・一日前・・・・

「へぇ、拳法にしか興味の無かったお前が、千草とデートか・・・突然レベルアップしたじゃないか」

「デートじゃない。ただ映画を見に行くだけだ。」

「ふ~ん、まぁ、最初のデートは映画に誘うってのは常套手段だな。」

と、三村は杉村の話を聞いていない。

「だが、奥手なお前の事だ。本当にただ映画を見て終わりにしちまいそうだ。俺がデートプランを練ってやろう」

「・・・いや、だからデートじゃないって…。」

「まず最初は、映画のチケットを前もって買っといて…。」



・・・・当日・・・・

「ジャケットって窮屈だな…。あと、このブーツ…なんか落ち着かないし」

三村の見立てで杉村は洋服を買い、それを着たのだが・・・。着心地の悪さに参っていた。しかし、長身で体格

のいい杉村が着た為か、それなりに似合っている。

そんなことは露知らず、杉村がため息をついていると、千草の姿を見かけた。

千草はワインレッドのスーツ…中学生が着るには決め過ぎな気がするが、千草がそれを着るとよく似合った。

「おまたせ…って何よその格好」

待ち合わせ場所に来た千草は、杉村の格好を見るなり声を上げた。

――――くっ、三村…嵌めやがったな。後で覚えていろよ…。

「すまん、お前と少しでも釣り合いを取ろうとして頑張ったんだが…。」

そう言って、ジャケットを脱ごうとした杉村を千草が止めた。

「別におかしいなんて言ってないわよ、見慣れない格好をしていたからビックリしただけ。かっこいいわ。」

そう言って腕を絡める。

「それより早く行きましょ、映画が始まっちゃうわ」

「ああ、そうだな」

――――なんか…馴れ馴れしくなっていないか? 俺が映画に誘ったせいで、恋愛心理学の言葉を借りると

パーソナルスペースが縮んだのか?




・・・・・ルノワール・・・・

「凄く怖かったな・・・。あの映画」

悪魔に憑依された女優の顔が、いまだにちらつく。心臓を凍り付けにされた気分だ。

「何よ、あんた、拳法で鍛えたのに、いまだに怖がりなの?」

「面目ない」

そう言っているが、千草自身も映画を見ている間、ずっと杉村の手を握り締めていた。

「なぁ、この後…時間あるか?」

「時間が無かったら、今日来ないわよ」

「そうか、じゃあ、洋服を買いたいんだけど…付き合ってくれるか?」

「仕方ないわね」

――――よし、ここまでは、三村の立てた計画通り進んでいるな、このまま行けば、Bコースのプランが一番無

難な気がする。でも、俺って貴子の事好きだけど…付き合っていいのかな?

杉村はいまだに自分自身の気持ちがハッキリしていなかった。いや、今の関係を壊すのに抵抗があったのかもしれない。


・・・・ビビアン・・・・

「ねぇ、ここって女用のアクセショップだと思うんだけど」

「ああ、そうだな」

「あんた女物のアクセサリーなんか買うの?」

「親戚のねーちゃんが結婚するから祝いにな。俺こういうのよくわからないから、貴子が選んでくれないか?」

「ああ、なるほどね…。これなんかいいんじゃない?ブレスレット。」

ピックのようなものをつけまくったようなデザインのブレスレットだ。しかし、杉村はそんな物より店員の胸に目が

いっていた。

――――この人、胸でかいな。屈みこんだときなんか・・・ごくっ。それに比べ貴子は…。

そう思って、千草のほうを見ると、鬼のような形相で杉村を睨んでいた。

「あんた人の話し聞いているの!? あんたのために私は選んでいるのよ!!」

――――やばい、怒らせてしまった。これは・・・プランDに変更か?

「ごめん、ボーっとしてて。なんか、貴子と一緒にいられることが幸せすぎて実感わかなかったんだ。そのせい

か、今さっきの事とか、一つ一つの些細な思い出まで反芻しちゃうんだ。ごめんな、一緒にいる貴子の事をない

がしろにして。」

そう言って、千草の顔を両手で挟み込み、瞳を覗き込む。

「べ、別に・・いいわよ。」

千草は目をそらすと俯いた。

――――あんなふうに怒った時の貴子って、2~3日は口をきいてくれなかったんだが…一瞬で機嫌を直した

ぞ・・・。三村、お前ってとんでもない技を持っているんだな。



・・・・・・・・・


「このスラックスあんたに似合うんじゃない?」

「そうかぁ? もっとゆったりして、動きやすいのが…。」



・・・・・・・三村アドバイス・・・・

「そうそう、デートの間は絶対に千草に意見をあわせろ。特に嗜好に関しては重要だ。同じものを好み、共感す

る姿勢を見せるんだ。意見の不一致は、すれ違いの原因となるぞ」

・・・・・・・・

「そうだな、俺もこれ気に入ったよ。これ下さい。」

そういって店員にそのスラックスを渡す。

「はい、7万円になります」

「な、七万!?」



・・・・・・三村アドバイス・・・・・

「一度買おうとしたものを、金が無いからとか言って手放すなよ。それほどかっこ悪いものは無い。そのために

お前にこのカードを貸してやる。叔父さんのだけどな」

・・・・・


「では、カードで。」

「はい、かしこまりました」

「えっ・・・あんたカードなんて持っていたの?」

「ああ、名義は親だけど、口座は俺のだから安心してくれ」

「そう、あんたもちょっと見ない間に、随分大人になっていたのね」

少しさびしそうな顔をする千草の手を握り…。

「それは、お互い様だよ。貴子だって…。随分大人に・・・凄く綺麗になった。」

――――顔が引きつらないようにクサイ台詞を言う練習、何千回と繰り返したことか。

「ちょっと、やめてよ、冗談言わないで。」

「冗談なんかじゃない、俺は…。いや、やめよう。今言っても冗談として流されそうだ…もっときちんとしたところ

で言うよ。」

「……うん。」


それからは、しばらく黙って歩き続けた。その間も自然と手をつないでいる。

――――三村~~~!!!! お前が言えって言ったやつ言ったら貴子黙りこんじまったじゃねぇか!!

しかも、きちんとしたところで言うよって・・・。何を言うんだよぉ!?

さっき自分で言った台詞の中身を、杉村はまったく理解していなかった。



・・・・・・三村アドバイス・・・・・

「ある程度いい雰囲気になったら、二人っきりになれる所に連れて行け。」

「二人っきりになれるところって・・・。そんな馬鹿な」

「馬鹿、いきなりお前が想像するようなところじゃないさ。クラブのVIPルーム、個室つきのショットバー。そういっ

た所は、多分千草の性格から言って立ち寄らないだろう。誰でも簡単に入れて、それなりに設備の整っている

場所、ネカフェだよ。」

「ネカフェってネットカフェのことか?」

「ああ、ネットカフェだ。何より会話が無くても、DVDをもってきてみていればいいしな。・・・それに、カラオケボッ

クスと違い、手を伸ばせばすぐに届くぐらい狭い。キスがまだなら、まずはここでやるのも手だ。キスに、ロマン

チックな幻想を持っているならやめたほうがいいが、それなりに雰囲気を出そうと思えばだせる。ドアから覗き見

られることも無いし…何より、性的なことを感じさせずに誘いやすい。」

「ふむ…。」

「それとな、キスは・・・・」


・・・・・・


「…なぁ、少し休憩しないか?歩き疲れただろ?」

「えっ、休憩!?って、あんた何考えているのよ!!」

――――しまった。ネカフェでキスに持ち込もうとしているのがばれたみたいだ。

「すまん、ネットカフェあまり好きじゃなかったか。」

「えっ?ネットカフェ?」

「ああ、落ち着けるかなぁと思ったんだが・・・。」

「わ、わかったわ、あんたがそんなにネットカフェに行きたいというなら付いていってあげる。」

――――あれ? なんか、別にいいみたいだ。



・・・・・・ネットカフェ・・・・・

――――DVD・・・見飽きちゃったなぁ・・・・。ってか、よく考えたら俺、貴子とキスしたらしたで、その後の対応に

困るよな。

ふーっと、落胆したようにため息をついて、千草のほうを見ると…、千草はDVDなど見ていなかった。杉村のこ

とを潤んだ瞳で見つめていた。

「…貴子。」

「なぁに?弘樹」

「…なぜ…俺の事を見ているんだ…。」

「いけないの?」

まるで魔法にかかったような気分だった。いつも見ていて当たり前になっていた千草の顔が、化粧のせいか…

目眩みするほど艶やかにみえた。

「い、いけなくは無いけど…そんなふうに見つめられると…どきどきする。」

「それが…いけない?」

いの間にか、千草の吐息が顔にかかるほど接近していた。

それが何を求めているか、純潔の童貞である杉村にはわからない…というより信じられなかった。

「貴子…。俺は…。」

「弘樹、あなたからあぞびに誘ってくれたの初めてよね。」

「そ、そうだったか?」

「ええ、そうよ。すごく嬉しかったのよ。」

顔が、あまりにも近い…。気がついたら杉村はソファーに身を倒し、その上に千草が乗っかっているような形と

なっている。無意識のうちに接近し続ける千草から身を離そうとしていたのか、そして気がついたらソファーに倒

れるまで追い詰められていた。

「なぁ…この体勢…やばくないか?」

「かもね」

――――なぜ? 俺は、今、生涯で一番緊張している。だけど、貴子は…そこまで緊張していないのか?慣れ

て・・・いるのか?そりゃそうだよな、貴子は俺と違って美人だし、いくらでも男が寄ってくる・・・・。当然そういった経験の一度や二度は・・・。

そこまで考えた瞬間、杉村の中に激しい嫉妬が芽生えた。

――――畜生、誰だ?貴子の処女を奪った野郎は?…ぶっ殺してやる。貴子に、こんな迫らせ方を教え込みやがって…でも、貴子が…男

と親しい付き合いをしているのは見たことが…いや、あった。あの先輩、神守とかいったか?あいつか、くそ。別に女いるくせに、処女だった貴子をこんなふしだらに教育しやがって。

杉村の妄想は止まらない、杉村の頭の中では、既に千草が神森によって妊娠させられた所まで話は進んでいた。

「・・・・はぁ。」

上に乗っていた千草が、ゆっくりと息を吐き出し目を閉じた。そして、そのまま倒れるように杉村の胸にもたれかかる。

「ごめん、やっぱり、こういう事するの初めてだし、あんまりうまくいかないみたい。緊張して…。」

さっきまで頭の中で大暴走を続けていた杉村は、千草の「初めてだし」という台詞で現実に引き戻された。

「えっ?貴子、初めてなのか?」

「馬鹿、悪かったわね、処女で。それでも、あんたがデートに誘ってくれたから・・・色々本とか読んで勉強してきたのよ。」

「…貴子。」

杉村は勘違いで千草を汚したことを恥じた。そして初々しく恥らう千草に対して、いまだかって感じたことのない愛しさをもった。

――――この人と一緒にいたい、守りたい。

それは、かって好きだと思っていた琴弾にも感じたことのない強い思い。 理屈じゃなく、今はっきりと杉村は千草が好きだと自覚した。

「貴子・・・。」

優しくゆっくりと、杉村は千草を押し戻した。

それに対し、千草は不安そうな顔をする。

「俺、お前のことが好きだ。」

「弘樹。」

貴子の顔が泣きそうに歪んだ。しかし、杉村はそのまま言葉を続ける。

「だから、幼稚な暴力なんかに左右されない…お前みたいに誇りを持った生き方をしたい。」

「弘樹、あんたは、もう十分誇りある生き方を…」

「いや、俺は…弱い。」

「えっ?なにいっているの。あなたほど強い人なんて早々…。」

「拳法の腕は確かに上がった。だけどその拳法を武器にしていくうちに・・・心が弱くなった。」

「…・…」

千草は何もいわずに、黙って杉村の話を聞いている。

「拳法のおかげで、俺は貴子の言う幼稚な暴力をねじ伏せる力がついたと知ったとき・・・俺は、その力に溺れた。自分が強くなった事を再

認識したくて・・・喧嘩に勝った後の高揚感をもう一度味わいたくて…色んな奴に、喧嘩を売ってきた。そのうち俺は、理不尽な…一方的な暴

力も使うようになった。拳法を始めたきっかけは、理不尽な暴力を恐れ、憎み、それから身を守るために修練したというのに…今では俺が

理不尽な暴力を行っている。」

「・・・・・・。」

千草の顔を見るのが怖くて、杉村は上を見ながらしゃべり続けた。

「間近で貴子の顔を見て、昔、貴子がいってくれた言葉を思い出すまで、すっかりそのことを忘れていたよ。知性でアダルトなプライドを持

つ・・・誇りある生き方・・・って」

「すまない、こんなやつで幻滅しただろう? お前が最も嫌う、幼稚で低脳な暴力に俺は酔いしれていたんだ。でも…俺は、今日を境に暴力

を卒業する。そして、自分にけりをつけたら、その時は…改めて俺と付き合ってくれないか?貴子。」

「わかったわ、弘樹が言うなら…。私はその考え方に賛同するわ。でも、早くけりつけて、もう私は10年以上も待っているのだから。」

そこまでいうと、二人は自然と口付けを交わす。かならず一緒になろう。そのことを約束するかのように・・・。





3 恋愛仮免許



それから、三日後・・・。

杉村は誰かを待ち続けるかのように、何時間もマンションの前で立っていた。

「ああ、家に着いたから、また後で電話するよ。」

前から歩いてきた長身の男は、携帯電話を切り、前を向くと、そこに杉村の姿を確認し、ゲッ・・・と顔が引きつった。

「お、お前この前の…」

神守蓮也、千草の先輩であり、杉村がぶちのめした男の一人だった。

「な、何のようだ?おまえ、また・・・この前の続きをやろうと…」

いつでも逃げられるように、神守は杉村との間合いに注意しながら、バックを縦にし後ろに下がる。

「すみませんでした!!」

いきなり杉村は土下座した。

「えっ?」

突然の杉村の土下座に、神守は気を削がれてポカンとする。

「この前は…俺のかってな思い違いで、あんたと、あんたの彼女に乱暴を働いたこと・・・謝ります。気が済むまで殴ってくれて結構です!!」

その後はひたすら頭を地面にこすり付ける。ゆっくりと、神守が近づいてくる足跡にやけに敏感になる。神守がしゃがみこみ、杉村の肩に手

を置いたとき、さすがの杉村もビクッと身が震えた。

「なぁ、あんた千草の彼氏だろ?」

しかし、かけられた言葉は意外にも優しい声だった。

「いや、まだ彼氏じゃ・・・。」

「でも、お互い好きあってんだろ? あいつのこと大切にな。」

それだけ言って神守はその場を去っていった。

――――許してくれたのかな?…いや、大切な後輩を任せてくれたって事は、それがあの人の答えなんだろう。

杉村は土下座をやめ立ち上がると、早速携帯を取り出した。

「貴子?突然だけどさ、好きだよ、お前の事。俺と一緒にいてくれ。」




二人の関係は、ようやく恋愛未満を抜け出したばかり。




~感想~

杉貴ファンの方にはたまらない作品ですよ~♪
深海さまから頂いたとき、これは是非サイトに飾らせていただきたいとお願いしてしまったんです。
幸いにも許可をいただけこうしてアップできたわけです。
幼馴染って関係は本当に微妙だと思うんですよ。近くにいすぎて貴子ほどの女でさえ異性として気づかずに時を過ごすことがあるんですから。
特に杉村はそういうことには敏感なタイプではないですしね。
この二人の場合はお互い長所も短所もわかりあった上で長年信頼関係築いてきたし、その気にさえなればどっちも魅力的なので、きっといいカップルになると思ってます。
その私の思いが届いたかのような作品。
深海さまに素敵な杉貴CP小説頂き、おかげで私の杉貴度はますますアップしました。
今後はさらに頑張って杉貴を応援しなければと思います。
深海さま、本当に素敵な作品どうもありがとうございました。これからもよろしくお願いします。


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