・・・ただ1人、君を除いて。
梢の中を、ただ走る。
あと1人の、標的を探すために。
このプログラムが始まってから、俺はただ人を殺した。
何で殺すのか?コインがそう示したから。
何でそんなことを聞くのか?
殺してはいけないのか?
坂持達は、殺さなければならない、そう言ったじゃないか。
そうして殺して行くうちに、とうとう俺ともう1人になった。
・・・あと1人は、女。
柊
繭子
・・・それが彼女の名だった。
才色兼備でスポーツ万能、成績もよく人望も厚く。
一体このプログラムで、何人の男が彼女を守りたいと願っただろう?
そうして俺に、殺されて行った。
彼女は確かに他の人間とは違った。
しかし・・・俺の中では、特に異質な存在だった。
ある昼下がり。俺は充達と一緒に屋上へと向かった。
なぜだろう?いつも閉まっているはずのドアが、なぜか開いている。
そうしてドアを開けると、先客がいた。
「おぅ、
柊
じゃん♪相変わらず可愛いなv」
「あ、笹川くん。こんにちはv」
「えっ、お前もサボり?お前でもサボるんだ」
「だってさ、数学なんてやってられないよ!!」
「あぁ、分かるぜ、それ。マジうぜぇし」
「何言ってるんだよ、充。お前の場合全部ウザイんじゃねぇのか?(笑)」
「!!///
うぜぇよ!!(っつーか
柊
の前でそんなこと言うなよ竜平!!///)」
「あ、桐山くん。桐山くんもこっちおいでよ」
「・・・あぁ、分かった」
「なんか今思えば桐山くんと話すのって初めてかもvよろしくね」
「・・・あぁ」
このとき、あのちりっとした感覚が顳かみのやや後方あたりを走った。
俺はとっさにそこに触れる。
柊
が不思議そうな顔をしているので、適当な言葉を見つけて安心させた。
充達に話し掛けたのにも驚いたが、何より俺に平然と話し掛けたことに驚いた。
この誰からも恐れられている俺を、ましてやコイツのような大人しそうな女の子が。
それを考えると、今でも"そこ"が疼く。
そして、木々を分け走り抜けていた俺が見たものは・・・!!
雨を避けようとハンカチを頭に乗せ、微かに涙を浮かべている 柊 の姿だった。
俺はマシンガンを構えた。
何人もを殺してきた、このマシンガンを。
今迄の奴らは、これを見て逃げ出そうとした(あるいは反撃してきた)
なのに、なのに・・・。
彼女は動かなかった。
動けなかったのかもしれない、死と言う恐怖に追い詰められて。
でも違う、確実に。この目は死を覚悟している目だった。
負の光なんて微塵もない、死を受け入れてる光だった。
俺は一瞬躊躇った。
理由があるわけではなく、なぜか躊躇った。
引けない引き金をかけている指に力を込める・・・引けない。
だが、俺は引いた、なぜなら・・・彼女が涙を流したから。
パン、という音と共に彼女の体が地面に倒れた。
どう言う意味なのだろう、この涙は。死が恐いという意味の涙なら、こんな温かい1粒の涙なんて流れないだろう、だから違う。
ただその涙を見て、嫌な予感がした。撃った。
今迄と同じ、地面に倒れた。
最後迄、彼女は俺の中で異質な存在だった。
もうすぐ死ぬと分かっているのに、それを受け入れた。
何故泣いたのかは分からないが・・・死が恐かったのではない、それは絶対にそうだ。
・・・心無しか、吐き気がする。
こんなに気味の悪い死体は初めてだ(それはそうだ、何も思わなかったんだから)
ゲーム終了のサイレンがなる。
俺の心に残ったのは、今迄以上の空虚感。
もう誰も・・・充も、竜平も、博も、彰も、そして・・・
柊
も。
俺の空虚感を埋めてくれる存在・・・全て消えてしまった。
そのとき、俺の目に溢れて溢れたものは・・・。
涙と言う、初めての液体だった。
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いちごあめの苺姫さまより頂きました。
とても切ない桐山夢です。
プログラムの話はせつない夢が多いんですが、とくにグッときましたね。
最後に桐山が涙を流したところなんか特に…(泣)
桐山は皮肉にもヒロインを殺したことで初めて感情らしいものを知ってしまったんですね……。
せめて、あの世で幸せになってほしいです。
苺姫さま、素敵な夢を本当にありがとうございました。